躍り終わってこっちに向かって来るルハンにタオルを手渡す。ルハンは受け取って汗を拭うと俺の肩に手を置いて真剣な顔で「一緒に踊って。」と申し込んできた。
俺は唐突な誘いに驚きつつ、ルハンに誘われて嬉しかった。
だけど、すぐに不安になる。
「ありがとう。だけど、俺じゃふたりの足を引っ張っちゃうかもしれないよ?」
俺はまだルハンには届かないから。
ずっと頑張ってきたけど、周りの子も自分と同じように成長していく。それに負けないように、潰れないように頑張ってきた。
でも、なにより、踊るのは楽しくてすきだ。
リズムに合わせて踏むステップも、メロディに合わせて体で表現するのも好きだ。
歌もルハン程ではないけど歌うのも好きだから
、好きなことをやれることが嬉しい。
「そんなことないよ!ミーちゃんはもっと自分に自信持ちなよ。俺なんて見てて、すっごいドキドキしたもん。だから、お願い、一緒に踊って。」
笑ってるけど真剣な目で真っ直ぐに言ってくれることで、本心で言ってくれてるとわかってどこか安心する。
「ほんとに、俺でいいの?」
「"ミーちゃんが"いいの!セフナもそう言ってるからさ!お願い!」
子どもみたいに手を合わせてお願いする姿に、思わず吹き出して頷く。
「よっしゃ!これからよろしくね、ミーちゃん!」
俺の手を取って心底嬉しそうに笑顔になるルハンは、ほんとに子どもみたいだ。
[ What is feeling? ] side X
それから俺たちは3人で居ることが多くなって、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になっていた。
日が立つに連れて、ルハンのいろんな顔を知った。
子どもみたいにはしゃぐこともあれば、天使のように優しく微笑んだり、ときには冷たく一蹴するときもあることも。
その冷めた顔では容赦なく突き放す怖さを覚えた。綺麗な顔した人が冷たいと、小さい頃想像した雪の女王のように心も凍りついてしまう。
でも、ルハンのそういう顔は横で見てきて知ったわけで、自分に向けられたことは1度もなかった。
それはそれで、ルハンにまだ信用されていない感じがする。まだ、どこかで距離を感じる。
まるで目に見えないカーテンのようなものが俺たちの間にある気がする。
……そう、思うのは俺だけかな?
♪ー♪ー♪
あ、まただ。
♪ー♪ー♪
さっきから鳴り続けるルハンの携帯。
♪ー♪ー♪
この長さからいって着信だろうけど、ルハンは出ようともしないでダンスに集中する。
♪ー……………♪ー♪ー♪
「ああ!もう!うるさいなぁ!」
ルハンは鳴り終わってもすぐに何度もかけてくる電話の向こうの相手に痺れを切らして、電話に出た。
3人で居残りで使っている練習室を出て電話をするルハンの後を目で追って溜め息を漏らす。
最近の俺はなんか変だ。
ルハンがモテるのは前から知ってるし、女が何人もいることも知ってる。
だけど、いつの間にかそれが嫌で嫌で仕方ない。
俺がいるのになんでそいつらばかり?
どこかでそう思う俺がいる。
今だって、電話に出たルハンの姿に胸がモヤモヤする。
「ミンソギヒョン?どうしたの、溜め息なんかついて。」
隣で黙々と練習していたセフンが動きを止めて俺を覗きこむ。
「なんでもないよ。」
「ヒョンはなにかとひとりで溜め込むとこあるから、たまには僕にも頼ってくださいね。強制はしませんよ。ヒョンが話してくれるまで待ちますから。」
と俺よりも高いセフンは俺の頭を撫でる。
「……ありがとう。」
その手に自分の手を重ねて、自分のふっくらした頬に持ってくる。
俺のほうがヒョンなのに、俺よりも大きい掌。その温もりにマンネなのにしっかりしてるセフンに安堵する。
「うッ!」
不意にほっぺを摘ままれて横に引っ張られる。
「わぁ…。ルハニヒョンの言う通り、ぷにぷに。」
面白そうに横や縦に引っ張られる。
「ひゃにひゅんだ!ひゃなへ!」
「なに~?聞こえないですよ~?kk」
悪戯っぽく笑いながら俺のほっぺで遊ぶセフン。
こら!マンネ!俺で遊ぶな!
悪戯な手を離そうと手を重ねた瞬間、不意にその手を弾かれて、俺の頬からセフンの手が離れた。
腕に痛みが走り、この一瞬の出来事に俺の頭は真っ白。
唯一わかってることは、不機嫌なルハンが氷のような冷たい目で俺を見下ろしてるということ。
「なにしてんの?」