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☆☆☆☆☆
警察官僚を主役にした警察小説というのが新鮮でおもしろい。
主人公の竜崎伸也は、警察庁長官官房の総務課長の職を務めるキャリア官僚だ。
『家庭のことは妻の仕事だ。私の仕事は、国家の治安を守ることだ。』
『竜崎にとって東大以外は大学ではない。』
これだけ聞くと、エリート意識剥き出しで古い考えのイヤな奴に思える。
だが、何のためにエリートとして出世したいのかについて、
『官僚の世界で出世がなぜ大切かというと、それだけ権限が増えるからだ。』と言っている。
竜崎は単に偉くなりたい、給料がたくさん欲しいといった単純な出世欲に駆られているわけではないのだ。
そして、エリートには特権とともに当然大きな義務もつきまとうことを竜崎は認識している。
『選ばれた人間だ。国をつつがなく運営して、守っていく義務を負っている。だから、いざというときは、真っ先に死ぬ覚悟をしている』
ちょっと長いが、竜崎の行動原理と組織論に関わる箇所を引用する。
『竜崎は、これまでたてまえを貫くことが本当の役人の仕事のやり方だと思ってきた。
そして、できるかぎりそれを実行してきたつもりだ。ときにはままならないこともある。だが、大筋では貫いてきたと思う。
たてまえを貫くいうことは、つまりは原則を重視するということだ。ケースバイケースという言葉が嫌いだった。それは、いい加減さを表現する言葉だと、竜崎は思っている。
原則を大切にしなければ、システムは腐敗する。何が重要なのかわからないから、無能な役人は法の条文や通達の文面だけをなぞって、それを闇雲に実行しようとする。そして、前例だけを重視するようになる。いわゆるお役所仕事だ。それは、疲弊した役所のシステムだ。本当に有能な官僚を集めた、有効なシステムというのは、原則を大切にした、即応性のある、柔軟なものだというイメージがあった。』
このホンネとタテマエを使い分けない姿勢により、竜崎は職場でも家族にも常に『変人』扱いされる。
タテマエを貫く竜崎の行動が、時には滑稽に見えて笑いを誘うこともあれば、この行動原理に則って難局を乗り越えていく様が、日々ホンネとタテマエを使い分けて生きることに歯痒さを感じている読者にとって痛快で感動を与える。ここに本書の最大の魅力がある。