大学に入り,最初の時期にとてつもない衝撃をうけた授業として,
最後に「地域文化論」について書きたいと思います。
私が受けたこの「地域文化論」の講義は,広くは,「文化人類学」に分類されるのだと思います。
つまり,いろんな国民や民族の文化(もちろん宗教が含まれる)や社会を比較研究する学問で,
慶應では,地域社会ごとに細かく分けていたので,「地域文化論」という名前の講義になっていました。
(地域文化論Ⅰ~Ⅶみたいに,民族・文化ごとに別れていました)
私が選んだのはカリブ海沿岸地域(中米)の地域文化論で,
そのような地域に全く関心はありませんでしたが,
担当していた教授が自分のクラスの担任で,仲が良かったので,なんとなく選択しました。
そして,この何の気なしに選択した講義もまた,
エホバの証人への理解について,決定的で衝撃的な事実を私に教えてくれました。
その内容は,「エホバの証人」という宗教が,どのように生まれて発展したのかを文化人類学の視点から理路整然と説明し,
なぜこのような宗教がうまれたのかを理解させ,「自分が特別な組織だ」と思い込んでいたこの宗教団体が,
世の中にいくらでも類似した宗教がある中の一つに過ぎないことを教え,
そして,自分が「真の宗教の証だ」と確信していたものが,実はそうではなく,所詮は人間により作られるべくして作られた,
何も特別の所がない,単なる典型的新宗教であることをまざまざと見せつけてくれました。
【授業の内容】
まず,この教授は,
「皆さんは,キリスト教というと,『カトリック』と『プロテスタント』の違い位しか意識しないことが多いと思います。
ところが,南北アメリカ大陸では,これらとは別に『キリスト教系新宗教』というものがありまして,この新宗教が意外に強い力を持っているんです。」
「まあ,ビデオを見た方が話が早いので,まずビデオを見ましょう」
と言って,ビデオをいきなり流し始めました。
この時見たビデオは一橋大学の教授が作った,専門教育用の「信仰の世界」という名前のビデオだったと記憶しています。
このビデオを見た時もまた,他の授業の時と同様,あまりにも凄まじい衝撃を受けて,
自分が見ているものが信じられなくて固まってしまった記憶があります。
〇ビデオの内容
このビデオは,教授の言った,数多くある「キリスト教系新宗教」の1つ,ペンテコステ派の活動を細かく紹介するものでした。
なぜ私が驚愕して固まってしまったかというと,その中に出てくる「ペンテコステ派」の宗教の特徴が,
エホバの証人とうり二つで,まるでエホバの証人の集会や大会をそのまま見ているような錯覚に陥ったからでした。
私は,多くの人と同様,それまで,
・一目でエホバの証人とわかる独特な正装
・集会や大きな大会に集まりあうこと、そこで聖書を自分の目で確かめながら研究すること
・そしてエホバの証人の独特の話し方や,たがいに対する兄弟愛,
・とにかくこれらに集約される「エホバの証人の独特の雰囲気
こうしたものがエホバの証人だけの特徴だと思い込んでいました。
また、教えの面で言えば、
・キリスト教なのに偶像を一切用いない
・聖書をただ読むのではなく個人的に研究することをも重視する
・自分たちの生きている今の時代にキリストの統治が関連しているという教え
なども、エホバの証人だけのものと信じていました。
現役でがんばっているときは,
「これこそが真の宗教のしるしだ」
「ほかにこのような宗教は存在しない」
と考えていました。
ところが,そのビデオを見た時に,それが全くの思い違い、単なる無知であることを徹底的に思い知らされました。
その中に出てくるこの宗教の信者の服装・話し方・雰囲気は,まさしく「エホバの証人そのもの」としか言いようがありませんでした。
また,そのビデオの中では,18歳の女の子が「自分の宗教についてどう思うか」についてインタビューされていました。
(実は私はあまりにこの内容に衝撃を受けたので,大学卒業後にもう一度,教授に頼んでそのビデオを見せてもらい,そのセリフをメモすることさえしました。)
その子はインタビューの中で,
「私は聖書の研究を通じて、イエスが神の子であること、私たちのために贖いとして命を投げ打ったこと、その後復活されたことを学びました。」
「私の生活の中心は聖書です、聖書に書かれている言葉はすべて神の言葉で、毎日読むよう努力しています。」
「神の言葉を読めば、神が私たちに何を求めておられるか、どう自分の生活を神のご意志にあわせるか、知ることできます。」
「真の仲間たちと同じ信仰を分かち合えるのも喜びです」
という内容を述べていました。
とにかく私は驚愕し,少し頭が混乱するほどでしたが,必死に講義についていきました。
その後教授は,
「これが,キリスト教系新宗教の,典型的な雰囲気です。」
「こうした雰囲気の宗教はほかにもあり,違いはありますが似たり寄ったりです。」
と述べ,その「新宗教」についての解説を始めました。
この解説が,さらに,私の目を決定的に開かせることになりました。