更新頻度が月一回にまで落ちてしまい、怠け癖がすっかり板についている当ブログですが、こんな体たらくにも関わらず、ぼつぼつ閲覧されている方がいるようで全く申し訳なく思っています。
書きたいテーマはあるのですが、なかなか良い資料が見つからず、詳細を書くことが出来ないでいる内に面倒くさくなって放置したりの繰り返しで、遂に月末まで来てしまいました。
しかし、いつまでも更新しないままでいるのもやぶさかではないし、浅い内容にならざるを得ませんが見切り発車という形で更新することにします。
さて、今回の題目は…

Frankfurt Beat Productions
ドイツの名門クラブとして名を馳せたドリアングレイでテクノ・パーティーを主催していたJens Maspfuhlらを中心に、ドイツのダンス系レーベルMMS傘下として1993年に設立されたレーベルで、その名の示すように、フランクフルトが拠点である。
設立当時はジャーマン・トランスがシーンを席捲していた頃で、その動きに便乗する形で沢山のトランス・テクノ専門のレーベルが次々と設立されていたが、このレーベルもまた、その便乗組の一つだったようだ。
比較的テンポが速いニューエナジーに近い作品のリリースが多く、当時ジャーマン・トランスの総本山的役割を担っていたSven Vathが運営するEye Q/Harthouseと、ハンブルクのSuperstitionレーベルの中間に位置するような曲調が特徴である。
ジャーマン・トランス・ブームの収束と歩を揃えるように失速、親レーベルMMSの運営上における揉め事の煽りを受けつつもリリースを継続していたが、2000年にレーベルは倒産した。
当時のトランス・ブームを知る方なら、ジャーマン・トランスと云えばEye QやMFS、Superstitionといったレーベル名は即座に答えられるものの、このレーベルとなると『はて?』という人のほうが多いのではないでしょうか。先に挙げたレーベルによる作品の印象が強過ぎて、日本では今ひとつ知名度が高いとは言えないこのレーベル、僭越ながらこの私めのブログにて日の目を見ていただきましょう。

♪m-1 Sway Ex
♪m-2 Sway Er
後にIlluminatus名義で、トランス黎明期の隠れた秀作“Hope”を発表するDennis Pierre Sarratouによるプロジェクトのシングル。
16分刻みのベースラインを基調としたつんのめり気味な曲調で、どことなくゴア・トランスの匂いも感じられる。
収録内容の殆どが上記の様式を踏襲している以外、取り立てて特徴は乏しいが、フランクフルト産トランスの多くは、こういった曲調が定番で、まあ手堅い作りと云える。

♪m-1 The Tempodrom
♪m-2 Juno Dream
せわしなく疾走する大仰な哀愁の裏拍メロディが印象的なシングル。
当時オランダを中心に盛り上がりを見せていたギャバーからの影響を匂わせる、この手のハード・アシッド・トランスは、本レーベルのリリースに多く見られる定番的なもの。
実際ギャバーとともに、こういったハード・トランスが現場では一緒くたにプレイされていたとか。こういう形式が後にニューエナジーへと進化したり、ハッピー・ハードコアのシーンからの回答としてトランス・コアへと昇華されるなど、ジャンルの架け橋的役割も果たしていたりする。

♪m-2 Transfer To Vacuum
♪m-4 Scene Of Passion
どちらかと言うとClark & JonesやState Of Houseといった別名義のほうが有名な2人組ユニットによる、ニューエナジー調のシングル。
これまた本レーベルにおける典型的な形式を踏襲した内容ではあるがしかし、m-4の垢抜け具合はなかなかのもの。要所要所で被ってくる壮大なストリングスと、細かいピアノのメロディラインが美しい。
このような曲が当時ジャーマン・トランスのシーンでは山ほど“量産”されていて、どれもこれも模倣に終始しているきらいはあるが、見直す価値は充分にあると思う。

♪m-3 Streams
♪m-4 Vision
Eternal BasementやSaafi Brothersなどの名義を使い、現在もなおトランス・シーンで活動を続けている古株Michael Kohlbeckerのプロジェクトによるシングルで、当時Harthouseで使用していたEternal Basement名義の作風に近似した160bpmを超える硬いリズムの疾走感と、色彩が殆ど感じられない閉塞的な曲調が印象的だ。
なお、このレーベルからはTronicやParagonという名義でもリリースしていて、そちらのほうは陰りのあるメロディラインを前面に出した曲調になっている。
Michael Kohlbeckerがこのレーベルからリリースしていたことは、不覚ながら記事を書く際に調べるまで気付きませんでした。何度と無く彼の使っていた名義での曲を聴いていたのに。おまけに何枚ものリリースがあるので、もしやharthouseよりも、こちらのほうが主力拠点だったのではないか…と思うほどです。

♪m-1 Poets(remix)
♪m-3 Monk's Trance
これもMichael Kohlbeckerによるプロジェクト。
前年にリリースした“The Poets”のリミックス・シングルで、170bpm超の暗い曲調だった元曲と比較して疾走感こそ控えめになっているものの、より壮大なストリングスやピアノの軽快なメロディラインが導入され、眩い輝きに満ちた情景を彷彿させる曲調へと変化したm-1が、とにもかくにも秀逸だ。
m-3は彼らが得意とするbpm値が高めの疾走感溢れる作りで、丸みがある細やかなトーンで組まれたメロディラインによる、郷愁感を感じさせる響きが印象的。
同レーベルにおける彼らの代表的シングルと云えるだろう。
Frankfurt Beatと言えば、さほど有名になれなかったミュージシャンが佳作秀作を地道に発表していた印象がありましたが、意外と大御所ないし中堅どころがリリースしていたりするものです、改めて調べてみると。

♪m-1 Another Hot Day At The Bay
Jam El Marと組んだDance 2 Tranceの名義で知られるDJ Dagと、Alan Aronossによるユニットからの、1枚きりで終わったシングル。DJ Dagが得意とする民族音楽的な風合いを上手く生かしたリズムと、春めいた感触のメロディラインが特徴的な曲に仕上げられている。
Dance 2 Tranceでは売れ線を意識した曲を手掛ける彼も、ここでは本来の意味合いでのトランスに寄った曲調なのが逆に新鮮かも知れないが、幾分勢いも控えめなため、物足りなく感じる向きもあるだろう。
有名どころについてはこれぐらいにして、それ以外での目立ったリリースを引き続き追ってみましょう。
因みにこのレーベル、殆どのリリースがヴァイナルだけでなく、しっかりとCDシングルにも対応しているため、当時のCDJ派からの受けも良かったのではと思います。

♪m-1 Deep Thought(remix)
♪m-3 Molecular Analizer
多数の名義を使い分けて結構なリリース量を誇るも、今ひとつ存在感を誇示出来なかった感があるMarc SteinmeierとOlaf Cramerのユニットによる、典型的なハード・トランス・シングル。
先述したVirus Incと同様の、疾走する16分刻みの細かいベースラインと流麗なアルペジオ・メロディが絡む形式は、それこそこの当時のハード・トランスの手本と云えるもの。目新しさはないが、この寂寥感を刺激するメロディは、なかなどうして癖になるものがある。元曲にあたるm-4よりも、remixされたm-1の強化されたメロディラインが聴きどころだろう。

♪m-1 Never Die
♪m-2 No Pain
レーベルオーナーJens Maspfuhl自身のユニットによるシングル。これ以外、彼はこのレーベルから作品をリリースしていないのが少々残念なところ。
重奏感あるメインフレーズ、ベースライン共に裏拍打ちを基調としたニューエナジー調のm-1は、弾力あるリズムの音触と躍動感が印象的な曲。代わってm-2はアシッド・ベースがうねり倒すゴア・トランス風な曲で、Platipusレーベルのリリースにも通じる冷たい質感があるのが特徴か。
大量生産的で少々個性に薄いリリースが多いこのレーベルにあって、なかなか健闘しているシングルだと思う。

♪m-1 Moon Rain
このレーベルからExit Lunarという名義でもニューエナジー風味のシングルを発表しているMarco SchomannとMichael Gutschによる、非常に繊細なトランス・シングル。
ハード・アシッド・トランスのリリースが多数を占めるこのレーベルの中にあって、ここまで繊細かつ優しめの音色で彩られたトランスは、ある意味で新鮮だろう。か細く、過剰に感傷的なメロディが控えめに展開していく。
リズムにしても音触にしても全く角が立たないため、イーブン・キック・ビート仕様であってもダンス・トラックとしては物足りないので、リスニング・トラックとして聴くのが良いだろう。
レーベル設立当初から後期まで、個人的に主だったリリースを挙げてみました。
改めてざっと聴き込んでみると、『凄く好きな曲調なんだけれど、似通った曲があまりにも多過ぎる(紹介記事も書きづらかったです)』『確かに良い線行っているんだけれど、あとほんの一歩何かが足りないな』と思わざるを得ない…というのが本音ですかね。このレーベルが日本で今ひとつの知名度となっている理由も、そういうところにもあるのではないでしょうか。
さて次は、レーベル・コンピレーション・アルバムを挙げてみたいと思います。
このレーベルはアーティスト・アルバムの発表が皆無ですが、レーベル・コンピレーションに関しては充実しているのが特徴でしょう。3枚(厳密には4枚)のリリースがあり、全て入手すれば、主なリリースの殆どを聴くことが出来ます。順に紹介してみましょう。

Frankfurt Beat Compilation (1994年)
…disc 1…
♪m-1 Robotnico - Brazilian Trancer
♪m-2 The Jeyenne - Kickin
♪m-4 Cryptic Diffusion Ⅱ - Adhesiveness
♪m-6 Central Love - Experience Of A Beautiful Rainbow
♪m-11 Paragon - Everything was Legal
…disc 2…
♪m-3 Virus Inc - Temple Of Colours
♪m-4 Cardiac Infarction - Flying (Ba Da Da)
♪m-6 Cryptic Diffusion - Spring Tools
♪m-8 Naghachian Ⅱ - Down (survival edit)
♪m-10 Ephedra - Eve (ceres mix)
トランス・ブーム最盛期に発表された最初のレーベル・コンピレーションは、いきなり2枚組でのリリースとなっており、本レーベルの特色とも云える疾走感あるリズムとTB303のベースラインを主体としたハード・トランスが数多く収録されていますが、その中で際立つものを挙げるならば、やはりMichael Kohlbeckerの別名義による曲群(disc1 m-11、disc2 m-2、m-5、m-11)となるでしょうか。
他にもテープ早回しのヴォーカルサンプルによるメロディラインが印象的なdisc 2 m-4、Jean Michel Jarreによる傑作Oxygene 2のメロディを用いたのかと見まがうようなdisc 1 m-10、軽快なピアノ・フレーズの物憂げな響きが印象に残るdisc 1 m-5、m-6なども、なかなか捨てがたいものがあります。そういえば前述のMichael Kohlbeckerもピアノのメロディラインを多用していますし、後にRobert Milesを中心に盛り上がりを見せるピアノ・トランス(ピチカート・ハウスとも言われる)というカテゴリーにも、本レーベルのリリース群は間接的に影響を与えたかも知れないですね。このコンピレーションに限らず、Frankfurt Beatレーベルからのリリースは、そう思わざるを得ない程にピアノ・フレーズの使用頻度が高かったりするのです。

Frankfurt Beat Compilation vol.2 (1995年)
♪m-1 Unknown Structure - Music For The Brain (remix)
♪m-2 The Jeyenne - Das Nippel
♪m-3 Circuit - Transport Of Love
♪m-4 Robotnico - Backtired
♪m-5 Syncrotron - Approach Phase
♪m-7 Energy Raver - Somebody Scream
♪m-8 Central Love – Traum
♪m-9 Equilibrium - Obscurities
♪m-10 Sushi - The House Of Hong
♪m-11 The Third O - Mind Reflexion (Orbiter mix)
♪m-12 Dirlin Sun – Linus
翌1995年にリリースされた2枚目のコンピレーションは収録曲こそ減ったものの、内容は前作にも増して充実しています。何と言っても陰りと哀愁感あるメロディラインを多用する曲が大幅に増えているのが、やはり最大の魅力でしょうか。このような流麗なメロディラインを使ったトランスは当時から絶大な人気を誇っていましたが、ことフランクフルト産のそれは過剰に感傷的なものが多く、本作の収録内容もまた、そのような動きを反映させた選曲となっています。勿論これは他レーベルのトランス・コンピレーション(特にEye Qなど)でも共通して見られる傾向で、売れ線への便乗と言ってしまえばそれまでなのですが。
収録内容で特に印象的なのは、際立って大仰で、くぐもった哀愁旋律を全面に展開したm-2、艶のあるメロディがほんのりと叙情的に響くm-8、Eye Qレーベルの向こうを張るようなクラシック音楽の要素を多分に感じさせる、荘厳な哀愁旋律を展開したm-11辺りでしょう。他にも強烈なアシッド・ベースをそのまま展開するかと思いきや、要所で陰りあるストリングスを交えてくるm-1、同様にハード・アシッド・トランス路線と見せかけてピアノのメロディラインを交錯させてくるm-7も、併せてお勧めしたいところです。

Frankfurt Beat Compilation Vol.3 (1995年)
♪m-1 Mantrax - Symmetry
♪m-4 Mindwarp - Dusty Hill
♪m-5 Morphielder - The Whistler
♪m-6 Mac Acid - Mind Flow
♪m-7 Natural Born - Death Row
♪m-8 Climax - The Stuff
♪m-9 Robotnico - Dusk
♪m-10 Syncrotron - Excalibur
♪m-11 Sushi - Osaka Acid
♪m-12 Cardiac Infarction – Moondancer
前作vol.2から間髪入れず同年のリリースとなったコンピレーション3作目は、打って変わって過剰な哀愁旋律路線が後退し、従来の主力だったハード・アシッド・トランスの路線の作風で収録内容の多くが占められています。これは推論ですが、元々本作はVol.2のDisc 2として纏められていたものを3枚目のコンピレーションとしてリリースしたような気がします。と云うのも、当時このレーベルの親レーベルだったMMSが運営上のトラブルに見舞われていたらしく、それが様々な面で傘下レーベルの財政を、何らかの形で圧迫したのではないでしょうか。それがこういう形で現れていたのでは…というのが私の推論ですが、どうでしょう。
収録内容は前述したようにハード・アシッド・トランスの典型的な曲構成を踏襲したもので占められていますが、前作と比較しても際立って印象に残る曲は少ないように思われます。可もなく不可もなく無難に聴けるという印象以上のものを感じられないといったところでしょうか。
強いて挙げるとするなら、重奏感ある強烈なアシッド・ベースが唸りを上げるm-8、ほんのり郷愁感あるフレーズがせわしなく疾走するニューエナジー路線のm-10辺りをお勧めしておきましょう。
他にも幾つかコンピレーションをリリースしているのですが、厳密にレーベル・コンピレーションと云えない内容なので、ここでは割愛させていただきます。
以上、主なコンピレーション・アルバムを紹介しましたが、上記3作をボックスセットにまとめた“Frankfurt Beat Box”もリリースされていますので、予算と好みで選ぶと良いでしょう。

Frankfurt Beat Box (1996年)
…disc 1…
Frankfurt Beat compilation vol.1(disc 1)
…disc 2…
Frankfurt Beat compilation vol.1(disc 2)
…disc 3…
Frankfurt Beat compilation vol.2
…disc 4…
Frankfurt Beat compilation vol.3
このレーベルについては以上にしておきますが、色々調べるうち、レーベル・オーナーJens Maspfuhlについて興味深い話が出てきたので、今回はそれについて簡単に触れて終りにしようと思います。
彼は2000年にレーベルを閉鎖した後、どういう経緯なのかは不明ですが、ゴルフ・プレイヤーとしての活動を始めています。2001年にはゴルフ場まで作っているので、賭ける情熱も腕前も当時から相当なものだったのでしょう。2002年のチャリティートーナメントキッズケアなる大会では何と優勝までしています。
着実にゴルフ・プレイヤーとしての歩みを続けていたJensですが、突然の不幸に見舞われます。2003年にタイを訪れていた彼は、友人達とゴルフ・コースへ向かう途中で交通事故に遭い、それが原因で脊髄を損傷、腕から下が麻痺するという障害を背負ってしまうのです。
それでも彼はゴルフへの情熱を捨てることはなく、6ヶ月に亘る入院とリハビリ生活の後、半身不随のまま車椅子を駆ってゴルフ・コースへと舞い戻り、障害者ゴルフ・トーナメントにも参加。2005年には障害者の援助団体まで設立、続く2006年には障害者ゴルフ大会で優勝するなど五臓六腑の活躍を見せています。
現在もなお障害者ゴルフ・プレイヤーとしての活動を続けている彼ですが、まさかこういう形でクラブ・ミュージック・シーンと違うところでも大輪の花を咲かせていることに、只々驚き、脱帽するばかりです。
その後の彼に興味ある方は、本人のサイトで調べてみて下さいませ。
では、今回はこの辺で…。