今から15年以上前の2000年~2001年の事例である、G-CSFによる末梢血幹細胞動員の1年2か月後に急性骨髄性白血病を発症した女性の血縁ドナーさん(その半月後にお亡くなりになられました)の症例(本ブログの末梢血幹細胞移植のドナーさんに対する安全性に係る情報の開示についてでは、末梢血幹細胞動員におけるG-CSF投与との因果関係を完全に否定できない死亡事例として取り上げました)の詳しい報告が、英語で公表されていることから、今日は、まずその英語で書かれた上記の症例報告にリンクします。なお、この論文の著者の先頭にあるK Makita先生は、前大阪市立大学臨床教授であった牧田健介先生、最後にあるM. Hino先生は、大阪市立大学大学院医学研究科教授の日野雅之先生であると思われます。

 Makita et al, "Acute myelogeneous leukemia in a donor after granulocyte colony-stimulating factor-primed peripheral blood stem cell harvest' 33 Bone Marrow Transplant 661 (2004)

 この症例報告の内容についてもいくつか注目すべきところがあります。そこで、この論文の要約、症例報告、分析資料と分析方法、分析結果のところはしばらくおいて、重要と思われる検討(discussion)の部分を一部訳したいと思います。

 「我々は、健常人のドナーがG-CSFによって動員された造血幹細胞の採取から14か月後に急性骨髄性白血病を発症したと推定される最初のケースを報告する。この患者は、白血球とヘモグロビンが緩やかに減少していた(提供から10か月後の)健康チェックの時に既に白血病を発症していた可能性もあるが、幹細胞の提供の時点又は健康チェックの時点における末梢血塗末を含む詳細な情報はなかった。

 彼女の白血病細胞は、G-CSF受容体を発現しており、細胞を培養してのさらなる調査によって、G-CSFが白血病細胞の生存と増殖を促進する可能性があったことが示唆された。以前の報告によれば、白血病の症例の97%にG-CSF受容体が発現しているが、我々の症例におけるような外因性のG-CSFによる細胞増殖反応は、白血病の症例の約67%に限ってみられるとされている。以上の考察は、幹細胞の提供の時に既に存在していた白血病細胞を選択するというようなメカニズムによって、G-CSFが白血病の発症に寄与した可能性を完全に排除できないという点で、重要であろう。さらに、G-CSFが、骨髄の造血細胞の分化サイクルを異常に促進し、それによって転写時の誤りが生ずるリスクを増大させ、正常な前駆細胞の初発の'(do novo)白血病細胞化を間接的に惹き起こしたということもありえよう。

  しかしながら、これまでの知見では、一般にG-CSFについては白血病誘発性の薬剤としてマイナーな役割しか有していないことが示唆されている。例えば、骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病への病気の進行において外因性のGM-CSFが一定の役割を果たし得ることが示唆されているが、同じことはG-CSFについてはいえない。さらに、ドナーさんに対するG-CSFの投与の長期における悪影響をモニターした一連の研究(それぞれ、3人のドナーさんを1年と、281人のドナーさんを5年モニターしたもの)において、どのドナーさんも後になってから白血病を発症しなかった。しかし、統計的に白血病の発症リスクが10倍に増えることを判断するためには、2,000人のドナーさんを10年間以上フォローアップする必要があるというハーセンクレバー氏らの計算に基づいて考えると、これまでに利用可能であった情報はきわめて限られたものでしかない。…。

 …

 したがって、仮に我々の症例が本当に世界で最初の症例であるとすれば、ドナーにおける白血病の発症率は、自然発生する白血病の発症率より高くないかもしれない。しかしながら、この計算は、報告されていない患者による過小な見積もりであるおそれが高いことは疑いの余地がない。…。」

 この英語の症例報告では、2000年から2001年にかけて起こった上記の有害事象事例について、日本造血細胞移植学会の有害事象事例特別調査委員会がとった結論である「 健常者に短期間G-CSFを投与しただけで白血病が発症する可能性は医学的には考えられないが、完全に否定することはできない」という立場を一歩進め、当該症例において、G-CSFの投与が白血病の発症に寄与した可能性が医学的にも考えられるとしているようにみえます。そうであれば、なおのこと、当該事例は、末梢血幹細胞を提供した血縁ドナーさんが1年2か月後に白血病を発症し、死亡した事例として、骨髄バンクのサイトにおいて情報が開示される必要があると思います。