今回は蛇足的ではありますが、前回記事にしたSashaについて、その後のリリースを補足しておきたいと思います。実は前回の記事に書き加える形を取ろうとしたのですが、あまりに字数が多過ぎて加筆が不可能となってしまいまして、新たに更新せざるを得ない事態になったためです。
そのまま新たに書き起こした文章をお蔵入りにすることも考えましたが、何だか勿体無い気がしてきたし、いっそ思い切って公開してしまおうということで、宜しく。
では、“Airdrawndagger”以降のリリース、続きをどうぞ。
リミキサーとしての仕事量も数多い彼ですが、その長年に亘るリミキサーとしての手管を再び印象付けるリリースもしています。

[all tracks remix & DJ mix by Sasha]
♪m-1 Grand National - Talk Amongst Yourselves
→♪m-2 Shupongle - Dorset Perception
→♪m-3 Petter - These Days
→♪m-4 U.N.K.L.E. – What Are You To Me?
→♪m-5 The Youngstars - Smile
→♪m-6 Spooky - Belong
→♪m-7 U.N.K.L.E. - In A Dream
→♪m-8 Lostep - Burma
→♪m-9 Felix Da Housecat - Watching Cars Go By
→♪m-10 Ulrich Schnauss - On My Own
これまでSashaがリリースしてきたmix CD同様、本作は得意のキーを読んだミックスによって進行していく形式ではありますが、使用されたトラック全てが彼の手によって再構築されており、単に曲を使用したmix CDよりも作家性が色濃く現れたものとなっています。
アルバム“Airdrawndagger”でも顕著だったニュースクール・ブレイクスの傾向も継承され、延々と深みを強調した雰囲気が続く物語展開をリズムの変化で補っているため、緩急の乏しさはさほど感じられません。
また、本作中最も深みを感じさせるm-6を経由したまま内向的な展開が続くかとみせかけて、生弾きベースが唸りを上げるm-9で一気に覚醒を促し、それを引き継ぐ形で爽快感を伴ったm-10を投下して上手く着地させるという意外性も用意。コンセプト・アルバムとしても高水準な一枚です。
この“Involver”はシリーズ化されており、今現在の最新作である3作目までリリースされる程の人気シリーズとなりました。インターネット上でクラウド・コンピューティングやyoutubeで気軽にDJ mixが聴けるようになった今、こうして商業フォーマットでmix CDをリリース出来るDJは数少なくなる傾向にあるし、最前線で活動を続ける彼には、今後もこうした作家性を反映したmix CDのリリースを期待したいですね。
Involverのリリース以降、鳴りを潜めていたSashaですが、2007年に突如自身のレーベルを設立し、リリースを再び活性化させます。

♪m-1 Coma
自身のレーベルemFireからの1stシングル。片面のみのepで、これにもやはりCharlie Mayが参加している。
夢幻境を彷徨うような音の作りは相変わらずながら、少ない音数を作り込む作風に移行したのは、当時クリック・ハウスやテック・ハウスと親和性が顕著になったプログレッシブ・ハウス・シーンに対する、彼なりの回答か。これまでの寂寥感溢れるメロディラインへの拘りは若干影を潜めており、揺らぐようなエフェクトを強調したストリングスが、荒涼とした情景を描く。
但し曲調自体には特に目立った変化はないので、多少物足りなさも否めないものはあるが。
以降、2008年までに“Park In The Shade

♪m-1 Mongoose
一連のリリース攻勢の中では最も人気が高かった1曲のみのシングルで、正規ではmp3のみ入手が可能である。彼にしては珍しくメロディラインを極限まで排除し、ベースラインを際立たせた曲調に仕上げられている。
断片的に挿入されるメロディや効果音からは、既に発表されたシングル“Coma”以上にクリック・ハウスからの影響が濃厚に感じられ、時折それが花火の如く弾ける展開が聴きどころだ。
大袈裟なエフェクトに翻弄されるような感覚は薄く、これまでの路線からすれば一見地味な印象を受けるが、大きなクラブのプレイでは真価を発揮する部類に入るのではないだろうか。
2008年には、一連のリリース攻勢を纏めたシングル集もリリースしています。

(2008年/ emfire)
…disc1 - the remixes…
♪m-1 Coma (Slam soma coma mix)
♪m-2 Park It In The Shade (Audion deep steeple mix)
♪m-3 Who Killed Sparky? (Radio Slave's brooklyn dub)
♪m-4 Mongoose (The Field's floating mix)
…disc2 - the originals & bonus score…
♪m-1 Coma (spangled rubdub)
♪m-2 Park In The Shade (exclusive emfire edit)
♪m-3 Who Killed Sparky? (exclusive emfire edit)
♪m-4 Mongoose (exclusive emfire edit)
♪m-5 New Emissions Of Light and Sound (film score)
レーベル・コンピレーションとしてのリリースとなった本作は、他のミュージシャンやDJにリミックスを依頼したものを編纂したdisc1、Sasha本人によるミックスを収めたDisc2からなる2枚組となっています。
Disc1におけるリミキサーの布陣は、UKテクノ・レーベルの老舗SomaのオーナーであるSlamや当時破竹の勢いだったRadio Slave、Matthew DearのユニットAudion、Kompaktレーベルから頭角を現したThe Fieldと、これまで繋がりが薄いと思われていた意外な面々が4組、それぞれ2曲ずつリミックスを披露しており、前半4曲は元曲から大胆に変化を遂げたリスニング・トラック、後半4曲は元曲の良さを継承するフロアを意識したトラック…というような構成となっています。
特に大御所Slamによってベースラインが強化されたm-5、逆にベースライン主体だった曲調に細かいアルペジオが加味されたThe Fieldによるm-8は、安定感があって聴きやすい仕上がりです。
変わってSashaによるDisc2は既に発表された曲群を、それぞれ5分強の尺に直したもので特に取り立てて目立った要素もありません(曲そのものは良い出来ですが)。が、最後に収録されたm-5は、サーフィンの模様を収めた映像のサウンドトラックとして作られたもので、数曲がmega mix仕立てで40分超にも亘って展開していくという、聴き応え抜群の内容。彼が得意とする物憂げな曲調のニュースクール・ブレイクスを中心に、前述のシングルComa等を使用して描写される壮大な世界観は、フィルム・スコアであるという前提がなくても単体で通用する、非常に完成度が高いものです。特に1stアルバム“Airdrawndagger”の世界観が好きな方なら、このm-5には唸らされるのではないでしょうか。
以上、前回の補足をしてみましたが、いかがだったでしょうか。
彼は本業がDJであるゆえ、自身の曲に関してはリリースが断片的なほうですし、どちらかというとmix CDで聴く機会のほうが多いと思います。都合上記事では扱いませんでしたが、一応下記に幾つか私なりに推薦盤を上げておきますので、是非ご一聴を。
では、今回はこの辺で。
Sasha & John Digweed - Communicate | Sasha - Global Underground:13 [Ibiza] | Sasha - Fundation NYC |