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日々是躍動三昧!

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毎度様です。
最近どうもイベント告知やイベントまとめ画像に更新が偏っていたので、久々に当ブログらしく、文章にて音源の紹介をしていきたいと思います。以前、2度に亘って“ベルリン・トランスの貴公子”ことCosmic Babyについて振り返りましたが、今回は更にその続編的な内容となります。

berlin

Masterminded For Success (M.F.S)
UKのマンチェスター出身で、女性によるニューウェーブ・バンドMalaria!のマネージャーとしても有名なMark Reederと、ドイツの東ベルリンに在住する友人Torsten Jurkらにより、Deutsche Schallplatten Berlin(DSB。旧東ドイツの国営レーベル。クラシック音楽を主にリリースしていた)傘下として1990年に設立。設立当初はハウス・ミュージックを中心にリリースしていたが、レーベル・オーナー自身のユニットAlien Nationのシングル辺りから徐々にトランスへと繋がるリリースへ移行し、Low Spiritから移籍してきたCosmic BabyやMijk Van Dijkを大抜擢したMFS Trance Danceシリーズの発表、更にCosmic Babyの紹介で契約したPaul Van Dyk等の活躍により、一躍ベルリン産トランス・テクノの拠点として認知されるようになる。
ジャーマン・トランス・ブームの収束後は、Paul Van dykを筆頭に地道なリリースを続けたが、彼の3rdアルバム“Avenue Of Stars”、Mijk Van DijkのユニットMarmionの1stアルバム“Five years & Tomorrow”の権利関係を巡って紛糾するなどの問題でトップ・レーベルとしての地位を失い、懐刀的なDJだったCorvin Dalekのリリースを中心とするサブ・レーベルFleshも併せ、2005年以降はレーベルの運営を事実上停止したままである。

…というわけで今回は、トランス・サマー華やかりし頃、Eye QやSuperstition等と共に破竹の勢いで名を知らしめたトランス系レーベル、M.F.Sについて掘下げていきたいと思います。…とは言うものの、このレーベル全盛期の代名詞的存在だったCosmic BabyやMijk Van Dijkについては既に当ブログで取り上げていますし、彼らの詳細は過去の記事を読んでいただくとして、まずはこのレーベルが始まる以前の1980年代にまで遡り、オーナーであるMark ReederがM.F.Sを設立するまでの経緯について簡単に振り返ってみましょう。


Mark ReederがUKマンチェスター出身であることは前述しましたが、洋楽好きならば、この“マンチェスター”という地名に特別な思い入れがあるという人は多い筈。そう、New OrderHappy Mondaysなどを中心に、セカンド・サマー・オブ・ラブとも共振して大々的な盛り上がりを見せた“マッドチェスター”と呼ばれる、大衆音楽史における革命的な現象の発信地ですね。
彼は少年時代をマンチェスターで過ごし、プログレッシブ・ロックや初期の電子音楽を好んで聴いていました。パンク・バンドJoy Division(後のNew Order)のメンバー、Bernard Sumnerとは幼い頃からの親友だったそうで、結成して間もないJoy Divisionのメンバー達へGiorgio Moroder等のミュンヘン・ディスコ(イタロ・ディスコ)を紹介したことで、元Joy Divisionのメンバーで結成されたNew Orderによるユーロ・ディスコ路線導入における間接的な試金石を作ったことでも知られています。Joy Divisionが結成された1978年にMark Reederはベルリンへ移住していたようですが、彼の背景にマンチェスターの音楽文化があったことは、かのFactoryから自身のバンドを率いてシングルをリリースしていたことからも窺えます。少々話題は横道に逸れますが、ここで当時の彼による音源を紹介しておきます。



svegasShark Vegas - You Hunt Me (1984年,1985年 Totenkopf,Factory)
♪m-1 You Hunt Me

1981年に結成されたDie Unbekanntenというニューウェーブ・バンドのメンバーによる別名義でリリースした1枚きりのシングル。サポートでA Certain RatioDonald Johnsonがヴォーカルで参加していることからも、当バンドがマッドチェスター前夜の空気を共有していたことが窺える。
前身のバンドで聴かれたギターサウンドも本作では後退し、郷愁を匂わせるシンセサイザの16分アルペジオを基調としたディスコ調のシンセ・ポップを展開しており、曲調もまた、当時のNew Orderを彷彿とさせるものだ。実際、ツアーではNew Orderと共にヨーロッパ中を回ったそうで、ライブではBernard Sumnerがギターで参加することもあったとか。




レーベル・オーナーやマネージャー的な経歴を強調されることが多いMark Reederですが、実際はギター演奏や機材のプログラミング、エンジニアも一通りこなせる、作曲家だったわけです。確かにこれは別段珍しいことでありませんが、M.F.Sのオーナーとしての彼しか知らない方は、これを意外と思われたのではないでしょうか。
彼は上記のリリース後に東ベルリン(まだ当時はベルリンの壁によって分断されていた)のアンダーグラウンド・ニューウェーブ・シーンとの接点を求めて幾つものライブやギグを行い、Die Toten HosenやDie Visionといったバンドと親交をもっています。特にDie Visionとは、彼らの4thアルバムTortureの制作へ参加するほどに親密な仲となったようで、このアルバム制作を依頼したAmiga(DSB傘下のポピュラー音楽をリリースしていたレーベル)との仕事をきっかけに、レーベル運営へ深く関わっていくことになったのでしょう。
また、このアルバム制作中にMark Reederは、Amigaレーベルを介してDSB傘下のZongレーベルとも親交を持ちますが、この時に自身のレーベルを作る構想をZongレーベル経由でDSBへと打診し、それが認められる形でM.F.Sが始まったというわけですね。


リリースが始まった当初のM.F.Sは別段トランスのレーベルというわけでもなく、アメリカのハウス・ミュージックをライセンスしたりもしていたりと、模索期間が続いていましたが、その中で目立つリリースを挙げるならば、まずこれでしょうか。

userViolation Of Ordinary Values(VOOV) - User (1991年)
♪m-1 User
♪m-2 B User(unusual remix)

PigEinstürzende NeubautenのメンバーF.M. Einheitのアルバムに参加するなど、主にインダストリアル・ロックのシーンでも活動していたChristian Graupnerが、自身のソロ・ユニットにて発表した1stシングルで、制作にはFuturhythmとして共に活動することになるMoony Jonzonも参加している。
もったりとした重いリズムと、16分アルペジオのベースラインを基調に、殆どエレクトリック・ボディ・ミュージックそのものといった暗めの曲調で、後のゴア・トランス到来を暗示するかのようだ。
収録されている2曲とも殆ど同じような内容であるが、比較してより完成度が高いm-2を薦めたい。



Christian Graupnerは初期M.F.Sの中堅的な存在で、95年でレーベルを離れるまで幾つものユニットに参加しています。特にCosmic Babyとの親交は深く、FuturhythmやBoom Operators等のユニットで共作するなど、手腕を発揮していたようです。では、リリース順は多少前後しますが、彼のシングルを続けて紹介しましょう。

gasVOOV - It's Anything You Want It To Be, And It's A Gas
(1992年)
♪m-1 Smoke Machine
♪m-5 3D Trance

当ユニットのリリースでは最も良く知られた代表作と云えるシングルで、黎明期ゴア・トランスのシーンでもクラシックスとして認知されている。
殆ど前作の続編的な位置付けにある、エレクトリック・ボディミュージックからの影響を感じさせる曲調だが、比較して完成度が増したm-2と、そのm-2をロング・バージョンとして発展させたm-5(12'では未収録)の出来が秀逸で、心的外傷を伴った記憶に苛まれ、心理的に追い込まれていくような緊張感が味わえる。
90年初頭にUKで潮流だったブリープ・ハウスの向こうを張るような、発信音で敷き詰められたm-3も、集中治療室で酸素吸入を受けているような感覚が印象に残る出来栄えだ。


ミュージシャンとしての才覚に恵まれていたのか、彼は同年に映画のサウンドトラックを手掛けています。M.F.Sがサウンドトラックをリリースしたのは後にも先にもこれだけですが、当時このレーベルが如何に勢力を持っていたかの証左でもあると思います。

germanfeverVOOV - Deutschfieber [original soundtrack] (1992年)
♪m-2 DDR

スパイ映画 "Willi Busch Report"等を手掛けたNiklaus Schilling監督による、ベルリンの壁崩壊直後の混乱渦巻くベルリン市を舞台にした映画“ドイツの熱狂”(日本では未公開)のサウンドトラック・アルバムで、制作にはF.M. EinheitやCosmic Babyも参加している。
サウンドトラックだけあって、場面に合わせた短い尺による曲が収録内容の大半を占めていおり、どっしりとした管弦楽様なストリングスの響きが散りばめられた作りだが、テクノ/トランスへ軸足を移していた彼らしい、ジャーマン・エクスペリメンタルやアンビエント的曲調も随所で顔を出している。
同時期に発表した“It's Anything You Want It To Be, And It's A Gas”を流用したm-24や、同様にBoom Operators名義でリリースした“LSA”を使用したm-33といった曲もあるが、テクノやトランスの作品として本作を聴くことは勧められない。やはり、映画を直接観た上でのものと思ったほうがいいだろう。


時系列を無視する形で多少強引ですが、M.F.S在籍時のVOOVによる作をまとめて挙げておきます。
単発で作品をリリースしていたわけではないし、このほうが判りやすいと思います。


grau1VOOV - Grau 1 (1994年)
♪m-3 Save The Black Holes
♪m-4 Angels Lust

それまでは主に他レーベルのコンピレーションなどで展開していたアンビエント/エクスペリメンタル的な路線を珍しく当レーベルにて開陳したシングルだが、彼の出自がインダストリアル・ロックやエレクトリック・ボディ・ミュージックだけあってか、自然主義的なものを感じさせない曲調である。
びりびりするような耳障りの電子音が規則的に響き渡るm-1や、92年にリリースしたシングル“It's Anything You Want It To Be, And It's A Gas”で収録されたSmoke Machineのアンビエント・アレンジにあたるm-2の、不穏な雰囲気が印象に残るが、多少平面的で物足りなさを感じてしまう。m-2にイーブンキックのリズムを備えてトランス仕様にしたm-4も、どことなく蛇足という印象は否めない。




extrapowerVOOV - Extra Power & Enjoyment (1994年)
♪m-2 X
♪m-4 Extra Power & Enjoyment (XR mix)

ジャーマン・トランス人気が収束していく中で発表されたシングル。同時期にジャンルとして確立したばかりのNu NRGを意識した性急なテンポで展開されるm-1と、その別バージョンm-4が主軸となっている。
m-1、m-4共に裏拍ベースを際立たせ、ハウス・ミュージック的なグルーブを排除した鋭角的な曲調で、焦点へ向かってぐんぐん引き込まれるような感覚はあるものの、曲展開や構造的に凝ったものではないのが災いしてか、次第点以上のものを感じないのが惜しいところ。
一見生真面目に16分アルペジオを敷き詰めていくように見せかけて、時折能天気な曲調に変化するm-3が面白いが、これもまた取り立てて際立つものでもない。



こうして並べて聴くと、どうしても代表作である2ndシングルを超えられなかった…という印象を拭えないものがあります。一発屋とまでは行かないけれど、目立った作と云えば、結局それだけで留まってしまうような。
上記のシングル以降は、Paul Van Dykの1stアルバム『45RPM』の補佐で参加した他は、特に目立ったリリースもないままM.F.Sを離れてしまい、とうに音楽活動を辞めてしまったように思われていましたが、彼のサイトを見る限りでは音楽活動こそ目立たないものの、前衛芸術や反原子力発電運動NMNへの参加、iPhoneやiPad用のMIDIコントローラ“TouchDAW”の製作に参加するなど、今現在もなお多方面での活躍が目覚しいようです。
MFSのカタログによると、1996年にオリジナル・フル・アルバムとして『Your Baby』という作のリリースも予定されていましたが、実現に至らずに終わっています。


もう一つ、時系列を無視する形ですが、M.F.Sにおける裏の顔役的なユニットも揚げておきましょう。個々の覆面プロジェクトや共作も含め、このレーベルではCybersecrecyと並び、最も多作だったと云えるのではないでしょうか。



effective02Effective Force - Complete Mental Breakdown (1991年)
♪m-1 Complete Mental Breakdown(psychologically unstable clyde taurus mix)
♪m-2 Complete Mental Breakdown(relapse remix)

TresorでもSystem 01としてEBM路線で活動していたJohnny KlimekとPaul Browseが、M.F.Sでメイン・ユニットを立ち上げてリリースした1stシングルで、リミキサーに3 PhaseことSven RöhrigやNeutron 9000を迎え、充実した収録内容となっている。
特に、アンビエント的リリースが多かったNeutron 9000が、意外にも派手で角が立つ強烈なハードコア・ブレイクビートを展開したm-1が印象的で、これは当時の潮流を読んだremixだと云えるだろう。m-2もNeutron 9000によるremixだが、こちらは従来の作風に近い曲調となっており、徐々にシーンがトランス到来へ近づいている気配を感じることが出来るものだ。



Effective Forceはシンセ・ポップ・バンドThe Other Onesでベース・ギターを担当していたJohnny Klimekと、インダストリアル系バンドClock DVAのメンバー(現在は脱退)だったPaul Browseによるユニットで、上記でも触れたようにSystem 01というユニットの変名にあたります。
手掛ける曲調もSystem 01と同様に、どちらかと言うとインダストリアル・ロックやEBMの流れを汲むもので、ハッピー・トランス的なレーベルという印象が強いM.F.Sにおいて、VOOV同様に陰鬱な雰囲気を持つ作を得意としていた印象があります。

effective01Effective Force - Diamond Bullet (1991年)
♪m-1 Diamond Bullet (will to power)
♪m-2 Diamond Bullet (beyond judgement)

1stシングルでも展開していたブレイクビートを主体に、更なる陰鬱なダウンテンポ・アンビエント的作風を前面に推し出した2ndシングルで、その後に発表される1stアルバムの布石となっている。
前作同様にSven Röhrigがremixで参加しており、元作の印象に忠実なアレンジを施しつつもピアノの響きを強化したm-1の、暗闇に潜む得体の知れぬ何かへの不安を掻き立てる曲調が聴きどころ。他のバージョンも殆ど同じ体裁を取った曲調で、些か変化に乏しい感が否めないものの、彼らの推し進める陰の趣向が、ここで明確に提示されていると云える。
サブタイトルとして“original soundtrack”とあるが、何を示すものかは不明。今作が映画や戯曲へBGMとして提供される予定だったのかも知れない。



上記のシングルから1年の間を置いた1993年には、1stアルバムがリリースされています。ジャーマン・トランス・サマー最盛期の最中に発表されたのが逆に災いしてか、同時期のCosmic Babyによる1stアルバムと比較すれば知名度は劣りますが、明暗両者併せ持つ多様性ある作品に仕上がっています。

effective03Effective Force - Illuminate The Planet (1993年)
♪m-3 A Lesson For The Atoms
♪m-5 Diamond Bullet (Act 6: Virtual Power)

<LP Club versions only>
♪A-2 Illumination (Mijk Van Dijk remix)
♪A-3 235 (Dr.Motte remix)
♪B-1 Diamond Bullet (finale:the rough diamond mix by Cosmic Baby)
♪B-2 Punishing The Atoms (Paul Van Dyk remix)
♪B-3 Super Illuminated (VOOV remix)







2ndシングル“Diamond Bullet”の傾向を踏襲する陰影と繊細な雰囲気に彩られた本作は、当時トランスとアンビエントが地続きのものであったことを裏付けるような、精神の深層部へ緩やかに没入していく内容となっています。これは当時のトランス/アンビエント的作風を採っていたミュージシャンが発表するアルバムでも普通に見られた傾向で、やはりそれらのアルバムと同様にnon stop mixが施されており、緩やかな起伏を伴って聴き手を音の深みへと誘うものです。特にm-1同様のディープ・トランス路線であるm-3から、フレーズを拝借する形で続くm-4でアンビエント路線へと雪崩れ込む辺りの流れからは、特にその要素を感じることが出来るでしょう。
収録曲の至る所で散りばめられた人の呟き声もまた印象的ですが、これは彼らの諸作で共通して使われている技法で、作為的に配置されることにより、収録曲の持つ催眠効果を更に高めることへ一役買っています。
全体的にアンビエント傾向が強いだけに、イーブン・キック・ビートを用いた曲でもリズムの線は細く、クラブ・サウンドから距離を置かれたものではありますが、この辺りに現在トランスと呼ばれているジャンルとは異なる、本来的な意味合いでの“トランス(酩酊)感覚”があるのではないでしょうか。
反面LPフォーマットのリリースでは、フロアへの配慮からなのか、同レーベルのミュージシャン達によるremixが大半を占めており、クラブトラックに即した仕様となっています。特に楽曲製作を始めて間もない頃のPaul Van Dykによる初々しさ漂うB-2には、彼の諸作で見られる春めいた雰囲気が既に見え隠れしていますね。




同時期にも1stアルバムと似た傾向を持つアルバムを、別名義にて発表しています。続けて紹介しましょう。

ki030 feat. Dr.Motte - (1993年)
♪m-1 Lift Up Your Faces
♪m-2 So Called Artists
♪m-3 Ascension
♪m-5 (ich bin)
♪m-6 Midnight In Europe
♪m-7 Synapsit










世界最大規模の野外レイブとして名高いラブ・パレード(参加者の死亡事故により2010年に惜しくも終了)の主催者としても知られるDr.Motteを補佐役に迎えて作られた本作は、Effective Force名義の1stアルバムと比較して強度と推進力が増したトランス・ダンストラックを数多く収録しており、よりフロア向けのダンス・アルバムとしての側面が強調されています。全体を彩る音色も、深みはそのままに煌びやかさが加味され、多少なりとも生気を感じさせる陽の雰囲気へ傾倒したものとなっていますが、それでもフロア・トラック一辺倒にしないという配慮なのか、エレクトロ的な外郭でアンビエントを展開したm-3、不安げな夜の暗がりを思わせる、ダブ色を前面に出したm-6のような曲を、さりげなく随所に盛り込んで収録内容に変化を付けているのも見過ごせない点ですね。
トランス・ダンスの側面としては、閉塞的な亜空間へ攻め立てるm-2、アフリカン・パーカッションのリズムを強調したエレクトロ・ビートが次第にイーブン・キック・トラックへと変化するアルバム・タイトル曲m-5、どっしりめのリズムと物憂げなストリングスで異世界探訪の終焉を暗示させるようなm-8が印象的です。
不幸にもトランス最盛期の陰に隠れてしまい、日本でも知名度がないのが痛恨ですが、一曲一曲がそつなく纏まっており、なかなかどうして味わい深い隠れた秀作的なアルバムと言えましょう。個人的には再発を希望したいところですね。
なお、後年には同じメンバーが“Holy Language”にてDr.MotteのレーベルSpace Teddyからもアルバムをリリースしているので、本作が気に入ったならば、そちらも手に取ることを勧めます。


では、再びEffective Force名義のリリースへ話を戻しましょう。


evergladeMystic Force vs Effective Force - Everglade (1994年)
♪m-1 Everglade
♪m-4 Everglade (Effective Force remix)

どのような経緯かは不明だが、元はオーストラリアのトランス・レーベルPsy Harmonicsから1993年にリリースされていたゴア・トランス仕様のシングルに、Effective Forceを迎える形で再度M.F.Sからリリースした改訂盤。
流麗なコード進行ながらも攻撃的なベースラインで攻め立てるm-1を、Johnny KlimekとレーベルオーナーMark Reederが直々に手を入れて再構築したm-4が秀逸で、滝壺の深部から勢いよく飛び上がり、空へ向かって急上昇していくかのような活気と、春めいた光に満ち溢れた情景を見事に描写している。元曲もなかなかの出来だが、これは完全にEffective Forceの好アレンジに軍配が上がると思う。
因みに本シングルが縁となったのか、後にMystic Force自体もM.F.Sからシングルをリリースしている。



lignthandEffective Force - Left Hand,Right Hand (1995年)
♪m-2 Left Hand,Right Hand (PJP full story mix)
♪m-4 Left Hand,Right Hand (hate love mix)

この名義では最後にリリースしたシングルで、同時に翌年発表された2ndアルバム“Back And To The Left”の先行シングル・カットでもある。
収録内容は、愛憎の渦中で自暴自棄に陥ったような元曲m-1を、当時既にM.F.Sの看板となっていたPaul Van Dykや、過去に発表したシングルに何度も参加している3 Phaseといった面々によるリミックスで占められているが、どれもm-1の狂暴性を発露したような曲調が若干和らげられている。特にPaul Van Dykによるm-2及びm-5は、彼の持ち味がそうさせたのか、元曲の暗さを打ち消してしまったような、何とも言いようがない微妙なリミックスとなっているのが、また面白いところ。察するに、あまり受けたくないリミックスだったが、自分を補佐してくれている人から頼まれた仕事だし…というような迷いがあったのかも知れない。



上記で触れたように1996年は、彼らの2ndアルバムがリリースされています。同時にこの名義では、最終作でもあります。

backandEffective Force - Back And To The Left (1996年)
♪m-3 Make Me Forget
♪m-4 Back And To The Left
♪m-9 Trouble And Desire

♪album all tracks non stop











1stアルバムの一要素でもあった暗い側面を一段と強め、不安と焦燥、孤独、不快、抑鬱…といった負の感情で全編を彩ったこのアルバムは、それこそM.F.Sの暗黒面を一身に背負うが如く、心中に沈殿している嫌な記憶を無理やり抉られているような怪作に仕上がっています。一応イーブン・キックを使ったトラックも収録されてはいますが、これもまた1stアルバムよりも更にダンス・フロアから距離が置かれたもので、クラブ・サウンドとして機能しているとは言い難いものです。
当時のシーンの傾向を反映していたレーベル方針と、真逆の方向性を打ち出したのは何故なのか判断しかねますが、察するに彼らもトランス・シーンへの倦怠感を持て余していたからではないでしょうか。収録内容全体に渦巻く負の感情は、彼らなりのシーンに対する返答的なものと、個人的に捉えています。
このような傾向が災いして聴く人を限定することになったのか、やはり知名度的にも恵まれなかったという印象が否めない本作ですが、それでも閉塞した空間一面に散りばめた燐光のようなm-9などは、気を引くものがあると思いますね。



run以上、主なEffective Forceのリリースを紹介しましたが、ここでメンバーであるJohnny Klimekのもう一つの側面について、簡単に触れておきましょう。
彼は実のところ、Paul Van Dykの補佐役として1stアルバム“45RpM”、2ndアルバム“Seven Ways”を通じて支え続けた人でもあります。特に2ndアルバムでは、クレジットを見る限り殆どの収録曲に参加していることが確認出来るくらいで、Cosmic Babyを“育ての親”とするならば、Johnny Klimekはさしずめ“頼りになる兄貴分”と言ったところでしょうか。確かにPaul Van DykはM.F.Sの代表的なミュージシャン/DJではありましたが、それを陰で支え続けたJohnny Klimekがいたからこそのものだった、というのは些か買い被り過ぎな評価でしょうか。
Effective Forceの解散後、間もなくM.F.Sを離れたJohnny Klimekは、Reinhold HeilやTom Tykwerと共に映画のサウンド・トラック製作を担当するようになり、現在もなお映画音楽を主体に手掛ける作曲家として活動しています。ドイツの実験的なアクション映画“Run Lola Run”(1999年)や、Tom Hanks主演のSF“Cloud Atlas”(2012年)辺りが彼の主なサウンド・トラック作として挙げられるでしょう。


glassもう一人のメンバー、Paul Browsは、1997年に3 PhaseとともにSub Dとして発表したアルバムを最後にM.F.Sを離れてからは、Johnny Klimekと比較して活動が散発的になっていましたが、2012年にEinstürzende NeubautenのメンバーAlexander Hackeのアルバム“The Glasshouse”に参加するなど、ミュージシャンとして健在のようです。













時系列を無視してM.F.Sにおける主要ミュージシャンを2組ほど紹介しました。時代を再び1991年に戻して話を進めましょう。


aliennationAlien Nation - Lovers Of The World (1991年)
♪m-1 Lovers Of The World (radioactive mix 1)
♪m-3 Lovers Of The World (tranceformed Ⅱ)

レーベルオーナーMark Reederが直々に率いるユニットの2ndシングル。元々はパンク・ロックのバンドだったのだが、本シングルではその面影が消え失せ、完全にエレクトロニック・ダンス・サウンドへ傾倒したものとなっている。
内容はシングルタイトル曲のリミックス集で、盟友New Orderからの影響を多分に感じさせるエレクトリック・ディスコ調のm-1やm-5などは、如何にもMark Reederの趣向と判るものだが、ことBass O Maticの“Set The Controls For The Heart Of The Bass”をサンプリングしたm-3やm-6に至っては、徐々に広まり始めたトランスの息吹を先取りしたものと云えるだろう。
緩やかで物憂げな16分アルペジオが延々と続くm-7では、Effective ForceのPaul Browseも参加している。



trueloveTrue Love feat. Mark Keys - Breath Of Stars (1991年)
♪m-1 Breath Of Stars (Mark Keys remix)
♪m-2 Breath Of Stars (Thomas Fehlmann/readymade mix)

Effective ForceのメンバーJohnny Klimekが制作に参加していること以外は殆ど詳細が謎に包まれたユニットによる、ただ1枚きりのリリースではあるが、温かみを帯びた華やかさと、妙に気だるい妖美さが交錯するm-1が出色の出来栄えで、これもまたジャーマン・トランスを予見した作に数えられるものだと云えるだろう。
m-2ではジャーマン・ニューウェーブの大御所として有名なPalais Schaumburgから脱退したThomas Fehlmannが、リズム構築を一新して更にテクノ色を強めたリミックスを施しているが、次第点的なもので、元曲の良さは超えられなかったようだ。2種類収録されているEffective Forceのリミックスも同様で、怪しい夜の雰囲気が強調されている以外、特に目立つ要素はない。




2german2 German Latinos - Viva La Droga Electronica (1991年)
♪m-1 Viva La Droga Electronica!
♪m-2 Yo Soy Tu Droga

D.A.FのヴォーカルだったGabi Delgadoと、前々から活動を共にしていた女性歌手Saba Komossaによるユニット。クレジットではDelkomの名も併記されているが、メンバーは全く同じ。
早くからEBMやハウスに取り組んできただけに水準も高く、アシッド・ハウスやハイ・エナジーを上手く消化した曲を聴かせてくれる。
空間を埋め尽くす16分アシッド・ベース、揺れるようなストリングスへSaba Komossaの卑猥さを醸す呟きが絡んでいくm-1、mix違いだが殆ど作りがm-1と変わらないm-2共に、やはりベルリン・トランスの到来を予見したものと映る出来栄え。
これと同時期にもDelkom名義でシングル“All From Anti Time”をMFSからリリースしているが、完成度はこちらのほうが高いと思う。



(次回へ続く)