日本維新の会の吉村洋文代表の発言を聞いて、妙な引っかかりが残った。
今年4月、福岡を訪れた吉村氏は「福岡は副首都にふさわしい」と語り、「大阪、福岡、副首都を目指して連携をして、そして、東京一極集中だけじゃない日本の国家構造を共に作っていきたい」と呼びかけた。副首都は一つである必要はない。大阪と福岡が並んで日本を支える。そう受け取れる発言だった。
ところが、福岡県議会の正副議長ポストをめぐる金銭授受疑惑が表面化すると、言葉の温度が一変した。
7月、吉村氏は、報道されている内容が事実ならと前提を置いたうえで、議長就任に多額の現金を要求するようなことが行われているのなら、そんなレベルの話をしている地域が日本の副首都を引っ張る存在にはなり得ないのではないか、と述べた。福岡県議会の状況を「はっきり言って異常だ」とも批判している。元副議長から自民党重鎮へ500万円が渡ったとする証言が全国紙で報じられるなど、指摘されている問題は県議会全体を揺るがす重大な事態となっている。
もちろん、県議会で指摘されている問題は重大である。複数の証言が食い違っており、早急な事実解明が必要なのは言うまでもない。ただ、それと福岡県全体が副首都に適しているかどうかは、本来分けて考えるべき話ではないだろうか。
現在、国会で審議されている副首都法案では、東京圏との同時被災リスクが低いことに加え、国の行政機関の立地、人口と経済の集積、必要な地方行政体制などが指定要件として挙げられている。地方議会で問題が起きていないことが、独立した要件として書かれているわけではない。
同じ疑問は、身内であるはずの側からも出ている。福岡県選出の自民党の衆院議員は、県議会の問題と首都機能の代替は全く別次元の話であり、災害に強い地域か、社会機能を営みやすいかどうかで判断すべきだと指摘した。政局と切り離して冷静に論じるべきだ、という趣旨である。
にもかかわらず、吉村氏は県議会の疑惑を福岡全体の適格性に結びつけた。しかも発言したのは、福岡と副首都の座を争う大阪府の知事でもある。本来、福岡が副首都にふさわしいかどうかを判断するのは大阪府知事ではなく、法案に基づいて指定を行う国である。
そして、ここにもう一つ気になることがある。現在、副首都に指定された地域はまだ一つもない。にもかかわらず、一候補地の代表にすぎない立場から、他の候補に「なれない」と資格を言い渡す。それは、まだ決まっていない選考の結果を先取りし、自らを審査する側に置く物言いである。福岡と対等に指定を目指す立場であることを思えば、この振る舞いは、副首都をめぐる関係の中で、大阪だけが一段高い場所にいるという前提を、無意識のうちに映し出しているのかもしれない。
ここに、私が感じた違和感がある。
そもそも今回の副首都構想は、大阪が長年進めてきた政策を全国制度へ広げたものだ。大阪府と大阪市は以前から「副首都・大阪」を掲げ、専管組織を置き、制度や都市機能の整備を検討してきた。法案には特定の都市名が書かれておらず、複数の副首都も想定されているが、維新にとって中心にあるのが大阪であることは疑いようがない。
一方、「大阪を副首都にするための法案」と見られれば、地域的な利益誘導だという批判を受けやすい。福岡など複数の候補地が参加すれば、東京一極集中を是正する全国的な制度として説明しやすくなる。
そう考えると、福岡は副首都を目指す対等な仲間というより、大阪発の構想に全国性を持たせる存在として扱われているのではないか。そんな疑問が浮かぶ。
先ほどの、まだ選ばれてもいないのに他の候補に不合格を言い渡す物言いも、この見立てと重なる。主役はあくまで大阪であり、他の候補はその構想に彩りを添える存在だという序列が、無意識のうちに言葉に滲んでいるようにも見える。
4月には大阪と福岡で連携しようと持ち上げ、福岡県議会の問題が構想全体に悪影響を与えかねない状況になると、そのような状態では副首都になり得ないと距離を置く。吉村氏の内心は分からないし、福岡を意図的に利用していると断定することもできない。ただ、一連の動きだけを見れば、必要なときには仲間として迎え、都合が悪くなれば候補としての資格に疑問を投げかけるようにも映る。
県議会問題を厳しく批判すること自体は間違っていない。だが、個別の疑惑を一つの地域全体の価値にまで広げるのであれば、同じ基準を大阪にも、維新にも、ほかの候補地にも適用しなければならない。現に吉村氏は、大阪では議長や副議長のポストをめぐる金銭のやりとりは聞いたことがない、と大阪の側を先に潔白としている。しかし、その比較の物差しは、本来、競争相手が自ら持ち出して証明するものではない。競争相手の弱点だけを副首都の適格性に結びつければ、それは制度論ではなく政治的な牽制に見えてしまう。
福岡が本当に副首都を目指すのであれば、吉村氏や維新から「ふさわしい」と認めてもらう必要はない。大阪発の構想に添えられる第二候補ではなく、災害対応、アジアへの近さ、九州全体との連携、行政機能の分散といった福岡独自の意味を、自分たちの言葉で示すべきだろう。
誰かに候補として加えてもらい、誰かの判断で外される。そのような立場にとどまる限り、福岡は副首都構想の主役にはなれない。
福岡は大阪の構想を全国制度に見せるための飾りなのか。それとも、本当に日本の新しい国家構造を一緒につくる相手なのか。
今回の吉村氏の発言は、その関係を改めて問い直すきっかけになった。