[ Are you feeling me now ? ] side X
今日からEXO-Mのメンバーとして過ごす俺たち。
「改めてよろしく。シウちゃん。」
俺たちの間に何事もなかったみたいに、初対面のように振る舞うルハン。
どうして、そんな風に笑ってられるんだよ?
聞きたいことも知りたいこともいっぱいあるのに、何も言えなくなって流されるまま。
中国語は事務所に入ってから少しは学んできたけど、中国で活動することもあり急激に詰め込みで勉強することになった。
レッスンにレコーディング、語学の勉強。そして、最年長での重圧とメンバー内の言葉の壁。
いろんなものに押し潰されそうになる。
それに、前とは違うルハンの態度。
宿舎では中国語を教えてくれたり、番組やメンバー内での通訳してくれたり、いろいろと気遣ってくれるけど、前みたいにふたりでふざけたり笑ったりはなかった。
目が回るくらい忙しくてルハンの本心を聞く機会なんかほとんどなくて、時間だけが過ぎていった。
こんなに近くにいるのに、俺たちはまた、離れてしまうの?
情緒不安定で自分でもどうすればいいのかわからないくらい心が病んでいく。
「明日からしばらくはOFFだから、みんなしっかり疲れをとってくれ。」
デビューして何ヵ月か立ったある日、収録の帰りの車内でマネージャーに言われた一言に、メンバー全員が喜んだ。
実家に連絡を取る者やどこへ行こうか携帯で出掛け先を検索する者など、みんなしたいことをそれぞれ調べたり話したりした。
「シウミニヒョンはどうする?」
「んー……俺は宿舎に残って、体を休めるよ。」
チェンの問いに思い浮かんだことを言った。
今まで溜まっていた疲れを除きたかった。
その日はみんな、緊張がほどけて疲労が睡魔を誘い、早くに布団に入っていった。
俺は翌日の午後までぐっすりと寝ていた。
目が覚めたときはお昼を過ぎていた。
部屋から出て気づく。
いつもならバタバタとうるさい廊下はしぃん…と静まり返って、リビングからも物音一つしない。
みんな、出掛けたのかな。
タオは昨日ずっとセフナと電話してたから きっとセフナのところだろうな。
チェンもマネヒョンに実家に帰ってもいいか聞いてたな。
クリスとレイはふたりでどこに行くか話し合っていたっけ。
ルハンは……………。
……………ルハンはどうするのかは何も言ってなかったけど、こうも静かということはどこかに出掛けてて居ないんだろうな。
ズキンッ
なんで、、今はルハンのことを考えると苦しい。
ルハンというワードだけで、いろんな記憶が蘇って頭から追い払うことができなくなる。
重い気持ちのままリビングへ向かう。
キッチンに入って、最近ハマっているコーヒーの道具を取り出す。
久しぶりに気分転換に本格的に珈琲でもつくるか。
やかんに水を入れて火をつける。
白いマグカップを用意して、沸騰するまで待つ。
珈琲をセットして上から覚えた通りにお湯を入れていく。
ふんわりと珈琲の香りが部屋を包んで、俺の心にやんわりと染み込んできた。
その香りに安心感が溢れてホッとした時だった。
「いい匂い。」
聞き慣れた声に驚いて顔をあげると、だれもいないはずだったのにゆっくりとカウンターを挟んで珈琲を淹れる俺の前に来たルハン。
どうしてここにいるの?
驚いて動きが止まっている俺の顔の前で手を振って可笑しそうに笑う君。
「どうしたの?そんなに吃驚した?」
「なんで、居るんだよ?出掛けたんじゃ…?」
「?俺はどこにも出掛けてないよ。お風呂からあがってきたらいい匂いがしたから来てみたら、シウちゃんが居たんだよ。」
そういえば、確かに髪はくしゃくしゃに湿っていて、肩には頭を拭いていたであろうタオルが掛けられている。
それだけでお風呂あがりだと証明している。
「俺は部屋があまりにも静かだったから、てっきり、みんな出掛けたんだと思って。」
「まぁ、シウちゃんは今起きたからね。知らないか。」
やんわりとやわらかい笑顔で笑いながら俺の寝癖に指を絡めるルハン。
見た目よりも大きくて長い指に地肌をなぞられてとても気持ちいい。
「……ね、シウちゃん。俺にも頂戴。」
「え?お前、珈琲飲めるのか?」
いつも甘い飲み物ばっかり飲んでて珈琲なんて飲んでるところ見たことない。
「珈琲くらい飲めるって!」
ルハンはムッとほっぺを膨らませた。
あ………。
『ダメ!ミーちゃんは俺と組むって決まってンの!』
ルハンと初めて会ってサッカーをしたとき、帰る前に見せた拗ねたときの顔を思い出した。
仲良くなったその後も、拗ねるとほっぺを膨らます癖があることを知って何度も指で突っついて萎ませたっけ。
変わらないその癖に可笑しくなって頬が緩んで、昔みたいに萎ませてみる。
「わかったよ。淹れてやるから待ってて。」
「やったぁ!」
自分の分を一旦脇に置いて、新しくルハンの分を用意して淹れる。
「はい。どうぞ。」
珈琲の入ったマグカップをルハンの前に置く。
「ははっ、ほんとのバリスタみたい!」
ルハンは子どもみたいに笑ってマグカップを口に運んで一口啜ると、眉を思いっきり顔の中心に寄せて顔を歪ませた。
「うぇ、苦ッ、」
子どもみたいに舌を出して、もう要らないとマグカップを端に置いた。
うん、やっぱりね。
「ルハンにはまだはやかったかな?」
一応用意しておいた水を渡すと、ルハンは受け取らないで端に置いたマグカップに手を伸ばして、また一口啜った。
「おい、ルハン!無理するなって!」
止めようとするけど、ルハンは一口、また一口とゆっくり口にして、ぜんぶ飲みほした。
最後にマグカップを置くと、身震いをして水をガブガブと飲んだ。
「ふぅーーッ…………死ぬかと思った……。」
「だから無理するなって言ったのに。」
おかわりに水を注ぐと、それもすぐに飲んでしまう。
「くく、、ふふ、」
「シウちゃん、?」
「ははっ!もう、ダメ!ハハハハッ!」
堪えていた笑いがこれ以上止められず、ルハンに悪いとわかっているけどお腹を抱えて笑った。
「んなっ?!なんで笑うのさぁ!」
ルハンがぶーぶーと文句を言うけど、笑いがおさまることはなかった。
「もう、シウちゃん!!」
「わかった、わかったってkk」
湿った髪に手を伸ばしてわしゃわしゃと撫でた。
「拗ねんなって。ほら、飲み終わったんならドライヤーで乾かしてこいって。」
昔と変わらない雰囲気に流されて、あの頃拗ねたルハンによく頭を撫でた。
ああ、でももう、今は、違うか。
そう思い直してその手を引っ込めようとしたとき、その腕をルハンに捕まれる。
ルハンはじっと俺を見つめて、何か探っているようだった。
「シウちゃん、シウちゃんは俺のこと、どう想ってるの?」
「え?」
予期せぬ問いに言葉を失う。
それを知りたいのは俺の方だよ、ルハン。
「お前こそ。どう思ってんだよ。」
思わず震えた声に、熱くなりだした目の奥。
ルハンに気づかれないように、真っ直ぐ見つめるルハンの瞳を直視できずに俯いた。