延命治療 | 人生の旅路

人生の旅路

僅か伍十年、構築される人世

風が冷たくても
優しく感じる、潮の香り。

生まれ育った地に帰ってくると、やはり落ち着く。

市民病院の食堂にて、
昼食は味噌ラーメンにした。


人生の旅路


懐かしい味がする。

在宅介護の頃は受診後に、
ここで母と一緒に

お昼を取ってから帰るのが、お決まりのコース。

母は寿司が好きで
のり巻きをよく食べていた。

現在は流動食のみで、
飲み込むにも時間がかかる。
出かける際には、オムツを履いている。

言葉にならない唸り声を上げ
母をなだめるオレは、子守りをしているようだ。

泌尿器科では、母の内服薬は今日から中止。
飲み続けても効果はなかった。

難病と呼ばれ、今の医学で治らない病気は
母だけではなく、他にもたくさんある。

オレの手を握り締める、母のしわしわの手は力強く
まだ大丈夫だと信じたい。


人生の旅路

脳神経外科の受診後、久しぶりに夫婦が対面。


父の顔は薬の副作用からか、パンパンに腫れ上がっていた。

男性ホルモンを止める治療では
効かなくなり、転移したガン細胞は侵食を続けている。

これから、死ぬまで入退院を続けるのか・・・
オレの夢が近づいて来ているというのに。

身体の痺れは多少あるものの、痛みは無いため
治療を中止して、自宅で生活をしていく選択もある。

だが、オレは出来る限り
治療を続けてほしいと、担当医に頼んだ。


父には、まだ話していないが
うすうす気づいているかも知れない。