2022年1月に本ブログでは、CML治療の新たな目標である「無治療寛解」に関して述べたAttalah教授の論文と題する記事で、分子標的薬により今や現実のものとなりつつあるCML(慢性骨髄性白血病)の無治療寛解(treatment-free remission)について述べたウィスコンシン医科大学のEhab Atallah教授らの論文のあらましの部分などを訳してみました。

 

 今日は、その続編として、Atallah教授とDuke大学のKathlyn Flynn先生が、「慢性骨髄性白血病の患者に無治療寛解を達成する上での最善の方法」と題して、アメリカの一般の医師の方に向けた記事を書いておられるので、その記事にリンクし、これから少しずつですが、順次訳して行きたいと思います。

 

ASCO Daily News, Best Practices in Achieving Treatment-Free Remission of Chronicle Myeloid Leukemia, Octobar 22, 2022

 

 

 

キー・ポイント

・チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の中止は、明らかな生活の質の改善ー疲労感や下痢 の症状の改善と、社会参加が前よりできるようになること-だけでなく、寛解状態にある患者の費用の節約をもたらす。

・TKIの中止がもたらしうるデメリットとしては、治療を中止することから来る患者の不安、最初の2,3か月の間の頻繁な検査の必要による負担、数か月間の筋骨痛、及びTKIによる治療を再開する必要が生じる可能性があることである。

・TKIの中止については、全米がんネットワークや欧州白血病ネットワークによるガイドラインが示されている。また、ある患者については、治療の中止ではなく、薬を減らすことから始めることがよい場合がある。

 

 質問:慢性骨髄性白血病(CML)の患者について、どの時点でTKIによる治療の中止を行うことが安全ですか?

 

 回答:TKIで治療するCML患者の治療成績は全体的に良好である。しかしながら、この治療を続けることは、医療費、長期にわたる副作用、生活の質に与える悪い影響などの多くの問題を伴う。たとえば、イマチニブで治療している患者の30%は、かなりの疲労感がある。現在では、CMLに関連する死亡や急性期へと進行することは、稀な事態であると考えられている。そのため、(患者の)生活の質を改善することの方に焦点が移ってきた。これは、いくつかの方法のうちの一つによって達成することが可能である。すなわち、TKIの量の調節・減薬、他のTKIへの転換、又はTKIの中止であるが、このうちベストの選択肢は、おそらくTKIの中止である。2010年以来、TKIを中止する治験が行われており、世界で何千人もの患者の方が治験に参加し、CML患者の中の一定のグループに対してはこの方法が安全であることを証明してきた。

 TKIの中止を行うことが認められるためには、患者が慢性期にあり、少なくとも3年間は治療を続けていること、最低2年間は持続的な深い分子レベルでの奏功(sDMR)を達成していること、(その後も)血液検査とフォローアップをきちんと行っていくことが必要であるとされている。持続的な深い分子レベルでの奏功とは、国際基準によりBCL::ABL1遺伝子が0.01%未満の場合をいうとされている。また、治療を中止した後は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるBCL::ABL1遺伝子の厳密な検査によるモニタリングが必要とされている。BCL::ABL遺伝子に対するチェックは、最初の6か月間は毎月、それから12か月の間は2か月おきに、その後は3か月おきに行われる必要がある。病気の再発が最も起こりやすいのは最初の6か月間であり、それゆえ頻繁にモニタリングする必要がある。さらに、現在推奨されているのは、3か月おきにその後もずっとモニタリングを続けることであり、その理由は、かなり後になってから再発する事例が報告されてきたからである。

 

 多くの患者の方にとって、TKIの中止は可能である

 TKI中止のための基準を満たす患者のうち、約50%の者はTKIの中止に成功するが、これを無治療寛解(treatment-free remission、TFR)と呼んでいる。薬を再開する必要のある残りの50%の患者についても、すべて寛解に戻るというだけである(訳者注ー非寛解になるわけではないという趣旨だと思います。)。ここで注意すべき点は、BCL::ABLの量が0.1%を超えた場合に限り、TKIを再開することが指示されるということである。上記の事柄については、事前に患者の方とよく話し合っておくことが極めて重要なポイントである。というのは、多くの患者の方にとって、断薬の前には確認できる水準のBCL::ABL遺伝子が全くなかったのに、断薬後には確認できる水準のBCL::ABL遺伝子が見つかったというのでは、不安に襲われるのも無理からぬことだからである。そこで、この点を予め患者と話し合って置くことが、患者の不安を抑える上で極めて重要である。

 

 治療の中止には負の効果がないわけではない。患者の中の一部の者が感じる不安感に加えて、頻繁に検査のため病院に行かなければならないという負担もある。最もよくある副作用は、筋骨系統の痛みが増すTKI中止症候群といわれるものであり、これは約30%の者にみられるが、通常約6か月ほどで解消する。

 

 生活の質を改善することが可能である

 無治療寛解は、特に、疲労感や下痢の解消、社会活動の増加などの生活の質の改善を伴うものである。ほとんどの患者は永遠に治療を続けることを望んではいないが、直ちにある薬を中止することについて神経質になり、中止する前にその薬の量を減らすことの方を好む者がいるかもしれない。

 

 この(減薬を行う)アプローチは、イギリスにおける治験”DESTINY”がその根拠となっている。同治験では、(BCR::ABL1遺伝子0.1%未満という)分子遺伝学的大奏功の状態が続いている患者が、最初の1年間は薬を50%に減量した。そして、その後も分子遺伝学的大奏功の状態を続けていた患者については、1年を経過した時に薬を中止することができた。ただ、全体としてみると、BCL::ABL遺伝子が0.01%未満の患者の方がよりうまく治療を中止することに成功する。

 

 成功を予測させるファクター

 無治療寛解の成功を予測させるファクターとしては、TKIによる治療期間の長さ、分子遺伝学的大奏功の状態が続いている期間の長さ、及び奏功の深さなどがある。薬を中止する時にデジタルPCR検査によってもBCL::ABL1遺伝子が見つからない患者については、無治療寛解を達成する可能性がより高い。

 

 全体としてみると、第1世代のTKIか第2世代のTKIのどちらを服用してきたのかによって無治療寛解が達成できる確率に差が生じることは、今のところはない。しかしながら、第2世代のTKIを用いる患者の方が、持続的な分子遺伝学的大奏功を達成する者が約10~20%多く、その分だけTKIの中止を試みることができる者が多くなる。

 

 しかし、我々医師としては、患者に対し、無治療寛解を達成する可能性について期待を持たせないように注意する必要がある。全体としてみると、患者のうち50%の者しか10年を経過しても持続的な分子遺伝学的大奏功を達成することはできないのが現状であり、また、持続的な分子遺伝学的大奏功を達成した患者の半分の者しか、無治療寛解を達成できないであろう。結局、現在の治療方法の下では、患者のうち約20%の者しか10年後にTKIの中止をすることはできないであろう。

 

 H.Jean Khoury CML治癒協会における研究員として、我々は、我々のCMLの患者に対する治癒-治癒とは、患者が薬を飲まなくても病気の証拠が全くない状態をいう-を達成すべく努力を続けている。また、全米がん協会(NCCA)と欧州白血病ネットワークは、生涯にわたるCMLの治療と治療の副作用という点から、(薬を中止する場合の)指針を示している。

 

 欧州白血病ネットワークは、(無治療寛解を得るための)最も適切な条件を以下のように定義している。すなわち、その条件とは、TKIによる治療を5年以上続けていること、MR4(BCR::ABL1が0.01%未満)の場合は分子遺伝学的大奏功が3年間継続していること、また、MR4.5(BCR::ABL1が0.0032%未満)の場合は分子遺伝学的大奏功が2年間継続していることである。

 

 結語

 TKIによって治療しているCML患者の多数が希望していることは、深い奏功を達成し、持続的な無治療寛解を期待して、薬の中止を試みることである。全米がん協会と欧州白血病ネットワークの指針は、そのような多くの患者を扱う上で役に立つ指針であるが、無治療寛解を考えている患者の方と十分に話し合うことが、TKIを中止したいという希望に対処するために不可欠である。」

 

 

 この記事の後半部分は、医師の立場からの記述が多く、ややわかりにくいところがありますが、この記事が示すように、TKIの中止による持続的な無治療寛解の達成が、今や多くのCMLの患者にとって手に届くものとなったことは明らかではないかと考えます。