前回はM.F.Sの主軸を担っていたユニットの中から2組を主に紹介してみました。
今回も引き続きM.F.Sのリリースを追っていきます。

♪m-1 Ki-Oha Girl
♪m-2 Which Way Are You Going?
♪m-3 Bonus Track
UKのProfileレーベルから2ndアルバム“Walrus”を発表して間もなく、MFSへと移籍してリリースした1stシングル(通産5枚目)。
2ndアルバムでは多少ポップス寄りの音へ路線変更していたが、本作では当時潮流だったハードコア・テクノ的なフレーズを取り入れたm-1、典型的なブレイクビート・テクノを展開したm-2共に、初期における彼の持ち味だったシンセサイザー・サウンドを、より強化した内容となっている。
元々The Orbと同時期から(クラブ・サウンド寄りという意味で)アンビエント・スタイルを実践していただけに派手さは薄く、幾分繊細さを保った音色で組まれた曲からは、本作以降、リリースの主流となるトランスへと繋がる気配が見え隠れしている。
Neutron 9000ことDominic Paul Wooseyは元々UKのエンジニアで、活動当初からシンセサイザ・サウンドを全面に展開したアンビエント・ハウスをリリースしてきた、シーンの先駆者と言える存在です。
MFSに活動の舞台を移してからも、持ち前の繊細さを保った作品を作り続けており、多数の名義を使いながらアンビエント・スタイルとトランス・サウンドを並行し、1993年でMFSを離れるまで、計6枚のシングルを残しています。

(1992年)
♪m-1 Tranceplant
♪m-2 Open Your Mind
本名義では最終作となるシングルで、Mysteries Of Scienceとの共作のようにも見受けられるが、その名義自体もDominic Wooseyによるものなので、実質彼のソロ・シングルである。
世界最初のトランス・コンピレーション“Tranceformed From Beyond”からのシングル・カットでもあり、MFS Trance Danceシリーズにも数えられる。
前作の流れを汲むトランス・サウンドを展開しつつもリズムを強化してクラブ寄りになったタイトルナンバーm-1の、13分を超えるロング・トリップは圧巻。
m-2はブレイクビートを加味したという以外は、特に可も不可もない作りで、多少印象に乏しいのが玉に瑕か。
上記のシングル以降、Neutron 9000でのリリースはUKのテクノ・レーベルRising Highへ籍を移してのアルバム・リリースで頭打ちとなりますが、MFSでは多数の名義を駆使した曲を1枚に編纂したシリーズ・シングルを数枚リリースしています。続けて紹介してみましょう。

(1992年)
♪m-1 Miraclactica - Miraclactica
♪m-2 Visuphoria feat. Dr. Motte - Awaking Into A Secret World
♪m-3 Harley Fuckin‘ Davidson Jr. - H.M.A.A (the xs-ively mellow mix)
どちらかというと幾分クラブ・サウンドから距離を置いた音作りが目立つ、シリーズ第一弾のシングルで、浅瀬の海底を弾むように散歩するm-1を始め、10分を超す大作が続く。
その中でも白眉は、Love Parede主催者Dr.Motteと共作した、精神内部を彷徨うような16分アルペジオが延々と続くアンビエント曲m-2だろう。両者揃ってアンビエントを得意とするだけに、相乗効果相俟って、完成度はかなり高いものに仕上がっている。
明朗な雰囲気を持つm-3も、揺らぐシンセサイザ・サウンドと、小気味良いアフリカン・パーカッションとの奇矯な組み合わせが面白い。

(1992年)
♪m-1 Gemini 6 - Skysoaring
♪m-3 Deepspece - Jupiter Gravitation
♪m-4 Phorgetmenot - Der Dritte Planet (dommy's summer mix)
エレクトリック・ピアノやギターなどを随所へ取り入れた曲が目立つ第二弾で、本シリーズでは一番知名度が高いと思われる。
何と言ってもm-1による、郷愁感を帯びたメロディラインと揺らぐ風景を彷彿させる曲調が聴きどころで、同時期にリリースされたmix CD“X mix 1 ~MFS trip~”の冒頭で使われているほど。
エレクトロ・ディスコの名曲Donna SummerのI feel loveを彷彿させる、16分ベースラインへギターのメロディが時折過ぎる大作m-4の、ぐんぐん天井へと理力が収束していくような展開も、なかなか凝っていて聴き応えがある。

(1993年)
♪m-1 Mysteries Of Science - The Trip
♪m-2 DMA - Drug Music Anonymous
♪m-3 Trancefunzel - Northwest Of Heaven
収録内容こそ3曲と少ないものの、ジャーマン・トランス最盛期の最中にリリースされただけあり、完成度もかなり高いシリーズ3作目。
特に、覚めるような色彩と煌きを感じさせるメロディラインが次々と交錯していく、19分を超える大作m-1の、クラブ・プレイ、リスニング共に耐え得る程良い均衡感覚は、本シリーズ中でも随一の水準と言えるのではなかろうか。
鏡のように風景が反射する地を軽やかに舞っていくm-2、朗らかさと旺盛な好奇心を促すm-3も同様に出来が良く、難点を挙げるのが難しい程に、充実した収録内容といえよう。

(1993年)
♪m-4 Neutron 9000 - Drift Facter
彼にとってMFSでの最終リリースとなったシリーズ4作目は、収録曲数も増え、さながらミニ・アルバム的な様相を呈した内容となった。
繊細な音作りは相変わらずではあるが、これまで以上にピアノのメロディラインを強調した曲(m-1、m-2、m-3)が目立つためか、ハウス・ミュージックの色合いが強く出ていると言えるだろう。
ただ、シリーズ3作目と比較すると、典型的で自己主張が薄く、印象も乏しい感が否めないのは残念なところか。それでも、眠りから目覚めたばかりのようなまどろみを彷彿させるm-5は、無難な作りがらも出来は良い。
なお、このシリーズは自身のレーベルUnited Frequencies Communications下にて、6作目まで続くことになる。
以上、Dominic WooseyによるMFSでのリリースを挙げてみました。
これ以降はRising Highに移籍してNeutron 9000名義でのアルバム・リリースや、Mysteries Of Scienceなど、多数の名義での活動、日本に来日してのイベント出演など(Buck-Tickのremixも手がけた)、精力的な動きを見せていましたが、1995年のMysteries Of Science名義でリリースしたアルバム“The Erotic Nature Of Automated Universes”を最後にシーンから姿を消してしまい、今もなお消息が途絶えたままとなっています。
さて、再び時代を遡って92年頃のリリースを紹介していきます。
ベルリン・トランスの先陣を切って次々と印象的なシングルを輩出していったことで、シーンでの知名度も急激に上がっていった時期です。

♪m-1 Metamorphia (The LSA flatline mix)
♪m-2 The Block
VOOVことChristian Graupner、Cosmic Babyが揃って参加していたEBM(エレクトリック・ボディ・ミュージック)系バンドによるラスト・シングル。一応、メイン・アクトとしてHanns Joachim Mennickenがいるが、このシングルは、どちらかと言うとCosmic BabyやVOOVが主体となって製作しているようである。
前年にI.B.Uからリリースしたアルバム“Hu Man”の収録曲“Flatline”を下地にギターフレーズなどを加味したm-1が聴きどころだろう。不穏と冷気を感じさせる雰囲気はそのままに、より勢いのある曲調に仕上げられている。
延々と引き伸ばされる不協和音的なベースラインと、性急感ある展開が聴けるm-2も、EBMの流れを汲んだ印象的な音を聴かせてくれる。

♪m-1 Alright
♪m-2 Volumina
♪m-3 Afterlife
ジャーマン・ニューウェーブの前衛的なバンドDer Planに見出され、彼らのレーベルAta Takからのリリースで有名なAndreas DorauとTommi Eckartによる、1枚きりのトランス作。
元々曲者揃いのレーベルAta Takに所属していただけあり、このシングルでも掴みどころに多少迷うような、享楽的で捻くれ気味の作風を披露している。
妙に浮ついた雰囲気と、白く眩い音色が印象的なm-1、伸縮するようなシンセサイザが愉快なm-2など、人声を上手く使った曲が続く。
特に、元作の印象はそのままに、更なるてこ入れを行ったm-1のmix違いであるm-4がお勧めだ。

♪m-1 Virtual Love
♪m-3 Pink Sky
Low SpiritのオーナーWestbamと共作したこともあるWilliam Röttgerによるシングルで、この名義では1枚きりのリリースで終わっている。
輝きと瑞々しさを感じさせながらも、多少影を帯びた色合いも同居するタイトル・トラックm-1が秀逸で、当時におけるMFSのリリースでも、かなり水準が高いものに入るだろう。
リズム廻りやメロディラインに大幅な手を加え、推進力と荘厳さを増幅させたMijk Van Dijkによるm-2及びm-4もまた、聴けば直ぐに彼のremixと判る作りで、元作とも引けを取らない仕上がりである。
m-3は冷たく不穏な空気を感じさせるリフが延々と続いていく、一聴して地味な内容だが、後半で突如、陰りを帯びたストリングスが空間へ塗り込められていく展開が聴きどころだ。
MFSは1992年からアーティスト・アルバムをリリースするようになりますが、その第一号と言える作品をここで紹介しておきます。

(1992年)
♪m-1 Far Beyond Space And Time
♪m-2 The White Angel
♪m-3 Into The Great White Light
♪m-4 25
♪m-5 Step Outside Yourself
♪m-6 Bliss (remix)
MFSのリリースを追いかけてきた方でも、Kai Fritscheによる、このNights Of Panというユニットは聞き覚えがないというほうが多いのではないでしょうか。
実際のところ、彼は本作以外にMFSからリリースした作品がないということも手伝ってか、非常に知名度が低いです。
更に、このアルバムがリリースされた頃は、ちょうどWestbamのLow SpiritからCosmic BabyやMijk Van Dijkが移籍して重要作品を次々とリリースしていたため、不幸にも彼らの華々しい活躍の陰に隠れてしまったのではないかと思われます。
このアルバムは、そんな流麗なメロディと酩酊感を横溢させたトランスのレーベル…という初期MFSの印象から遠く離れ、凍て付くような冷気、焦燥感、孤独感で満ちた宇宙空間を描写したような作風で統一されています。
TB-303のアシッド・ベースラインが全編に亘って重用されているのも特徴的で、そういう意味ではダーク・アシッド・トランスの先駆けと言えるのかも知れませんね。
m-1こそ暗さもなく、どちらかと言うと多幸的な印象すらありますが、後に続く曲は見事なまでに徹底した暗黒面で彩られ、同じく暗めの音を得意としていたEffective Force以上の凄みを感じます。ただし、多少曲調が似たり寄ったりで変化に乏しいという印象も否めないので、かなり聴く人を限定するというきらいもありますが。
一応はメロディラインも加味されているため、アシッド・ベース一辺倒な内容より聴きやすいと思いますが、この暗さをどこまで受け入れられるかが鍵でしょう。
特に、広大な星域にて勝算の薄い戦闘を強いられるようなm-3、26分に亘って援軍も来ないまま、敵艦隊にひたすら追い立てられているような心境が味わえるm-7などは、本作の内容を象徴する曲として印象深いです。

Gerret Frerichsを中核にHans Georg Schmidt、Oliver Huntemannを擁した3人組ユニットによる1stシングル。
ピアノの寂しげなメロディラインが特徴的なm-1、緩やかな起伏を想起させるストリングスで涅槃へと導くm-2など、典型的で無難な曲調ながらも、しっかりとした出来栄えを感じさせる。
彼らの作品は大仰さをあまり感じさせない、手堅い作りのものが多いが、1stシングルの段階から既にその傾向が見え隠れしている。
m-3はm-2の続編的な作りで、ひんやりとしたストリングス・パートと、細かくカン高いTB-303の音色が印象に残る曲。
リズム廻り、曲構成も澱みがなく、安心して聴けるシングルである。
古株のトランス好きから絶大な支持を集めたHumate、主にハンブルグのレーベルSuperstitionからのリリースが多いですが、元々はMFS出身です。
MFSでのリリースはシングル2枚きりだったにも関わらず、強く印象に残っているという人も多いのでは。

♪m-1 Love Stimulation (Paul Van Dyk love mix)
♪m-2 Love Stimulation (original mix)
♪m-4 Curious (original mix)
彼らのリリースでは最も知名度が高い、傑作と言えるシングル。
何と言っても、郷愁のピアノ・メロディとストリングスで寂寥感を強く刺激するm-1の完成度に唸らされるが、どちらかと云えばremixを担当したPaul Van Dykの実力に拠るところが大きいだろう(一応、元のメンバー総出で共に作り直したものではあるのだが)。
元作のm-2は前年に発表したシングル“Chrome”の続編ともいえる、緩やかでほんのりとした幸福感すら感じられる曲調であるのだが、m-1の華やかさに隠れてしまい、知名度が低くなってしまったのが残念である。
m-3、m-4も同様に影のあるピアノ・メロディが導入され,繊細さが強調された曲調となっているが、比較して大仰さが抑えられている。
Humateと云えば、やっぱりこのシングルですね。息の長い人気となり、レーベルを換えて幾度となく再発され、remixも多数作られていますが、その中で最も人気の高いPaul Van Dykによるmixは、今だ色褪せない魅力を保持し続けています。
このシングルを最後に、彼らは早々とSuperstitionへと移籍してしまいますが。
再び92年のリリースへ話を戻しましょう。
幾度となく触れますが、この時期はMFSを象徴するミュージシャン、Cosmic BabyやMijk Van Dijkが移籍してきています。この二組については既にブログで詳しく扱っていますが、さすがに触れないままというのも寂しいので、多少ながらリリースを紹介します。

♪m-1 High On Hope (technooligan edit by DJ Hooligan)
♪m-2 High On Hope (twisted version)
Microglobe名義では初のリリースとなったシングルで、彼の代表作として数多くのremixが作られている。
一般的には、本作のremixシングルである“Summer Remixes”の印象が強いためか多少知名度は低いのだが、それは収録作の出来が多少凡庸なものであるからではなかろうか。
確かに彼らしい音の質感、リズムの響きは聴けるものの、Summer Remixes収録のlong hot summer mixなどと比較して、メロディライン、構成、どれをとっても未完成という観が拭えない。
やはり大幅に手が加えられ、格段に魅力が増した前述のremixシングルのほうを手に取ることを薦めたい。
紹介しておきながら、いきなり厳しい評価ではありますが、先にremixシングルのほうを聴いてしまったためか、どうにも上記のシングルの出来には疑問符が付いてしまいます。Mijk Van Dijkにしては『らしくないなぁ…』という感じですね。
気を取り直して、次行きましょう。

♪m-2 Cosmic Babies (the sonic trance remix)
ベルリン・トランスの代表Cosmic Babyによる出世作である“Transcendental Overdrive”のremixシングルで、当時既にUKテクノ・シーンの大御所となっていたG.T.Oがremixを担当しており、曲名こそ違えど、実質上transcendentalを大幅に作り直したものとなっている。
元曲で聴けるモーグ・シンセサイザーによる、鋭いベースラインはそのまま残しているものの、リズム廻りやメロディラインを強化したm-1、m-2ともに、トランスのリリースへと移行し始めて間もなかった彼らの趣向がよく出ていると思う。
なお、このシングルもまたMFS trance danceシリーズの一つで、コンピレーション“Tranceformed From Beyond”からシングルカットされたものである。
どういうわけかCDシングルでのリリースがないのも手伝って、入手は多少難しい(他のMFS trance danceシリーズは全てCDでのリリースもある)。
殆ど作り直しに近いシングルですが、なかなか悪くない出来だと思います。元の曲は多少リズム隊が弱いので、これくらいがちょうど良いのでは。
更にもう一つ、Cosmic Baby絡みの作を紹介しつつ、1993年のリリースへ話を移します。

(1993年)
♪m-1 How Much Can You Take? (emotional)
♪m-3 Voices From Another World
♪m-4 A New Beginning
Cosmic BabyとPaul Van Dykによるユニットのラスト・シングルで、前作“Perfact Day”以上に東洋的な作風へ拍車がかかっている。
鋭く響き渡る16分アルペジオを基調に、郷愁感を煽るメロディラインが交錯していく荘厳なタイトル曲m-1(m-2、m-5)、これまで以上に女性コーラスを強化、本ユニットを象徴する東洋趣味を全開にしたアンビエントm-3など、前作の延長線上の作風ながらも完成度が高い曲が続く。
製作の大半がCosmic Babyによるものという点も相変わらずだが、曲構成における澱みのなさは、既に人気DJだったPaul Van Dykの面目躍如といったところ。
ベルリン・トランスが最も輝いていた時期の、まさに頂点とも言えるシングルだ。
前年の“Tranceformed From Beyond”に引き続き、93年にもコンピレーションの体裁を取ったmix CDがリリースされています。

♪The MFS Trip all tracks no stop (official)
著名なDJによるDJ live mixをBGMにしたコンピュータ・グラフィックス映像が楽しめる、環境ビデオ“X-mix”シリーズの1作目である本作は、収録曲の全てをMFS音源で統一した作品です。
DJ mixはPaul Van Dykが担当しており、キーやコード進行を計算に入れた違和感の薄い流麗なmixが施されています。
面白いのは、収録曲の半数以上をCosmic Baby関連が占めている点で、終盤に至ってはCosmic Baby作品による乱発大会の様相を呈していますが、逆に言えば彼がこのレーベルで如何に重要な存在だったかが伺えるというものです。
本作で聴きどころを挙げるならやはり後半で、m-9からm-13を経由し、m-15に至るまでの流れでしょうか。この手の哀愁旋律が好きな向きにはたまらないものがあると思いますが、あまりにも次々とそれが繰り出される為、少々諄く感じる方もいるかも知れません。
とは言え、当時のベルリン産トランスを代表する、このレーベルを知るに相応しい内容ではありますし、これからMFSの曲を聴き始めるなら本作から入るのも、また一考でしょう。
ベルリン・トランスの輝かしい魅力を満載した、寂寥感溢るる1枚です。
なお、冒頭で触れたように、この作品は映像作品としてもリリースされているので、90年代のコンピュータ・グラフィックスに興味がある方は、DVDフォーマットで買い求めると良いでしょう。
もう一つ、興味深いアルバムを紹介しておきましょう。
ドイツの女性ニューウェーブ・バンド、Malaria!による過去作のremixアルバムです

♪m-1 Kaltes Klares Wasser (crystal mix by Dr.Motte)
♪m-2 Cheerio (milchbad mix by Microglobe)
♪m-5 Elation (abstract mix by Dolfin',K Paul,P V Dyk,Stefan Fischer)
♪m-7 Keep Me In Love (reshaped by Moritz Von Oswald)
♪m-8 Warmes Wasser (Johnny Klimek & Dr.Motte remix)
何故このremixがMFS下でなされたのか、これはレーベル・オーナーMark Reederが、かつてMalaria!のマネージャーだったことに起因します。
1stアルバム“Emotion”では、作曲にも参加するくらい親密な関係だったようで、レーベル・オーナーとして多数のミュージシャンを擁する立場となったことから、このような企画を思いついたのでしょう。
remixを担当したのは、Effective Forceの片割れJohnny Klimek、Mijk Van Dijk、Paul Van Dyk、VOOVというMFSの主要ミュージシャンだけでなく、度々MFS作品へ参加していたDr.Motte、3 Phase、Low SpiritのオーナーWestbam、Basic ChannelのMoritz Von Oswaldなど、ベルリン・テクノ・シーンの重鎮達も揃って参加しています。
いずれもジャーマン・ニューウェーブ的なロック・サウンドを、当時のベルリン・トランス/テクノを基調としたremixに取って代えているわけですが、もたつくドラム・セットなど、元曲の拙さが上手く解消され、安定感がいや増しています。反面、良くも悪くも元曲の陰影ある雰囲気が損なわれてしまっているような気もしますが(逆に、陰影が増したものもあります)、これは好みの問題でしょう。
細かい16分アルペジオで典型的なトランスを展開したm-1、重層するシンセサイザ・フレーズが如特に、何にもMijk Van DijkらしいM-2、どことなくハードコア・テクノを彷彿とさせるフレーズと性急な曲展開が印象的なm-9などは、リミキサーの趣向を上手く引き出すことに成功していると言えるでしょう。
1994年になると、さしもの猛威を振るったジャーマン・トランスの人気も下降していきますが、そんな中、その後のMFSを長らく支え続ける代表的なミュージシャンが、本格的な活動を始めます。

♪m-2 My World (florin mix)
♪m-3 A Love Letter
♪m-5 The Green Valley Theme (part1)
それまでEffective ForceやHumateなど、他ミュージシャンのremixや、Cosmic BabyとのユニットThe Visions Of Shivaで楽曲製作の腕を磨いていたPaul Van Dykが本人名義にて発表した1stシングルで、その後長らく補佐役を務めることになるEffective ForceのJohnny Klimekも参加している。
疾走するテンポの速めなリズム・セット、長閑さと清涼感溢れるメロディに彩られた曲調など、彼の作り出す曲群に通底する魅力が遺憾なく発揮されたm-1を始め、多少こじんまりとしながらも上品な収録内容である。
殆どの収録曲がm-1のmix違いで構成されているが、特にm-2は、その中でも最も知名度が高く、初期の彼を代表する曲だと云えるだろう。
さぁ、いよいよ中期~晩期MFSを代表するPaul Van Dykの作品を続けて紹介していきましょう。
…とは言え、彼はあまりにも有名になり過ぎて、今更このブログで詳細を紹介するのも気が引けるので、ここは敢えてざっくりと流させていただきます。

♪m-1 introjection
♪m-2 I'm Comin' (to take you away)
♪m-3 For An Angel
♪m-4 45 RPM
♪m-5 Spannung (tension)
♪m-6 Emergency!
♪m-7 Rushin' (revolutions per minute)
♪m-8 Pump This Party
♪m-9 Ooh! La La! (krankenhouse mix)
♪m-10 A Magical Moment
♪m-11 Pump This 45
VOOVやJohnny Klimekなど、初期MFSの中堅どころを共同制作者として迎えた本作、実は1993年の段階で既にプロモーション盤としてリリースされていたものですが、その翌年に正規版として発売されました。
そのためなのか、後に発表されたThe Green Valley epと比較すると密度が薄く、かつ平坦な仕上がりで、コンセプト・アルバム然とした構成にも雑な点が目立ち、どうも未完成という観が拭えない出来栄えではありますが、この段階で既に彼の特徴である、外向的で清涼感を帯びた艶のあるメロディラインが散見されています。また、BpM値の高さに依拠して作りこみが甘いリズムが多いものの、m-5やm-8のようにリズムをしっかり作り込んでいる曲もありますし、完成度自体は低いものでありません。
後にPaul Van DykのDJセットで何度となく最後尾でプレイされることになるm-3、ぐんぐん引き込まれるような裏拍主体のベースラインで攻め立てるm-4、彼にしては珍しくシャッフル・リズムによる躍動感を強調したm-5などが聴き所と言えましょう。

♪m-1 Beautiful Place (paradise mix)
♪m-3 Sundae 6 a.m.
当時、エピック・ハウスの旗手だったBrian Transeauと共に、傑作“Flaming June”を手がけるなど、関わりを持ち始めたプログレッシブ・ハウス・シーンからの影響を濃厚に感じさせる2ndシングルで、同年発表される2ndアルバム“Seven Ways”の布石でもある。盟友と云える存在となったJohnny Klimekはもちろん、Cosmic Babyの補佐役として知られるJens Wojnerも製作に参加した。
澄み切った大空のような、広大な広がりを感じさせるm-1にしても、BTの初期における傑作“Embracing The Sunshine”と作りが似ており、彼にとってプログレッシブ・ハウスが如何に無視出来ぬ存在であったかが窺えるというものだろう。
よりハウス・マナーに培った仕上がりとなったm-2、多少きつめの音でマイナー・コード化したm-3共に出来は良く、当時の彼のリリースでも屈指のものだと思う。

♪m-1 Home
♪m-2 Seven Ways
♪m-3 Heaven
♪m-4 I Like It
♪m-5 Come And Get It
♪m-6 Forbidden Fruit
♪m-8 People
♪m-9 The Greatness Of Britain
♪m-10 I Can't Feel It
♪m-11 Words
先行シングル“Beautiful Place”同様、プログレッシブ・ハウスからの影響を踏まえて制作された本作は、彼がMFSからリリースした(事実上)最後のアルバムとなりました。
1stアルバムにおいて多少雑な点であったリズムやコードの厚みが増しているなど、不満点はかなり改善されていると云えましょう。
冒頭のm-1からして既に水準は高く、壮大な空間が大きく渦を巻くような展開で一気に本作の世界観へ引き込んでいく手管には、尋常ならざるものを感じますし、続いて複数のメロディラインを駆使して郷愁感覚を強調するm-2を経て、彼のお家芸とも云える春めいた長閑さと疾走感を感じさせるm-3へなだれ込む流れを見ても、収録内容全体の構成を考慮して緩急のついた選曲がなされていることが判ります。
聴きどころは、中盤から後半に至る流れで、特に彼の作では最も長閑で多幸感に満ち溢れたm-6から雲海から差し込む光のようなm-9へと続く展開には唸らされることでしょう。
(次回に続く)