Ph染色体陽性ALLにブリナツモバブとポナチニブの併用治療が非常に高い奏功率を示すことがアメリカのMDアンダーソンがんセンターで行われた治験から明らかになったことについては、8月7日付記事Ph染色体陽性ALLにブリナツモバブとポナチニブの併用治療が高い効果を持つことを示した記事(1)でも、海外がん医療情報レファランスの記事ポナチニブ+ブリナツモバブ併用はPh陽性急性リンパ性白血病で高い寛解率を達成と、英文の学会報告の記事Ponatinib/Blinatumobabu Demonstrates High Rates of Complete Molecular Response in Phliladelphia Chlomosome plus Acute Lymphoblastic Leukemia, Ascot postにリンクし、後者の記事を一部訳すことによって紹介しました。

 しかし、その日本語の記事もAscot postの記事も上記のアメリカの治験の概要のみを示していて、具体的な治療の方法や治験の詳細な結果については明確にされていないという問題がありました。そこで、今回は前回の記事の二番煎じであり、新味はないので申し訳ないのですが、上記のアメリカの治験の具体的な方法や得られた結果についてより詳細に述べている記事を見つけましたので、以下にリンクします。

 

 HemOnc Today, June 6, 2021, Ponatinib plus blinatumomabu may provide chemotherapy-free regimen for leukemia subset

 

  この点に関して、急に仕事が忙しくなったために、相当の時間がかかることをお詫びしなければならないのですが、以下において、この重要な英文の記事を少しずつ仮に訳してみたいと思います。また、英語の訳等について誤りがあり、よく意味が通らない部分もあることをお断りします。

 

 「オンラインで開催されたアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で報告された研究によると、ポナチニブとブリナツモバブの併用治療は、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病の患者に高い割合で分子レベルでの完全寛解(complete molecular remmssion:訳者注-RNAを用いたキメラ遺伝子検査でもBCR-ABL遺伝子が検出されない状態を指す。医学界では分子学的完全寛解と訳されている。)をもたらしたとされた。

 

 BCR-ABL遺伝子のチロシンキナーゼ阻害薬たるポナチニブ(アイクルシグ。注-大塚製薬製)と、二重抗体を得たT細胞にがん細胞を攻撃させるブリナツモバブ(ビーリンサイト。アムジェン社製)を併用することで観察された時間的に長く続く奏功は、これらの患者、特に初めて治療が行われる患者の場合には、必要とされる化学療法と造血幹細胞移植を要らなくする可能性があると、単独施設で第2相治験の調査を行った医師は述べた。

 

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターがん治療部門、白血病部助教授のNicholas J. Short医師は、『我々は、特に若い患者の場合に化学療法+チロシンキナーゼ阻害薬が長い間標準治療であると考えられてきたこの病気に対し、化学療法を完全に廃することが本当にできるのか当初は不安に感じていた。しかし、これまでに得られた非常に期待の持てる結果は、我々を励ますものであった。ポナチニブとブリナツモバブの併用治療は十分に耐容性があったのであり、また、新たに診断された患者と再発・難治性の患者の双方に対して非常に有効であった。』とHealio誌の記者に語った。

 

 Short医師と同僚達によれば、ポナチニブとブリナツモバブは、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病(Ph+ALL)に対して単独でも非常に有効な薬であると認められているところ、これらを併用する治療を評価した治験がこれまでになかったために、初めて治療を受ける患者と再発・難治性の患者の双方に対して、これらを併用する治療の安全性と有効性を検討したということであった。

 

 研究が対象とした患者は35人で(患者の年齢は35歳~83歳まで、年齢の中央値は59歳であり、51.4%がヒスパニック系、40%が白人であった)、そのうち新たに診断された患者が20人、再発・難治性の患者が10人、急性転化期の慢性骨髄性白血病の患者が5人であった。

 

 患者はブリナツモバブの標準用量の持続的点滴静注を5サイクルにわたって受け、一回目のサイクルの時から患者は毎日30mgのポナチニブを服用し、分子レベルでの完全寛解に達した後は1日15mgにその用量を減らした。

 

 ブリナツモバブによる治療が終わった後、治療が奏功した患者には最低5年間ポナチニブを継続して投与した。患者はまた、中枢神経系への浸潤を予防するために12回分の髄腔内注射(訳者注-抗がん剤の髄腔内注射については、がん情報サービス 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫についてを参照)による化学療法を行った。

 

 初めて治療を受ける患者については分子レベルの完全寛解率が、また、再発・難治性の患者については全奏効率(overall response rate)-全奏効率とは完全寛解か血球回復不完全な完全寛解に達した割合として定義された-が、治験の主要な評価項目とされた。

 

 フォローアップ期間の中央値は12か月であった(期間の範囲は1か月~37か月)。

 

 結果として、初めて治療を受ける患者と急性転化期にある慢性骨髄性白血病患者のグループに対する全奏効率は100%であり、再発・難治性の患者のグループに対する全奏効率は89%であったことがわかった。

 

 研究者らによると、初めて治療を受ける患者のグループにおける分子レベルでの完全寛解率は85%、再発・難治性の患者のグループにおける分子レベでの完全寛解率は88%、急性転化期にある慢性骨髄性白血病の患者のグループにおける分子レベルでの完全寛解率は40%であった。

 

 Short助教授は、『上記の結果は初めて治療を受ける患者についてはとりわけ期待が持てるものであった。そこでは全ての患者について治療が奏功し、また、85%の患者が分子レベルでの完全寛解(すなわち、微小残存病変陰性の状態)に達した。そして、その結果、新たに診断された患者のグループの2年間における全生存率は93%であった。注目すべきこととして、新たに診断された患者で第一寛解期に移植を受けた者はおらず、また、再発した者も一人もいなかった。』と述べた。

 

 初めて治療を受ける患者のグループの分子レベルでの完全寛解が維持されている期間の中央値は、6か月であった(全体の範囲は1か月から33か月まであった。)。

 

 再発・難治性のPh陽性ALL患者のグループの2年間の全生存率は53%であり、急性転化した慢性骨髄性白血病の患者のグループの全生存率は100%であった。再発・難治性の患者で完全寛解に達した9人について、うち3人は造血幹細胞移植を受けることなく寛解状態が続いている。また、そのうちの4人は造血幹細胞移植に進み、1人が移植後に死亡し、1人は再発をした。また、治験を脱退した1人はその後不明の理由で死亡した。

 

 全体として見ると、ポナチニブとブリナツモバブの併用療法で生じた有害事象はグレード1か2のものが大半であり、この治療は十分に耐容性があったように見える。その中でよく見られた有害事象を挙げると、発疹(グレード1とグレード2のものが各11%)、発熱・発熱性好中球減少症(グレード2のものが9%)、便秘(グレード1とグレード2のものが各9%)、疲労感(グレード1のものが9%、グレード2のものが6%)、サイトカイン放出症候群(グレード2のものが6%)であった。

 

 ショート助教授は、『上記データは化学療法を行わない治療レジメンが、新たに診断された全年代の成人のPh染色体陽性ALLに対する新たな標準治療になりうることのさらなる根拠を提供するものである。我々が観察した持続的な奏功を前提とすれば、ポナチニブとブリナツモバブの併用治療は、新たに診断された上記の患者に対する第一寛解期における移植の必要性を不要なものとする可能性がある。』と述べた。」