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「兄ちゃん!ロープ切って助けてくれたじゃないか!!忘れちゃったの!?」
そこまで言われて、やっとコウも分かったらしい。
「あっ!あの時の!…そっか、無事に逃げられたのかぁ、よかったなぁー。」
嬉しそうにそう言うと、少年の頭をなでるコウ。
しかし父親らしき人物は、何か不機嫌な様子でコウを睨んでいるように見えるのだが……。
「本当に、何とお礼を言ったら良いか。ほら、アンタも!お礼を言わなきゃダメでしょ!」
母親が夫にそう怒鳴ると、彼はしぶしぶ口を開く。
「ああ、うちの息子を助けてくれた事は感謝している。……しかし、だ。話を聞けば、相手はネオ・CFギルドだったそうじゃないか。」
表情が硬いまま、父親が続ける。
「あいつらに勝てる奴は、俺の知る限りあいつらだけだ。なのに、何で君は生きてここに居る?」
「そ、それは……。」
コウは言葉に詰まった。イビルバスターの事は秘密にしなければならない。しかし、確かに父親の言うことも正しい。
そんなコウを見かねたのか、エリーゼが二人の会話に割って入った。
「でも、戦ったんでしょ?さっき傷跡を見せてもらっ」
「戦ったんなら、なおさら生きていられるはずがない!つまり、君も連中の仲間だったとしか思えないんだよ!」
エリーゼの言葉を遮るようにそう怒鳴る父親。すると、コウを含めてその場に居た全員が、はっとなった。
「いや、僕は違います。断じてネオ・CFギルドのメンバーじゃない!」
コウがそう怒ってみせるが、父親は認めないの一点張り。おまけに、
「大体、こんな暗くなる時間まで娘を引っ張り回しおって。無事に帰ったから怒るだけに留めてやってるんだ!用がないならさっさと失せろ!」
と、ヒートアップする父親。怒りに我を忘れ、本音がとうとう口を突いて出たようだ。
そんな彼の発言で、コウのネオ・CFギルドメンバー疑惑に捕らわれた家族は、もうそれ以上コウを擁護出来なくなっていた。
誰も、コウ自身も、その疑惑を払拭出来ないのである。ここまで来れば、もはや仮にイビルバスターへ変換して見せても、疑惑は更に増すだろう。
ここまで自身の潔白を必死に訴えたコウも、やがて諦めたように
「…分かりました。もうこれで立ち去ります。…ぼうや、お父さん怒らせて悪かったな。エリーゼ、元気でな。」
それだけ言って、家族に背を向けた。そして立ち去ろうとした、その時。

「「「ハイヤー!」」」
猛烈な馬の足音と共に、暗がりの中を走っていく何者かの姿。
手にしていたランタンで、全員バシネットを被っていた事だけは分かった。
「あれは!」コウが驚いて、振り向きざまに
「家へお入りなさい!ネオ・CFギルドだ!」
と叫ぶ。
両親と姉弟は同時に顔を見合わせ、うなずくと、ログハウスへと走り出した。
だが、反対に今走り去ったネオ・CFギルドのメンバーを追いかけようとするコウ。
それに気づいたエリーゼが、
「何してんの!早くコウも入らないと!殺されるよ!?」
と、コウを引っ張ろうと駆け寄る。
「エリーゼ!?…君は家に入れ!僕にはやるべき事があるんだ!」
しかしエリーゼの視線は鋭くコウを見つめており、行くなと言わんばかりだ。

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Evil Buster Gaiden 2-3

第四幕 喜劇のような悲劇
そうして、2週間と2日をかけて作られたのは、温泉を密閉するように作られた壁であった。勿論、天井もある。
その箱型温泉の内側の壁は、色とりどりの塗装で彩られ、入浴する者の気持ちを更に和らげるようであった。
「うむ、名づけてカラーボックス温泉!疲れ、傷ついた体を癒すのが温泉なら、荒んだ心を癒すのがこの壁だ。」
ラギメスは自分の仕事にかなり満足している様だ。なお、余談ではあるが、彼の傷はこのカラーボックス温泉完成を前に、既に完治している。
「むう……、決して………毒々しい塗装じゃないだわさ。確かにこれはなんだか心に響く……。ラギ兄貴が自慢するのも無理ないだわさ。」
「綺っ麗~~♪。これで温泉に入るのが楽しみになりますね、兄さん。」
二人の妹にも見せずに、必死に作り上げたカラーボックス温泉は、見事に2人の絶賛を浴びる事となった。
「壁一面に様々な色を塗ってみたんだ。最初は何か絵でも描こうかと思ったけど、ありきたり過ぎるしな。」
壁を巡るように見て回るリルムを見て、ラギメスは少し調子に乗っているようだった
「そっか、ふーん。私は絵の方がよかったけど、でも…まあこれも悪くないんじゃない?」
メアリーはそう言うと、一人すたすたとカラーボックス温泉から出て行こうとして、不意に振り向く。
「ラギ兄貴、私これからブリティン市街へ行って来るだわさ。買って欲しい服でも探してくるわさ。リルムはどうする?」
少し気が早いようでもあるが、メアリーは喜んでいるようであった。で、リルムはと言うと、
「私はここでもう少しゆっくりするわ。多分その内にお客さんも来るだろうから、兄さんの手伝いでもするつもり。」
と言って、またあちこち見回し始めた。よっぽど配色が好みらしく、飽きないわと言わんばかりである。
「じゃあ、行って来るわさ。多分ついでに一杯引っ掛けてくると思うから、夕飯は要らないだわさー。」
説明が遅れたが、メアリーは単独修行時代から何度もブリティン西酒場で伝説を作っている程の酒豪である。
今日も一杯どころか、十杯以上は呑んでくるのだろう。

さて、メアリーが出かけると、リルムが少し頬を赤らめながら、
「ねえ、兄さん。せっかくカラーボックス温泉が完成したんだから、……その……お客を入れる前に、…二人だけで入りませんか?」
とラギメスに提案する。びっくりした様子の彼だったが、同様に少し照れながら
「そうだな……。じゃあ、入ろうか。」
と得意の二つ返事。変に取り繕うべきでは無いと思ったのだろうか………。
「よかった!では、着替えてきますね。兄さんも早く。」
彼女はそう言い残すと、足早にカラーボックス温泉から出て行った。
「判った。じゃあ俺も着替えるかな。」
ラギメスも少し急ぐ様子で出て行った。

リルムは先に入っていて、湯船の中から兄の到着を待っていた。
「遅くなっちゃったな、悪い悪い。」
二人共水着を着ているのだが、何故か少しお互いによそよそしい。
まるで兄妹と言うより恋人の様である。まあ義理の兄妹なのだが。
「あ、ごめんなさい兄さん。先に入ってます。兄さんもどうぞ。」
「お、おう。そうだな。じゃあ入るよ。」
リルムの誘いに応じて、ラギメスが片足を温泉に入れた、その時。
「たっだいまー。なかなかいい服が無くて困っただわさー。こりゃ少し遠出しなきゃいけないねー。」
突然過ぎるメアリーの帰還に驚いたラギメスは、急いで温泉から足を引っ張り上げた。
だが、勢い余って後ろにのけぞってしまい、更に足を滑らせ、そのまま後頭部から倒れてしまい、気絶してしまった。
「きゃーーー、兄さん、兄さん!大丈夫ですか!?」
急いで温泉から上がって兄に駆け寄るリルムにつられたのか、メアリーもラギメスの様子を見に箱の中へ入ってきた。
「う、うーーん………。」
そう唸るラギメスを見て安心したのだろうか、リルムは兄の顔をすぐそばで見つめながら、その瞳から大粒の涙をこぼしていた。
こぼれた涙が彼女の頬を伝い、ラギメスの顔に舞い落ちて弾ける。
「私が、私が温泉に、入りましょうなんて、言わなきゃ、兄さんは、こんな目に、」
泣きじゃくる妹を見て居場所に苦しくなったのか、メアリーはラギメスにグレーターヒールの魔法を掛け、たった今出来た傷を癒していた。

やがて意識を取り戻したラギメスに、メアリーが語気を強めて言い放った。
「ラギ兄貴とリルムの関係はよく解っただわさ。だから……そんなに一緒に居たいのなら、二人でここに暮らすだわさ。」
そう言い放つメアリーの瞳は、いつも以上に光るものがあった。
だが、その提案に一番敏感に反応したのは、彼女の妹であるリルムであった。
「で、でも、ここはもともと姉さんの建てた家でしょ?それに、せっかく兄さんがカラーボックス温泉を作ってくれたのに。」
「俺もそれには反対だ。3人で暮らしていくって決めたじゃないか。それに、我ながら情けないけど、さっきのは不慮の事故だよ。」
しかし、そうしたリルム、ラギメスの反対も、既にメアリーの耳には届いていないらしかった。
「もともと、私は最初からラギ兄貴の妹だなんて思っていなかったんだわさ。楽しかったけど、それは言っておくね。それに、」
更にメアリーは、リルムの方を向くと、これでどうだといわんばかりの口調で、
「リルムの『兄さん』って言う声、兄を呼ぶ言い方じゃないだわさ。恋人を呼ぶ声だわさ!なんだか水を差すようだったから言わなかったけどね。」
とも言い放った。メアリーなりに苦悩していたのだろう。それが一気に噴出するかの様であった。

その日の夕方、メアリーは、身の回りの品を集めて家を出た。その姿を、悲しげに見つめる2人の視線が追う。
2人は、恋人として、そして兄妹として、これから共に暮らして行くという決心をするかの様に、堅く手を握っていた。
それは、まさに新生活の幕開けと、波乱の3人共同生活の終焉を物語るものであった。

メアリーが出て行った後、ラギメスとメアリーの二人は、共に助け合いながら、カラーボックス温泉を切り盛りしていた。
そして、二人の共同生活は、その最期に至るまで、純愛と敬愛に満ちていたのであった。
そう、僅か数ヶ月の短い期間であったが、その間二人は最も幸せな時間を過ごしたのである。

 

 

テキスト版だけの「おまけ」

以下は、原案及び監修を担当頂いたKagerou氏提供の「原案」全文です。(執筆当時、この原案の元ネタが全く分かりませんでした。今は知っていますけど。)
湯煙にさすらう宇宙一不幸な兄妹の魂
兄が作ったカラーボックス温泉
いざ入ろうとすれば片足しか入んなくて
ショックで足を滑らせた兄が気絶するとき
湯の花に妹の涙が舞い落ちる

であります

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Evil Buster Gaiden 2-2

「う、うん。取れたよ。後で結果は報告するね。で、こちらが」
リルムに促されたラギメスは、少し緊張した様子で自己紹介する。
「お、おう。俺はラギメス。28だ。…まあちょっとあって、死にそうだったところを妹さんに助けられたんだ。温泉で湯治するといい、って誘われたからここまでご一緒させてもらったのさ。えーと、まあ少しの間お世話になる。よ、よろしくな。」
メアリーは、頭を下げてお願いするラギメスをじぃっとひとしきり見た後で、リルムの方へ向き直る。
「アンタ、この人の言ってる事は本当なの?」
そう問われたリルムは、深々と首を縦に振って肯定した。
「そうよ。で、私はこの人に私たちのお兄さんになって欲しいな、って思ってるの。この人にも妹さんがいたんだけど、事故で亡くなったそうで。これも何かの縁だし、それに姉さんもこの人より年下だし。いいでしょ?姉さん。」
リルムの説明に少し(色んな意味で)驚いたラギメスだったが、リルムの真剣な表情を見て、リルムの説明に続ける。
「ああ、彼女の話は本当さ。君がよければ、君達の兄、と言っても義理のだけど、になる決心はある。今は傷を負ってるけど、完治したら、何かの役に立つつもりさ。だめかな?」
最初は少しの間、と説明したが、リルムの勢いに押されてついに彼女らの兄となる決心をするラギメス。それは男としてどうなのかはさておき、メアリーの反応はと言うと。
「…ふーん。……あ、そうだわさ。なら、まずはこいつと腕比べをしてごらんよ。腕が立つなら兄として認めるだわさ。」
ぐををををっという声らしからぬ音を立てて、メアリーの後ろから石人形が前へ出てきた。アース・エレメンタルである。
「おっと。こいつはちょっとやそっとの攻撃は弾き返すから、気を付けた方がいいだわさ。まあ、手負いって事だから若干力を抑えてやるけど。……さあ、行きな!」
メアリーの号令に、再びあの声らしからぬ音を立てた石人形、もといアース・エレメンタルは、一直線にラギメス目指して突進していく。
「(えーと、彼女がこいつを連れ出して来た頃から数えて、今何分か経っている。という事は……。)」
ラギメスの思考が導いた答えは、ひたすら攻撃を避ける事。傷は浅いながらまだ完治していない。それをかばっての事だろう。
幸い、アース・エレメンタルの攻撃は少し鈍い。手負いながらも何度か攻撃を避け、それなりに反撃をしながら更に数分が過ぎた頃。
「グ……ォォォォ……」
突然アース・エレメンタルの動きが止まり、光る何かが空へと昇った直後、石人形はガラガラと崩れてしまった。召喚時間が終わったのである。
「はぁ、はぁ、はぁ。……ふう。さあ、どうかな?先に倒れたのは、あいつだったけど。」
乱れた息を整えながら、ラギメスはそう言ってメアリーを見つめる。
「……召喚時間を知ってたとしても、そう何度も攻撃を避け続けるのは容易じゃないはずだわさ。………わかったわ、あなたを兄と認めるだわさ。」
半ば諦めた様子のメアリーは、ラギメスに近寄り、手を差し出す。
「よろしくね、ラギ兄貴。」
「ラギ……ってそこで略すのか!?」
驚きおののくラギメスの傍らに寄ったリルムが、すぐさまフォローする。
「まあまあ、私は兄さんって呼びますから。姉さんも少し恥かしがってるんですよ。」
「だーれが恥かしがってるって!?火達磨にしたるだわさ!」
「まあまあ、メアリー落ち着けって。ラギ兄貴で構わないからさ。」
ファイアーボールの呪文を詠唱しかけたメアリーを必死でなだめるラギメス。
……こうして、早くも(強引に?)打ち解けあった3人は、揃って家の中へ入っていった。

第三幕 兄と妹×2 in 温泉
ラギメスとリルム、メアリーが一緒に住む様になっておよそ2週間が経つ。
彼の負っていた傷もほとんど完治に近くなった。温泉の効能は本物の様だ。
最近では、リルムの錬金術も上達したのか、黄色いポーションの他に、緑だの紫だのと、多彩なポーションを作っている。
まあ、時々爆発音がするのはご愛嬌。そうしてたまに失敗してメアリーから怒られるのも、もう見慣れた光景となっていた。
そのメアリーはと言うと、常に例の石人形を傍らに従えつつ、リルムの修行を見守っている。
時々眼鏡を拭きながら、妹の作品を見つめているようだ。
「あ~、今日も平和だ。こんなに落ち着く生活も悪くないよな~。」
ラギメスは湯に浸かりながら、そんな事を独り言のように話す。
「兄さーん、お背中流しましょうかー?」
しばらくすると、リルムが家から入浴中のラギメスに呼びかけてきた。
「ああ~、頼むよ。」
「じゃあ、すぐに準備しますね~。♪~♪~」
ラギメスの二つ返事に小躍りしながら、鼻歌混じりに奥へと消えるリルム。
やがて彼女が、洋服の裾を捲し上げた格好で温泉へやってくると、早速ラギメスの背後から彼の背中を洗い始めた。
「もうだいぶよくなったみたいですね、兄さん。よかった~。」
リルムは相変わらず鼻歌混じりで兄の背中を洗っている。
「あぁ、もうだいぶよくなった。それもリルムとメアリーの良く出来た妹達のお陰だな、うん。」
何度も首を縦に振り、リルムに謝意を述べたラギメスは、ふと何か思いついた様に温泉の周りを凝視し始めた。
「うーん、せっかくこんな良い温泉があるんだったら、もう少し飾り付けて、客を寄せたら軽く儲かるかも知れないな。」
「うーん、そうかしら。私は今のままでも十分なのだけれど。」
ラギメスの唐突な思いつきに、リルムは少し顔を曇らせて難色を示した。
「いや、リルム達は何もしなくても良いさ。飾りつけは俺がやる。客引きもだ。それに……。」
「…それに?」
それまで背中を洗っていた手を止めてリルムが尋ねると、ラギメスは少し躊躇しながら、
「……そろそろ兄貴らしい事をしないとな。」
と答える。
彼も、妹とは言え2人の女性に半ば養われている状況は、良く思っていなかったらしい。
「それに、もし儲かったら、その金で二人に服を買ってやりたいのさ。とびきり綺麗な服を。」
その話を聞いて、兄の為す事を見届ける決心をしたのか、それとも恥ずかしかったのか、リルムは少しうつむきながら、コクン、と小さく頷いた。

その翌日から、ラギメスはひとしきり温泉に浸かった後、温泉の周りを飾り付ける様になった。
メアリーが不審がってラギメスを問いただすが、洋服を買ってやりたいという兄貴の思いを聞くや、それから何も言う事は無かった。
こうして、静かな村に日曜大工の音が響き渡るようになり、やがて「それ」が完成するのは、作り始めてから2週間と2日後の事だった。

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Evil Buster Gaiden 2-1

カラーボックス温泉物語

原案・監修
Kagerou
脚色・著作
Folth

第一幕 可憐な美女と男
雨がふりしきるブリティン郊外の森の中で、立ち並ぶ木々を杖代わりにおぼつかない足取りで進む男がいた。
左脇腹には右手を添えており、その下から真っ赤な血が染み出している。
「はぁ…はぁ……、く、そう。死ん……で、」
振り絞る様に男はそう呟き、そのまま崩れるようにドサっと倒れた。
「た……ま………か…よ!」
仰向けになり、なおもそう呟きながら、男は打たれる雨の中で、自分の意識が遠のいていくのを感じていた。

あ…う。も…し…。

どのくらいか経った頃。微かな意識の中で、男は何度も繰り返す「音」に気付いた。
しかし、それは雨の音ではない。何故なら、雨はもう止んでいるからだ。
「…あの……もしもし?」
再び、今度ははっきりその音、いや、声が聞き取れた。それは、よく通る女性の声だった。

「う……あん…た………れだ?」
男は出ない声を必死で絞り出して尋ねる。もう目を開く力すら無いのか、男は見えない相手に声を掛けていた。
自分の問い掛けに男が応じたのを見て安心したのか、女の顔が少しほころんだ。
「よかった。私はリルム(Rirum)。この近くで姉のメアリー(Mary)と暮らしています。」
男は弱々しいながらも、何とか目を開き、リルムを見つめる。
そのリルムは、男の顔を覗き込むようにして座っていた。黄色いロングヘアが美しく、紫色の洋服が、地味ながらその魅力を引き立てる。
「そん…な、…び、美人さん……が、こ、この俺…に………何…の用……だ」
男の声は掠れる様だったが、目にはっきりした輝きを残しており、懸命に女に問いかける。
「秘薬狩りの帰りに、倒れていた貴方を見掛けたものだから。……でも、よかった。何度も呼び掛けたのに返事が無かったから、もう死んじゃったのかと思ったわ。」
リルムはそう言うと、鞄からすり鉢と空き瓶、そして何か得体の知れないモノを取り出した。
「今薬を煎じるから、少し待ってね。」
リルムがごりごりとその『得体の知れない何か』をすり鉢で擦り込み、瓶に注ぎ込む。すると、黄色い『得体の知れないポーション』が出来た。
「さっ早くこれを飲んで。」
リルムが男の背中を起こして、口に瓶を押し込むと、そのまま一気に飲み干すよう促す。
「ガっ、ちょ………待……て、……ぶっ……ゴホっ」
一度に飲み切れなかったか、男は黄色い何かを少し吐き出してしまった。
「はあはぁ、こっ殺す気か!?そんなの一気に飲めるわけ……」
そこまで男が畳み掛けると、ハッと気付いたように両手を見る。
「な、直ってる……のか?」
キョトンとする男を見て、リルムは優しい笑顔を向けながら深く頷く。
「そうよ。姉さん直伝の錬金術。独りで作るのは初挑戦だったけど、うまくいってよかったわ。」
若干不安の残る発言があったものの、何はともあれ男は一命を取り留めた。

「ところで、貴方のお名前は?」
リルムがすり鉢を片付けながら男に尋ねる。
「俺はラギメス(Ragimeth)。リルム、だったな。歳はいくつなんだ?」
彼の不意にして唐突な質問に、リルムはしばし唖然となり、すぐさま憤然となる。
「まあ、いきなり失礼な人ね!初対面の女性に向かって!」
見る見る不機嫌になるリルムを見て、マズイと思ったのか、ラギメスは動揺しながら説得に回る。
「あ、いや、悪かった、まあ落ちつけって。俺は28だ。えっと……少し歳の離れた妹がいてな。…もう死んじまったが、年頃はちょうどリルムと同じ位なんだ。それで、つい…な。」
ラギメスはこれでもかとばかりに両手を合わせて頭を下げ、繰り返し「すまない」と謝り続ける。
その様子を見て、リルムは少しずつではあったが、怒気を静まらせていった。
「………もう、いいですよ。……私は今年で20です。妹さんはいつ頃お亡くなりに?」
リルムは、気持ちを落ち着けてその場にちょこんと座り、今度は逆にラギメスに質問をする。
「妹は、去年の春先に、ちょっとした事故でな。ちょうど20になる頃だった。」
そこまで言った時、少しその場の空気が重くなったのを気にしたのか、急にラギメスが明るく振舞い始めた。
「だが、まあとりあえずリルムは命の恩人だ。傷もこの通り治って、うお!?痛え!??」
調子に乗ってガッツポーズを取ろうとしたラギメスだったが、突然の痛みに脇腹を押える。少し血が滲んでいるようだ。
「まあ、まだ完治なんてしてませんよ?傷が軽くなっただけ。…どうでしょう。今日はうちで泊まっていかれては?」
「えっ?しかし、姉さんと一緒に住んでるんだろ?怒られないか?」
ラギメスは、まさかの申し出に驚くばかり。まあ無理もない話ではあるが…。
「大丈夫ですよ。姉さんは魔術師で、いつも傍らに石の精を連れてますから。」
確かにそれならば問題なかろうが、ラギメスの脳裏には期待に混じって不安と恐怖が浮かんだのは言うまでも無い。
「な、なるほど。それは安心だ。」
彼は、自分が何を言っているか判らないほど倒錯しているものの、しかしながらリルムの招待は受けたようだ。
「よかった。うちの近くには温泉もあるので、そこでゆっくり湯治して行って下さい。」


第二幕 出会いと恐怖と兄と妹
リルムに連れられ来て見れば、そこはブリティン鉱山のふもとにあるのどかな田舎村だった。
近くの畑にはニンジン等も見え、道端ではウサギとモンバットが戯れている。
彼女の家、メアリーとリルムが住む少し広めのその家は、その先にある温泉のすぐ近くに建っていた。
何でも、元々メアリーが修行の為に建てた小屋だったのを、リルムと暮らす為に拡張したのだとか。
リルムは、道中そんな話をしながら、ラギメスを伴って帰宅していた。
日はもう沈み、辺りはもうすぐ夜を迎えようとしている。
やがて2人が家に着くと、奥からドタドタという騒がしい足音と共に、一人の女性と石の人形が出てきた。
リルムと同じ黄色い髪を後ろで束ねたその上から、青いウィザードハットを被っており、顔には特徴的な伊達眼鏡を掛け、黒ローブに身を包んだその女性は、まさに魔術師の風貌そのままであった。
その女性こそ、リルムの姉、メアリーである。しかし、その顔は憤然としている。
「まあ、こんな時間に帰ってきて!遅すぎるんだわよ!…秘薬はちゃんと取れたんでしょうね!?」
メアリーは、人差し指で眼鏡を押し上げるようにしながら、リルムを強く睨んだ。
しかし、リルムは少し動じた程度である。恐らく慣れているのだろうが、これ程の怒気だ。慣れていない男はたまったものではない。

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Evil Buster Gaiden 1

コーブの出会い

その1 ユーの陥落
それはよく晴れたある日の事だった。それは起こったのである。
突然のオーク軍大襲撃。総勢1万とも2万とも見えるその大軍勢は、瞬く間にユーに迫ってきたのだった。
これまでも、オークキャンプに比較的近いことから、ユーは度々南側からの侵略を受けていた。
しかし、その度に、勇敢なる兵士達が町を守ってきたのだった。

ところが、最近になってオーク軍は、小さなコーブ村の南に拠点を築いて、多角的な攻撃を始めていた。
小さなコーブ村では、そのうちに陥落してしまう。その為、オーク軍との戦闘経験が豊富なユーの防衛軍が、守備隊として一部コーブ村へと派遣されていたのだった。

そこへ来て、守りが少し手薄になったところへ、かつて無い大規模な攻撃が始まったのだった。

「大変だ!オーク軍の大規模な攻撃が始まったらしい。ロック、みんなを集めて戦線に加わるように!」
「はい、師匠!!」
緊急の知らせを受け、バルガスを隊長とする第17弓術部隊は、深い森の広がるオークキャンプの少し手前側に陣を敷き、迫るオーク軍に対して一撃離脱戦法による奇襲を繰り返していた。

一進一退の攻防が続いたが、連日連夜戦闘に明け暮れたせいもあり、守備隊みんなの士気が、徐々に下がり始めた。
「いくら叩いて押さえ込んでも、次の日には盛り返しやがる…」
兵士の1人がこんなつぶやきをした時は、
「何弱気になってるんだ!盛り返したらまた抑えればいい。他のとこだって耐えてるんだ。ここが正念場さ!」
ロックは、こうやって皆を激励しつつ戦っていた。
しかし、止むことの無い戦いに、犠牲が出始め、最初30人いた部隊も、ついには7人になっていた。
「こうなっては一旦退いて、町の部隊と合流するしか生き残る道は無い。」
バルガス隊長の判断で、町へと退き、戦闘を継続していた。
いつしか、彼は、ユーの守備軍最高司令官になっていた。

しかし、落日の日はあっさりと訪れる。ある夜、戦いに疲弊した兵を見て回ったバルガスは、かなり遅い時間に就寝した。
そこを、オーク部隊が突然襲撃。いきなり夜襲を受けたバルガスは、抵抗もそこそこに殺されてしまう。
その場にいたロックも、命からがらに脱出したが、とうとう師匠の亡骸を見ることは出来なかった。
総司令官を突然失ったユーの防衛軍は、その後にやって来たオーク軍本隊の前に敗北。ここにユーは陥落したのである。

その2 コーブ村の死闘、そして…
ユー陥落の知らせは、コーブ村で戦闘中の元ユー守備隊の士気を一気に落とした。
そんな中、コーブ村の守備兵士の一人、コウ青年は、村の裏にある鉱山の見回りについていた。
オーク軍の守備は堅固であり、攻め込むのは不可能であるため、鉱山の守備は極めて重要である。
そんなある日、小船を使って、山を迂回することに成功したオーク軍は、ユーと同様夜襲を仕掛けてきたのである。
山側に守備を置いていたコーブ村は、あっという間に炎に覆われてしまう。
散り散りになる兵士と村民。コウは気がかりが有った。それは、自宅に残した家族の安否だった。
オークに殺されていなければまだ助けられる。そう願うばかりだったが、自宅に向かうコウを待っていたのは、悲しい現実であった。
なんと、自宅は既にオークによって蹂躙され、両親は見分けが付かない肉片と化していたのである。

死んだ両親に駆け寄るが、オークに襲われ、逆に脱出しなければならなくなったコウは、一振りの刀を必死に握りながら、コーブ村を脱出し、森の中へ身を潜めた。

その3 2人の出会いと誓い
コーブ村が陥落してしまったため、村民は散り散りになった。
ある者は身寄りを求めてミノックへ、ある者は森の中でキャンプを、ある者は近くのガードポストへ身を寄せに。
ロックは、守備隊5人と共にガードポストへ向かった。その方が安全と見たからである。

ガードポストへは僅かな時間で到着したが、生き残った彼らは、この先どうするかを議論する時間の方が長かった。
「コーブ村はもうだめだ。王立軍でも来ればいいけど、とてもそんな見込みは無いし。どこかへ移住しよう。」
という者もいれば、
「いやいや、俺はここで戦うぞ。例え何年かかっても、奪還の夢はあきらめない。」
と、継戦を主張する者もあり、
「ブリティンで軍人になろう。」
という夢を語る者もいた。
全く関心を示さない者もいたが、コウは継戦を主張した。
「俺はオークたちに両親を殺された。ちゃんと葬ることさえ出来なかった恨みは、絶対晴らしたい。」
結果、コウの他2人は残り、他は出て行くことを選択した。

そして、10日ほど経ったある日のこと。
結局コウのみが生き残って、ガードポストで剣の修行をしていた。
そんな時、ぶらりと来訪者が現れた。荒れた服装ではあったが、目は活き活きとし、大きな弓を抱えた長身の青年であった。
「コーブ村の人間か?」
「…ああ、そうだけど。あなたは?」
それが最初の会話だった。そう、この青年はユーを追われたロックであった。
ロックは、中へ入ると、椅子に腰掛ける。
「俺はロック。ユーの町の守備部隊をやっていた。コーブ村の守備部隊に知り合いがいるから、コーブへ案内してくれないか?」
「……コーブは落ちた。守備隊は殆んど全滅に近い状態でね。生き残って戦ってる人もいるけど、もうユーの人はいないって話さ。」
コウは刀を研ぎながら、コーブの現状を見知らぬ青年に伝えた。
すると、ロックは少しばかり頭を抱えると、突然はっとコウを見る。
「なあ、あんたの名前は?あんたも戦ってる内の1人だろ?一緒に戦おうぜ!」
ロックはそう言うと、コウに手を差し出した。
「俺もユー陥落で身内を失った人間だ。信じてくれ。」
「……分かった。仲間は多い方がいい。僕の名はコウ。コーブ守備隊の剣士だ。」
「おう。仲良くやろうぜ。お互いの故郷のために、戦おう!」
そして、2人は志を同じくした事を誓い、硬く手を結ぶのだった。

こうして2人は出会った。しかし、オーク軍は彼らを以ってしても、最早手に負える状態ではなくなっていた。
ついにコーブ村守備隊は解散し、コーブ村はオークの守備する処となったのである…。