[ 膝枕 ]side S
みんなが眠りに落ちた時刻。
リビングのソファに、ひとり、雑誌を読んでいるときだった。
パタパタと静かな廊下にスリッパの引き摺る音がこっちに近づいて来るのが聞こえてきた。
もちろん、メンバーのなかでスリッパを履く人はひとりしかいない。
「タオ、どうしたの?眠れないの?」
リビングに入ってまっすぐ僕に寄ってきたタオを雑誌から目を離さずにわかりきったことを聞く。
「なんで僕だってわかったの?!」
気づいていないのがタオらしいっちゃらしいけど、鈍感過ぎるのもなんだかツラいよ。まぁ、そこが可愛いからいっか。
「タオだからわかるんだよ。」
にっこりタオに微笑んで見せると、恥ずかしそうに俯く姿がもっと可愛い。
「おいで、」
隣に座るようにソファを叩いて招くと、タオは嬉しそうににこにこ笑って隣に座ると横になり、僕の膝の上に頭をのせた。
眠れなくなったタオが僕の脚を膝枕にするようになったのはごく最近。
たぶん、きっかけはギョンスヒョンに膝枕をしてもらってぐっすりと寝ているジョンインを見てだろう。
立場が逆な気がするけど、タオのことだから自分が寝転がりたいんだろう。
それに、僕らがそうやるようになってもだれもなにも言わない。
マンネだから、子どものじゃれ合いにしか見られないからだ。
僕とタオの関係を知っているルハニヒョンとミンソギヒョンも同じことを言う。
たぶん、僕らがそう見られるのはチームのマンネ同士だからだけでなく、タオの態度が周りから見てそう捉えられるのだと思う。
「……タオ?」
タオは今来たばかりなのに、もう寝息をたてて寝てしまっていた。
「……はやすぎ。」
ポツリと文句を言いながら、ほんとに綺麗な顔だなとタオの寝顔を眺めていると、リビングの扉が開いて顔をあげる。
そこには夜現れるには珍しい人だった。
「あれ、珍しいですね、スホヒョン。」
いつも布団に入るとものの数秒で眠りに落ちてしまい、なにがあろうと朝まで起きないのに。
「ちょっと眠れなくて、なんとなく来ただけなんだ。そこにいるのはタオ?」
「はい。眠れなくてこっちに来たみたいです。もう寝てますが。」
「ははっ。お前たちはほんとに仲がいいな。メンバーのなかで唯一カップルじゃない組合せだよな。」
ほら、スホヒョンは気づいていない。
僕と同室だというのにね。
ほんとはキス以上のこともしてるんですけどね。(最後まではタオが意識を跳ばすからしてないけど。)
「そうですかね?ヒョンも眠れないならこっちに来て寝ますか?」
と空いている右膝を叩いて誘ってみる。
すると、下からどすっと溝にパンチがきた。
「ありがたいお誘いだけど、俺は遠慮するよ。セフナもはやく寝なね?おやすみ。」
少し暗くて僕が痛みで顔を歪ませているのに気づかないで、スホヒョンは部屋に戻った。
ヒョンがいなくなるのを見送ってから、狸寝入りをしていたパンダに視線を移すと、下から鋭い目で睨んでいた。
「なんで僕がいるのにスホヒョンを誘うの?」
ムッと拗ねるタオ。
「僕以外に膝枕させちゃダメ!セフナの膝枕は僕だけのなの!」
ぶぅとほっぺを膨らまして怒って見せる。タオは拗ねてるときって恐くないんだよね。普通にしているときのほうが近寄りかたいのに。
しかも、今、自分が言ったことほんとにわかってて言ってるのかな?
それって、どういう意味かわかってるの?
「べつに、タオに決められることじゃないでしょ?」
少し冷たく言ってみると、タオは負けじとダメ!と言い張る。
「セフナのはぜんぶ、僕のものなの!」
「そしたら、タオのはぜんぶ、僕のものなの?」
「ぇ、」
顔を赤くして固まるタオ。
肯定も否定もしないタオに詰め寄ってみる。
「ねぇ、どうなの?」
「ど……どうって……そういうことになるの?」
逆に聞き返されてしまい目眩がする。
やっぱり、タオはわかってないみたいだ。
「タオはどう思うの?」
「…………わかんないよぉ、」
「なら、もう、タオには膝枕させてあげない。」
「それはイヤっ!」
がばっと起きあがってうぅ~と唸るタオは強情で。
言ってやらないとわからないのかな?
僕はそんなに優しくないけど、きみを逃しはしないよ。
「じゃ、キスしてくれたら許してあげる。」
「ぇええ?!」
声を大にして驚かれて、僕はその声に慌てる。
「しぃー!声でかいよ!みんな起きてきちゃうって!」
小声で制するとタオは慌てて両手で口を塞いだ。あぁ、なんだか、僕らにラブいことって似合わないのかも。
ちょっとそう思って空しくなってきた。
「………し、したら、……セフナは僕だけのもの?」
「うん、タオにはだけ膝枕してあげる。」
「………セフナのばか」
え?
小声で聞き取れなかった。
「何て言ったの?」
「っ……目ぇ閉じててね!」
なんか絶対違うこと言ってた気がするんだけど、気のせい?
「セフナ、はやくぅ!」
「ん、」
瞼を閉じてタオからのキスを待った。
あれ?そういえば、前にもタオにキスをねだってみたな。
そのときは軽いキスをされたけど。
「タオ、今回は軽くじゃ許さないから。」
瞼を閉じたままタオに忠告する。
「覚えてたの?」
驚いて声が上ずるタオが可笑しくて口かどがあがってしまった。
「タオは忘れてたの?」
「セフナとのキスだもん、忘れるわけない!」
え?
思わず目を開いてしまった。
「タ、んっ」
タオは僕の言葉を遮って唇を塞いだ。
この前とは全然違う。
腕を首に廻して瞼をぎゅっと閉じてふっくらした唇を重ねてきた。
「ん、はぁ……これでいい?」
唇を離すと目を潤ませて首を傾げたタオに、俺はにこりと微笑んで腕を掴み、タオを自分の上に跨がるように座らせて、腰に腕を廻した。
「ん、もっと。」
「っ、セフナ、意地悪ぅ~!」
「それじゃ、今度は僕からね。」
首を傾けて深く重ねて、タオの下唇を唇で挟むと声が漏れて僅かに開いた口に舌を絡めて、キスで僕の想いを伝える。
"俺はタオのものだよ。"
タオにはまだ伝わらない僕の愛。
だけど、キスだけで僕に翻弄されてるタオは、もう僕以外には見えていない。
唇を離して見つめあう。
「ん、これでいいよ。許してあげる。」
「ね、セフナ。もっとちょうだい。」
可愛くおねだりするタオは、一体どこで覚えてきたのだろうか。
「いいよ、いっぱいキスしてあげる。」
タオが気づくまで、まだ僕をあげるのはお預けね。
「また明日も膝枕してね、セフナ♡」
「はいはい。」