昔…サーキットであった怖い話 | garage door

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ブログネタ:怖い話、教えて!! 参加中


私の昔のホームページや、メルマガや雑誌への記述など、
そんなの見てた人は知っている、古~いネタですが。


遠い昔のある日、某サーキット。

パドックに小雨が落ちてきた。

時間の空いていたその時、雨を避けて、先輩の車に我々数人は
乗り込み、レース歴の長い先輩を囲んでレース談議をしていた。

車からは、少し離れた所にあるピット間近の別のパドックが
見えていた。

会話を交わしながら、先輩の視線は、ふとそちらの方へと向く。

視線の先のパドックには自動販売機があり、販売機の並びから
駐車スペースが幾台分か並んでいた。

「あの車…どこのチームのかなぁ、あの自動販売機の隣の。」

先輩は、突然そんなことを皆に問い掛けてきた。

見ると、そこにはきれいにカラーリングされた、大手チームの
豪華キャンピングカーが置かれていた。

「あ、あれ、チームAの車じゃないですか。」
若手の一人がそう応えた。

なんで先輩はそんな事を気にするのだろうか、そこに居合わせた
誰もが思った。
当時としては、貧相なサーキットにはあまりに不釣合いな豪華な
車だからだろうか、そんな風にも思ったりした。

しかし、先輩は続けた。

「あの場所さ、ヤバイよね。」

「え、なんですか?」

先輩の言葉は、誰も理解できなかった。

「あっ、みんな知らないんだ…?」

先輩は、逆に驚いた様子だった。

「あそこはさ、昔からいわく付きの場所なんだよ。
あそこに車を停めると、そのチームに必ず大きな事故が起こるんだ。」

先輩ときたら、マジ顔でロクでもないことを喋り出したものだと、
皆がそう思って苦笑いする。

「またまたぁ~」
「なに言ってんですかぁ。」

各々、騙されまいと思っている様子だ。

「いや、これは本当なんだよ…」

先輩は、いたって真面目な顔で話を続ける。

そして、過去に亡くなった有名レーサーの名前が、先輩の口から
次から次へと飛び出してきた。

「死亡事故や、そうでなくても重大事故が、過去あそこに車を停めた
チームに起きてるんだよ。
有名な話なんだけどな…最近の人は知らないのかぁ。」

思いも寄らない話の展開に、重い空気が漂い始めた頃、先輩は最後に
皆に聞いてきた。

「で、あのチーム、ドライバーは誰なの?」

「H選手ですよ。」

半信半疑ながら、ちょっと恐い気分になってきた我々…。
それでも、騙されているような気分は拭い切れないでいた。


結局その日は何事もなく、全てのレースは無事に終わり、誰ももう
その話のことは口にはしなかった。

しかし私は、その日が終わっても少し気になっていた。
H選手のことは知っているし、あの先輩がそんなことを冗談で言う
とは思えなかったのもある。

とは言え、時間の経過と共に、怖い話も忘れ過ぎようとしていた。


そして、それから3日後の日中のこと。
私の家の電話が鳴った。

「もしもし…」

友人の声だった。
真っ昼間から電話掛けてくるなんて、随分珍しいこともある
もんだと思った。
が、電話を取ると同時に…

「H君、死んじゃったよぉ!!」

電話の向こうでは、悲痛な声で友人が叫んでいた。

忘れようとしていた話が、まるで今聞いたことの様に、頭の中に
フラッシュバックしてきた。

まさか…ね?
信じられない気分だった。

しかし電話の向こうでは、とんでもない事実を伝えていた。

あの日のレースは無事に終り、この週はテストの為に別のサーキット
へと移動して行ったH選手。
そのテスト走行中に事故は起きて、亡くなってしまったのだと言う。

当時最も注目を集めていた、若手のホープだった。

私はただ、呆然としてしまった。


それから何年かの後、忘れもしない恐怖のパドックは、すっかり改修
され様変わりをしていた。

しかし、レースバブル直前のあのとき、H選手をサポートする豪華
キャンピングカーの鮮やかな色彩が、未だ脳裏に焼き付いている。