科学としての英文法 ― 英語は「化学反応」でできている
多くの人にとって、英文法は「文型を覚えるもの」「例文を暗記するもの」だと思われています。しかし、それは学校で教えられてきた規範文法(Prescriptive Grammar)の世界の話です。
学校英文法は「正しい英語・間違った英語」を区別するためのルール体系です。
でも、それはあくまで人が決めた規則であって、
実際にネイティブが無意識に使っている英語の“構造”を説明しているわけではありません。
CGEL(The Cambridge Grammar of the English Language)とは何か
2002年に出版された『The Cambridge Grammar of the English Language(通称 CGEL)』は、これまでの英文法とは次元がまったく違う文法書です。この本は「英語を正しく話すための本」ではありません。英語という言語を科学的に分析し、その構造を明らかにするための本です。言い換えるなら、CGEL は「英語という化学現象」を解明するための構造科学なのです。
英語の「化学反応」 ― Valency(結合価)という考え方
化学では、原子が他の原子と何個まで結びつけるかを「結合価(valency)」と呼びます。
言語学では、動詞が「どんな語と、いくつの関係を結ぶか」を同じ言葉で動詞の valencyと呼びます。たとえば、
sleep は主語ひとつだけを必要とする(1価)
give は主語+目的語+もう一つの目的語を必要とする(3価)
このように、英語の文の形は「動詞の結合のしかた(valency)」で決まります。
つまり文は、まるで動詞を中心とした化学反応式のように組み立てられているのです。
「理系脳」でこそ理解できる英文法
CGELの文法は非常に精密で、難しく感じるかもしれません。けれども、それは英語を「暗記科目」としてではなく構造科学(structural science)として扱っているからです。そして実は、数学・物理・化学が得意な理系脳の人ほど、CGELの考え方は自然に理解できます。なぜなら、CGELの英文法はまさに理系的な思考でできているからです。
動詞=反応の中心(核)
補語=結合する原子
構文=分子構造
このように考えると、文はまさしく構造体(structured system)です。CGELは、英語という言語分子の「結合構造式」を描くための科学的ツールなのです。
学校英文法とのちがい
学校英文法(Prescriptive)
正誤を判断する
暗記・例文中心
文型・語順
規範的(人為)
国語・倫理などの部類に属する性格
CGEL(Descriptive & Scientific)
構造を説明する
分析・体系化
構文関係・意味構造
科学的(記述・分析)
物理・化学・情報科学に属する性格
理系の人へ ― 英語は「構造」でできている
英語は感覚ではなく構造でできています。CGELは、その構造を分子模型のように可視化しようとする「英語の化学」です。確かに難解ですが、理系の人にとってはむしろ理解しやすいはずです。なぜなら、そこには論理・構造・関係という理系的思考のすべてが詰まっているからです。英語を「化学反応」として見ると、言葉のしくみが一気に明確に見えてくる。CGELは、「英語の構造を科学する」ための最先端の文法です。文法嫌いの理系の人こそ、きっとこの英文法の真の面白さを理解できるはずです。