二回目の結婚記念日に渋谷の駅ビルで花を買って帰る僕は、いつも通らない246沿いの坂道をてふてふと歩いた。
十二月の夜は凛と凍てついているのだけれど、絶え間なく続くオレンジ色の街灯と時折瞬くネオンに煌煌と照らし出された長い坂道を足早に上っていくと不思議と寒さは感じなかった。
南平台の交差点を渡っている途中で、プライベートでは滅多に呼ばれることのない名字で呼ばれて振り返ると、最近交際をカミングアウトした彼女とバイクに跨がった会社の同僚がサングラス越しにニヤニヤというかデレデレと笑っていながら信号待ちをしていた。
結婚記念日に花を買って帰る金髪のオッサンとバイク上で密着して笑うつがいが偶然集うなんて、横断歩道の真ん中の半径五メートルのそのエリアが多分あの夜渋谷で一番ファミリアでハートウォーミングな空間だったと思ふ。
家に帰ると毎度ながらそんなことはすっかり忘れていた嫁が突然のプレゼントに無邪気に喜んでいた。
そして今日はジュニアの一歳の誕生日。
ジョンレノンが亡くなった次の日に生まれてくるなんてなんという憎らしい演出なんだろう。
相変わらず夜泣きは激しいけど、二足歩行のアビリティは取得済み。狙った乳首には絶対に吸いつく意志の強さを持ち、得意技の笑顔はこちらの戦意を著しく低下させるチャームの属性を持つ。
最近は「アチャーチャ」という呪文を覚え、ご機嫌なときはこれを連発する。不機嫌そうな時はこちらが「アチャーチャ」の呪文を唱えると途端にご機嫌になって一緒に唱え出す。
何と言ってるつもりなのかは分からないけど彼にとって何か素晴らしい意味があるんだろう。
僕は常々愛は地球を救えないと思っているけど、十二月のこの時期は別に地球を救わなくてもいいかなとも思っている。