名もなき復讐 | 冷やしえいがゾンビ

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めっきりノータッチですが、メインは映画に関する垂れ流し。

衝動的に映画の感想をアップしてみます。サボりすぎでごめんなさい。

今回紹介するのは『名もなき復讐』。韓国映画です。

シネマート新宿が主催中の「反逆の韓国ノワール2016」(リンク)という、4作品のセレクション上映のうちの1本です。4作品すべて観賞した結果、この『名もなき復讐』がダントツで面白かったので記事を書きたくなりました。


主人公・ジウン(♀)は競技射撃の有望選手で、学生時代からオリンピック出場を期待されていた。家族で車に乗って移動中、若者達の乗ったバイクが煽ってきて車が横転。両親は死亡し、ジウンも言語障害が残ってしまった。

年月が過ぎ去り、ジウンは工場でアルバイト生活。共に働くのは、こすいおばちゃん、ゲスいおっさん、幼なじみ(♀)などなど。

幼なじみは上司のおっさんに狙われていて(エロスな意味で)、主人公はそんな上司のゲスさと、煮え切らない幼なじみの態度にイラついている。

アルバイト先の飲み会で上司から酒を飲まされ続ける幼なじみを見たジウンは彼女を飲み会から強引に連れ出すが、「余計な事しないで!」「正社員になるためには仕方ないの!」と、思わぬ形で拒絶される。

そんな傷心のジウンは突然路地裏で若い男3人に襲われ、レイプされる。

「なぜ主人公が標的にされたのか」については描き込みとしてかなり甘いし、演出が中途半端な部分はあります。「たとえ主人公が健常者であっても、この場所じゃ叫び声は届きそうにないな」みたいな絶望的な状況をもっと整備すべきだったと思う。

ジウンはそのまま警察署へ出向いて被害届を出すものの、対応した刑事がクズ野郎。序盤からこの男についてはイヤな奴であることが説明されていたのですが、ジウンの対応でキャラクターに対する嫌悪感が決定的なものに。「話すのが苦手でも叫び声はあげられたんじゃ?」「ジーンズを無理やり脱がせるのは難しいんだけどなー」などと、被害者への配慮ゼロな言動を繰り返します。

反逆の韓国ノワール2016ラインナップ作品を見ていて「心底腹が立つようなキャラ、胸糞悪くなるようなキャラが居ないなあ(残念)」と思っていたのですが、その点この作品は素晴らしい。嫌悪感を着実に上乗せしていきます。

クズ刑事に代わってジウンをフォローすることになったのは女刑事。準主人公的な深みのある描き方で物語を引っ張っていきます。

クズ刑事によるセカンドレイプの後で帰宅したジウンを待っていたのは3人組のうちの1人。ジウンの身分証に載っていた住所を見て自宅を突き止めたとか。

自宅が判っていたとはいえ、ジウンより先に家に上がり込んでるのは不可解ですが(ピッキングしたのかもね!)、恐怖演出の延長だと思うことにします。

「身分証届けに来たんだぜ。俺ってやさしいからさ」とか言いながら男はジウンをレイプしようとします。畳み掛けるような展開なので演出のバランス的に難しい。監督と編集がその点をうまくやりきってるとは言い難いのですが、見ている観客にストレスを与えて感情移入させているのは間違いないでしょう。

ジウンは枕元にあるガラスのトロフィーでレイプ魔3号を攻撃。結果的に殺害してしまうことに。呆然としたままシャワーを浴びているところに訪ねてくる女刑事…部屋には死体が放置されていて…

この「ああ殺してしまった。どうにかしなければ」展開は、チルが親しみ、愛してきたノワールの典型であるため、「よしよし乗ってきたぞ」みたいな感覚を味わえました。

人を殺してしまった罪悪感で人格が崩壊していくジウン、そんなジウンを他人事とは思えずに気遣う女刑事。

交わりそうで交わらない、2人の時間軸が物語を力強くリードしていきます。

ジウンの心理が不確定な時間帯を越えてから、この作品は特定のジャンル映画に変貌します。そのジャンルとは、

ヴィジランテもの。

正義感に目覚めた人物が、自らの力で悪を成敗しようと試みるタイプの物語。決してその正義はスーパーヒーローのような圧倒的な能力によって行使されるわけではなく、市政の人物だからこその弱さを兼ね備えていがち。

しかしこの作品の主人公ジウンは、工場のアルバイトからは想像できない圧倒的能力を持っています。

オリンピック候補になるほどの射撃技術。

しかも女性で、なおかつ社会的弱者と見なされていた主人公が射撃の名手であるという設定が見事。多少リアリティに欠けるとしてもヴィジランテものとしては最高のお膳立てなんですよ!!つまりこれは「なめてた相手が実は殺人マシンでした映画」の一種でもあるのです。

同じく韓国映画の最高峰『アジョシ』では「なめてた質屋が実は特殊工作員でした」という設定で我々の溜飲を下げてくれましたが、この作品がアジョシと違うのは

主人公がムカつく奴らを全員殺してくれる

のです!!!某作の名キャッチコピー「街のダニども、全員死刑に処す」が頭に浮かびました!そして同時に映画館で身悶えしました!

この映画のあらすじを読んだ時にレイプ野郎への復讐ものであるという認識はあったものの、「その範囲」で収まっていたらそれはそれで物足りないだろうなぁ…なんて感じていました。

収まらなかったのです。

ジウンが風呂場で湯船に全身を沈めながら目を開き、天井の照明を見つめるというシーンがあります。意図が見えづらい表現ではある。しかし私は、この描写を見た瞬間に自分の中で「これはもしかして、ジウンが覚醒する前触れなのでは!?」と、一気に期待感が膨らみました。覚醒してくれ!と強く願いました。

そしてその期待にジウンはしっかり応えてくれました!クズ刑事が持っていた拳銃で、街に蔓延るゴミ男たちを次々と殺していくのです。『イコライザー』でデンゼル・ワシントンが覚醒した瞬間にも似た快感を味わえました。

一線を越えてからのジウンは躊躇しません。相手に懺悔を求める事もせず、無言のままで銃を構え、この上なく的確に撃つ。

復讐のための殺人だけではなく、害悪というべき存在の抹消にも踏み込んでくれたからこそ痛快なカタルシスが生まれるのです。

ジウンによる連続殺人は警察の知るところとなり、女性刑事を中心に捜査が進められるわけですが、ジウンが容疑者として捜査線上に上がるまでにタイムラグを生じさせることで映画としてのスケール感に繋がっています。

被害者たちの共通点がなく、同一犯によるものという確信が得られない。動機が見えない。

少しずつ結び付く状況証拠と、レイプ被害者としてのジウンが持つ過去の傷。それらから導き出される犯行動機…追跡者=警察側の思考をちゃんと描くことでサスペンスドラマとしての骨子がしっかり形成されていく。

なおかつミスリードからの意外な展開にも事欠かず、設定だけの出落ちシナリオにならなかった見事な仕上がりを見せつけられた形。

テーマ的にもなかなかに深みのある作品だと思います。他人の罪を許す事の意義もちゃんと描いているのに感動。

オーラスの展開はジョー・カーナハン監督のあの映画へのオマージュだと思うのですが、そこにチャレンジしておきながらも真意が分からないような行動を描いていて、とても味わい深かったです。

名もなき復讐、今年見た韓国映画ではナンバーワンのお気に入り作品となりました。映画館で上映されるのは東京・大阪ぐらいかもしれませんが、ソフト化の際には是非見ていだきたい1本です!!


P.S.
このエントリがアクセス数的にかなりの人気なので、ラストで女刑事がとった行動の解釈を書いておきます。

女刑事はジウンが殺戮に走った理由を理解しました。しかしそれをもってしても、彼女の犯した罪は世間に理解されないであろうと思ったのでしょう。

連続殺人犯としての汚名をジウンに着せる事は耐え難い。だから刑事はジウンを永遠の眠りにつかせました。

このシーンを見て思い出したのは『スモーキン・エース』というアメリカ映画。ラストシーンで、あるキャラクターが取る行動はこの映画とそっくりです。ただし行動の背景はまったく異なっているので、是非とも見比べていただきたいと思います。


この作品に関する余談ですが、主人公ジウンを演じているシン・ヒョンビンさん。初めて見かける女優さんだったのですが…

アップアップガールズ(仮)の佐保明梨さんにめちゃめちゃそっくり!!!

シン・ヒョンビンさん↓




佐保明梨さん↓




カットが変わるたびに「えっ?佐保ちゃんだよね?」「佐保ちゃんに似てないところが見当たらないよね?」「どう見ても瓜二つだよね?」と、別のところで大興奮しながら見る事が出来ました。

佐保ちゃんそっくりシン・ヒョンビンさんをこれからも応援していこうと思います。

佐保ちゃんは現役バリバリのアイドルでありながら、蹴りで木製バットを折るほどの空手女子でもあります。お見知りおきを。