今日は、日本の多くの移植医の先生が海外で発表している英語論文で、日本語論文でないところに問題があるのですが、2018年10月に、日本医大の坂口正洋先生他の先生による、多施設での患者を対象とした共同研究の結果として、FLT3の遺伝子変異のある急性骨髄性白血病に対しては、変異遺伝子の出現割合(アリル比)の多寡に関係なく、またNPM1の遺伝子変異の有無に関係なく、第1寛解期での同種造血幹細胞移植によって予後を有意に改善できることを示した論文が全文公表されているので、この論文にまずリンクします。

 Masahiro Sakaguchi et al., "Prognostic impact of low allelic ratio FLT3-ITD and NPM1 mutation in acute myeloid leukemia"23 Blood Acvances (2) 2744 (2018)

 この論文の内容は、去る3月8日に大阪で開催された日本造血細胞移植学会の一般口演「NPM1変異陽性かつFLT3-ITD低アリル比の急性骨髄性白血病に対する第1寛解期での同種移植の意義」(日本造血細胞移植学会第80回 プログラム1日目19頁)と執筆者が全員同じであること、及び表題の英訳である Efficacy of allo-HSCT in CR1 for low allelic ratio FLT3-ITD and NPM1 mutaion in AMLが上記英語論文の結論と対応していると思われることから、おそらく実質的によく似たものであると思われ、FLT3-ITDの変異のある急性骨髄性白血病の患者の方(急性骨髄性白血病の25%余にあると推計されており、実は、私自身が都立駒込病院で日本医大との協定による遺伝子検査によりFLT3-ITDがあるとされ、本研究の対象になったようです。)にとって、その内容を簡単にでも示す価値があるのではないかと考えました。そこで、多くの誤りや不正確な点はあると思いますが、まず、最初のアブストラクトを日本語にしてみたいと思います。

 

 「欧州白血病ネット(ELN)の見解によれば、ヌクレオフォスミン第1群(NPM1)の遺伝子変異が陽性の急性骨髄性白血病で、FLT3の遺伝子における内部縦列重複(internal tandem duplication)の出現アリル比が0.5未満の低アリル比の変異を伴うものは、予後良好とされ、第1寛解期における同種造血幹細胞移植は積極的には勧められていない。我々は、FLT3-ITDの遺伝子変異が陽性の急性骨髄性白血病の患者147人を研究の対象とし、これを(遺伝子変異の出現割合が)低アリル比の患者と高アリル比(変異のアリル比が0.5以上)の患者に分けて、第1寛解期での同種造血幹細胞移植が予後に及ぼす影響を検討した。(ELNでは)FLT3-ITDのアリル比とNPM1の変異が、予後の層別化のために用いられているが、我々は、NPM1の遺伝子変異が陽性で、FLT3-ITDが低アリル比の急性骨髄性白血病は、良好な予後を伴うものではないこと(全生存率は41.3%)を見出した。加えて、このグループの患者で第1寛解期での同種造血幹細胞移植を受けた者は、同種造血幹細胞移植を受けなかった者に比べて、有意により良好な結果を示した(無再発生存率のP値は0.13、全生存率のP値は0.03で、いずれも前者の方が高い。)。そして、多変量解析によって、第1寛解期での同種造血幹細胞移植が良好な予後をもたらす唯一の要因であることがわかった。本研究の結果、NPM1変異が陽性で、FLT3-ITDが低アリル比の急性骨髄性白血病は、第1寛解期において同種造血幹細胞移植が行われない場合には、その予後が不良であることが示された。」

 

 以下、本文のうち重要と思われる部分に限って、また、図や表は除かざるを得ないですが、なんとか訳してみます。

 「序

 急性骨髄性白血病(AML)は、造血幹細胞の勝手な増殖とその成熟細胞への分化障害を伴って、骨髄芽球が骨髄、末梢血、その他の組織へと侵入することを特徴とする、様々の異質のものを含む悪性の血液疾患である。寛解導入療法により、症例の60~80%は完全寛解を達成する。しかしながら、寛解後における5年生存率は依然として40%弱にとどまっている。同種造血幹細胞移植は、急性骨髄性白血病の治癒を目的とした有効な治療法である。もっとも、同種造血幹細胞移植における再発以外の原因による死亡率は、20%弱と高くなっており、それゆえに、同種造血幹細胞移植は、予後の考慮に基づいて適切に行う必要がある。このことを可能にするには、予後の層別化(stratification)が重要な役割を果たすが、現在のところ、染色体異常に基づく分析が半分以上の患者を予後が中間の集団として位置付けており、かかる染色体異常に基づく層別化ではまだ不十分なことを示している。我々の現在の課題は、より詳細な予後の層別化を達成し、どのような場合に造血幹細胞移植が適応となるかに関してより正確な理解を得ることにある。

 急性骨髄性白血病の予後を規定する因子としては、年齢、発症時における白血球の数、及び染色体異常などがある。次世代シークエンサー(訳者注-高性能の新しい方法による遺伝子のDNA配列の自動読取装置を指す)の登場により、予後の層別化を行う場合に上記に加えて遺伝子の変異を考慮に入れることが可能になった。そして、いずれも遺伝子の変異である、NPM1、CEBPA、及びfms様チロシンキナーゼ3の内部縦列重複(FLT3-ITD)が、正常核型の急性骨髄性白血病における予後の規定因子として作用する可能性があることが指摘されてきており、それゆえ、これらの遺伝子の変異は欧州白血病ネットによって予後の分類の際に用いられている。しかしながら、これらの遺伝子の変異は、予後が中間の患者のうち30%強にしか存在しないことから、今後は、より細かな層別化が必要とされる。

 FLT3遺伝子は、Ⅲ型受容体チロシンキナーゼ・ファミリーに属し、細胞外のリガンド結合領域、単一の膜貫通領域、膜近傍の領域を含む細胞質領域、チロシンキナーゼ領域1、チロシンキナーゼ領域2から構成されている。FLT3-ITDの遺伝子変異は、Nakaoらによってその存在が初めて報告されたもので、急性骨髄性白血病の患者の25%強に見いだされる。FLT3-ITDの遺伝子変異においては、内部の縦列重複が第13染色体のFLT3遺伝子の中に挿入されており、挿入部分の長さは3個から数百個のヌクレオチドのものまで様々である。FLT3-ITDの遺伝子変異は、FLT3受容体の持続的なリン酸化による(細胞の)活発な増殖を促進し、同時にその細胞死(アポトーシス)を抑制する。臨床上の観点からみると、FLT-ITDの遺伝子変異は、白血球細胞数の増多、骨髄芽球の割合の上昇、完全寛解からの再発リスク(の増大)を伴うものであり、予後不良をもたらすことが報告されてきた。そのような理由から、移植ができる年齢のFLT-ITD陽性の急性骨髄性白血病の患者に対しては、第1寛解期での同種造血幹細胞移植が推奨されている。

 FLT3-ITDの遺伝子変異が陽性の急性骨髄性白血病については、何年もの間、FLT3-ITDの出現アリル比、変異遺伝子における内部縦列重複の挿入部分の大きさ、内部縦列重複の中にチロシンキナーゼ領域1が存在すること、及びNPM1の遺伝子変異が存在することが、病気の予後を規定する因子としての地位を持つのかについて確立した意見は存しなかった。しかし、最近では、FLT3-ITDの(変異のある遺伝子と正常な遺伝子との)アリル比によって、NPM1の遺伝子変異のある急性骨髄性白血病の予後をより細かく層別化することが可能になることが報告されるに至った。このような発見に対応して、欧州白血病ネットは、2017年に急性骨髄性白血病の新たな予後分類を提唱した。欧州白血病ネットの見解によれば、NPM1の遺伝子変異のある急性骨髄性白血病で、FLT3-ITDのアリル比が0.5未満のものは、予後が良好なものであり、第1寛解期での造血幹細胞移植は積極的には推奨されていない。これに対し、全米包括がんネットワーク(NCCN)の診療ガイドラインにおいては、FLT3-ITDの遺伝子変異を予後不良となる因子として分類している。NPM1の遺伝子変異があり、FLT3-ITDのアリル比が0.5未満のものは、FLT3-ITDの変異のある急性骨髄性白血病のうち一定割合を占めるに過ぎないが、欧州白血病ネットによる分類は、FLT3-ITDの変異のある急性骨髄性白血病を予後良好なグループの中に分類した最初のものであった。それゆえ、かなりの数の臨床医師が欧州白血病ネットの勧告を疑いの目をもって見ているようである。そこで、この研究では、FLT3-ITDのアリル比が予後に及ぼす影響と、FLT3-ITDの変異のある急性骨髄性白血病に対して同種造血幹細胞移植が適応となるかを検討することを目的とした。

 

研究の資料と方法

患者 本研究は、2000年以降の期間において、日本医科大学及びその提携研究施設で原発性の(do novo)FLT3-ITDの変異のある急性骨髄性白血病であると診断された患者から、治療関連の急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群に由来する急性骨髄性白血病、及び急性前骨髄球性白血病(M3)の者を除いた147名の者を対象とする後方視的研究である。