それは一瞬のこと
俺の心は君に急接近する
[ Beautiful Target ] side K
君に会うまでの俺は、恋なんてものにまったく興味がなかった。
「ちょっと、暇なら恋人でもつくったらどうなの?」
レッスンに行く前にリビングでゴロゴロしながら漫画を読んでると、姉貴に蹴られた。
最近は俺を見るなり口癖のように言う姉貴。
ダンスの先生も、先にデビューしたテミナも、みんな同じことを言う。
正直、うるさかった。
俺を見る女はみんな色目を使って近づいて来るけど、俺はベタベタと触られるのが嫌いだ。
化粧や香水の匂いも、濃すぎて俺には悪臭でしか感じない。
男を誘うように出す肌けた服装も嫌いだ。
そんなことを言うといつも「わかってないな。」と怒られる。
わかってないのはみんなのほうだ。
俺がいつ恋しようが勝手だろう?
「ジョンイナは恋を知らないでしょ。」
レッスンが始まる前に休憩室で、時間が空いて顔出しに来てくれたテミナに打ち明けると、そんな答えが返ってきた。
まあ、そうだよな。
興味がないから、恋したことなんてないから知らない。
「俺はべつにいいんだよ。それより、お前の方はどうなの?」
反対にテミナは練習生のときから好きになったオンユヒョンと両想いになって、テレビや動画で騒がれていたりする。
「うん、超幸せ!」
ほんとうに幸せそうに笑う親友に嬉しくなって自然と俺も笑顔になる。
「ジョンイナも見つけられればいいね。」
「だから、俺はべつにいいんだって。」
このときまではそう思っていた。
「そろそろ練習の時間だ。」
「頑張れ!ジョンイナ!」
テミナに背中を叩かれて席を立ち上がった、
「あ、」
カラン、カラ、カラ……
廊下に差し掛かったところで俺の足元に缶が転がってきた。
膝を軽く曲げて掴むと、缶ではなくてやわらかい別のものを掴んだ。
「え、」
「あ、」
それは一瞬のことだった。
握った小さな手を追って彼を見たとき、俺の心臓は聞こえてしまうんじゃないかってくらいうるさく響きだした。
大きなまん丸い瞳は真っ直ぐできらきらと輝いていて、紅い分厚い唇はぷにぷにしてそうなくらい艶やかだった。
なに、この可愛い生き物?
俺が不自然に止まってしまったのを変に思い、首を傾げるしぐさも可愛い。
それにハッとして掴んだ手を離して立ち上がると、彼も缶を持って立ち上がった。
「えと、拾ってくれてありがとう。」
俺は黙って頷くことしかできなかった。それに、実際には拾おうとはしたけど、彼自身で拾って俺はなにもしてない。
にっこり笑いかけてくれるだけでときめいてしまい、顔はどんどん熱くなって、ドキドキと煩く繰り返される鼓動が耳に響く。
彼が行ってしまっても、俺はその場から動けずに彼の消えていく背中を見つめていた。
「ジョンイナ?どしたの?」
テミナに肩を揺すられたおかげで俺は我にかえる。
「もう、俺、心臓飛び出るかと思った。」
ああ、そうか。
恋に落ちるってこういうことか!
「これからどうすればいいんだよ……。」
俺の心境に気づいたテミナは肩に手を置いてにんまりと微笑んだ。
「自然でいいんだって。ジョンイナらしく本能のままに攻めていけって!」
「……うぃっす。」
俺は狙った獲物は逃がさない。
絶対に捕まえてみせる。
Target は、美しいきみ。