LUHAN
いつも俺を気遣ってくれるシマリスみたいな従業員。
彼が淹れてくれる珈琲が格別に美味しくて、半ば彼を見るためにお店に足を運ぶようになった。
童顔なのか幼く見える笑顔の彼は、ドキッとするくらい真剣な眼差しで、けどどこか楽しそうに微笑みながら珈琲を淹れる。
老若男女問わず、このお店に運ぶ客は皆彼に惹かれて訪れていた。
笑顔と珈琲で人を引き寄せる不思議な子。
自然と目が離せなくなる。
きっと俺も他のお客と同じ。
今日も彼を眺めていると、ここの社長のひとりのクリスが俺の横に座った。
「おいおい、仕事中に客と話すのかよ。」
「お前は客じゃない。」
「客として来てるのに。」
「屁理屈言ってないでさっさと上のアトリエに来いよ。ここでは話したくないって言ってたのはお前だぞ。」
「はいはい、わかったよ。」
強引なクリスに軽くタメ息を漏らして、机に広げた資料を一旦まとめて閉じたパソコンごと鞄に詰めた。
大雑把な俺にクリスが眉を寄せて見守る。
「そんな顔すんなよ。俺の性格くらい知ってんだろ。」
クリスは肩を卸してさっさとアトリエに向かった。
普通の人ならぶっきらぼうな奴の態度に毎回腹が立つだろうが、何十年の付き合いの俺には彼が単純に呆れて流してることはわかっていた。
アトリエに繋がる階段に差し掛かる途中、カウンターで珈琲を淹れる彼の横を通って、ちらりと彼を見つめた。
間近で珈琲を淹れる姿を見たのは初めてで、一瞬しか見ることができないのがなんとも惜しかった。
その様子を見ていたクリスは片方の眉を寄せて俺が来るのを待っていた。
上に着くとクリスはどっかりと席に座った。俺は机を挟んで向かい側に座り、鞄に詰めた資料とパソコンを取り出した。
適当に押し込んだせいで紙はくしゃっとなってて手で伸ばさなきゃならなかった。
クリスは深くタメ息を吐きながらも伸ばすを手伝ってくれた。
「あざーっす!」
「お前はそろそろ大人になれ。」
「うぃっす!」
クリスはまたタメ息を吐いて机に方膝をつけて顎をのせて呆れていた。
「ルーハン。俺はお前に聞きたいことが山ほどある。」
うん。
知ってるよ。
「いつかは聞かれるとは思ってたけど、まさか、ここで聞くつもりじゃないよね?」
「俺はお前と違って常識人だ。仕事場でプライベートを持ち込まない。」
「はいはい。そう、怒るなって。」
「この話は仕事が終わった後だ。さっさと要件を済ましてあのババアのとこに報告しろ!」
まったく、普段はクールぶってるくせにあのオバサンが絡むとなると昔のように敵意を剥き出しにするんだから。
「わかったよ。あ。あとさ、これが済んだら俺にカウンターのあの子紹介してよ。」
「ルハン!」
ヤレヤレ。
おっかないね。