日々是躍動三昧! -23ページ目

日々是躍動三昧!

クラブミュージック・リビューサイト“日々是躍動三昧!”へようこそ。
当サイトは90sテクノやトランスを中心に、クラブミュージックを紹介しています。

毎度様です。またしてもすっかり久し振りの更新になってしまいました。
書くテーマがなかったわけでも、はたまた別段忙しかったわけでもなく、単に気乗りがしなかったので書かなかっただけです、はい。
さて、今回も活動歴が長いミュージシャンを取り上げてみようと思います。


かつてUKのマンチェスターに、“ハシエンダ”というクラブがあったのを御存知でしょうか。80年代末から90年代初頭にかけて、イギリスのみならずヨーロッパ中のクラブ・ミュージック・シーン勃興を促し、“マッドチェスター”、更には“セカンド・サマー・オブ・ラブ”といったクラブ・シーンにおける重要なムーブメントを牽引したことにより伝説となったことで知られています。
このクラブは、UKのインディペンデント・レーベルとしては草分け的存在だったFactory recordsの出資で、同レーベルの看板バンドであるNew Orderのメンバーによって1982年に作られましたが(作品リリースと同様にFAC51というレーベルの通しナンバーが振られた)、彼らのライブ以外は客が殆ど入ることがなく、常に赤字経営でFactoryレーベルの財政を圧迫するものでしかなかったようです。
しかし、1987年頃にアメリカより渡来したアシッド・ハウスやテクノといったダンス・ミュージックが伝えられると状況は一変。後にM PeopleのメンバーとなるMike PickeringがハシエンダでレジデントDJとしてハウスやテクノをプレイしたことにより、一躍UKクラブ・シーンの中心として機能するようになります。


$日々是躍動三昧!-northVarious Artists - North
[the sound of the dance underground]
(1988年/ deconstruction)
♪ m-1 Annette - Dream 17
♪ m-4 ED209 - Acid To Ecstasy

今回の記事と直接関係はないが、一応紹介。当時ハシエンダのレジデントDJとして活躍していたMike PickeringA Certain Ratioなど、Factoryゆかりのミュージシャン、DJが参加したUK産アシッド・ハウスのコンピレーション。元々バンドサウンド組のプロジェクトが多いせいもあって、TB-303サウンドが使われている以外は、かなりメロディラインへの傾倒が目立つ内容。
実際にハシエンダ内で起きていた喧騒を牽引していたのは、このようなUSAから齎されたアシッド・ハウスのUK解釈による曲群だったのだが、本作をリリースしたのがリヴァプールのレーベルDeconstructionだったりするのは一体何故なのか、疑問も残る。




ここでもやはりアシッド・ハウスが重要な役割を果たしていたわけです。このブログでも事あるごとに出て来るジャンルですが、これがなければ話が始まらない…というくらいのものなのですね。
こうしたクラブ・ミュージック文化が到来したことにより、ハシエンダのフロアでは、それこそアイドル級の扱いを受けるようなDJが次々と輩出され、それまでミュージシャンが演奏していたのがDJに取って代わることも多くなりました。そんな中で、後にプログレッシブ・ハウスDJとして本国イギリスのみならず、ハウスの本場アメリカをも席捲するDJが登場します。その名はSasha。本名はAlexander Paul Coeといい、DJを始める以前はピアニストだったという青年でした。
彼は元からDJを志望したり、クラブ・ミュージックが好きだったというわけではなく、ハウスを聴き始めたのもハシエンダへ遊びに行ったことがきっかけだったとのことです。
ハシエンダで行われるクラブ・イベントにすっかり魅了された彼は、それが昂じて遂にはマンチェスターに移住。以降、毎週の如くハシエンダへ足を運びつつレコードを買い、DJを始めます。当時の彼にとってお気に入りのDJはJuan Da Silva。曲と曲のキーやコードを読んで違和感なく流麗にミックスするプレイ・スタイルで人気を博していました。Sashaのプレイもその強い影響下にあるもので、特にアシッド・ハウスやイタロ・ハウスを効果的に使ったDJでフロア中を驚かせました。
以下のリンクは、彼がトップDJとして認知された時期にBBC radioのDJ mix番組“Essential mix”にてオンエアされたSashaのプレイで、当時の彼が得意としていたコードを計算したmixを聴くことが出来ます。

♪ Sasha Essential Mix 15-01-1994




DJ活動へ没頭するうち、次第にそのプレイを評価されたSashaは、憧れだったハシエンダでのプレイや、同じくマンチェスターのクラブ・シェリーズでレジデントDJとして抜擢されるなど、人気DJとしての足場を固めていきました。
並行して彼は楽曲制作にも手を染め始め、地元イギリスではポップスター級のダンス・アクトだったD:Reamや、シカゴ・ハウス・シーンで不動の地位を占めていたLarry HeardのMr.Fingersなどのremixを手掛けるなど、最初はリミキサーとして頭角を現し始めます。

$日々是躍動三昧!-closerMr.Fingers - Closer (1992年/ MCA)
♪ m-1 Closer (Sasha mix)
♪ m-3 Closer (Sasha jazz odyssey mix)

シカゴ・ハウス・シーン黎明期からの古株で、今もなお世界中のクラブ・シーンで絶大な支持を集め続けるトップ・ミュージシャンによる2ndアルバムからのシングルカットを、Sashaが2バージョンのリミックスに仕立て上げた。元曲よりも流麗さに磨きがかかり、より聴かせるほうへ重点を置いた仕上がりとなっている。
前述のようにイタロ・ハウスとアシッド・ハウスをmixするプレイで頭角を現した彼だけに、イタロ・ハウスにも通じるピアノ・フレーズを基調としたこの曲は、彼にとっても好材だったのではなかろうか。
このようなトップ・ミュージシャンによる曲の組み立て方を知る機会に恵まれたことも、大きな収穫だったに違いない。



同年には更に自らのプロジェクトを立ち上げて、シングルを発表しています。これが、ミュージシャンとしての本格的な活動の始まりとなりました。


$日々是躍動三昧!-appoloniaBarry Manilow Experience - Appolonia ep
(1992年/ union city)
♪ m-1 Appolonia (qat mix)
♪ m-2 Appolonia (tamaza mix)
♪ m-7 Feel The Drop (czechoslovakian yeast mix)
自身による初のプロダクションとなった2枚組の1stシングルがこれ。当時の彼が得意としていたDJスタイルそのままに、ピアノのリフを主体としたイタロ・ハウスやガラージ・サウンドからの影響が濃厚に感じられる曲調となっている。
m-2では後の彼が得意とする、金属質で冷たい音触を彷彿させるmixが聴けるが、やはり出色は楽天的な雰囲気が印象に残るm-4、m-7だろう。特に春めいた屈託のないフレーズとソウル調のヴォーカルが前面に展開されたm-7は、どこまでも上昇していくような天井知らずの多幸感が味わえる。





現在のSashaが得意とする曲調と随分違いますが、初期から彼の活動歴を辿ってみると納得出来るのではないでしょうか。ともあれシングルもリリースされ、彼のミュージシャンとしての活動が始まった訳ですが、1994年までは新しいリリースがないまま経過します。この期間、Danny Campbellのシングル“Together”をリミックスしたり、後に長年のDJコンビとなるJohn Digweedと邂逅するなど、リミキサー及びDJに比重を置いた活動をしていましたが、1994年、満を持してようやく彼のアルバムがリリースされることになったのです。

$日々是躍動三昧!-qat02Sasha - The Qat Collection version 2
(1994年/ deconstruction)
♪ m-1 Minimal Qat
♪ m-2 Higher Ground
♪ m-3 Magic (Sasha's black magic mix)
♪ m-4 Animal Qat
♪ m-5 Magic (Pob's seismix)
♪ m-6 Higher Ground (Big Brother's mix)
♪ m-8 Magic (Junior's factory mix)








Sasha本人によると公式にはアルバムではなく、シングル集的位置付けである本作は、先に紹介した“Appolonia ep”のガラージ/イタロ・ハウス路線を踏襲しながらも、より推進力を増したリズムと、弾力あるベースラインを強調した作風となっています。この当時はSpookyLeftfieldUnderworldなど、プログレッシブ・ハウス・シーンの重鎮達がこぞってアルバムやシングルをリリースしていた時期にあたり、Sashaも彼らのような曲を作りたいと考えていたそうで、完成されているとは云えないものの、彼なりに新しいスタイルを模索しようとした形跡が収録曲のそこかしこで聴き取れます。
収録内容は、これといって大きな盛り上がりに達する場面もなく、どちらかと云えば際立った特徴に乏しいですが、後のリリースで顕著に見られるような感傷的で陰りを帯びたメロディラインの片鱗が既に現れていますし、10分超の長丁場な曲が多いながらも中弛みを感じさせない曲展開の編み方は、さすが人気DJの面目躍如といったところでしょう。特にSam Mollisonによる叙情的なヴォーカルが冴え渡る、哀愁イタロ・ハウス路線の最終進化系的なm-2、m-1同様に中東のシタール等、民族楽器をさりげなく使いつつ、きめ細かく配置した哀愁旋律で揺さぶるm-7は、初期におけるSashaの一里塚と云えるのではないでしょうか。





上記のアルバムを境に、Sashaの作風は大きな変化を見せます。1995年には、当時エピック・ハウスの旗手として頭角を表わし始めたB.T.(Brian Transeau)とも邂逅するなど、よりテクノやトランス、プログレッシブ・ハウスに寄った曲調へ方向を定めていきました。

$日々是躍動三昧!-beasSasha & Maria - Be As One ep (1996年/ deconstruction)
♪ m-1 Be As One (12'mix)
♪ m-2 (with B.T.) - Heart Of Imagination
今現在へ続くSashaへの印象を決定付けたと云えるシングル。それまでのイタロ・ハウス路線から脱し、冷たい金属質な音色を全面に展開した曲調となっている。
フロア向けダンス・トラックであることに固執せず、楽曲としての完成度を追求した結果、この狂おしい程の寂寥感を帯びた、深みあるメロディが生まれた。Maria Naylerによる繊細な歌声も秀逸で、曲の持つ寂寥感を更に増幅しているかのよう。
盟友BTと共作したm-2は、Sashaの荘厳なメロディラインとBTの肉感ある音使いが上手く溶け合い、腰の据わった重みと力強いうねりを引き出した曲調となっている。







$日々是躍動三昧!-arkhamSasha - Arkham Asylum / Ohmna
(1996年/ deconstruction)
♪ m-1 Arkham Asylum
♪ m-2 Ohmna
金属質な音色と寂寥感で彩ったメロディラインによる路線は相変わらずだが、前作と比較して更に木目細かい音の配置とリズム構築への拘りが随所に窺えるシングル。これにより、自らの路線を完全に確立出来たと云えるだろう。
二部構成的な展開で編まれたm-1は、聳え立つ山脈のような壮大かつ荘厳な風景を喚起させる曲で、聴き応え充分。
片やm-2は前作“Be As One”の続編的な曲調だが、寂寥感を煽るメロディラインは多少後退し、ベースラインの重い金属的な響きを幾分強調したものとなった。







この1996年は彼にとって大躍進の年だったと云えます。John Digweedと共に制作した、総計100万枚以上も売ったというmix CDの金字塔“Northern Exposure”、過去のリミックス・ワークをまとめて編纂した“The Remixes”をリリースするなど、まさに乗りに乗った1年でした。

$日々是躍動三昧!-northernSasha & John Digweed - Northern Exposure
(1996年/ ministry of sound)
disc1 鈴木慶一 - Satellite Serenade(transasianexpress mix)Future Sound Of LondonCascade(part 1)Young American PrimitiveThese WavesGod WithinRaincryRabbit In The MoonOut Of Body ExperienceMorgan King - I'm FreeUltraviolet - Kites(fantasy flite part1)Fuzzy Logic - Obsession (the quantum loop mix)William Orbit - Water From A Vine Leaf(xylem flow mix)Apollo 440Liquid Cool (Deep Forest ice cold @ the equator mix)Banco De GaiaLast Train To Lhasa
disc2 Drum ClubSound System(Underworld mix)Castle TrancelotThe GloomPete Lazonby - Wavespeech(Junior Vasquez mix)EvolutionPhoenixThe Lignt - DuskX TracksPlan 94(the voyage)Mellow MellowI Can't StopHumate & Rabbit In The Moon - East(the opium den mix)Underworld - Dark & Long(dark train)

当時既に数多くリリースされていた、フロアの疑似体験の為のmix CDとは違い、本作はどちらかというと聴き込むことへ主眼を置いた作りとなっています。特にdisc1はその傾向が強く、深みと空間的奥行きが強調された曲を数多く使用して編み出されるmixは、全体で一つの物語が完成されるが如く展開する、極めて映像的なものです。
聴き込むことへ特化しているだけに、全体的に派手な盛り上がりや躍動感が強調される場面は少なく、緩やかなうねりある流れが描写されていくような構成となっています。このうねりを出す為、本作では突然曲調の変化を伴うようなミックスの技が全く使用されておらず、ほぼ徹底して2枚のディスクを長時間に亘って同時にプレイし続ける“ロング・ミックス”が使用されています。もう一つの肝は、二人が楽曲のキーやコードを計算に入れた選曲をしていることでしょう。特にm-6(m-7)からm-8にかけては、それぞれが異なる曲でありながら、一聴していつ繋いだのか聴き取れない程の流麗なキー・ミックスが施されていることに脱帽です。キー・ミックスに関してはSashaの得意とするところですが、それはDigweedも同じだったようですね。
御大William Orbitによるm-8からの軽快で明るい展開へ移行する流れは、躍動感を伴ったものではありますが、Deep forstのremixが施されたm-10で再び深みを帯びた曲調へと戻っていく辺りも、なかなか心憎い仕掛けであると云えましょう。
打って変わってdisc2では、イーブン・キック・ビート主体のフロアを意識した選曲ではありますが、disc1同様にキーを計算に入れた流麗なロング・ミックスのプレイは更に冴え渡っています。
細かい16分刻みのベースラインが続くm-2からm-3に至る流れは、やはり繋ぎ目が解らないキー・ミックスの妙技が味わえますし、m-5から大きくエフェクトを施したm-6、更にm-7へと移行する下りでも、若干のコード・チェンジを不協和音にすることなく繋いでいるのは見事としか云いようがありません。このような徹底してキーを読んだロング・ミックスによるプレイ・スタイルは後に本作の題名同様に“Northern Exposure”という名を冠され、絶大な人気を呼ぶことになりました。





続く1997年にも、上記のmix CDの続編である“Northern Exposure 2”がリリースされ、これも大変な人気となりましたが、Sasha本人による曲のリリースは一旦止まった状態が続きました。ミュージシャンとしての活動は、2年後の1999年に再開されます。

$日々是躍動三昧!-xpanderSasha - Xpander ep (1999年/ deconstruction)
♪m-2 Xpander
♪m-5 Baja
予てから影響を公言していたSpookyのメンバーを迎え、当時シーンを再び席捲していたトランスの影響を匂わせるメロディラインに彩られた5曲入りep。ひんやりとした金属的な音色、壮大な世界観を喚起する緻密な構成力は変わらず手馴れたものだが、タイトル曲m-2の、それまであまり見られなかった、からりと晴れ渡るような曲調が印象的だ。
更に、スロー・テンポのブレイク・ビートへ初挑戦したm-5は、突き刺さる氷のような感触と荒々しいリズム、そして彼の得意とする狂おしいまでの 悲哀を帯びたメロディラインが全面に展開された逸品。
普遍的な魅力をいまだ保ち続けている、彼の代表作と云えるだろう。



世界観を感じさせる映像的な作風が多いSashaですが、それが評価されたのか、遂に彼もサウンドトラックを手掛ける機会がやってきます。


$日々是躍動三昧!-wip3outWip3Out[playstation video game] (1999年/ sony)
♪m-1 Sasha - Feisar(欧州開発機構産業科学開発局)
♪m-2 Underworld - Kittens
♪m-3 Sasha - Icaras
♪m-4 Orbital - Know Where To Run
♪m-5 Sasha - Auricom(Auricom Industries)
♪m-6 MKL - Surrender
♪m-7 Propellerheads - Lethal Cut
♪m-8 Sasha - Goteki 45
♪m-9 The Chemical Brothers - Under The Influence
♪m-10 SashaPirhana(Pirhana Advancement)
♪m-11 MKL - Control
♪m-12 Paul Van Dyk - Avenue
♪m-13 Sasha - Xpander(edit)


UKのテクノ系アーティストのアルバム・ジャケットを手掛けていることで有名なデザイナーズ・リパブリック監修による近未来調のデザインと、世界的に活躍するテクノ系ミュージシャン達がBGMを提供することで知られる、プレイステーション用レーシング・ゲーム“ワイプアウト”シリーズですが、3作目にして遂にSashaがBGMを手掛けています。
他のBGMを提供しているミュージシャンをざっと見てみると、UnderworldやThe Chemical BrothersOrbitalPaul Van Dykなど、いずれもテクノ/トランス・シーンの大御所ばかり勢揃いしているのですが、他のミュージシャンが1曲ないし2曲の提供で留まっているのに比べ、Sashaだけが6曲と破格の好待遇ぶり。当時如何に彼の影響力が高かったかを窺い知れるというものでしょう。
Sashaから提供された曲群は、ゲーム中に登場する架空のレーシング・チーム名を曲名に冠しており、いずれも4分超という、彼の曲にしては随分と短い時間ながらもしっかり展開が練られているのはさすがです。
日本のクラブ・シーンでの人気に関わらず、彼が当ゲームに参加したことは意外と知られていないようですが、彼の曲が好きならば是非このゲームを堪能していただきたいところです。それに、ゲーム機がなくてもCDプレイヤーで再生して曲だけでも聴けますしね。


続く2000年も、彼は非常に印象深いシングルを発表して物議を醸します。

$日々是躍動三昧!-scochioSasha & Emerson - Scorchio (2000年/ deconstruction)
♪m-1 scochio(full length version)
♪m-2 scochio(Emerson's late nite dub)

無名時代から親交があったという、Underworldを脱退して間もないDarren Emersonと共作したシングル。Sasha得意の角ばった金属質な音色と、Darren Emersonによる躍動感に満ちたリズム廻りが上手く溶け合い、相乗効果著しい曲となった。
さりげなく鳴らされるアコースティック・ギターによる、そよ風のようなフレーズもまた新鮮で、爽やかな雰囲気を印象付けている。
Darren Emersonが本格的に手を入れたm-2は、m-1の後半部に現れる展開を上手く使い、間高いフルートの跳ね上がるメロディラインを加えて再構築され、より有機的で瑞々しさある曲調となっている。






間が開いて2002年、彼はようやく10年目にして初のフル・アルバムをリリースしました。確かに1994年の“The Qat Collection”も(結果的に)アルバムでしたが、他ミュージシャンによるリミックスも多く収録されていたし、アルバム全体を手掛けている点でも、彼の心境的にも、やはりこれが1stアルバムなのでしょう。

$日々是躍動三昧!-airSasha - Airdrawndagger (2002年/ arista, BMG)
♪m-1 Drempels
♪m-2 Mr Tiddles
♪m-3 Magnetic North
♪m-4 Cloud Cuckoo
♪m-5 Immortal
♪m-6 Fundamental
♪m-7 Boileroom
♪m-8 Bloodlock
♪m-9 Requiem
♪m-10 Golden Arm
♪m-11 Wavy Gravy





SpookyのメンバーであるCharlie Mayと、アムステルダムのブレイクス・シーンで頭角を現したJunkie XLによる協力の元で制作された本作は、これまで同様にSashaのお家芸と云える、金属質の触感を持つ音色と、陰りを帯びた流麗なメロディラインに彩られた作品ですが、イーブン・キック・ビートは極力使用されず、代わってシングル“Xpender ep”でも垣間見られたブレイク・ビートが全面的に導入されており、トランスとブレイクスの融合系と言われた“ニュースクール・ブレイクス”と呼ばれるスタイルに近い作風となっています。これは何も突然の変化ではなく、90年代中期に人気を呼んでいたThe Future Sound Of Londonの“Lifeforms”やLeftfield“Leftism”のようなアルバムを彼が手掛けたいと長らく思っていたこと、USAの名門クラブTwiloに招かれ、レジデントDJとして活動した経験を考え合わせると、寧ろ自然な流れであることが判ります。
共作者からの影響なのか、これまで以上に揺らぎと深みを増したエフェクトによる空間構築術は更に磨きが掛かっており、そういったエフェクト・サウンドの原点と云える“ダブ”の要素も色濃く現れているのも見逃せません。m-2などは彼なりにダブ/レゲエを解釈した結果でしょうし、中盤の不穏な響きを帯びたベースラインが聴けるm-5、m-6などでは、1stアルバム以降、急速にダブへ傾倒していったLeftfieldからの影響も聴き取れます。
勿論、長年のDJ経験に裏打ちされたアルバム構成にも抜かりはありません。本作中で最も哀愁を帯びたメロディを据えたm-4からは、さりげなくロックの色合いを匂わせるものが感じ取れ、この曲が前半の盛り上がりを強く印象付けていますが、James Holdenが参加したイーブン・キック・トラックm-8もまた、幾重にも交差・乱舞を繰り返す物憂げなメロディでくぐもった情景を見事に描写し、後半の流れをきりりと締め上げるなど、緩急上下を感じさせる収録内容となっています。


日本盤のみ本作には、代表シングル“Xpander ep”の収録曲全てと、前述のDarren Emersonとの共作“Scorchio”が収録されたボーナス・ディスクが同根されているので、本作の入手は日本盤にするのが良いでしょう。







駆け足でSashaの主要作品を追ってみましたが、如何だったでしょうか。
初期のイタロ・ハウス路線は“Xpander”辺りから彼を知った方にとって、どうも垢抜けないものがあると感じるでしょうが、ピアニストの経験から培った流麗なメロディラインは首尾一貫していることは感じ取れるのでは。
最近の彼はアメリカへ移住し、メディアを多聞に賑わすことは少なくなったものの自身のレーベルEmfireを設立して地道な活動をしていますね。

さて、今回はこの辺にしておきます。ではまた。