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日々是躍動三昧!

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毎度様です。
予告通り、今回も引き続きGuerilla recordsについて書いていきたいと思います。
今となっては殆ど触れられる機会が少ない同レーベルについての入門となって下さるなら、まさに望外であります。
では、早速。


かつて日本でもテクノやトランスが騒がれ始めた時期、中堅どころとして支持されたユニットの一つにThe Drum Clubがあったのを御存知の方はいますでしょうか。UnderworldやOrbitalといった超有名ユニットとともにシーン黎明期へ貢献しつつも、割と短期間であっさり解散してしまった人達なのですが、実は彼らもGuerilla出身者。
今回の主題へ入る前に、少しだけ触れておきましょう。


$日々是躍動三昧!-alchemyThe Drum Club - Alchemy ep (1993年/ Guerilla)
♪ m-1 Alchemy(uptown rocker's stomp)
♪ m-4 Alchemy (phasers on dub)

郷愁感あるハーモニカのメロディラインが印象的な2ndシングルで、前年にリリースされた“U Make Me Feel So Good”よりリズムのグルーブ感が鋭角的になり、一層テクノ寄りの音になっている。
プログレッシブ・ハウスのシーンにはUnderworldを始め、ニューウェーブ・ロック上がりのミュージシャンがシーンに接近してきた流れも一端にあるが、彼らもその流れに属していたと言えるだろう。
結局このシングルを最後にGuerillaを離れ、System 7が所属していたButterflyへ移籍してしまうのだが、同年にリリースされたアルバム“Everything Is Now”にも、この曲は収録されていた。




前回紹介したSuperealもギターサウンドを随所に挿入していたのですが、元ニューウェーブ・ロック組だったDrum Clubも似たような傾向を持ったユニットでした。まぁこれは彼らに限ったことではなく、80年代後半からハウス・ミュージックやテクノ・シーンに関わる古参ミュージシャンには、ニューウェーブ・ロックを体験した人が非常に多いですね。
では、いよいよ主題に入ります。



$日々是躍動三昧!-getupdanceDance Only Productions -
Get Out On This Dancefloor (1991年/ Guerilla)
♪ m-1 Get Out On This Dancefloor
♪ m-2 Dance Spirit
学生時代から音楽仲間で、ニューロマンティックを好んで聴いていたという二人組による、1stシングル(余談だが、二人揃ってKevinという名前である)。
どことなくハードコア・テクノを匂わせるフレーズと、陰りを帯びたストリングスが交差が、熱気と折衷の狭間を描く。緩めの曲が多い当時のGuerilla音源の中にあって、少々激しめの曲調と云えるかも知れない。
当時はハードコア・テクノがシーンを席捲していた頃に当たるためか、このシングルに似た曲調は、彼らのリリースに頻出している。





Dance Only Productions、略してD.O.Pは事実上Guerillaの看板ユニットと云える存在です。発表したシングル枚数、アルバム枚数ともにGuerilla音源中最多であるだけでなく、曲の水準も高いほうですし、姉妹レーベルに当たるTribal Americaからライセンスされたこともあり、本場USハウスのシーンでも知名度がありました。4枚目のシングル“Oh Yeah”ではMurk Boysとも仕事をしています。
それでは彼らのアルバムを2枚続けて紹介してみましょう。


$日々是躍動三昧!-dop1D.O.P. - Musicians Of The Mind
(1992年/ Guerilla,I.R.S)
♪ m-1 D.O.P. chant
♪ m-2 Oh Yeah
♪ m-3 Take Me (remake)
♪ m-4 Groovy Beat(part1)
♪ m-6 Future Le Funk(remake)
♪ m-7 Let's Party
♪ m-9 Oh No
♪ m-10 Don't Stop The Music







『僕らは“プログレッシブ・ハウス”でも“トランス”でもないのに、そう言われるのは真っ平御免だ。僕らには関係ないね』と定義されるのを嫌う彼らのアルバムを表現するなら、レイブ・シーンに影響されながらも、それから微妙に距離を置いたUKハウス…とでも言えば良いでしょうか。彼らのシングル紹介でも触れたように、ハードコア・テクノに色目を使ったと思しきリフの組み方が随所に見られながらも、完全に同化せずハウス・ミュージックへ軸足を残した音が展開されています。
全体的に高水準で、どの曲もお勧め出来るのですが、敢えて幾つか絞るなら、郷愁感あるピアノ・リフが展開するイタロ・ハウス的なm-4、流体金属のような質感を持ったアルペジオを下地に、ずるずると涅槃に引きずりこまれるような趣を持ったm-7、重いベースラインが伸縮し、艶のあるパッドが表層を撫で回すようなm-11が聴きどころでしょうか。


$日々是躍動三昧!-dop2D.O.P. - Musicians Of The Mind volume 2
(1993年/ Guerilla)
♪ m-4 Lion
♪ m-7 Here I Go













翌1993年に発表された2ndアルバムは、タイトルからして前作の続編という位置付けにある作品ですが、前作が全てイーブン・キックのリズムで作られたダンスフロア向けのトラックであるのに対し、本作は冒頭からスローテンポなブレイクスとなっているなど、内容はより多様性に富んだものとなっています。これはダンスフロアだけに固執しないコンセプト・アルバム的な路線を主眼に置いた制作方針からでしょうか。
音質も、電子楽器の比重が増して引き締まった印象が強いですが、やはり完全にテクノやトランスへ転んでしまうことがない(そうであったとしても別段悪い要素ではありませんが)均衡感覚は流石と云えます。
収録曲の中では最も性急で、幻想的な異空間にめまぐるしく翻弄されるようなm-3、ほんのり寂寥感ある伸びやかなパッドが黄昏を想起させるm-11あたりを挙げておきたいところです。



さて、次はGuerillaにおけるもう一つの顔役と云えるユニット、Spookyを取り上げてみます。

$日々是躍動三昧!-littleballetSpooky - Little Ballet ep (1993年/ Guerilla)
♪ m-1 Little Ballet(high velocity mix)
♪ m-2 Little Ballet(gargantuan mix)

後にSashaの補佐役を務めることになるCharlie Mayによるユニットの、代表作と云えるシングル。元々はロックシーンからの転身組だったという彼らの音には、その色合いが微塵もないものの、非常に幻想的かつ気品に溢れている。
細かくひんやりしたアルペジオやリフを幾重にも重ねたm-1は、幻惑に翻弄されながらも理性で意識を保っている感があるが、m-2に至っては完全に幻想世界に身を委ねたような感覚を強調した音に仕上がっている。特にm-1は前述のSashaやJohn Digweedと言ったトップDJが、非常に長きにわたってプレイし続けたという。



SpookyはDuncan ForbesCharlie Mayの二人組ユニットで、元々はBrian EnoRoxy Music4ADレーベルといった音を好きだったそうで、前述のように一時はロック・バンドに所属してギグのために全国を廻っていましたが、どうにも自分達にそれは合わないと感じてからコンピュータ・ミュージックにのめり込んでいったとのことです。
では、アルバムのほうも紹介しておきます。

$日々是躍動三昧!-garganSpooky - Gargantuan (1993年/ Guerilla,I.R.S)
♪ m-1 Don't Panic
♪ m-2 Schmoo
♪ m-3 Aqualung
♪ m-5 Little Bullet(part 2)
♪ m-6 Land Of Oz
♪ m-7 Something's Got To Give
♪ m-8 Orange Coloured Liquid
♪ m-10 Let's Go








『特にコンセプトはなかったけれど、ただの12インチを寄せ集めたアルバムではなく、トリップの始めから終わりまでを表現したかった』というだけあり、既に先行でリリースされていたシングルを4曲収録してはいるものの、本作は起承転結の付いた構成がなされた作品となっています。
全体的には明るめの曲調で瑞々しい自然風景を喚起させる曲が多いのが特徴で、実際それを意図していないとは言え、全体を貫く主題となっているのではないでしょうか。
特にそれが端的に曲調へ現れているのがm-3、m-8、そしてm-10で、静の雰囲気を感じさせる深みに満ちた展開が楽しめます。水面に光が反射してきらめくような趣があるm-2(彼らのもう一つの代表的シングル)やm-6も、併せて注目していただきたいところ。



彼らにはシングルで、もう一つ興味深いリリースがあります。
インダストリアル・ロックの草分け的存在に、奇行で有名なGenesis Breyer P Orridge率いるThrobbing Gristleというバンドがあるのを御存知の方もいると思いますが、彼らの初期における代表曲を、Spookyが女性ヴォーカリストBillie Ray Martinを起用してカヴァーしていたりします。

$日々是躍動三昧!-persuasionBillie Ray Martin & Spooky - Persuasion
(1993年/ Guerilla)
♪ m-1 Persuasion (original version)
♪ m-2 Persuasion (D.O.P's inword mix)

どのような経緯でこのカヴァーが実現したのかは今ひとつ不明だが、まるで絶望の果てのような暗さを持った難解な曲が、 憂愁感を帯びた聴きやすい曲へと作り直されているのが面白い。
真綿を締めるように響くBille Ray Martinの歌声も冴え渡っていて、Spookyによるバックトラックとの相性も良く、Guerillaの作品群にあって印象的なシングルとなり得ていると云えるのでは。
このシングルには沢山のremixが作られているが、コンピレーションのみに収録されたexclusive remixが特にお勧めである(シングルには未収録)。


原曲のほうは何人もの方が拒絶反応を起こすと思われるくらいのものですので、あまりお勧め出来ませんが、是非とも上のシングルと聴き比べていただきたいところですね。個人的には名アレンジと思っています。



さて、いよいよ晩期のGuerillaを飾るユニットの紹介となります。このレーベルの中では際立ってテクノやトランスの色合いが強いユニット、Lemon Solの作品を紹介します。

$日々是躍動三昧!-aquamarineLemon Sol - Aquamarine ep (1993年/ Guerilla)
♪ m-1 Aquamarine (deep blue mix)
♪ m-4 Aquamarine (warm water mix)
滑りのあるアシッド・ベースが印象的なシングルで、もはやトランスと言ったほうがしっくりくる出来栄え。特に哀愁溢れるフレーズと、性急なリズムで展開するM-1が一番出来が良く、まるで悲壮感を振り切って行こうとするかのような曲調が印象的。
Guerillaのオーナーはアシッド・トランスを特に好んでいたようで、レーベル晩期には、このような曲を他のレーベルからライセンスで引いてくるなど、トランスの普及にも尽力していた節がある。
彼らの曲も辛うじてハウスの色合いを残していたのは当該シングルくらいで、これ以降、テクノやトランスへ傾倒していった。







彼らはGuerilla所属の中で、(他レーベルのライセンスを除いて)最後のアーティスト・アルバム・リリースとなったユニットです。もはやこの頃はレーベル側もDub Houseを標榜していたとは言い難いリリースとなっていましたが、支持されなかったとは云え出来はそんなに悪くないものが多いし、今からでも見直す価値は充分にあると思います。

$日々是躍動三昧!-lemonLemon Sol - Environmental Architecture
(1994年/ Guerilla)
♪ m-1 Sunflash
♪ m-2 Memorandom
♪ m-3 Natural Ratio
♪ m-4 Polymorph
♪ m-6 Power Of Invation
♪ m-8 Universal
♪ m-9 Environmental Architecture
♪ m-11 Aura







このアルバムが発表された1994年は、ヨーロッパのみならず日本のテクノ界隈でもUKのテクノ・レーベルWarpが提唱する“インテリジェンス”と言われる、ダンスフロアの喧騒からベッドルームへの回帰を促すような作品が急速に浮上してきた時期にあたります。収録内容を見てみますと、大半の曲がイーブン・キック・ビートを多用しているものの、ダンスフロアで機能するような曲調は少なく、前述の“インテリジェンス”的な趣を持った、じっくり聴き込むことへ比重を置いた作りになっていることが窺えるかと思います。
全般的には、金属質のカン高いメロディラインが多用された、近未来を想起させるような曲調がやたら多いものの、1曲1曲の完成度はなかなかのもので、コンセプト・アルバム的な構成の採り方も申し分なく、インテリジェンス・テクノ(現在の定義を当てはめるならIDMとでも云うべきでしょうか?)の本場Warpレーベルの作品と比較しても遜色ない出来栄えと言えるでしょう。



では、最後にレーベル・コンピレーションの紹介と行きましょうか。
今回の表題にもなっている“Dub House”を名に冠したコンピレーション・アルバムで、ここからダブ・ハウスというカテゴリーが産まれた訳です。

$日々是躍動三昧!-dubhousediscoVarious Artist -
Dub House Disco The Third

(1994年/ Guerilla,Tribal America,I.R.S)
♪ m-3 Matter - Underground(sub level one mix)
♪ m-5 Supereal - Blue Beyond Belief(steel blues mix)
♪ m-7 Abfahrt - Come Into My Life(hart fab mix)
♪ m-8 Code M.D. - Higher(in dub)
♪ m-9 The Chameleon Project - Columbia
♪ m-10 Tenth Chapter - Prologue(initial dub mix)
♪ m-11 Shape Navigator - Solar







Guerillaは、この他にも幾つもコンピレーションを発表していますが、シリーズとして続いたのは、この“Dub House Disco”で、本作はその3作目にあたります。
収録内容で特に目を引くのは、前編でも紹介したSuperealによるm-5で、揺らめくギターフレーズと涅槃行きを促すコーラスによる、強烈な歪みが体験出来る1曲。他にも、故Torsten Fenslauによるm-7の鋭角的なトランス作や、インスト・レゲエ的な趣がある陽気なダウンテンポ曲のm-8、ぶよぶよしたベースラインと、微かな郷愁を感じさせるフレーズが印象的なm-10など、レーベルが提唱するダブ・ハウスの入門編として最適な布陣と云えましょう。
このレーベル・コンピを最後に、Guerillaは惜しくも倒産してしまうのです。



…と思っていましたが、実はこのレーベル、3年ほど前に“Guerilla recordings”として再建され、リリースを再開していました。今はまだ過去作品のmp3データを配信するのが主ではありますが、D.O.Pによる久しぶりの新作も配信されているし、過去の名作の復活も有り得る訳で、これからも新生Guerillaに期待!と言ったところですね。










さて、今回の後編、いかがだったでしょうか。読むのにかなり体力を要したのではないでしょうか。もう少し整理したかったのですが、これが私の限界です。申し訳ない。
次回はもっと整理して書くようにしたいです。
ではではまた。