プライベートルーム内であればペットOK
ベランダに出れば海が広がり
家を出てすぐにはバス停もある
少し歩けば
ファミレスやファーストフード
コンビニまである
そんな好物件のシェアハウスで
今日から仲間入りする
【第1話】
海辺付近で環境もよく家賃は格安で、まさに理想の物件に住めることができるなんて、学生にしてはリッチ過ぎる暮らしだ
しかし、それは不動産屋と家主に挟まれて聞かされる、ある条件を合意の上でだけど
「同居人のお世話、ですか?」
家主は近場にカフェを経営してるキム・ミンソクさんで、思ったよりもとても若い人だった
その人はなぜか困り果てたような様子だった
「今居る3人が家事を全くしなくて、週2でできるだけ俺がしてるんだけど、全員忙しくて中々できないから片付け終わらなくてさ」
と言われても、家政婦とか雇えばいいのでは?と思うんだけど・・・
「だから、君みたいに口が堅くて礼儀正しい子を探していたんだ」
にこりと微笑む不動産屋
優しくてどこか安心する笑顔
けど、その笑顔には何か裏があるように見えた
でも、今の僕には・・・・・・
「・・・条件のひとつに"プライベートには干渉しないこと"とありますが、それは家主さんにも、僕にも当てはまりますか?」
少し意外そうに驚いた顔したふたりは、お互いにアイコンタクトをとって頷いた
「それは、もちろん。住人になるのならね」
「・・・わかりました。では、改めて、よろしくお願いします」
安らかに暮らせるのなら、なんだっていい
手続きを済ませてすぐに引っ越した
海が近い新しい家へ
通り過ぎる木々や街並みとは反対に
どこまでも続くのは真っ赤な空と海
流れる風が運ぶ匂いは
どこか懐かしく思わせる
「一応ある程度は片付けたんだけど、まだ酷くてさ。すまないけど、もしかしたら着いてすぐに片付けさせてしまうかもしれない」
「構いません。忙しいのに迎えに来ていただきありがとうございます」
「それはいいんだけど、ほんとに荷物はそれだけなの?」
バックミラー越しに後部座席に置かれた2、3箱程のダンボールを見るミンソクさん
さすがにこの荷物の少なさじゃ誰だってそう思うだろう
ましてや引越し業者も必要なくてすべての荷物がここにあるもので収まっていれば尚のこと
「身軽な方が楽なんです」
「そんな小さな体で言われるとなんだか心配になってきたんだけど」
「これでも3食きちんと食べてますよ」
「いや、うん。そうか」
ミンソクさんも僕とそんなに変わらないと思うけど・・・・・・この人は鍛えてるのかな
肉付きが僕よりも逞しい
大人になれば僕もこうなれるのかな
「もうすぐ着くよ。海辺に面したあの家わかる?青い屋根のあの白い家だ」
白い砂浜と同色の家は夕日色に染められて、明かりのないままポツンと立っていた
「同居人たちはあまり家には帰って来ないけど、居るとやかましいし全員マイペースだから気にしないでいいよ」
溜息混じりに疲れた様子で話すミンソクさんに賑やかになりそうな予感がした
しばらくして家に着き、ミンソクさんに鍵を開けてもらい荷物を部屋へ運んでいく
ざっと片付けた感じの廊下やリビング、あまり使われていないキッチンやバスルームは元栓が閉まったままで、男所帯な感じが自然と伝わる
「水周りやリビングは共有スペースだけど自由に使ってくれていいよ。見てわかるだろうけど此処にいるのは男だけだし、特に時間指定とかもないから好きにしてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「鍵はふたつ、この自室と玄関のね。一応プライバシーを守るために付けといてんだけど、誰も何もしないからソレは保証する。鍵かけるもかけないもどちらでも構わんさ」
この家は所々散らかってはいるけど、なんだか宿泊施設を連想させる構造で、全体的に広いスペースだ
以前はそっち方面だったのか、別荘なのか、本当のところはわからない
それくらい広い家なのに、だれも居ないからなのか空っぽな家
「・・・此処で自由に過ごしてくれ」
「え、、」
「それじゃあ俺は店に戻るな」
「はい。お忙しい中ありがとうございました」
ミンソクさんを見送り、ひとりになった新居を見渡す
「・・・自由に・・・か」
自室での荷解きはすぐ済むだろうし、そしたらその後はこの廊下と共有スペースでも片付けるかな
新しい家にはある条件付き
他人の世話なんて普通は御免だ
でも、今の僕にはちょうどいい
はじめてのお迎えは空っぽな家からだった
……To be continued