標記の事件が、今ホットな芸能関係の話題として挙げられている。
その中で、少し気になる記事を見つけたので、これを法的な観点から検討してみたいと思う。
記事の内容は、以下のとおり。
【記事の引用】
知人女性(26)の顔を殴ったとして19日に傷害容疑で逮捕された男性アイドルグループ「timelesz(タイムレス)」の猪俣周杜容疑者(25)は、逮捕から3日目となる21日も釈放されなかった。相手が軽傷の傷害事件では逮捕当日や翌日の釈放も多く、異例の展開となっている。
逮捕の一報が駆け巡った19日は「今日中に釈放されるのでは」と多くの報道陣が勾留先の東京・湾岸署に集結。送検された翌20日も早朝から30人以上が集まったが釈放はされず、10日間の勾留請求が認められた。
なぜ釈放が長引いているのか?元大阪地検検事の亀井正貴弁護士は「考えられる可能性」として(1)本人の否認(2)DVの有無の捜査(3)被害者側の態度硬化の3点を挙げた。
(1)捜査関係者によると、猪俣容疑者は18日夜、都内のコンビニエンスストア駐車場の車内で女性の顔を複数回殴ったとされているが「口論になり手が当たってしまったかもしれない」と容疑を否認。亀井弁護士は「容疑者の説明に矛盾点があり、さらなる捜査が必要と判断された可能性がある」とした。
(2)被害女性との関係性は不明だが、男女間の暴力事件では交際の可能性も踏まえて調べるのが一般的で、その際「DV事案の可能性」も考慮せざるを得ないという。「釈放後に再び暴力を振るったり口止めする可能性も否定できない。被害者の安全が確保できる状況でない限り、男女間の傷害事件でこのような判断が通例になりつつある」と指摘した。
(3)通常、傷害事件が起きた場合は容疑者側の弁護士が被害者と接触し示談をまとめることが多い。「被害者が示談に応じなかったり、刑事罰を望んでいる場合は勾留が長引くこともある」という。
【記事の引用ここまで】
まず、勾留とはどのような制度か?
勾留とは、簡単に言えば、被疑者(報道等では、よく「容疑者」という言葉が用いられるが、これは法的には正確な用語ではない。)が、逮捕されたのちに、さらに身柄を拘束される手続きのことである。その目的は、検察官が、被疑者を起訴するか(つまり裁判にかけるか)、あるいは不起訴にして釈放するかを決めるために、捜査を行うためである。
ではなぜ、身柄を拘束されてしまうのか?ここで、勾留の法的根拠(条文)を参照してみる。
刑事訴訟法60条1項は、以下のとおり規定している。
裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
これによれば、勾留の要件は、
①被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、
かつ、
②被告人が定まつた住居を有しない(=住居不定)
or被告人が罪証(ざいしょう)を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある(=証拠隠滅のおそれ)
or被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある(=逃亡のおそれ)
のいずれかにあたること
となる(なお、ここでは「被告人」となっており、被告人とは、被疑者が起訴された場合の名称であるが、被疑者の勾留の場合も基本的には被告人の勾留の場合と要件は異ならないとされている。)。
①「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」とは、言い換えれば犯罪の嫌疑が存在することである。
今回の件でいえば、猪俣周杜氏が傷害行為に及んだことは、被害者女性の供述等から明らかなので、この要件は満たすと考えてよい。
では、②の要件はどうか?
ここでは、先ほどの「勾留はなぜ身柄を拘束されてしまうのか?」という問いに対する答えが記載されている。
つまり、被疑者が逃げたり、証拠を隠滅したりしてしまうと、検察官が起訴するかどうかを判断するために必要な捜査ができなくなってしまうから、身柄を拘束する必要があるということになる。
本件との関係ではどうか?
まず、猪俣周杜氏が住居不定であることはないだろう。芸能事務所と契約している芸能人が、住居不定はおよそあり得ない。
次に、逃亡のおそれの可能性も低いといってよい。ここで想定されている逃亡のおそれとは、被疑者が定職についておらず、単身独り身で、住居を転々としているような場合が典型例であるところ、猪俣周杜氏は定職についており、芸能事務所以外にも関係各所の会社とのも複数契約しており、今回の一件で逃亡するおそれが高いとは到底いえないだろう。
残るは罪証隠滅のおそれであるが、ここが一番認められやすい要件であると考えられる。
罪証隠滅とは、犯罪そのものに関する事実や情状事実について、隠したり事実を変造したりすることをいう。
今回の件で、猪俣周杜氏は何と弁解しているだろうか?
それは、
「口論になり手が当たってしまったかもしれない」
旨弁解している。
この弁解は、法的には、
傷害罪の故意を否認している
ということになる。
簡単に言うと、傷害罪が成立するためには、
①殴った行為
②傷害の結果
③殴った行為と傷害との間の因果関係
④殴ってけがをさせてやろうという意思
が必要であるが、猪俣周杜氏の弁解は、上記④を否認するものである。
この弁解が認められると、猪俣周杜氏には傷害罪が成立しないこととなる。
傷害事件では、基本的には被害者がいて、事件のことを一番よく知っているのも被害者である。
被害者に聞けば、猪俣周杜氏が、けがをさせるつもりで殴ってきたのか、あるいは本当に口論になっていて、何かの拍子でたまたま猪俣周杜氏の手が当たったのか、ということは、ある程度明らかになると思われる。
もしかしたら被害者以外に、2人の様子を近くで見ていた人もいるかもしれない。
このような状況で、猪俣周杜氏を勾留せず、釈放してしまったらどうなるか?
もちろん被害者との関係性にもよるが、猪俣周杜氏が、被害者に対して、被害届を取り下げるように迫ったり、「口論になってたまたま手が当たっただけだと供述しろ」と威迫したりして、傷害罪が成立しないように働きかけることが十分に考えられる。
また、目撃者がいた場合にも、同様に「口論になってたまたま手が当たったように見えたと供述しろ」と働きかけることが考えられる。
以上の行為が罪証隠滅行為である。
すなわち、被害者や目撃者の供述は、猪俣周杜氏に傷害罪が成立するかどうかを判断するために重要な証拠であるところ、このような事実が隠されたり、捻じ曲げられたりすると、傷害罪で起訴することができなくなってしまうおそれがある。
このような行為を防ぐために、罪証隠滅のおそれがあることが、勾留の要件となっているのである。
以上を前提に、本題に戻り、今回の件で猪俣周杜氏が釈放されずに勾留されてしまったことに関する記事を読んでみると、かなり整理されるのではないだろうか。
先程引用した記事のなかで、釈放が長引いている可能性として、3つの可能性が指摘されていた。
【記事を再度引用】
(1)捜査関係者によると、猪俣容疑者は18日夜、都内のコンビニエンスストア駐車場の車内で女性の顔を複数回殴ったとされているが「口論になり手が当たってしまったかもしれない」と容疑を否認。亀井弁護士は「容疑者の説明に矛盾点があり、さらなる捜査が必要と判断された可能性がある」とした。
(2)被害女性との関係性は不明だが、男女間の暴力事件では交際の可能性も踏まえて調べるのが一般的で、その際「DV事案の可能性」も考慮せざるを得ないという。「釈放後に再び暴力を振るったり口止めする可能性も否定できない。被害者の安全が確保できる状況でない限り、男女間の傷害事件でこのような判断が通例になりつつある」と指摘した。
(3)通常、傷害事件が起きた場合は容疑者側の弁護士が被害者と接触し示談をまとめることが多い。「被害者が示談に応じなかったり、刑事罰を望んでいる場合は勾留が長引くこともある」という。
【引用ここまで】
⑴、⑵は、まさに罪証隠滅に関して指摘されているところであると思われる。
もっとも、⑶は、ここまで読まれた方であれば勾留の要件にはならない(勾留が長引いている理由にはならない)ことにはお気づきだと思う。
被害者が示談に応じなければ、検察官としては起訴すればよいだけの話であるし、被害者が刑事罰を望んでいるか否かは勾留との要件では全く関係がないからである。
とはいえ、今回の事件では、被害者の傷害の程度も大きくないし、勾留期間内に示談交渉が成立すれば、不起訴で釈放される可能性が非常に高いだろう。
長くなってしまったが、少しでも法的な知識があれば、このような事件報道を法的な観点から分析的に見れるので、事件の見方が大きく変わって面白い。
また何か進展があれば追記する予定。