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「ちょっと斬魔聖龍刀をワシに見せよ。確かめるでな。」
コウは言われるままに、斬魔聖龍刀を会武爺に差し出した。血の付いた斬魔聖龍刀は、光源の無い闇の中にあっても、何故か怪しく光を放っている。
斬魔聖龍刀に会武爺が右手を触れると、すぐに驚いた様子でパッと離した。
「や、やはりこれはセキの……。あー、いや何でも無い。何でも無いぞよ。」
何かマズイ事でもあるのか、咳払いでごまかそうとする会武爺だったが、しつこく食い下がるコウに根負けして、ついに話し出した。
「それは、PROT Attackという能力の発動を表す言葉じゃ。」
「プロットアタック?」
「さよう。正確にはピンポイント・ロールバック・トランスファー・アタックと言う。局地的に時間を巻き戻し、その上で転送するという攻撃じゃ。」
「局地的に、時間を巻き戻す!?」
「そうじゃ。斬った相手が生まれた瞬間まで時間を巻き戻すのじゃ。そして、この世のどこかへ飛ばされる。」
それを聞いたコウは驚いた。
「それじゃあ、エリーゼを殺したソネーヨは、今でもどこかで生きているんですか!」
「まぁ死んだも同然なのは同然じゃ。そやつの人格は赤子となった肉体の中に縛り付けられて二度と表には出られぬ上に、全ての感覚を共有しておる状態で、裸一貫で放り出されるんじゃからのう。言ってみれば体という檻に閉じ込められる終身刑じゃな。その後に肉体が滅びれば終わりの世へ向かうのじゃが、その肉体と共に新たな人生を歩めるかは運次第、という事になろう。」
コウはがっくりと肩を落とす。目に涙をこらえているのが、見ていて痛々しい程だ。
「そんな……。せっかく、せっかく仇を討ったと思ったのに!」
「…コウよ、落ち着いてよく聞くのじゃ。実を言うとの、斬魔聖龍刀はワシだけで創った訳ではないんじゃ。」
意外な真実をあっけらかんと話し出す会武爺。コウも驚くそぶりを見せるが、余り意外ではなかったようだ。先程会武爺が口走った「セキ」という人物の名を聞いていたからだろうか。
「他にも斬魔聖龍刀の創成に関わっておるグレイトマスターがあと一人おる。で、その者はネオ・CFギルドを死滅させる事に反対しおった。」
「それが先ほどのセキという人ですね……それで?」
コウは何故そんなことを?と言わんばかりである。
「命を取らぬ代わりに、悪事に関わったそれまでの人生をリセットし、ブリタニアのどこかへ転送すればよい、と言うのじゃ。ワシは命で罪を償わせるべきじゃと言うたのだが。」
その言葉に、コウは首を何度も縦に振った。
「…僕は会武爺の意見に賛成です。無辜の命を奪った罪は、自分の命で償うべきだ!」
「ほほう、嬉しい事を言うてくれるのう。じゃがしかし、オヌシ自身はどうじゃ?」
「え、僕自身?」
思わず自分を指さすコウに、会武爺が大きくうなずく。
「さよう。すなわち、相手をその手で殺せるのか?と問うておる。」
「そ、それは…その……。」
会武爺の問いに、敵であるネオ・CFギルドメンバーの死体にさえ、恐れおののいた記憶が蘇り、僅かな時間だがコウは思わず目を強く瞑ってしまった。どうやら誰の物であれ、死体を見る事も思い出す事さえもトラウマになっている様子だ。
それでも精一杯の勇気を奮った様に目を開くと、声色を強めて言った。
「そ、そうだ!慣れれば、きっと…」
しかし、会武爺はその表情の変化を見逃さない。

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ピッと会武爺を指さしながら叫ぶコウ。
「こっこのたわけ者!己の使命が如何に大切であるか、考えた事があるか!?」
今度は会武爺が憤怒した。その迫力たるや、およそこれまでの彼からは想像出来ない程であった。
コウが逆に気圧された様で、先ほどまでの怒りは一瞬で吹き飛んでいた。
「よいか?オヌシは我らグレイトマスターの代行者なのじゃ!イビルバスターが、諸悪の根源たるCFギルドを討たなければ、この先何人もの"エリス"が現れる事になるんじゃぞ!?」
どんどんヒートアップして、ぜーはーと肩で息をしながらも、怒りの熱弁でコウを完全に呑んでいた。
「オヌシがイビルバスターとして、動こうが動くまいが、CFギルドの暴挙を、止める者が、居らぬ限り、人々が幸せを、掴む事は、出来ぬ!」
今にも湯気を噴き出さんばかりの勢いでまくし立てる会武爺。だが、この辺でピークに達したらしく、
「この大使命、達成の、為には、どんな犠牲も、惜しんでは、ならぬ!その代わり、ワシらはオヌシの、憂いを取り払う為に、あらゆる手を打とう。」
と、今度は徐々にクールダウンしつつ、それでも弁舌を止めない会武爺。
「…さあ、これでわかったかコウよ?もしまだ分からないのであれば……!」
これ以上怒らせるのはマズイと思ったのか、
「いや、よーっくわかりました!わかりましたから、どうか許してください!」
先ほどよりも深く頭を下げて必死に詫びるコウであった。
「……分かれば良いのじゃ。ワシも久しぶりに声を荒げてしもうた。許せよ。ひょーっひょっひょ。」
本当にこの人はコロコロとよく表情を変えるなぁ、とコウが思ったのかはさておき。
「あ、そうだ。エリーゼを救おうと必死になってた時なんですが。」
「うん?エリスを救おうとした時?何かあったのか?」
会武爺が怪訝そうな顔でコウに尋ねるが、コウはコウで困惑の表情を浮かべる。
「いや、エリスじゃなくてエリーゼなんですが…」
どうやら困惑の原因は、早くもエリーゼをエリスの名で呼んでいる事のようだ。しかし会武爺はそんなコウの反応にフンッと鼻で笑う。
「細かい事は気にするでない。ワシの中では、あの娘はもうエリスなのじゃ。まぁオヌシはエリーゼと呼べばよかろう。」
「はぁ、いや、まぁいいか…。」
コウは大きなため息を吐き、諦めた。そして気を取り直した様子で続ける。
「で、何か無我夢中ではっきりと覚えてないんですが、その……戦いの最中に声が聞こえた気がして。」
「なぬ?声じゃと?」
会武爺は心底から驚いている様子で、目を丸くした。狼狽している様にも見える。
「ええ。その声が聞こえた後、斬魔聖龍刀を敵に当てたら、光の柱が出てきました。他にも、凄い攻撃を繰り出してエナジーボルテックスを一太刀で倒せたんです。」
ソネーヨや三色クローク剣士との戦いで初めて体験した、あの凄まじい攻撃の数々は何だったのか。これはコウの中でずっと残っていた疑問であった。
「おいオヌシ、いや、コウよ。その声とやらは何と言っておった?」
「え?えーっと、そうですね……。」
腕を組んで必死にあの時の「声」を思い出そうと頭をひねるコウであった。しばらくして、
「そうそう!確か『天命を与えろ』とか『剣を掲げろ』とか。とにかくそんな声でした。」
そう聞くと、会武爺の表情が突然暗くなった。明らかに何か嫌な事を思い出したという顔である。

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「何じゃ、使命を放り出していつまでもウジウジと!」
開口一番、コウを叱る会武爺。いつもの笑い声どころか、笑顔さえ無いのが不気味だ。
が、それ以上にコウから全く覇気がないのもまた不気味だった。
「…………」
「オヌシが落ち込んでおる原因は、まぁ分かっておるわい。あの娘の事じゃな?」
「…………」
コウは何も答えず、ただただひざの中に顔をうずめ、ぼうっとしたままだ。
ほんの僅かとは言え、親しげに話した女の子が目の前で死んだのだから、精神的ショックは相当なものだろう。
彼の周りだけ、同じ闇でも、淀んだ闇に見えるようだった。
流石に叱るだけではコウの気を引けないと判断したか、会武爺は1つ咳払いをすると、コウにこう告げた。
「あの娘はの、ワシと同じグレイトマスターへ転生させる事にしたぞい。」
それを聞いたコウは、「え?」と驚いたように突然顔を上げた。
その反応が予想通りだったのか、したり顔で会武爺が続ける。
「ん、まぁ記憶は全て消して、今から数百年後に、あるグレイトマスターの娘として転生させる予定じゃ。」
「エリーゼが、グレイトマスターに?でも、数百年後、ですか…。」
唖然とするコウだったが、先ほどの暗さは既に消えている。
「ワシらには時間など関係ないからの。オヌシとはもう会う事も無かろうが、あの娘の命はこれからも続く訳じゃな。」
「命が続く、確かにそれだけでも大いに救われました。ありがとうございます!」
コウはすっくと立ち上がり、会武爺に対して深々と頭を下げた。
「但し、名前はエリス(Elise)に改める。まぁ、読みを変えただけじゃがのう。ひょーっひょっひょっひょ。」
ここへ来て、ようやくいつもの高笑いを上げる会武爺。その高笑いを聞き、「よかった…、ホントに」と目に少し涙を浮かべるコウ。
ひとしきりの時間が経過した後、コウが切り出した。
「でも、どうして彼女だけを特別扱いするんですか!?」
それを聞き、一瞬「何をこやつは言っておるのか?」という顔をした後、
「そりゃあ決まっておろう?オヌシの為じゃ。」と即答する会武爺。
「え?…僕の為、ですか?」意外な回答に驚くコウ。
「そうじゃ。娘を転生させる事、そしてそれをオヌシに教える事。これらは全て、イビルバスターの戦意喪失を防ぐ為なのじゃ。」
「……は?……」
喜びから一転して唖然とするコウを無視して、会武爺が続ける。
「ワシらにとって、お前達人間が生きようが死のうが、別に関心は無い。じゃが、イビルバスターが動けなくなってしまっては元も子もない。だからじゃよ。」
「……では、イビルバスターと人命とでは、イビルバスターの方が大切だと仰るんですか!?」
その声に怒気を含みつつ、コウが会武爺を問いただす。しかし、
「そりゃ当然、イビルバスターの方が大切じゃな。」
と、平然と、さも当然であるかのように答える会武爺。
「なっ…何ですって!?」
それを聞いたコウは、怒り心頭に発した様子で会武爺を睨み付けた。
「それを聞いて、僕はこの使命を果たし切る自信が無くなりましたよ!」
「な、何!?」驚き、そして同時に怒る会武爺。
「だってそうでしょう!イビルバスターの目的は、悪いCFギルドを討伐して、人々の幸せを掴む事であるはずです!それなのに…」
一呼吸置いて、「イビルバスターの活動が原因で人が死んでも構わないとあなたは言う。矛盾しています!」

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つまり、一撃で撃破してしまったのである。
コウはイビルバスターの変換を解き、エリーゼを抱きかかえていた。
「エリーゼ!しっかりしろ!エリーゼ!」
必死に呼びかけるが、エリーゼは応えず、目を閉じたままだ。
実は、イビルバスターがエナジーボルテックスを撃破する直前に、この渦の直撃を何度か受けてしまっていたのだ。
「エリーゼ!応えてくれ!」
治療の技術が無いコウにとって、今の事態は非常に厳しかった。周りはあれだけの戦闘にも関わらず、他に誰も居ない。
エリーゼの白いワンピースには、血がどんどんにじんでいる。
「とにかく!家まで運ばなきゃ!」
そう言ってエリーゼを抱いたまま立ち上がろうとした時、エリーゼから「あ…ぅ……」と声が聞こえた。
「!エリーゼ!しっかりするんだ!家に運んでやるから!」
コウの声に反応し、まぶたがゆっくりと開く。まだ息は有るが、もうかなり細い。重態だ。
「どこ……いっ…て…よ…しんぱ…た…よ…」か細い声でエリーゼ。
「しゃべるな!」コウが叱るが、エリーゼはなおも続ける。
「疑…て…ごめ…さい…」
痛みをこらえているのだろう、時々うめきながら、懸命に訴える。
「もう、気にしてない。心配掛けてごめんな…。」
その言葉に安心したのか、ゆっくりと笑顔を浮かべ、
「あん……しん…し…た……よ」
そこまで静かに言うと、ゆっくり目を閉じたエリーゼ。
「エリーゼ?おい、エリーゼ!…まだだ!まだ目を閉じるな!くそ!」
急いでエリーゼを抱き上げ、彼女の家へと急ぐ。
「…はいはい、どちら様でしょう?こんな夜に」
エリーゼの母親が、扉を開けるとそこにはうつむき、涙を流すコウが立っていた。
「あら、貴方はさっきの?何か有りましたか?」
母親は何も知らない様子で、コウに尋ねる。
「実は……エリーゼが…」と言い、一歩下がって横を向いた。
母親がその向こうをのぞき込むと、そこには地面に横たわるエリーゼの姿。
コウの涙で全てを悟った母親は、大慌てで「アンターーー!!」と家の中へ入っていく。
すぐに慌ただしく両親揃ってコウの元へやって来た。
「き、貴様あー!!何故娘を殺したーーー!!!」
父親は激昂し、コウを張り倒した後、何度も殴った。
「僕が殺したんじゃないんです!ネオ・CFギルドの奴らなんです!」
何度そう言っても、到底父親が納得する訳もない。母親も泣き崩れてしまった。
この状況では、ネオ・CFギルドの名前は逆効果だったのだが、コウがそれを理解したのは後のことである。
ともかく、この「事件」は翌朝付近で、ネオ・CFギルドの銘が入った馬の鞍が見つかったことで、ネオ・CFギルドの仕業であったと判明するのだが、コウにとっても、エリーゼの家族にとっても、非常に辛い出来事となってしまった。
「事件」の2日後、エリーゼの葬儀が行われた。コウも参列したが、それが終わった後もずっとエリーゼの事で落ち込みっぱなしであった。
「僕が軽はずみな行動を取らなければ、エリーゼを巻き込むことは無かったのに……」
ずっとこの調子で、寝ても覚めてもエリーゼの墓前から動こうとしないコウ。
とうとう「事件」から5日が経ったある日、再びコウに突然の落雷が襲う。それは、会武爺の落雷であった。

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どうやら、コウのとっさの一言が頭から離れない様子だ。
そう言えば、そもそもエリーゼが逃げたのはコウの「ウソ」が原因ではなく、単に血が付いていた筒に驚いていたからだった。
「やっぱり、いくら何でも危ないよね。止めさせないと!」
しばらく悩んだ末にそう結論づけたエリーゼが、出かけようと席を立った瞬間。
窓の外、森の向こうで巨大な光の柱が見えた。
驚いたエリーゼは、森の中で起こっている「何か」を見に行かなければ、という衝動にかられ、そのまま窓から家を飛び出してきたのだった。

「ご、ごめんなさい!…でも、貴方は一体だれ!?何故私を知ってるの!?」
エリーゼが困惑したように、イビルバスターへそう尋ねる。
『私は……、いやそんな事はどうでもいい!』
答えに窮したイビルバスターは、そうはぐらかすとソネーヨに向き直る。
『ソネーヨ!今すぐその娘を解放しろ!さもないと…』
イビルバスターの右手から、ぎゅうっという音が聞こえるほど、彼は斬魔聖龍刀を握りしめていた。
「おっと、聞こえなかったの?その女を助けたければ、今すぐ武装解除なさい!Vas Corp Por…」
エナジーボルテックス召喚の呪文を唱え、再びイビルバスターに武装解除を迫るソネーヨ。
『させるかあー!』斬魔聖龍刀を振り上げ、ソネーヨに突進するイビルバスター!
「甘いわね!さあ、今度はアンタが身内を失う番よ!」
そう言って、魔法を発動させるソネーヨ。イビルバスターの背後に、大きな紫の渦が現れた!
『天命を、受けろおおおぉぁああ!!!』
飛びかかり、斬魔聖龍刀を力の限り振り下ろす!!
魔法発動の影響で無防備となったソネーヨは、防ぐ術なくバシネットに斬魔聖龍刀の直撃を受けた!!
「ぎゃあああーーーー!!」「キャアアーーー!」
二つの悲鳴が同時に森を駆け巡った。
斬魔聖龍刀から光が溢れ、ソネーヨを光の柱が包み込む。そして、それが消えるのを待たず、イビルバスターは素早く振り返った。
『エリーゼーー!!』
見れば紫の渦は今まさにエリーゼへと突進しているではないか!それを見た瞬間、イビルバスターの中の声なき声が、つぶやいた。
『……刀を天へ掲げよ……』と。
それは本当に声だったのか、それすら当の本人は自覚していない。しかし、考えるより先に、体は刀を天へ掲げていたのである。
一方、天へと掲げられた斬魔聖龍刀の刀身は、鎧よりも明るい赤色に強く輝いたではないか!?
『……刀を抜刀術式に構え、滑走しつつ気合いを込めよ……』
その後刀身がオレンジから赤色に染まると、今度は左足を少し引いてひざを曲げ、刀を左の腰付近へ構える。
そしてキッとエナジーボルテックスを見据えた直後、地面をもの凄い早さで滑走し始めたのである!
『うおおおぉぉぉぉーっ!!』
強く気合いを込め、エナジーボルテックスへと一気に迫る!
『……間合いに入ったら、一気に横薙ぎで斬れ……』
『てりゃああぁぁぁーっ!!』
横薙ぎに斬魔聖龍刀を振るい、そのまま勢いでエナジーボルテックスの右を少し滑り抜ける。
一方のエナジーボルテックスは、切り口から両断され、渦は消滅し、エネルギー体の残骸だけが残った。