今日は、これまでほとんど触れてこなかった骨髄異形成症候群(MDS)に関する資料(英文)ですが、実際には相当多数の患者さんがおられ、特に日本では移植の適応をめぐって議論がある関係で、米国における現在の状況を紹介する価値があると考えたので、成人の骨髄異形成症候群について米国の患者さんが学ぶための資料(基礎を超えた専門的な内容を含むもの)で、二人の大学の先生(Elihu Esteyワシントン大学教授、Stanley Schrierスタンフォード大学名誉教授)によって書かれたup to dateというサイトの記事(最終改訂日は2017年12月6日)にリンクします。その内容については、これから日本語で部分的に訳出し又は要約して行きますが、英語の読める方は専門的な単語さえわかれば比較的簡単に読んで理解できるので、是非英文で読んで頂ければと思います(その方がより正確に内容を把握できます。)。
Patient Education: Myelodysprastic Syndroms (MDS) in Adults (Beyond the Basics)
なお、以下で述べる英文資料の内容については、1月15日に本ブログでアップした記事の中の僕の骨髄異形成症候群の説明(患者さん用)、がん情報サービスの中の骨髄異形成症候群に関する部分、骨髄異形成症候群(MDS)の検査と治療 年齢・予後予測を考慮した治療法とはなどと重複するところも多いので、それらには書かれていない部分を中心としつつ、MDSの予後や治療に関する重要なところは重複をいとわずに訳して行きます(訳に間違い等があれば、ご指摘下さい。)。
まず、MDSの概観と題する部分においては、MDSの予後(prognosis)に関して、「MDSの予後は人によって異なる(variable)。MDSの方の中には、ほとんど又は全く治療することなしに何年も生きる人がいる。それ以外の方の場合には、MDSは急性骨髄性白血病(AML)へと進行し、治療が成功しなければ、期待できる余命は1年から2年でしかない。」と述べられています。
MDSの原因に関しては、「ほとんどの患者の場合には、MDSが発症する外見上明らかな原因(apparent cause)はわからない。MDSは、ある種の化学療法や放射線による治療から15年以内の間に発症することがある(「治療関連」MDSと呼ばれる。)。」「ただし、がんなどの病気に対して化学療法を受けた人のうちの少数の割合しかMDSを発症しない。」と書かれています。また、患者の年齢分布については、「MDSは、年齢が高くなるとともにより多くなる。…ほとんどの患者(おおよそ75%)は、MDSであるとの診断を受けた時点の年齢が60歳を超えている。しかし、MDSは、小児も含めてあらゆる年齢で発症し得る。」と書かれています。
MDSの治療に関しては、まず、MDSのリスク分類(訳者注-僕の骨髄異形成症候群の説明の最初の方にあるIPSS-Rの表参照)に関する記述をした後で、「治療に関する勧告は、あなたの属するIPSS-R(又はIPSS)のリスク群に基づいて行われる。低リスクタイプのMDSの人は、治療が必要とされるまで何年間も生きていることがあるが、高リスクタイプのMDSの人は、通常、より迅速な治療を必要とし、治療しない場合には、期待できる余命は1年から2年を超えないであろう。しかし、予後の点数は、個々の患者がどれくらい長く生存していられるのかを予見するものではないことに留意することが重要である。なぜなら、半分の人はグループ全体の生存期間の中央値より長い期間生存するであろうし、半分の人はグループ全体の生存期間の中央値より短い期間しか生存しないであろうからである。」と述べられています。
これに続けて以下のように述べられています。
「MDSの人に対する医療上の対応(management)は、予後の点数(先に述べたIPSS-R又はIPSSの点数)と病理学的な病型の分類(世界保健機構の分類)によって決まってくる。
症状がなく、IPSS-R/IPSSの予後の点数が低リスクの人には、病気の進行を丁寧にモニタリングすることで十分であろう。
MDSに関連する症状があり、予後の点数が高リスクの人は、治療を受けることが有益であろう。
MDSに対するいくつかの治療は、生存期間を長くし、生活の質を改善し、症状をコントロールし、また、合併症を予防することができる。治療の選択は、患者の年齢、患者の全身状態(通常の日常的作業の際に体が全体としてどれだけ機能するかの水準)、病気の特徴(たとえば、IPSS-R又はIPSSのリスク点数など)によって決まってくる。我々の治療のアプローチは、Nationnal Comprehensive Cancer Network(NCCN)(訳者注-https://www.tri-kobe.org/nccn/about/index.html参照)の提案しているもの(訳者注-NCCN, Myelodysplastic Symdromes Version 2. 2017)と同様のものである。
現在のところ、MDSを治癒させる(cure)ことが証明された唯一の方法は、造血細胞移植(骨髄移植とか幹細胞移植とも呼ばれる)によってである。」
さらに、これに続く部分では、「治療の選択肢」と題して、以下のように述べられています。
「MDSの方の治療の選択肢は、以下の3つの類型のどれかに入る。
支持療法-支持療法は、MDSの方に対する対応の重要な部分をなす。具体的には、数が少ない血球の輸血、感染症にする抗生剤、一定の予防接種(immunization)がこれに当たる。
強度の弱い治療-この治療には、造血刺激因子、強度の弱い化学療法、(体の免疫系の活動を弱める)免疫抑制療法、又はサリドマイドに関する薬がある。これらは、治療に関連する重大な副作用を生じる可能性が低く、一般に入院することを要しない。
強度の強い治療-強度の強い治療法には、(急性白血病に用いられるのと同様の)多剤併用の化学療法と造血細胞移植がある。これらの治療は入院することを要するであろうし、合併症のリスク、時には死亡するリスクすら相対的に高い。一部の予後の良くない患者の場合には、これによって有効な治療が得られるチャンスの方が、治療に伴いリスクが増大する可能性を上回る。」
次に、 「勧められる治療(tretment recommendation)」として、上記の記述に基づいて次のように述べられています。
「支持療法は、MDSの全ての患者の医療を補助するものとして重要である。
低リスク(lower risk)のMDSの方は、強度の弱い治療と支持ケアのみによる治療を受ける。
70歳未満で高リスク(higher risk)のMDSにかかり、MDS以外の点で健康な方は、一般に、強度の強い治療法による治療を受ける。
70歳以上の高リスクのMDSの方は、一般に、強度の弱い治療法又は支持ケアのみによる治療を受ける。
中間的リスクのMDSの方は、どちらのアプローチによって治療してもよい。」
次に、支持療法(訳者注-支持療法の詳細については、日本語で書かれた情報とほとんど違いがないので、以下では省略します。)、強度の弱い治療、強度の強い治療の順に、個々の治療の内容についてさらに詳しく書かれています。
「強度の弱い治療-あるタイプの化学療法薬の低用量による投与が、低リスクのMDSの方、及び中間リスク又は高リスクのMDSの方で、強度の強い化学療法ないしは幹細胞(骨髄)移植に耐えることができない人のために勧められる。その目的は、骨髄の細胞がより正常な形で増殖できるようにし、赤血球、白血球、血小板をより良く産生ことができるようにすることにある。
・アザシチジン-アザシチジン(ブランド名ビダーザ)は、支持療法だけによる場合と比べて、生存期間をより長くし、生活の質をより良くすることができる。無作為に患者を割り付けた臨床試験により、アザシチジンによって治療を受けた患者は、「最善の支持療法」(主として輸血による)だけを受けた患者よりも生存期間が中央値で6か月~9か月改善されたと報告されている。」
(訳者注-原文では、アザシチジンと同様の効果を持つ薬のデシタビンに言及されていますが、日本ではデシタビンは販売承認されていないので、詳細は略します。また、その次に、5番染色体の異常による低リスクの骨髄異形成症候群と貧血症(5q-症候群と呼ばれる)の方に特に効果のある治療薬のレナリドミドにも言及されていますが、日本ではこれに該当する方はMDSの約1%とされています。)
「免疫抑制剤-MDSの方の中には、免疫系が原因で骨髄による血球の生産が低下している人がある。このことは、特に、MDSで骨髄中の血球の数が少ない(骨髄形成不全と呼ばれる)人にあてはまる。免疫抑制剤による治療は、免疫による骨髄への攻撃を弱め、有効な血球の生産を増加させ、赤血球の輸血の必要を減少させる。骨髄形成不全であるMDSにかかった比較的若い患者は、免疫抑制療法に特によく反応する。
免疫抑制剤の例は、抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)とシクロスポリンである。ATGは、1日1回、4日間にわたって静脈に注入するが、シクロスポリンは、効果を有する限り、1日2回経口で摂取される。ATGで治療を受けたほとんどの患者は、通常、血清病(serum sickness)と呼ばれるアレルギー反応を起こし、じんましん、皮膚の腫れ、高熱が生ずる。これらの反応は、ATGと一緒にプレドニゾンによるステロイド療法を行うことで、最小限にすることができる。
強度の強い治療
強度の強い化学療法-中間リスク又は高リスクのMDSの方は、急性骨髄性白血病(AML)の治療において用いられるのと同様の化学療法によって治療を行うことができる。化学療法は異常な細胞を破壊し、それが増殖するのを防ぐために用いられる。移植のできる患者については、化学療法だけでMDSを治癒させる可能性は低いため、化学療法に続いて幹細胞(骨髄)移植が行われる。
可能な場合には、臨床試験の一部として行われる強い化学療法が望ましい。
強い化学療法は、比較的若い(通常は70歳未満)方であって、強い化学療法に耐える適性があり(with good medical fitness)、全身の機能(「全身状態」)のレベルが高い場合にのみ勧められる。
強度の強い化学療法は、75歳を超えているか又は65歳を超えていて全身状態の悪い方に対しては、一般的には勧められない。このような方の場合、これによって期待できる便益(生存期間の延長)は、予測される不快な症状、入院、化学療法により死亡するリスクを引き受けるだけの価値がないであろう。
血液又は幹細胞の移植ー造血細胞移植(骨髄移植又は幹細胞移植とも呼ばれる)は、長期間の寛解又は治癒に導くことのできる唯一のMDSに対する治療である。しかしながら、一定の場合には、治療によるリスクが治療の便益を上回ることがある。
移植できる年齢の上限は、一般に70歳から75歳である。しかし、MDSの方の4分の3は診断時に60歳を超えているため、移植は、MDSの患者の相対少数(minority)にしか勧めることができない。造血細胞移植の移植前併存疾患・合併症(co-morbidity)の点数(HCT-CI)(訳者注-HCT-CIについては、同種造血幹細胞移植ポケットマニュアル(大阪市立大学附属病院)33頁及び136頁の付表参照)は、移植によるリスクを評価するための重要な道具である。同じ年齢の二人の患者であっても、HCT-CIが相当に異なる場合がある。
「血縁者の適合ドナー」(同様の遺伝子構成を有する生物学上の兄弟姉妹)が、MDSの場合の移植にとって最も適切なドナーソースである。しかし、非血縁者の適合ドナーも、移植の有効なドナーソースとなりうる。移植する幹細胞としては、ドナーの血液(末梢血幹細胞)が骨髄に大きく取って代わっている。
移植前の「強度を弱めた」化学療法による治療(訳者注-日本では骨髄非破壊的前処置と呼ばれている)を利用することによって、合併症を伴うことがより少なくなり、より多くのMDSの人が移植を受けることが可能となっている。強度を弱めた治療計画(regimen)とは、適合する幹細胞を用いた移植の前に、(低用量の放射線を用いる場合と用いない場合がある)より強度の弱い化学療法を用いるものである。
移植は、低リスクのMDSの方に対しては勧められない。低リスクの患者の場合、移植後に治癒する可能性が大きい(おおよそ60%)ものの、5年後の段階における移植関連死亡ないし再発の率も同様に高い(40%もの高さである)。」