毎日吹雪吹雪氷の世界(大袈裟)ですが、皆様如何お過ごしでしょうか。住んでいる所が北海道で、しかも山と海に挟まれた土地柄ゆえ、寒さも半端なものではありません。道央道北部と比較すれば、まだましなほうと云われてしまいますが、こちとら冬の道央道北は殆ど体験した事がございませんし、何よりもそんなことで自慢されてもどうしようもないので困りました。
さて、御託はこれくらいにして今回の題目は、UKのハウス・ミュージック系レーベル“Guerilla”について触れてみたいと思います。
前回扱ったAzukxの件で、ダブ・ハウスというジャンルについて少しだけ説明させていただきましたが、そのダブ・ハウスというジャンルを命名し、広めたのは、他ならぬこのレーベルだったりします。
Guerilla records

レーベル名は自身のレコーディング・ストゥディオに因んだものである。
どちらかというと、Dick O'Dellの趣向を反映した運営がなされており、ジャンル名となった“ダブ・ハウス”も、彼がレーベル・コンピレーション・アルバムから取ったものである。
1994年に倒産し、レーベルとしては短命に終わったが、UKのプログレッシブ・ハウス・シーンの草分けとして重要な役割を果たした。
William Orbitと言えば、もう大御所と云えるくらいのビッグ・ネームです。
彼がクラブ・シーンで果たした功績について詳しく触れるなら、それだけで前編後編どころでは済まないほどの仕事量なので、ここではばっさりと割愛させていただきます。
彼の名前があまりにも有名なため、Guerillaと言えばWilliam Orbitのレーベル…というように取られてしまうようですが、実際は上で解説したように、Dick O'Dellが実質オーナー的立場で運営していました。当時William OrbitはBass O Maticというユニットを結成し、持ち前の卓越したトラック構築でGuerillaの名を世に知らしめたのですが、間もなくして大手Virginと契約してからは、運営から手を引く形になっていたようです。ともあれ、このレーベル最初のリリースであるBass O Maticのシングルから紹介してみることにしましょう。

(1990年/ Guerilla, Virgin)
♪ m-1 In The Realm Of The Senses(fantasy mix)
Touch Song時代からの付き合いであるLurie Mayerのソウル調なヴォーカルと、剥き出しの電子音を全体に散りばめた1stシングルで、今もなお名機との誉れ高いアナログ・シンセサイザ、ローランドJuno106を駆使した近未来SF的な雰囲気が印象的。但し、今聴くと隔世の観ある懐古的な音ではあるのだが。
このシングルで彼等は早々とVirginにサインして、以後はVirginからのライセンスが下りる形でGuerillaからリリースすることになる。同年には本作を含む1stアルバム“Set The Controls For The Heart Of The Bass”もリリースしている。
この当時はまだ“ダブ・ハウス・ディスコ”を標榜したリリースはしていません。上で挙げたシングルのような、明らかにアシッド・ハウスの影響を受けたサウンド以外では、ヒップ・ホップや所謂グラウンド・ビートと言われるジャンルもリリースしており(Bass O Maticのアルバムで聴かれる音はグラウンド・ビート的な曲調が多い)、試行錯誤段階だったと云えます。本格的にダブ・ハウス・ディスコを打ち出すのは1991年以降になってからです。

♪ m-1 Intoxication(original mix from complete Intoxication)
♪ m-3 Intoxication (Leftfield's dub field mix)
♪ m-4 Intoxication(Justin Robertson's rhythm trance mix)
穏やかで温かみある情景を喚起させるストリングスが印象的なシングルで、どちらかと言うとリミキサーとして参加したLeft Fieldによるremixのほうが有名。そちらは大々的にレゲエからのサンプリングを使用し、よりダブの色合いを強く出したものとなっている。そのためか、元曲の知名度はあまりないのが玉に瑕か。
このようにダブ・ハウス成立の過程には、プログレッシブ・ハウスの草分けたるLeft Fieldや、後にLionrockで有名となるJustin Robertson等が絡むなどの追い風もあった。
このReact 2 Rhythmは、Guerillaからいち早くアルバムをリリースしたユニットでもあります。
早速ですが、アルバムも続けて紹介しましょう。

(1992年/ Guerilla)
♪ m-4 All Or Nothing
♪ m-5 Whatever You Dream (dark mix)
♪ m-6 Nu Yorker Magic
♪ m-8 I Know You Like It
先に挙げたシングルIntoxication(m-1)を含む本作は、酩酊感や金属的質感を前面に押し出した曲調のものが多く収録されています。レーベルが提唱するダブ・ハウス的な土臭さは薄めで未来的な印象が強く出ており、云わばテクノ、トランス、ハウスの中間を取り持つような作品と言えるでしょう。当時潮流だったコンセプト・アルバム的な作りではなく、シングルを寄せ集めて作ったようなところはありますが、リズムの質感など今聴いても遜色はないほどの強度は維持しています。
夕暮れ時の生暖かくたゆたうような風を髣髴させるm-5、雨上がりの摩天楼に架かった虹のような風景を思わせるm-6、晴れやかな期待感と燻るような焦燥感が交錯していくm-8をお勧めしておきましょう。
ダブ・ハウスと言いながら、結構その路線から外れた作もGuerillaには多いです。後にジャーマン・トランス系もライセンスしたりしていますからね。当時のインタビューでもDick O'Dellが『まぁ僕は好きにやれるってとこかな』(remix25号より)と言っていたくらいです。

(1992年/ Guerilla,Tribal America)
♪ m-1 Body Medusa (Leftfield mix)
♪ m-3 Body Medusa(Karl Bonnie's in your head mix)
ギターサウンドをさりげなく使ったトラックを得意とする、3人組ユニットによる1stシングルで、このシングルでもLeft fieldがリミキサーとして参加している。
陽気なギターフレーズ、ベースラインにパーカッションが絡むm-1は、まさにダブ・ハウスの典型的な音を提示したもの。m-3のKarl Bonnieによるmixでは、アフリカン・パーカッションのリズムのみならず、ダブが持つもう一つの側面である大胆なエフェクトをかけた空間の揺らめきが楽しめる。
いよいよダブ・ハウスという音が出てきました。ここでもLeft Fieldの名が出て来る辺り、如何に彼らがダブ・ハウスにおいて重要な位置を占めていたかが覗われるというものですね。
Superealは上のシングルと同年にアルバムも発表しています。これも続けて紹介してみましょうか。

♪ m-2 Aquaplane
♪ m-3 Blue Beyond Belief
♪ m-5 I Almost Love You
♪ m-6 Terminal High R.I.P
♪ m-7 United State Of Love
♪ m-8 One Nation
本作で興味深いのは、先に挙げたギターサウンド使用だけでなく、収録曲の至る所に挿入されているコーラス及びヴォーカルでしょう。これはメンバー達によるものなのか、はたまたサンプリングのものなのかは不明ですが、バンド・サウンドっぽい雰囲気を醸し出すなど一定の効果を挙げていると云えるのでは。
収録内容は、揺らめくような感覚や瞑想的な雰囲気を強調した曲から、躍動感や高揚感を前面に出したものまでと多岐にわたっており、構成も良く練られています。
どっしりとした広大な空間を直進して行くような雰囲気が特徴のm-6、ヴォーカル陣を総動員して天井上がりの高揚感と共に晴れ渡った大空を滑空していくm-7、郷愁感を帯びたコーラスに似つかわしくないほどの重いリズムがのたうつm-8が特にお勧めですね。
個人的にはGuerilla作品の中で最も良く聴いた作品です。
今回もまた長くなりそうなので、一旦ここで区切りとさせていただきます。
本当は1回でまとめたかったのですが、書き進んでいくうちに次々と『あれも書きたい、これも紹介したい』となってしまいまして…すみません。
次回は後編として、Guerillaの看板ユニット的存在だったD.O.PとSpooky諸々について触れてみたいと思います。
お楽しみに。