朝の一分。
ノートを開く。
三行だけ。
三行以上書くと、急に“文学”が出てきて明日が続かないので三行で止める。
〈今日の“初めて”〉Yes, if ミーティング。
〈誰の歩幅を楽にするか〉来客導線のスタッフ。
〈仮説〉“できない”は断言、“できるなら”は質問。
——以上。
毎朝、これだけで「やった感」を作る。
可能性思考は、まず“やれる気の演出”から。
午後三時。
VIP内覧まで残り三時間。
倉庫から電話。
「要のライト、来ません」。
語尾の“ません”が、妙に明るい。
明るい“ません”は人を暗くする。
「代替もたぶん無理です」。
“たぶん”と“無理”はカップル。
放っておくと籍を入れる。
会議室、湿度120%。
誰かが
「今日は諦めて、明日に」
と言いかけた瞬間、胸の中で小さくサイレン。
諦めた瞬間、脳は考える権利を放棄する。
父の“甕の水”でいえば、清水の蛇口を閉める行為。
閉めたら濁ったまま。
衛生的にも、物語的にもよろしくない。
ホワイトボードにデカ文字。
「Yes, if
—— 可能にする条件は?」
英語を混ぜると、急に進んでる感が出る。
感は大事。
会議はだいたい感で動く。
条件、出す。
・時間:
3時間。
・人員:
5名。
・追加コスト:
3万円以内。
・最低限:
どんな体験なら提供できる?
“無理”を“条件つきの可能”に翻訳する。
翻訳精度は、そこそこでもいい。
翻訳すると、脳が続きを読みたがる。
手が挙がる。
秋川さん。
「倉庫に屋外用の間接ラインあります。
演出は弱いですけど」
弱いカードは、並べ方で強く見える。
馬場さん。
「避難誘導テープを仮で借りられれば、床の縁は作れます」
緊急用を美しく使う背徳。
好き。
千葉さん。
「隣のフロアのアクリルサインの乳白板、ディフューザーに流用できます」
隣の芝生は白い。
今日は助かる。
即断。
「ハイブリッドCで」
見せ場は“線の連続”で最小構成、動線は床の縁で“迷い3秒以内”。
テーマは『不足を露呈しない設計』。10分サイクルで微調整。
——打つ手は無限というけれど、実行は有限。
だから“優先順位は暴君”でいい。
クライアントに即レス。
「計画C/90分で一次可視化→残りで磨き」
メールは安心
→方針
→最初の一歩の三段弾。
レスポンスは品質。
会議室の空気が乾く。
人は“まだ手がある顔”に戻ると、だいたい歩き出す。
現場。
乳白アクリルを45度で立て、間接ラインを底に忍ばせる。
点が線に変わる瞬間、脳が拍手する。
避難誘導テープは幅を半分に裂いて緊急の顔を消し、細い縁だけ残す。
照度は2%アップ。
たった2%で、反射が“合図”に昇格。
少数点は侮れない。
社会も照明も。
10分後、一次可視化。
歩幅は途切れない。
終端のフォトスポットは最小構成でも“撮れる角度”に入る。
馬場さんが小さく
「本当にダメだと思ってました」。
わかる。
「本当にダメ」
はゼロカロリーで満腹になれる危険な言葉。
「“本当にダメ”を“本当にダメにする条件”に変えて、外すだけです」
言いながら、自分に言っている。
自己啓発は、だいたい自分向け。
残り100分は磨き。
角の影を1°ずつ振って、均斉度0.48→0.52。
地味だが、靴底は正直。
滑らない=勝ち。
VIP内覧。
終端の“線の間”で、小さな歓声。
100点ではない。
でも、いま可能な最良。
これでいい。
これがいい。
終業後、スナック「ヒロミ」。
報告すると、ママが氷を転がしつつ言う。
「帆を張ったのよ。
風がなくても、風を“つくる動き”はあるの。
三流は本、二流は人、」
「一流は自然、ですね」
「そう。今日は状況=自然が先生。
“Yes, if”の風、ちゃんと起きたじゃない」
比喩が強い。
眠りの質が上がるタイプの強さ。
「諦めるって、思考停止ですね」
「うん。
“無理”は感情、“ではどうすれば”は技術。
癖にしちゃいな。
それと——」
ママはコースターに丸を書いて、∞を足す。
「打つ手は無限。
でも、打たない手はゼロ。
ここ、間違えないこと」
胸の中でカチッ。
スイッチの音。
合法的で習慣性あり。
医師の指導は不要。
帰宅。
ノートに清書。
「可能性思考の習慣(癖)」。
今日は“無限”仕様で。
・禁止語置換:
「無理」→「もし可能にするなら?」
— 口に出した瞬間、脳が両手を上げるのを防ぐ呪文。
・Yes, if 先手:
条件つき肯定で会話を開始
(時間/人員/コストを先に枠取り)。
— 交渉は先に枠を作ったほうが勝ち。
・最小実験:
「10分・1000円・1人で何を動かせる?」
— 焼きそばの時間と価格で、世界を1ミリ押す。
・代替三案:
A=集中、B=基準、C=ハイブリッド
(同点なら“歩幅が楽”)。
— Cに逃げず、Cを選ぶ。微妙だが大事。
・視点反転:
「できない条件は?」→「外せる条件は?」
— できない理由は無限、外せる条件は有限。有限は処理できる。
・リソース再定義:
不足=欠陥ではなく設計条件
(点→線/濁り→潤い)。
— 足りなさは方向の名前。方向は使える。
・即レスの型:
安心→方針→最初の一歩
(レスポンスは品質)。
— 「了解です。」は水。ここにミネラルを入れる。
・可能性ログ:
成功より“打開の手順”を記録
(明日の自分へ即レス)。
— 明日の自分はだいたい金欠。手順は通貨。
・打つ手∞リスト:
常備の“無限”テンプレ。
— 足す
/引く
/分ける
/並べ替える
/順番を変える
/角度を変える
/間を作る
/名前を変える
/場所を変える
/人を替える。
—— 10個あるだけで、脳は“無限”っぽく動く。っぽさは強い。
・撤退の美学:
「今はやめる」を“次の一手の準備”としてログ化。
— 無限は、引き際も含めて無限。
ここまで書いて、最後に父の一行をなぞる。
〈甕の水〉“できる考え”を入れ続ける。
途中でやめると濁る。
やめないと澄む。
理屈はシンプル、習慣は地味。
地味はだいたい強い。
あと、長生きする。
窓の外、夜風。
風が弱ければ、歩けばいい。
歩くと風は起きる。
歩行は最小の送風機。
正直、諦め癖はまだ住んでいる。
古い住人だから、立ち退きには時間がかかる。
でも、入れ続ける癖も越してきた。
新入りは元気で、掃除もしてくれる。
住環境は改善中。
そして、明日の自分へメッセージ。
「可能性思考は質問の習慣。
打つ手は無限は、手数の習慣。」
質問と手数、両方がそろうと、だいたい何とかなる。
ならない日は寝る。
寝たらだいたい何とかなる。
知らんけど。
塞翁が馬、だからこれで良し。
明日も「Yes, if」から口を開いて、打つ手∞のどれかを打つ。
外れたら、外れたという事実をログにする。
それも一手。
無限のどこかに入っている。フォームの始まり