前回の記事の続きで大変恐縮ですが、慢性リンパ性白血病に対して、BTK阻害薬(日本でも第1世代のイブルチニブが承認されています)+BCL-2阻害薬(ベネトクラクス)による治療が、低かった完全寛解率を高め、微小残存病変を陰性とするなどの高い効果を持つことを実証した治験が世界で行われたことを伝えるレビュー論文に触れたことに関連して、これら二つの分子標的薬を組み合わせた治験の実際の方法や治療の効果を詳細に示した査読付きの権威ある医学論文が、公表されていることに気がつきました。この論文は、著名なテキサス州ヒューストンのアンダーソンがんセンターの二人の教授によって書かれたものであり、おそらく日本の多くの先生方も知っていると推測されるのですが、患者の側としても、その存在だけでも知っていることに損はないと感じました。そこで、非常に専門的な内容を多く含むために内容的には難しく、私が訳出するのは事実上困難なのですが、以下に、その論文にリンクすることにします。
このうち、非常に重要であると思われる部分は、当該論文の8頁右の欄 Iburutinibu and Venetoclax から始まるところなので、わからない部分も多くあるのですが、一応仮に訳してみたいと思います。それから、結論の部分についても、分からない部分はあるのですが、一応訳してみたいと思います。
「イブルチニブとベネトクラクス
実験室段階の研究では、イブルチニブとベネトクラクスは相乗作用を持っているエビデンスがあったこと、イブルチニブはリンパ節において、ベネトクラクスは末梢血や骨髄において最も機能するとみられる点で、それぞれが働く病巣部が異なっていること、それぞれ単剤の治療でも高い治療上の効果を持っていることから、イブルチニブにベネトクラクスを組み合わせた治療が行われるのは、当然である。そのため、多くの臨床試験が、新たに診断されたCLLと再発又は難治性CLLの双方に対し、この組み合わせ治療の有効性を評価してきた。
「MDACC」治験の第2相では、80人の未治療の高リスク又は高齢のCLL患者が治験に参加し、そのうち75人が両者の組み合わせ治療を実際に受けた。具体的には、イブルチニブ単剤の治療を最初の12週間(3サイクル)実施した後で、そこからベネトクラクスも開始し、ベネトクラクスは24サイクル実施することとされた。また、イブルチニブは、骨髄中の微小残存病変の状態によって、そのまま続けることができるとされた。
12サイクルによる組み合わせ治療の後、88%の者が、完全寛解又は血球回復が不十分な骨髄中完全寛解を達成し、61%が微小残存病変陰性を達成した。時間が経つにつれて治療の反応はより良好で、より深くなり、このことは、IGHV変異の有無、FISH法によるそのカテゴリー分け、及びTP53/NOTCHI/SF3B1の変異の有無に関係なく、一律に観察された。心房細動が最もよくみられた有害事象であり、12人の患者(15%)に起こり、これはイブルチニブの用量を減らす最も多い原因となった。また、4人の患者に発熱性好中球減少症が起こり、好中球減少はベネトクラクスの用量を減らす最も多い原因となった。同治験における最も新しいアップトゥーデートされたデータ(フォローアップ期間の中央値は33.8か月)では、治療する意志のある参加者全体のうち、24サイクルの組み合わせ治療の後、66%の者が骨髄中の微小残存病変が陰性となっている。また、いずれかの時点で微小残存病変が陰性となった者の割合は75%であった。全体のうち2人の患者がリヒター転化を起こした。また、CLLの病状が進行した患者は1人も存在しなかった。12サイクルの組み合わせ治療後にも微小残存病変が陽性であった24人の者のうち、24サイクル後の時点では、12人が骨髄中の微小残存病変が陰性となった。このような考察に基づいて、24サイクルの治療の最後の時点で骨髄中の微小残存病変が陽性であった者には、さらに12サイクルの組み合わせ治療を行うように治験が修正された。
…中略…
「MDACC」治験における再発又は難治性のグループにおいても、全部で80人が参加した。最も新しいデータでは、フォローアップ期間の中央値は27か月であり、74人が組み合わせ治療を実際に受けた。治療の意志があった者全体のうち、12サイクルの治療の後に骨髄中の微小残存病変が陰性となった者と、いずれかの時点で骨髄中の微小残存病変が陰性となった者の割合は、それぞれ40%と56%であった。結果を評価できる患者だけでみると、12サイクルの組み合わせ治療後に骨髄中の微小残存病変が陰性となった者の割合は47%、24サイクルの組み合わせ治療後に骨髄中の微小残存病変が陰性となった者の割合は68%であった。また、24サイクルの組み合わせ治療を受けた後に、CLLの病状が進んだ者は全部で2人おり、また、治療中に1人がリヒター転化を起こした。グレードが3ないし4の好中球減少は48%の者に起こり、心房細動は8%の者に起こった。イブルチニブの用量を減らした患者の割合は57%、ベネトクラクスの用量を減らした患者の割合は35%であった。
…中略…
結論
ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤とベネトクラクスは、CLLの治療に革命的な進展をもたらしてきており、リヒター転化という大きな治療上の試練は残っているものの、現在は、「治癒」ないし長期の無治療寛解が、現実の目標として見えていると思われる。また、少なくとも現時点での限られたフォローアップのデータからみて、アカラブルチニブとザヌブルチニブは、イブルチニブの有効性を維持しつつ、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤をより安全なものにすることを約束している。それから、可逆性のあるブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤は、イブルチニブやアカラブルチニブへの抵抗性という問題に対応するものと期待される。同様に、ベネトクラクスに基づく「期間を限定した」治療の魅力も、明らかである。初診時における治療方法の選択は、その後に続ける治療と同じく、患者の個人的な状況に合わせて行われる必要がある。「期間を限定した」治療における理想の期間については今後も議論されるであろう。