今日は、専門的に過ぎて一般の人にはわかりにくいところがありますが、骨髄バンクドナーの骨髄等(骨髄又は末梢血幹細胞)を提供するか否かに関する行動の要因を、コーディネートの対象となったドナーさんへのアンケート調査をもとに詳細に分析した研究報告が日本造血細胞移植学会の学会誌に公表されているので、これについてまずリンクします。

 黒澤彩子他「骨髄バンクドナーにおける幹細胞提供行動と心理・社会的要因の検討」日本造血細胞移植学会雑誌8巻2号60頁

 この研究報告に出ているアンケート調査の結果から、いくつかの重要な傾向を読み取ることができるように思います。

 まず、第一に、本ブログが何度も取り上げている自治体のドナー助成制度の存在が実際の骨髄等の提供に結びつく要因になっているのかという点に関しては、骨髄等の提供を後押しする要因となっていることを示す結果が出ています。すなわち、本研究報告の調査対象期間である2017年4月~5月の間に骨髄バンクから適合通知があり、登録者の方にアンケート(返信用紙Ⅰ 提供意思確認書)によって提供意思の確認が行われた全事例から健康理由又は患者側の理由による途中終了例を除いた385例のうち、まず、(お住いの)自治体にドナー助成制度があるかという質問に、ドナー助成制度が「ある」と回答した方は22人で数としては少ないのですが、そのうち16人(約73%)もの方が骨髄等を実際に提供されています。一方、自治体にドナー助成制度が「ない」と回答した73人の方(なお、上記の質問に「わからない」と回答した方283人と違って、ドナー助成制度が「ない」と回答した方は骨髄等を提供するかを真剣に考えた方であり、その判断の一助としてドナー助成制度の有無を調べたと推定できます)のうち、骨髄等を実際に提供されたのは24人であり、3分の1弱のケースしか骨髄等の提供に至っていません。これら二つのグループ(ドナー助成制度が「ある」と答えたグループと「ない」と答えたグループ)の間の提供率の比較から、住んでいる自治体にドナー助成制度が存在し、そのことを知っていた登録者の方は骨髄等の提供に至る割合が2倍以上高いことがわかります。すなわち、住んでいる自治体にドナー助成制度が存在し、そのことを知っているということは、骨髄等の提供に向けて登録者の方の背中を押す効果が相当に高いといえるのではないかと思います。

 第二に、勤務先にドナー特別休暇制度が存在することが実際に骨髄等の提供に結び付く要因になっているのかという点に関して、この研究報告のアンケートでは勤務先におけるドナー特別休暇制度の有無を聞いていないために、直接的にはわかりません。しかし、調査対象となった登録者の方が公務員であった71例における骨髄等の提供へと進んだ割合は、一般に公務員はドナー特別休暇が制度上定められていることから、ドナー特別休暇の存在が提供に結びつく要因となっているか否かを示す代用的指標(surrogate)であるということができます。このように考えた場合、公務員で骨髄等を実際に提供した者は9人(約13%)と少なく(調査対象者全体に占める骨髄等提供者の割合である約18%よりも率が低い)、ドナー特別休暇が設けられていない会社が大多数であると考えられる民間企業(正規雇用)に勤務する方177人のうち、39人(約22%)が実際に骨髄等を提供しているのと比べても相当に低いということは、制度上ドナー特別休暇が認められているというだけでは、骨髄等の提供へと結びつく要因には必ずしもならないことを示唆しているように思われます。