競泳の金メダリスト池江璃花子選手の白血病公表を受けて、その翌日には日本骨髄バンクにドナー登録の方法などに関する問い合わせが急増していることが報道されました(日刊スポーツ2019年2月13日「池江に支援の輪、骨髄バンクに資料請求通常の50倍」、NHK生活情報ブログ2019年5月16日「白血病から立ち上がる」)。また、このような動きに呼応して、全国各地において骨髄バンクへの登録や問い合わせが急増していることが伝えられています(宮城県の状況につき、朝日新聞2019年2月19日「骨髄バンク、ドナー登録相次ぐ 池江選手への共感後押し」、栃木県の状況につき、下野新聞2019年3月8日「骨髄バンク栃木県内2月 登録者、前月の3倍 池江選手公表で支援の輪、千葉県の状況につき、千葉日報2019年4月9日「骨髄ドナー、千葉4倍 『何かできないか』登録増 池江選手の白血病公表影響」、東京都の状況につき、骨髄バンクを支援する東京の会 東京の会通信2019年5月号4頁、神奈川県の状況につき、神奈川新聞2019年3月18日「ドナー登録数急増 池江選手の公表きっかけ、神奈川で4倍」、富山県の状況につき、朝日新聞富山地方版2019年3月29日「骨髄バンクドナー登録 県内で増加」、福井県の状況につき、福井新聞2019年2月15日「骨髄バンクドナー登録、福井でも増」、長野県の状況につき、医療タイムズ2019年3月20日「県内も骨髄バンク登録急増 2月は222人」、和歌山県の状況につき、ニュース和歌山2019年3月16日「広がる命のボランティア」、岡山県の状況につき。MEDICA 2019年2月16日「岡山県内で骨髄ドナー登録が急増 池江選手の白血病公表がきっかけ」、MEDICA 2019年8月28日「岡山県内で骨髄バンク調整役不足 ドナー登録急増で業務量が増加」、愛媛県の状況につき、FNN PRIME 2019年2月19日「池江選手『白血病』公表で愛媛でもドナーが急増」、高知県の状況につき、高知新聞2019年2月25日「高知県内の骨髄ドナー登録増 競泳・池江選手の白血病公表で」、高知黒潮ライオンズクラブ「患者の回復を祈り骨髄バンク支援活動」、福岡県の状況について、西日本新聞2019年4月23日「やっぱり減っていた」、佐賀県の状況につき、佐賀新聞2019年2月15日「競泳・池江選手の白血病公表で佐賀県内も骨髄バンクに高い関心」、長崎県の状況につき、長崎新聞2019年2月17日「骨髄バンク高まる関心 競泳池江選手の白血病公表後」、宮崎県の状況につき、宮崎日日新聞2019年2月15日「白血病公表 池江選手らの希望に 骨髄ドナー感心高まる」、沖縄県の状況につき、沖縄タイムズ2019年2月16日「池江選手の白血病公表、骨髄バンクの関心高まる 沖縄はドナー登録が多い」、那覇市議会議員大城わか子 2019年2月27日「全力投球で一般質問」、神奈川県の川崎市で開かれたチャリティー・ロック・イベント「COTSU FES 2019」の登録会の状況につき、神奈川新聞2019年2月17日「骨髄ドナー登録は4倍 川崎で啓発の音楽イベント」参照)。
上にあげたような多くの心優しい方の善意による勇気ある行動は、私のように骨髄バンクを通じた骨髄移植で予後が悪いFLT3-ITDの遺伝子の異常がある急性骨髄性白血病を治療でき、元気になった患者にとって、ありがたいの一言に尽きます。そして、何とかこの動きが一過性のものに終わらず、今後とも続いて行ってほしいと祈っています。そこで、2月14日の本ブログの記事献血と骨髄バンク事業の支援へのお願いでは、多くの方の善意による献血とドナーさんの善意による骨髄移植によって命が助かった患者の立場を代弁するものとして、献血、骨髄バンクへの登録、骨髄バンク登録を呼びかけるポスターの掲示、骨髄バンクへの寄附その他できる範囲で行動をとることをお願いされている、にいがた骨髄バンク応援団のブログ記事「池江選手への応援の気持ちを行動に!」にリンクさせて頂きました。
しかし、献血のお願いについては、もちろん誰も反論することはできないことですが、骨髄バンクのドナーさんの登録をすることについては、登録する前に登録によるいくつかのリスクやデメリットを慎重に検討すべきことを説く様々な「まとめ」記事を目にするようになりました。たとえば、検索すると上位に出てくるものとして、次のものがあります。
ドナー登録のリスクやデメリット! 骨髄バンクに行く前に知っておきたいこと
(なお、その後も、同様の内容の「まとめ」記事がネットで公表されています。たとえば、7月13日に出された骨髄バンク提供の手紙を断るとどうなる?ドナー登録の問題点とリスクについてと題された「まとめ」記事は、あたかも日本骨髄バンクによる発表のような体裁がとられていますが、このような内容のことを骨髄バンクが公表するとは到底考えられない、間違った情報の多い、有害なものだと思います。)
もちろん、骨髄バンクへのドナー登録を行うことについては様々な意見があり、移植の必要な患者と白血球のHLA型が一致すれば実際に骨髄等の提供の可能性があることを考えて、慎重に登録すべきであることについては、一般論としてはそうかもしれないと思います。また、登録・提供が可能な年齢にある全人口のうちのドナー登録者の割合を示す登録率も全国平均で0.916%(都道府県別登録者数(2019年8月末現在)に増えたとはいえ、なお相当に低いこと(例えば、2015年のドイツの骨髄バンク登録率は7.5%と日本より高くなっています。)からすると、日本では後で実際に提供することとなった場合のリスクを考えて最初からドナー登録に慎重な傾向が強いのかな、と思います。ただ、上記の記事は一面のみを強調した、ミスリーディングな部分があり、この記事を読んでリスクやデメリットばかり考えて、それ自体はリスクのない登録をやめようと思うことはできれば考え直して頂き、せめて献血ルームや登録会場で説明員の方の説明を聞いてからにしてほしい、というのが患者としての率直な感想です。なお、登録すること自体にはリスクがなく、登録はもっと軽く考えてよいのではないかという意見は、本ブログ2019年2月14日の記事2019年におけるドナーさんの登録の状況の最後の方で簡単に述べています。そのほか、群馬県明和町の広報めいわ2018年12月号に出ている日本骨髄バンク説明員の反町一明さんも同じ意見を述べられており、このコラムはわかりやすく書かれていて、大変に参考になります(広報めいわ2018年12月号3頁「ドナー登録にリスクはありません。まずは登録を。」)。また、キャンサーネットジャパンの発行している季刊誌のCNJ Speakers No.19 2019 01において、ドナー体験をされた俳優の木下ほうか氏が繰り返し言われているように、「登録=提供」ではないため、実際に白血球のHLA型が適合したという話があったときに改めてゼロからどうするかを考えることでよく、その意味では登録自体は軽い気持ちで行っても全く問題はないと思います。このような意見に対しては、登録後に実際に候補者になった後で断ったら患者さんをがっかりさせるだけなので、最初から登録しない方がまし、という批判が考えられますが、途中で候補者の方に断られたり、健康上の理由で候補者の方がドナーになれないことがあることは患者さんも先生から聞いて十分に承知しています(私自身も最初にドナーとして選定された一人目の方が最終的にはドナーにならなかったのですが、そういうことがあることは先生から聞いていたし、健康上の理由又はドナーさんの事情によるものなので仕方ないと思いました。)。また、登録した後で、実際には仕事が忙しいなどで提供できる可能性がないと考えた場合には、登録の取消や保留という方法があります(この点については、BLOGOS しらべる部 2019年7月12日 「池江選手の公表後に登録したドナーが続々と提供拒否」は思い込み? 3~4泊の入院や平日の病院通いがネックにに引用されている骨髄バンク広報渉外部長小島勝氏のお話が参考になります。)。そして、平成30年度からは最初に適合通知を出す人数を10人に増やしているので、候補者に選ばれた時に家族に反対されたとか、その時期は仕事の都合がつかない等の事情で断ったとしても、他の候補者の方が複数いることが多いので、大きな問題にはならないのが一般的であると思います。また、いずれにしても、病状が急を要する場合などでは臍帯血移植になるため、骨髄バンクでドナーさんが見つからなくても、それだけの理由で命を失うことはないといえます。
なお、上記のことに関して、私が日ごろ拝見し、いつもなるほどと思うことが書かれているので感心している若い血液内科のお医者様の方のブログ today is new daysの最近の記事が、骨髄バンクでの登録について事実に基づいてわかりやすく説明されており、また、後半の方で書かれたドナー登録に関する先生の御意見は誠に正鵠を得ていると思うので、このお医者様の先生の記事をリブログさせて頂きたいと思います(同じブログの1月30日付の記事骨髄バンクドナーを最初はリブログしていたのですが、骨髄バンク制度や登録についての新しい記事が出ましたので、そちらの方を改めてリブログします。)。