真っ直ぐに僕を見るその瞳に
ふっくらした唇に
純粋なきみに近づいたら
もう後戻りはできない。
[ 君は知らない話 ]side S
「セフナ~!! ♡」
嬉しそうにホットクを持って駆け寄ってくる愛しいパンダ。僕は自然と笑顔になって腕を広げると、なんの迷いなく飛び込んでくるパンダを受けとめる。
きみは知らないだろうけど、
先に好きになったのは僕なんだよ。
僕らがはじめて会ったのは、事務所で道に迷ったタオに会ったとき。
僕の進行方向の廊下のど真ん中で、迷っておろおろとしてる青年がいて、練習室に行きたいのに行けなかった。
僕に気づいた青年は中国語で必死になにか聞いてくるけど、その時の俺はまだ中国語を習いはじめたばかりで聞き取ることもできなかった。
『ごめん、中国語じゃわかんないよ。』
首を横に振ってジェスチャーでも示すと、彼はわかってくれたのか、片言の韓国語でふにゃふにゃと話した。
『練習、どこ?行きたい、けどわかんない。』
ああ、練習室に行きたいのか。
少し強面な外見とは違って、小動物みたいにピョコピョコしてる彼に意外すぎて驚く。
でも、どの練習室だろう?
ボーカル専攻……だとしても、見た目からしてラップ担当って感じだし。
ダンス専攻……だとは思うけど、練習の予定と場所が一緒じゃないからわからない。
『どこの練習室に行きたいの?』
『えと、……あ!ルーちゃんがいる!』
聞き取れるようにゆっくりと韓国語で聞くと、ルハニヒョンの名前が返ってきた。
ルハニヒョンの予定なら、練習後によくサッカーするから、時間を合わせるためにお互いの予定を知ってる。
確か、今日はダンスレッスンのみで、僕とは違う教室で練習だったはず。
『それなら、地下の奥の練習室だよ。場所はわかる?』
『うん!わかった!ありがとー!』
場所がわかって安心したのか、ぎゅっと僕に抱きついて何度もお礼を言って、行ってしまった。
それから何ヵ月かたって、集まるように言われた会議室にきみがいて、僕を見るなり嬉しそうに駆け寄って来た。
『この間はありがとー!』
この間と違って韓国語が少しスムーズに話せるようになっていた。
『僕は、ファン・ズータオ!』
ニコニコ笑いながら差し出された手を握り返す。
『僕は、オ・セフン。これからよろしく。』
そういうと『うん!』と可愛らしく頷くきみにきゅんっとなった。
あ、すきだ。
すぐにそう思った。
もしかしたら、初めて会ったときから好きだったのかも知れない。
だって、あれから、きみを忘れたことはなかったから。
きっと彼の人懐こい笑顔に、自分とは反対な純粋なところに惹かれたんだと思う。
僕って意外と鈍感なのかな?
それでも、きみを振り向かせてあげる。
徐々にきみのなかに入っていくから。
「タオ、そんなに強く持ったら蜂蜜がでてきちゃうよ。」
溢れだした蜂蜜を口で受け止めて、必死でなんとかしようとするタオを手伝ってあげる。
ふたりでひとつのホットクを一緒に食べて、タオと視線が合う。
全部食べきった後に、タオにキスしてあげると、甘い蜂蜜の味が口いっぱいに拡がった。
「甘……。」
恥ずかしそうに俯くタオが可愛くて、頭をくしゃくしゃと撫でた。
これからもっと甘くしてあげる。
僕に蕩けてしまえばいいよ。