文明は今、奇妙なねじれの中にある。 AIは加速度的に進化し、人間はその便利さに身を委ねる。 だがその一方で、人間の精神は確実に脆くなっている。 この二つの曲線が交差する地点こそ、現代文明の危険な転換点だ。
かつて、子どもや若者は「経験の少なさ」を自覚していた。 だからこそ、年長者の言葉には重みがあり、 人生の先輩に学ぶという自然な態度があった。
しかし今は違う。 社会経験の乏しい者ほど妙に強気で、 大人や年長者が「馬鹿に見える」現象が広がっている。 阿部監督の事件が象徴するように、 困ったらAIに相談すればよい。 我慢して教えを乞う必要もない。 対人関係の摩擦を乗り越える経験もいらない。
AIは怒らず、否定せず、24時間応じてくれる。 それは確かに救いだが、同時に人間の成長機会を奪う。
対人関係のスキルが育たない社会
パワハラ、セクハラ、カスハラ。 やる側が悪いのは当然だ。 しかし、耐える力が極端に弱くなったことも事実である。
「耐える力」というと誤解されやすいが、 ここで言うのは 不条理を処理する精神的筋力 のことだ。
社会には理不尽がある。 人間には欠点がある。 組織には不完全さがある。
それらをどう扱うかは、本来「経験」が教えてくれる。 しかし今は、その経験を積む前にAIが介入し、 人間同士の摩擦を回避させてしまう。
結果として、 ひ弱で、頭でっかちで、責任を取る意思も能力もない人間が増える。
これは、AIよりもはるかに恐ろしい。
AIが唯一の味方になる世界の危うさ
AIは人間を否定しない。 だから、AIだけが味方だと錯覚しやすい。
すると人は、 「自分は常に正しい」 という危険な思い上がりに陥る。
人間同士の摩擦がない世界では、 自己修正の機会が失われる。 謙虚さが育たない。 自分の未熟さを知る場がない。
AIは鏡だ。 人間の心が歪めば、AIも歪む。 人間の心が幼ければ、AIも幼い答えを返す。
AIの進化は止まらないが、 人間の精神が劣化したままでは、 文明は必ずどこかで破綻する。
天国は続かない。しかし、後戻りもできない
便利さは人を弱くする。 しかし、文明は便利さを手放せない。
AIのせいにしてもどうにもならない。 AIはただ、人間の心を映しているだけだ。
必要なのは、 AIに依存する前に、 人間としての精神的筋力を鍛え直すことだ。
-
不条理を処理する力
-
他者と摩擦を乗り越える力
-
自分の未熟さを認める力
-
責任を引き受ける覚悟
これらはAIが与えてくれるものではない。 人間同士の関係の中でしか育たない。
AIの進化と人間の劣化。 このねじれを放置すれば、文明は静かに崩れていく。
天国は続かない。 しかし、後戻りもできない。
だからこそ今、 人間の心の再教育 が必要なのだ。