かつて、東京~長崎間を24時間かけて走る急行「雲仙」という列車があった。
さだまさしさんは、中学生の頃から故郷の長崎を離れ、一人東京でバイオリンの修行をしていた。そこで、長い休みになると急行「雲仙」を使って帰省していた。しかしある時、実家の経済状況が悪かったのか、いつまで経っても帰省費用送られて来なかった。さだ少年は、せめて故郷の空気だけでも味わいたいと、毎日東京駅まで行き、急行「雲仙」を見送った。
そしてある時、こらえ切れずに乗ってしまった事があった。「次の駅で降りて戻ればいい。」そう思って空いていた座席に座っていると、意外にも早く車掌さんが検札に周ってきた。困ったさだ少年は、とっさに切符と財布をなくしてしまったと嘘をついてしまった。
すると、驚くべき事に向かいに座っていた大学生のお兄さんが、「僕も長崎まで行くから、切符代を立て替えてあげるよ。」と言ってお金を出してくれた。しかも、食事時になると毎回駅弁を買ってきて、食べさせてくれた。さらに、長崎駅に着くと家の場所を聞き、路面電車の運賃まで出してくれた。
さだ少年が、突然実家に現れたときの家族の驚きは言うまでもない。訳を知ったお母さんは親戚中かけ回ってお金を工面し、大学生のお兄さんの家までお礼に行った。
親切とはこういうものだと思う。見返りなんて期待していない、本当の思いやりである。
人を信じるとはこういうことだと思う。見ず知らずの少年を、同郷と言うだけで絶対的に信頼してくれる。
なんて心が広い人なのだろうと思う。この大学生のお兄さんは、おそらく現在60代半ばを過ぎて、素敵な熟年のおじさんになっていることだろう。
人はこれを、古き良き時代と言うのだろうか。
でも、私は今でもこんな素敵な人がたくさんいるに違いないと信じている。
そして、自分もそういう人になりたいと心から思う。