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パインのブログ

パインが心に思いついたことを思いつくままに書いているブログ

土曜の夜。

 

洗濯物の山と

ボール化したフィットシーツと

割れ目のオムレツと

未使用の予備切符を引き連れて

スナック「ヒロミ」へ。

 

今日は強いカクテルじゃなくて

弱めの自己肯定感をください

の気持ち。

 

「いらっしゃい」

 

ヒロミさんがグラスをひと拭い。

この一手で心拍数が少し下がる。

拭うは正義。

 

三口めのタイミングで本題。

 

いつも三口めで出る。

 

「ママ、聞いてくださいよ。

俺、たたみ物が壊滅的なんです。

 

昨日の夜

フィットシーツに本気で挑んだんですよ。

四隅にマスキングテープで

A・B・C・Dってラベル貼って

YouTubeで

『3秒でできるフィットシーツ』って

動画を0.5倍速で見て

キッチンタイマーを

3分×3セットにして“実戦”。

結果

9分後に球体。

AとBを合わせたらCが逃げる

Cを捕まえるとDが裏切る。

最後は

“これが北半球、こっちが南半球”

って自分に言い聞かせて

押し入れの隅に転がして終了。

今日の朝

まだ球体のままでした。」

 

「料理もダメで。

完璧主義が邪魔するんです。

この前

オムレツを

“教科書の角度”で巻こうとして

中央に割れ目が入ったんですよ。

 

『割れ目はソースの通り道』

って自分で言っておきながら

見た目が気になってやり直し。

二回目は火を弱くしすぎて半生

三回目はフライパンから

皿に着地失敗で“段差オムレツ”。

 

結局

一番最初のやつが

一番おいしかったっていうオチ。

写真も撮ったのに

SNSに上げずにカメラロールで反省会です。」

 

「あと

用心深さが過剰で切符が余るんです。

先週の仙台→東京の出張

遅延が怖くて

『はやぶさ○時○分』と

『やまびこ○時○分』の時間違いを二枚

さらに“保険”で在来線の特急券まで買って

合計三枚所持。

 

当日は普通に乗り継げて

使ったのは一枚だけ。

払い戻しに行ったら

駅員さんに

『どれか一枚で大丈夫ですよ』

って優しく指摘されるし

手数料分の負け試合。

今も財布の奥から

未使用の化石が出てきます。

 

……なんというか、面倒な人なんですよ

俺。」

 

「なるほどね」

 

ヒロミさん、即診断はしない。

まずは水。

それから、ゆっくり。

 

「巧くん

長所はその人の

一番“尊敬できるところ”。

短所はその人の

一番“かわいいところ”

つまり“愛されるところ”なのよ」

 

……え

そんな多機能だったの

短所。

 

自分の中で不用品回収に出してたのに

いきなり骨董市で高値がつく感じ。

 

「順番にいこうか」

 

コースターに三つの見出しをさらっと書く。

 

1)たたみ物が壊滅的

2)完璧主義

3)用心深さが過剰

 

 

1)たたみ物が壊滅的(フィットシーツ=ボール)

 

ヒロミさん

ボールのジェスチャーをする。

たぶん上手い。

 

「被害が軽い短所はね

“かわいい”に分類していいの。

フィットシーツがボール?

うん

自宅限定ならOK。

来客時は

“ボールの隠し場所”

を決めておけばいい」

 

 

「隠し場所!?」

 

 

「名前をつけると扱えるの。

“恥ずかしい失敗”

より

“ボール置き場”

のほうが、笑えるでしょ」

 

たしかに。

笑える短所は、共同体の糊になる。

隣の大学生も言ってた

(※証言弱め)。

 

■処方箋A:

・公開範囲=自宅限定

・名前付け=“ボール置き場”

・一言の先出し=「シーツは芸術系です」

→ 先に言うと、笑いの主導権がこちらに来る

 

 

2)完璧主義(オムレツにヒビ)

 

「完璧主義はね

呼び方を変えると

“仕上げ癖”

になるの」

 

 

「仕上げ癖!?」

 

 

「90点で止める

“仕上げ”ができたら

尊敬される長所になる。

100点は自己満で

80点は雑。

90点で出すのがプロ」

 

「でも、割れちゃったんです」

 

「割れ目はソースの通り道。

物語を足せるのは才能。

それに

完璧主義の裏側は

“丁寧さ”でしょ?

丁寧さは一番尊敬されるところよ」

 

■処方箋B:

・改名=完璧主義

→仕上げ癖

・Yes, if=「期限と90点が揃えば出す」

・一言=「割れ目はソースの通り道です」

→ 失敗の再定義は、生活の救急箱

 

 

3)用心深さが過剰

(予備切符コレクション)

 

ヒロミさん

笑ってグラスをひと拭い

(二回目。

安心が二回)。

 

「用心深さは

“安全の仕込み”。

尊敬される長所よ。

過剰になった瞬間だけ

かわいくなる」

 

 

「かわいく……?」

 

 

「“やりすぎ”は

人間味なの。

困るほどじゃないズレは

愛されポイントになる。

条件を決めて出せば

短所はお守りになるわ」

 

■処方箋C:

・条件=“遠出は予備1枚、近場は予備0枚”

・口癖=「安全の仕込みだけど、今日は一点買い」

・余った切符の使い道=記念貼り

(※自分美術館へ)

 

 

「ねっ

長所は尊敬されるところ。

短所は“かわいいところ”。

どちらもその人の

“品の一部”なの。

欠点を磨けって意味じゃない。

“扱い方”

を決めれば

短所は“愛嬌”に変わる」

 

 

たしかに、今日の自分は人に迷惑をかけていない。

 

——被害軽微の短所は笑っていい。

——被害が出る短所は条件で囲う。

 

それだけで、だいぶ呼吸が楽になる。

 

 

「もう一つね」

 

ヒロミさん、コースターに二つの欄を書き分ける。

 

〈尊敬されるところ(長所)〉

・観察が細かい

(仕事でもプライベートでも)

 

・段取りが速い

(洗濯→料理→掃除)

 

・続ける力

(三行ノート、美術館)

〈一番かわいいところ(短所)〉

 

・ボールのシーツ

 

・割れ目に物語を足す

 

・予備切符

(安全の仕込み)

 

「長所は人に渡す機能。

短所は人とつながる穴。

穴があるから

そこに

“わかるわかる”

が入って

距離が縮まるの」

 

 

「穴……!?」

 

 

「そう

“かわいい穴”。

塞がなくていい穴もあるの。

見せ方と範囲だけ決めておく」

 

 

ここで

胸の中でカチッと鳴る。

 

今日は小さめの音。

小さめでもONはON。

 

たたみ物・完璧・用心

――“かわいくする段取り”

(メモ)

 

見せる場所を限定

(自宅/親しい人)

 

別名をつける

(完璧主義→仕上げ癖

失敗→味)

 

一言の先出し

(自分で笑いを取る)

 

条件と出口

(予備は上限1、90点で提出)

 

ログる

(うまく扱えた日を記録。

承認は内製)

 

——メモはここで三行分だけ残して閉じる。

物足りないところで止めると

次にまた開けるから。

 

 

「ママ

かわいいって

便利な言葉ですね」

 

「便利じゃないわよ

誠実なの。

人は

完璧より

“感じ”

で動くの。

好きやかわいいが先にあると

尊敬はあとからちゃんとついてくる」

 

 

グラスの氷が小さく鳴る。

 

今日の自分は

尊敬を取りに行く夜じゃない。

かわいいを扱える夜だ。

 

 

帰り道。

 

 

ポケットの中で

余り切符が一枚。

悪くない重量。

 

自販機の前で迷って

コーヒーだけを買う。

 

一点買いの練習。

 

家に帰ったら

ボールのシーツは

“ボール置き場”へ。

 

ラベルを一枚

ノートに貼る。

タイトルは

「かわいい短所の標本」。

 

 

最後に

今日の三行。

 

〈感謝〉ボール置き場

/割れ目の通り道

/予備切符の使い道

 

〈やめる〉休日に完璧を呼ばない

 

〈続ける〉“かわいい”の取り扱い

 

塞翁が馬、だからこれで良し。

 

尊敬されるところは明日また磨く。

 

今夜は

一番かわいいところを

自分で可愛がって寝ようかな。