BAR CINEMA 第12回  | 銀座BAR EVITA.のブログ

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ここでは当店のホームページで書ききれないことを語ったり近況報告などをさせていただきます。

第12回 テキーラサンライズ

友情に、恋に悩んだらテキーラを

一杯!


BAR CINEMAへようこそ。

このバーでは、皆さまの記憶に残る映画の名シーンを彩った素敵なお酒を、映画の時代背景、お酒の由緒・成り立ちと合わせてご紹介し、ご賞味いただきます。



テキーラサンライズ。グラスの底に沈んだグレナデンシロップの赤とオレンジジュースのグラデーションが美しい。テキーラ独特のクセをあまり感じさせない、飲みやすいカクテル。

Who says friendship lasts forever?
We’d all like to,maybe...
...but maybe it just wears our like everything else .
Like tires.

Tequila Sunrise=テキーラサンライズ。
そのものズバリ、テキーラをベースにした代表的なカクテルの名前で、映画の中でも主人公マック(メル・ギブソン)が愛飲しています。

麻薬の仲買人として警察やFBIにもその名が知られているマック。マックは自分の顧問弁護士が素人にもかかわらず、コカインの取引をするというので一緒についていったところ、そこに現れたのは高校からの親友で、今は地元警察で麻薬捜査官になっているニック・フレシア(カート・ラッセル)だった…。

麻薬の取引から足を洗おうとしているマック、そして親友を自分の手で捕まえたくないニック。だが、FBIはコロンビアの麻薬組織の大物、カルロス・エスカランテ(ラウル・ジュリア)の顔を知る唯一の男マックを執拗に付け回し、その行動を監視する。
マックが行きつけの高級イタリアンレストランでひとり
、テキーラサンライズを飲みながら食事を楽しもうとしている時も、FBIの捜査員が隣のテーブルで客を装い
、マックの会話を盗聴していた。そこへニックが割って入り、捜査員を帰してマックのテーブルに着く。そしてニックは、常連客であるマックに挨拶に来た女性オーナー、ジョアン(ミッシェル・ファイファー)に出会い、その美貌に関心を抱く。

FBIは、マックがそのレストランで麻薬の取引をしようとしていると考え、ジョアンまで付けねらう。
ニックはジョアンを通してマックの動向を探ろうとするが、ジョアンに惹かれて深い関係になる。
マックはジョアンに好意を抱いてきたにもかかわらず、
彼女になかなかその気持ちを伝えられない。

マックとニックの友情、ジョアンとの三角関係、さらにFBIがマックを追いかけ、ニックがFBIと対立する。
物語は複雑でわかりにくく展開し、私は一度観ただけでは内容を理解できませんでした…。
が、マックはひとり、自分の部屋でテキーラサンライズを飲むシーンは強く印象に残りました。

◆オレンジとグレナデンで表現するメキシコの朝焼け
ニックとジョアンがレストランのワインセラーで濃厚なキスをしているシーンから場面が切り替わり、マックの部屋、若かりし頃のマックとニックの写真がアップになります。カメラが引いて左方向に動くと、ピッチャーに入ったオレンジジュースとテキーラのアネホ、グレナデン(ザクロ)シロップの瓶が大うつしになり、マックがテキーラの瓶を手に取りグラスに注ぎ入れます。
このときにナレーションとして流れるのが冒頭の英語のセリフです。

友情は永遠に続くかい?
だといいけどさ
友情だって、だんだん擦り切れるもんだろ?
ダイヤみたいに

マックとニックの友情関係が擦り切れていくのかどうかは映画を見てのお楽しみとして、テキーラサンライズの作り方です。
「アネホ」については前回の「ハバナ」でご説明しましたが、樽で熟成させたお酒です。英語では黄金色が美しいアネホが出ていますが、普通は透明色のブランコを使います。
当店のレシピは以下のとおりです。
①氷を入れたタンブラーに冷凍庫で冷やしておいたテキーラブランコ35ml、オレンジジュース80mlを注ぎ、混ぜる。
②グレナデンシロップを2さじ加える。
グレナデンシロップは比重が重いのでグラスの底に沈みますが、それをバースプーンでしゃくり上げると、赤い色がふんわり上がってきて、まるで日の出のような赤のグラデーションができ上がります。

また当店では、これをショートカクテルとしてお作りすることもあります。
その場合は、テキーラブランコ35ml、オレンジジュース45mlをシェイクしてグラスに注ぎ、グレナデンシロップをひとさじ沈めて出来上がりです。

ロングカクテルのテキーラサンライズはご自宅でも簡単に作れるカクテルなので、実際に作って試してみてはいかがでしょう。マックのようにアネホをベースにすると、よりやわらかい味わいになり、テキーラ初心者の方にも飲みやすくなると思います。

余談ですが、テキーラサンライズと対をなすような一杯として、テキーラサンセットというカクテルもあります。
テキーラブランコ30ml、レモンジュース15ml、グレナデンシロップ2さじ、砂糖1/2さじをクラッシュドアイスとともにブレンダーにかけて、フローズンスタイルにします。
勝手にご紹介しておきながらなんなのですが、テキーラサンライズの人気に比べてテキーラサンセットは全く知名度がないのか、私のバーテンダー歴の中で、このカクテルのオーダーを受けたことは2,3度しかありません…。
第10回でご紹介しましたフリップくらい、私にとってはレアなカクテルです。

テキーラサンセット。全体がグレナデンシロップの赤で
彩られ、かわいらしく見えますが、レモンの酸味がきいてすっきりとした大人の味わいです。

◆幸運の象徴=蹄鉄を意味するプレミアムテキーラ
ところで、マックが愛飲するテキーラは銘柄指定です。
サーフィンをしていて怪我をした自分の子供を助け自宅に連れ帰った後、マックは気を落ち着かせるためにテキーラをストレートであおります。
字幕では「着付け薬が欲しい」となっていますが、英語の台詞では、I’ll just have some Herradura.
と言っています。
つまり、着付け薬はテキーラのエラドゥーラ。先述のテキーラサンセットを暗示するシーンのアネホももちろんエラドゥーラでした。

エラドゥーラとは馬の足につける蹄鉄(ていてつ)のこと
。メキシコでは幸運の象徴だそうで、このテキーラのラベルにも蹄鉄がデザインされています。
エラドゥーラの歴史は古く、創業は1870年。テキーラの原料となる竜舌蘭の中でも最高級のアガベ·アスール·テキラーナという品種だけを使用し、蒸溜所内に住みつく天然酵母による自然発酵でつくられるプレミアムテキーラです。


エラドゥーラのブランコ。カクテルベースとして使うほか、ストレートで飲んでも滑らかな口当たり。

樽熟成させていないテキーラブランコ飲むときは、上の写真のようにライムと塩とともにキュッとストレートで飲み干すことが多いですが、樽で熟成させたアネホ(通常は1年だが、エラドゥーラはホワイトオーク樽で2年以上熟成させる)は、そのままストレートで飲んでも味わい深く、スムーズに体に入っていきます。
竜舌蘭アガベ・アスール・テキラーナの独特で上品な香りは、森林浴で味わう緑を彷彿とさせ、それだけで癒やされます。樽熟成によるバニラやキャラメルなどの甘い香りもあいまって、芳醇でコクのある味わいは、1日の最後の一杯にもふさわしいと思います。

最後にまたまた余談ですが、テキーラサンライズというタイトルの曲もあります。この映画の舞台ロサンゼルス出身のロックバンド、イーグルスの2枚目のアルバム「ならず者」(1973年)に収録されています。切ない恋を歌った美しいハーモニーのこの曲は、この映画のイメージにもピッタリ。映画の後は、イーグルスを聴きながら1杯目はテキーラサンライズ、2杯目はアネホのストレートと飲み進めるのも一興かと。
みなさんもぜひお試しください。

※この記事は小学館「大人の逸品」ブログ

(小学館PAL SHOP)に掲載された記事の転載です

撮影/小倉雄一郎