変わる、変わる。
どんどん時間は過ぎていくんだ……。
side B
デビューに向けてさらに忙しくなって、目まぐるしい日々が続いた。
あれからチャニョルは俺にベタベタと抱きついてきて、何度も追い払ってもやってくる。
「あんなにでっかい駄犬に気に入られちゃって大変だね、ベッキョニヒョン。」
他人事のようにギョンスに寄りかかりながらジョンインが言う。
大変なのはお前みたいな狼に捕まったギョンスのほうだと思う。
それに、チャニョルは確かに駄犬だけど、ただの駄犬ではない。
年長組と年小組がぶつかったとき間に入って仲裁役に回るし、スタッフやメンバーのみんなに目配り気配りよくて、毎日笑ってみんなの疲れを飛ばす。凄い奴だと思う。
俺にはできないことと当たり前のようにやってのけちゃうんだ。
俺へのスキンシップはしつこいくらいだけど、俺の前でしか弱みを見せない。
俺の前ではダメダメな駄犬なのに。こんな一面を見せるから、チャニョルが俺を頼ってるとわかってるから。すきにさせてる。
それに、最近は慣れてきたのか、最初より嫌じゃない。
「ベ~ク~!!!!」
今日も朝からぎゅうっと力いっぱい抱きつく。
「だぁあ?!朝からそんなに引っ付くな!」
「ねぇねぇ、聞いた?再来週、アイドル運動会なんてあるんだって!!」
嬉しそうに朝イチで俺に報告してくる。
「なに出るのかな?俺、短距離走ならできる!」
「はぁ?!お前は脚が長ぇんだから長距離だろ!」
「わぁ~!ベク、俺の脚が長いって認めてくれたんだぁ!!」
「あ、」
そう、こいつが俺よりもデカいことが嫌で、前に脚の長さの話しになったときに俺は断固として表向きは認めなかった。
「わ~い!俺、脚長いぃ~♪」
「ち、違っ!」
俺たちの朝はいつもこうだ。
毎朝くだらないことで言い合う。
「朝っぱらからうるさいよ。」
「朝から元気ですね、ヒョンたち。」
ルハンとセフンがご機嫌斜めにリビングに出て止める。
『お腹空いたぁ~!』
タオがパンダのぬいぐるみを抱いて出てくると、キッチンで朝食の準備をしていたギョンスがジョンインにできたものを運ばせていた。
今はEXO全員で狭いながらも宿舎で泊まって生活している。
『タオ、こっちにおいで。髪なおしてあげるよ。』
「わぁいっ♪シウちゃん、ありがとー!」
簡単な韓国語はふにゃふにゃながらも話せるようになったタオ。
ミンソギヒョンとジョンデも中国語を話せるようになってきていた。
ギョンスも練習生のときより歌が上手くなってきてて、ジョンインも当初はひとりで踊ることが多くて怒られていたけどみんなと揃って踊れるようになった。
俺に抱きついてるチャニョルだって、下手だったダンスが急激に上手くなった。
みんなどんどん成長していってる……。
それなのに、俺は……。
「ん?ベク?」
「……なんだよ?」
「ううん、なんでもない。さ!食べよ!」
「うん!あ、ギョンス~!俺にもパンちょうだい!」
チャニョルがぱっと回していた腕を離してギョンスのもとに走っていってしまうと、腕が触れていたところの熱が冷めていった。
「ベッキョン、何度も言うけど、そこはもう少し高めに歌って。」
「はい、すみません。」
みんなが先に進んでいるのに俺は立ち止まってしまった。
前みたいに歌えない。
「少し休憩しようか。ルハン、先に音録っちゃおう。」
ルハンと入れ替わりでボイス室を出る。
椅子に力なく座ると、ギョンスが心配そうに 寄ってきた。
「ベッキョン、大丈夫?最近、調子悪いね。」
「平気、平気!喉が疲れてんのかもだし。帰ったら柚子茶淹れてよ!」
笑ってみせるとギョンスはまだ心配しながらも微笑みかえしてくれた。
「うん、わかった。お大事に!」
あぁ、ヤバい……。みんなに迷惑かけてる。
こういうときは騒がしいチャニョルとふざけて気分転換したい。
帰ったら寝る前にゲームに誘おう。
結局その日は、俺の調子は戻らず俺のパートは後日ダンス組と一緒にすることになった。
宿舎に帰り、部屋を見てもだれもいなかった。
「ダンス組はまだなんですね。」
「あぁ、今日は遅くなるってさっきマネヒョンが言ってたよ。」
ジョンデとジュンミョニヒョンの会話を聞いて俺の気分はもっと落ちた。
なんだよ、チャニョル、今日遅いのかよ……。
俺は部屋に入るとベッドに身を沈めた。
歌えない。
どんなに練習しても、全然駄目だ。
歌えないことがこんなにツラいなんて……。
だれも部屋に入ってこないことを確認してから声を抑えて堪えていた気持ちを全部涙で流した。
チャニョル、はやく帰ってきて……。
俺を助けてよ、チャニョル……。