今日は、 血縁者にHLAが一致する健康な55歳未満のドナーがいない場合で、骨髄バンクにドナー登録した者の中にもHLAが一致する健康な55歳未満の者がいない場合や、提供までに150日近くを要する骨髄バンクを通した適合ドナーによる移植を待っていては病状から言って間に合わない場合に行われている、さい帯血移植とHLA半合致移植という二つの移植方法についても、比較的新しいデータをもとに説明している、広島赤十字・原爆病院の岩戸康司先生が2016年7月に赤十字血液シンポジウムで行ったプレゼン用資料があるので、これにリンクしたいと思います。このプレゼン用資料には、他にも参考になるデータや表が色々出ており、参考になります。
パワーポイントによるプレゼン用資料なので、これだけみてもわかりにくいですが、この資料の49頁の表をみると、標準リスクの急性骨髄性白血病と高リスクの急性リンパ性白血病の場合、移植後2年くらいまでは、さい帯血移植を受けた患者の生存率はHLA型が一致するドナーによる非血縁者間骨髄移植を受けた者よりも若干低く、移植後2年くらいまでは相対的にリスクが高いこと、及びさい帯血移植を受けた患者の生存率はこの点でHLA型一座不一致の非血縁者間骨髄移植を受けた者とほぼ同等であることがわかります。しかし、長期間をとってみると、さい帯血移植を受けた患者の生存率は、HLAが一致する骨髄バンクドナーからの非血縁者間骨髄移植を受けた者と同等であることがわかります(表だけからは、急性リンパ性白血病では、さい帯血移植を受けた患者の方が長期の生存率が高いといえます。)。これは、さい帯血移植が、当初は骨髄バンクを通じたHLA型一致のドナーによる骨髄移植又は末梢血幹細胞移植が適時に実施できない場合の移植方法として出発したものの、2016年7月の段階でみると、骨髄バンクを通じたHLA型一致のドナーによる骨髄移植に匹敵する長期生存率の成績を達成していることを示すものであり、このことが、最近、さい帯血移植が急増していることの背景にあると思います。
他方、ハプロ移植の方は、資料の53頁をみると、強力なGVHD予防策をとる必要があるために、それに伴って感染症の増加や再発の増加という問題が生じ、さい帯血移植では発症率が低い難治性の慢性GVHDによるQOLの低下のリスクもある点で、「極めて難しい移植」であるとの評価がなされています。もっとも、現在では、GVHD予防のための色々な方法が開発されており、GVHDのリスクは低下しているものの、相当な合併症のリスクを伴う、ハイリスク、ハイリターン(非寛解期の移植であっても強力なGVL効果でがん細胞が死滅することを期待できるため、その意味でハイリターンといえる)の移植方法であるといえます。