12月も瞬く間に過ぎ、あと9日経てばC.E.2013年になってしまいますね。
世間はクリスマスに正月と、せわしなく華やかな雰囲気に染まっていますが、当ブログは変わらずにクラブ・ミュージック中心の音源紹介と決め込みましょう。
1990年代前半期にイギリスで始まったUK産ハウスの亜流に“ダブ・ハウス”といわれるものがあります。
これは、西インド諸島からの黒人移民達が持ち込んだダブ/レゲエの技法を、アメリカから輸入したハウス・ミュージックに応用したもので、主に大胆なエコーを掛けて空間的奥行を強調したコード、ラテン若しくはアフリカのパーカッションを効果的に使ったリズムを特徴としており、UK独自解釈によるハウス・ミュージックの出発点となりました。またの名をプログレッシブ・ハウスとも言われています(ただし今現在のプログレッシブ・ハウスと比較して随分と隔たりがある)。

♪ m-1 Song Of Life(extended version)
♪ m-2 Dub Of Life
今回のブログの主旨から逸れるが、都合上外せないと思われるので紹介する。
現在まで連綿と続くダブ・ハウス/プログレッシブ・ハウスの原点であり、UKトランス・シーンでも絶大な影響力を発揮したシングル。トランス・クラシックとして現在もremix及び敬意が絶えない。
パーカッショニストとしての経験に裏打ちされたリズムと、ダブからの影響を匂わせるコールタールの如くうねり狂うベースラインが、黄昏時前の熱気と高揚感を煽る。
かつてイビザ島に住んでいたが、不慮の事故で亡くなった友人へ捧げた曲とのこと。
ダブ・ハウスが潮流となったことで、以後UKを中心に洋の東西を問わず、民族音楽を融合したハウス/テクノが盛んに作られることが定着していきます。それ以前にも民族音楽をクラブ・サウンドへ融合した形式がなかったわけではありませんでしたが、シーンに手法として民族音楽が定着したのは、やはりダブ・ハウス以降ではないかと思います。
今回はそのダブ・ハウス周辺で、あまり知られていないアーティストを取り上げてみます。その名はGary Azukx。Robert Wyattの作品にも参加したことがある、ジャンベ奏者でもあります。

♪ m-1 Lift (future mix)
♪ m-2 Lift (Joi Tranceformasian)
The Prodigyが長らく所属していたことで有名なXL recordingsのサブレーベルMantraからリリースされた1stシングル。
ダブ・ハウスの流れを汲む作風で、ベースラインも重量感はあるが土臭さは抑えられ、民族音楽に馴染めない人にも比較的聴きやすい音に仕上げられている。
心地良い浜風が、海原の波と共に躍動するような情景を彷彿させる曲調が秀逸で、トライバル系バンドJoiによるremixが施され、よりメロディラインに華やかさが増したm-2が特にお勧め。ジャンベの使用は控えめで、その主張の乏しさが逆に良いほうへ作用したようだ。
日本のメディアで彼が取り上げられたことは殆どなかったのもあって、彼の詳しい情報は判明していません。
海外のサイトもかなり当たってみたのですが、結局彼の音楽的背景に関しても詳しい裏を取ることが出来ませんでした。でも、幾つかの海外のサイトでは、彼のトライバル・トランス的作風に絶賛を送っているところもあり、今回ブログを書くにあたって大いに参考とさせていただきました。
さて、余談はこれくらいにして彼のアルバムも挙げてみましょう。

♪ m-2 124 Stomp
♪ m-3 Tranqulity
♪ m-4 Lamb
♪ m-5 Martha's Dance
♪ m-6 One Tribe
♪ m-7 Euphoria
先に紹介したシングルLift(m-1)を含む全7曲、アルバムとしては少々収録曲が少ないようにも感じますが、変に収録内容が充実し過ぎて全曲通しで聴くのが疲れるという方には丁度良いのかも知れませんね。
肝心の収録内容は、全編にわたってダブや民族音楽の傾向が強く出ていますが、どちらかというと怪しげな宗教的側面より、華やかで祝祭的雰囲気を前面に出した作風となっています。
幾重にも重なるベースラインが呪術か祈祷を彷彿とさせながらも、どことなく間抜けな印象もあるm-3、広大な草原を駆け巡るそよ風のような清清しさに彩られたm-5、アイルランドのフィドルを下地としたと思しきm-6の、村祭り的な雰囲気が聴きどころです。
続いて2ndアルバムの紹介もしてみましょう。今のところ彼の最後のアルバムとなっています。

♪ m-4 Temple Boy
※すみません、youtubeには1曲しか上がっていませんでした。
1stアルバムから4年の沈黙の末にようやくリリースされた2ndアルバムは、前作と打って変わって多数のゲスト陣が参加しています。彼の持ち味であるダブや民族音楽の色合いが後退してはいるものの、代わりに楽曲自体の質は上がっているので、安心して聴けると思います。
面白いのは、Galy Azukx本人が収録曲の幾つかでヴォーカルを披露していたりする点でしょうか。ここでも彼はジャンベ奏者としての片鱗をあまり見せようとしていないんですね、何故そうしているのかは知りませんが。
収録内容は、この当時ヨーロッパを席捲していた第二次トランス・ブームやサイケデリック・トランスの影響が随所に散見されます。リズム周りも前作と比較して強度と推進力を増しており、よりクラブ・プレイに考慮したものとなりました。
特に往年のオリジナル・プログレッシブ・ハウスを匂わせるベースラインと、バグ・パイプのフレーズが楽しげなm-3、諸にサイケデリック・トランスからの影響を強く感じさせる、ぎらついたフレーズが特徴のm-4及びm-7がお勧めですね。最近のトランスが好きな方なら、m-4からm-7までの4曲に強く惹かれるものがあるのではないでしょうか。
2ndアルバムに関してはyoutubeに試聴用が殆ど上がっていないので、詳しくは買って聴いてみて下さいとしか言えませんが、私の拙い文章で少しでも内容が伝わるなら結果オーライと言ったところです。もう10年以上前の作品になってしまいましたが、ハード・トランス一辺倒に疲れた耳には結構馴染むと思いますよ、多分。
ただし、やっぱり入手は非常に困難ですが…。
さて、今回はこれまでとさせていただきます。次回はもっと更新頻度を上げたいものですが、はてさてどうなることやら。有言不実行がモットーなもので。
ではまた。