不妊治療中、ネットではこの時期になるとよく聞く言葉があった。


親戚や友人から、子どもの写真付き年賀状が届くのが憂鬱だと。


私は幸い、不妊治療中には友人にも親戚にも小さい子どもがいる人がいなかったので、そんな年賀状は受け取ったことがない。


でも、外出先で妊婦さんや赤ちゃんを見ると、できるだけ日常では考えないようにしてる「赤ちゃんが欲しい」っていう気持ちがよみがえってきて辛かったにで、気持ちは分かる。


いざ子どもができると、赤ちゃんの写真を楽しみにしてくれてるであろう親戚のためにも、やっぱり写真付きにしてしまう。


持病のために一年のほとんどを入院して過ごしている友人は、たぶん出産を経験するのは難しいと思う。


子どもの写真なんか、家族の増えた喜びいっぱいの年賀状なんか新年から見て、ちょっと嫌な気持ちになるかもしれない。


だから、写真入りのものは送らないでおこうと思う。


不妊を経験したから分かる、たかが子どもの写真が辛い気持ち。


それと、写真付き年賀状が送れることが、幸せだってこと。






「妊娠」っていうのは、受精卵が着床したときからスタートするもの。


じゃあ命が宿るのっていつなんだろう。


新しい命が生まれるっていうのは、出産のときのことをいうのかな。


でも、妊婦なら誰でも、お腹の中で育っている赤ちゃんに命を感じるはず。


私は、PCOSのせいで薬を使ってもなかなか卵が育たなかったから、頑張って大きくなろうとしていくれてるタマゴちゃんの段階から、愛着を感じていた。


生理がくるたびに、タマゴちゃんが流れていってしまうのが悲しかった。

でも、卵に愛着はあっても、命は感じなかった。


私の勝手な感覚だけど、受精した瞬間に、命って始まってる気がする。

受精して、細胞分裂がはじまったら、もうその命が動き始めてるんだって思う。


AIHをして、基礎体温を記録していたので、受精したのはこの日かな?っていう日は分かってる。


その日の一年後、小さな小さな受精卵は、生後100日の6000gの元気な赤ちゃんになった。


お食い初めのご馳走とケーキを前にして、親戚に囲まれて、ニコニコ笑っている。


受精したあの日、見ることも触ることもできない命が宿ったあの日から一年という月日を経て、泣いたり笑ったり、まだ言葉にならない声で一生けん命お話してくれる、可愛い我が子に成長した。


生まれてからはまだ3カ月だけど、小さな命とは、この一年ずっと一緒にいたんだって思う。


一年間、たくさんの幸せを与えてくれてありがとう。







妊娠中期になってつわりが終わった頃から、同じ8月出産予定のプレママさんたちとネット上で交流するようになった。


お散歩してる?ベビー用品は揃えはじめた?お腹の張りはどう?


妊娠中の色々な悩みやちょっとした雑談まで、同じようにお腹が大きくなっていく仲間だから気持ちが分かりあえて、楽しかった。


初夏。妊娠後期になって、いよいよ出産が見えてきた頃。


出産しました、という書き込みをいくつか見かけた。


その子たちは、色々な事情があって、お空へ帰っていった。


生まれたのは8月ではなかったけれど、同じ8月出産を目指して素敵な時間を過ごしてきた仲間として、ここに報告させてもらった、と書いてあった。


私は、不妊治療をして子どもを授かったので、妊娠するのは奇跡なんだって何度も思ってきた。


そして、このママさんたちの書き込みで、生きてうまれてくるのも奇跡なんだって、今自分が生きているのは本当にすごいことなんだって気づかせてもらった。


書き込みをしてくれたことに、すごくすごく感謝している。


ただ、本当に悔しかったのは、この書き込みに対して、そんな残念なお知らせしないでください、とコメントした人たちがいたことだった。


もし自分の子が帰ってしまったらと不安になった気持ちは分からないでもない。

でも、どんな形の出産であったとしても、同じ時期に妊娠生活を過ごしてきた仲間に、そんな残酷なことがよく言えたものだと驚いた。


そのコメントが原因で揉めて、せっかく書き込みをしてくれた出産報告は、全て管理人さんに消去されてしまった。


悲しい気持ちになったけれど、人の生死、普段向きあわない命ということについて、強く意識が向けられた時期だった。


妊娠中、たまごクラブに監督の連載がのっていた映画、「うまれる」が今公開されているようだ。

私は赤ちゃんがいるので残念ながら見にいけないけれど。


親になることへのためらい、不妊、障害をもってうまれてきた子、死産についてのドキュメンタリー映画。


見てないのでちゃんとした内容は分からないけれど、「うまれる」ことの奇跡を、出産を体験していない人にも感じてもらえるんじゃないかと思う。


この映画の中で、死産を経験したお母さんの話に使用されている「泣いていいよ」というショートアニメのようになっている歌をyoutubeで見た。


あの、8月出産予定だったママたちのことを思い出した。


今、元気な息子が自分の腕の中にいる奇跡に、涙がでた。