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「ロックが取ってくれた肉もこれが最後か。この先に店があれば絶対に買い込まないと。」
最後に焼き肉をした時の残りを偶然カバンに取っていたコウは、何故か肉が腐敗していない事を気にも止めずに食べ始めた。
それにしても、自分で肉を獲るという選択肢が無く、買う事を前提にしているのは、とてもコウらしい。さて、例によって昼食をサッと済ませると、すぐに西へと出発した。
しかし、しばらく進むものの、通りの両脇にある家々からは、全く人の気配がしなかった。
とは言え、洗濯物が干されていたり、真新しい空き瓶が家の前に置かれていたり、という具合に、人が住んでいる形跡は有る。
その雰囲気は何とも異様であり、コウは「まるで息を殺して自分の動向を陰で見張っているんじゃないかな?」と思った程だ。
それでもコウは道の先に一軒の店舗を見つけた。家の看板には雑貨屋の記号が描かれている。
「お、やった。あそこで食料とかを補給しよう。」
コウは早足に店へ急いだ。やがて近づくにつれ、店舗名が「オンシ」である事や売り子が沢山居る大きな店舗だと言うことが見えてきた。売り子が掲げるプラカードには、様々な宣伝文句が書かれている。
「魔法の巻物沢山あるよ!」
「ポーション各種そろってマス。」
「ガーデニング、やらないか?」
「武器防具売ります!」
「レアなアクセサリ!在庫あと僅か!」
と、こんな調子でコウを誘っている。しかしコウの興味は食料に絞られていた。
「うーん、食べ物を売ってる子は、と~。いるかな~。あ!」
その視線の先には、「で~きたって!ホ~ヤホっヤ!肉料理ー!」という、独特な節回しの看板を持った売り娘が居た。
サッとその前に歩み寄るコウに、娘が「いらっしゃいませ、どうぞ御覧下さい。」と言って売り物を入れた箱を見せる。
そこには、謎の肉を使ったミートパイ、鶏より小さい鳥の肉を使った焼き鳥、大量の焼き魚が入っていた。
それぞれの値段を見ると、どう考えても足元を見ているとしか思えないような高値である。他に店舗が無いからこその強気な値段設定なのかもしれない。
「う、うーん。確かに食べ物だけど、この価格は……。あの、店員さん。もうちょっ」
「あらやだ、値段交渉は承れませんことよ?品物は全部こちらの言い値で買って頂くシステムになってますの。」
言葉を遮られた上に、即答でにべもなく値切りを断られたコウは、仕方なく焼き鳥と焼き魚をいくつか購入した。
しめておよそ500gp。痛い出費に、ますますロックの腕が欲しくなるコウであった。
「あの、ところで一つお尋ねしたい事が有るんですけど。」
買い物をしたのだから、きっと何か教えてくれるに違いない、とコウは思ったようだ。しかし、
「まあ、私はこう見えてもお安くないんですのよ。他を当たって下さいます?」と、売り娘はまたも冷たくあしらおうとする。
「いえ、そうではなく……。」その雰囲気でタジタジになるコウであった。だが、ここで退く訳にはいかない、とばかり踏ん張る。
「この辺りって、ネオ・CFギルドが現れたりするのですか?」
その言葉を聞いた売り娘は、一瞬顔を引きつらせたが、すぐにまた営業スマイルに戻る。そして、
「ごめんなさい、よく存じませんの。でも、どうしてそうお考えになられたのです?」
「いや、この辺りの家が全部他のところと違って随分と守りが堅い様に思ったので。」

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「さよーなら、おじちゃん。」木の上から姉のスタグレーナが手を振ると、弟のビートも負けじと「さよならー。またねー。」と力一杯手を振った。
「お、おじちゃん、かぁ……。ははは……、まあ相手は子供だし、なぁ。」
コウは苦笑しながら、幼い2人の見送りに手を振って答えた。
そして3人組、そしてソネーヨが向かおうとした方角、つまり西を目指して出発した。
地図の16番目にあるピンが、この方向に有ったからである。
「…あの青年、何か知っているな……。まあ先にエリーゼの家に行こうか。」
去っていくコウを見ながらそうつぶやいたカイは、肩車していたビートを下ろす。
すると、ちょうど木から下りたスタグレーナが駆け寄って来た。
「さあ、おじさんの家に行こうか。二人とも。」
カイが笑顔で二人に声を掛けると、姉弟は
「「はーい。」」
と元気に答え、父の左右でそれぞれ手をつなぐ。森の中に、仲良し親子3人の姿が消えていった。

第二幕 宿泊所は死の館!?
コウは一度街道に戻る事にした。街道沿いであれば民家が多く建っているだろうから、そこで情報収集しながら、ソネーヨの向かっていた方向へ向かうことにしたのだ。
時刻は昼を少し過ぎた頃になっていた。やがて街道に戻ると、案の定家が何軒も建っている。コウは地図を開いてみた。
「この先には、と。…あ、ガードポストが有るのか。」
見れば、ここから目と鼻の先に1つ、更に西の方へ数km先にガードポストの記号が見える。
「でも、ピンの場所は遠くにある方のガードポストのすぐ近くか。もしかして、ガードポストを占拠していたりして。」
そう言った後、「ははは、まっさかぁ。そんな事ないない。」と続けて笑う。冗談のつもりだったのだろう。
ここが仮に無人のガードポストだとしても、その殆どは王立軍が管理しているので、コウはガードポストを見て内心安堵していた。
これなら如何にネオ・CFギルドと言えどもそうそう大きな悪事は働けない、精々盗みや詐欺位だろう。だからこの付近には家が多く見えるのだろう。そう考えたのだ。
実際、見える範囲の家には全て木戸ではなく鉄扉が付いており、壁も大理石や鉄板で出来ている。更に、建物の左右端は壁が出っ張っており、そこに鉄格子が付いた小さな窓がある。どうやら訪問者を監視し、必要ならそこで狙撃さえ出来る様だ。
「まるで要塞か砦の集落みたいだな、この辺りは。ここまでしないとネオ・CFギルドに対抗出来ないのかな……。」
住居の安全は、住む人にとっては死活問題であるから、こういった自衛の為の設備を有しているのだろう、と考えたのである。しかし、コウは大切な事を見落としていたのだが、それには結局最後まで気付かなかったのである。
「何にしても、まずは食事だな。」
通りを見通すが、食堂の様な店も、個人経営の酒場も無い。
「仕方ない、一旦手前のガードポストで昼食にしよう。その後は拠点の手前まで旅人みたいに行動するか。」
カバンに地図をしまうと、ガードポストへ移動を開始した。

エリーゼの家から僅かな距離だったので、すぐ着いた。中に入り、ベッドに腰掛けると、カバンから最後の焼き肉を取り出した。

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「あはははは。あ、いや、失礼失礼。よくお辞儀する方だと思っただけです。君もエリーゼの墓参りに来たんですか?」
挨拶がまさか笑われるとは思わなかったのだろう。コウの表情に少し気まずさが見え隠れしている。
「ま、まあそんなところです。」
「私はエリーゼの親戚でして。先ほど着いたばかりだったんです。起こすのも悪いかと思っていたら、子供達があなたの近くで遊びだしてしまって…。」
男はコウの真似をするかのようにぺこりと頭を下げる。エリーゼの親戚という言葉にウソはないようだ、とコウは思った。
男の顔がエリーゼの父親にどことなく似ているからだろう。
「そうでしたか。僕はもうここを離れます。せめて彼女の墓だけは静かにしておきたいので。」
男はコウの言葉に深くうなずく。
「全くそうですね。まさか姪がネオ・CFギルドとどこかのギルドの戦争に巻き込まれるなんて。私も聞いた時は驚きました。」
「え?ネオ・CFギルドとどこかの戦争、ですか?」
驚くコウを見て、何か引っかかる所が有るのだろうか?一瞬「何故この青年はそれを知らないのだ?」という表情を見せる。
「…はい。兄、いえ、エリーゼの父から聞いたところによれば、そうらしいと。」
「そう、ですか。」
コウの中で何かが釈然としなかった。が、男の話はまだ続く。
「この辺り一帯はソネーヨと言う男が仕切っているそうです。今でも皆が恐れていると。」
「ああ、あいつなら大丈夫です。何たって…」
そう言いかけて、慌てて口を手で押さえる。
「え?どういう事ですか?」
男が一瞬いぶかしげな表情を見せた。気まずい緊張がコウに襲いかかる。
「あ、いや、それはそのぅ」
コウは内心しまった、と思いつつ、何とかごまかす言い訳を考えようとしていた。その時、
「とおちゃーん、まだかえらねーのー?」
幼い男の子が、男に向かって、いかにも退屈だと言わんばかりに訴えてきた。
「ボクもうかえりたいよー。ねーちゃんぜんぜんきのぼりおしえてくれないんだもん!」
「うっさいなー。あんたにゃまだむりだよー。」
木の上では、強気な姉がアカンベーをしながら、弟を馬鹿にしている。それが悔しかったのか、男の子は急に泣き出してしまった。
「おやおや、子供がぐずってしまいましたか。」
男が、男の子を肩車して「そーら、高いだろう?」とあやす。
男の子は自分が姉と同じくらいの高さに来た事が嬉しかったのか、泣くのを止めて嬉しそうにキャッキャと歓声を上げている。
そうしてひとしきり男の子をあやした後、男がクルッとコウに向き直り、男の子を乗せたまま話を続ける。
「いやはや、お話の途中で申し訳ありませんでした。私たちはこれから兄の家に行きますので、よければ一緒に来られませんか?お話の続きを」
「あ、いえ。せっかくですが、僕には行くところがありますので、これで。」
先ほどの話からぼろが出るのが怖かったコウは、慌てて誘いを断った。一方の男は残念だと言わんばかりの表情だ。
「そうですか。あ、一応お名前だけ教えてもらえませんか?お会いした記念に。」
「…え?……ええと、僕はコウって言います。あなたは?」
「私はカイ(Kai)と言います。ジェロームで細工屋を営んでいますので、縁があればいずれまた。これ、ビート、スタグレーナ。お兄さんにさよならは?」
カイと名乗った男が子供らに挨拶を促すと、2人の子供は同時に笑顔を見せる。

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「そして能力と攻撃速度を極限まで高めた後、地面を滑走して相手との間合いを一気に詰め、横薙ぎ、袈裟斬りのどちらかを見舞う。そんな能力じゃよ。」
「ははあ。そう言われてみれば、間合いを詰める前に『抜刀術の構えをしろ』、とか接近した時は『横薙ぎに振れ』って聞こえたような…。」
「なぬっ!?…むぅ。セキの与えた意思が、ワシの創った能力の使い方さえもオヌシに教えた、と言うことか。すると、コウの記憶に無い行動とやらも…」
会武爺は悔しそうに唇を噛みながら、尚も何か考え込んでいる。
「でも僕、そのフルチャージを使う時何も言ってなかったんですけど……。」
「…ん?言ってないとは?」
「プロットアタックを使う時は思わず『天命を受けろ』と言ってましたが、フルチャージの時は特に何も言ってないんです。」
「ああ、それはどっちでも良いのじゃ。好きにすると良い。それと、この力は出そうと思えばいつでも出せるぞい。ひょーっひょっひょっひょ。」
「……まてよ?それじゃ斬魔聖龍刀フルチャージとプロットアタックの両方を発動出来れば怖いもの無しじゃないですか!おお!」
物凄い発案をしたとコウが大いに喜んでいると、会武爺が
「ひょっひょっひょ。残念ながらそうはいかぬじゃろう。」と水を差した。
「えぇぇ!?」
「相反する力の発動は、元々この世界の理として出来ないようになっておるのじゃ。それは斬魔聖龍刀とて同じ。殺す力と殺さずの力が同時に発動すると、両方が刀身の中でぶつかりあい、力を束ねる本体、つまりその筒が耐えられぬ。」
「せっかく避けられないプロットアタックを思いついたと思ったのに……。じゃあ人とモンスターで使い分けるようにしますよ。」
ようやくコウの中で一つの結論に至ったようだ。会武爺はその答えを聞いて心底安堵した様子である。
「うむ、それが良かろう。……さて、今回は随分長話となったのう。意外な収穫も有ったでな。しかしこれで、今教える事は何も無いわい。」
そう言うと、会武爺の体が宙に浮き始め、やがて闇の中に消えていった。
「コウよ、くれぐれも戦意の喪失だけはせんでくれよ?それではな……。」
いつもの笑い声と共に消えた会武爺。

「はい!ありがとうございました!」
上半身を勢いよく起こしつつ、叫ぶコウ。それはちょうど、立っていればお辞儀をしている格好だ。
「うわっ!」「ひっ!」
2人の幼い声が、その直後コウの耳に入ってきた。
彼が「ん?」と横を見ると、男の子と女の子が倒れているではないか。
「おやおや、うちの子らが起こしてしまいましたか?すみませんねぇ。」
辺りを見回すと、エリーゼの墓の近くであった。
声の主はと言うと、こちらは見ずにエリーゼの墓へ花を供えている。
それはめがねを掛けた長身の男だった。黒い上着を着ているのは、エリーゼの喪に服しているからだろうか。
やがて祈りを終えたその人物が振り返ると、こちらに近づいて来た。
コウは起き上がって服に付いた砂を払うと、恥ずかしそうに後ろ頭を掻きながら
「いや、こちらこそお恥ずかしい所をお見せしたみたいで。」
とぺこりと頭を下げた。それを見て、相手は大声で笑い出す。

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「今迷うたろ。オヌシは生来的に人を殺める事にためらいがあるようじゃ。まあ恥じる事ではないぞよ、それが"普通"なのじゃからな。」
会武爺は普通の部分を特に強調した。
「ぐ…ぅ……」
その言葉に、何も言い返せず口ごもるコウ。
「PROT Attackは相手の命を直接奪わずに敵を消滅せしめる技、むしろオヌシ向きとは思わぬか?」
会武爺はジッとコウの目を見据えている。
「そ…それは……」
コウは葛藤した。彼の内では敵は断固斬り捨てるべきだと言う声と、それは恐ろし過ぎると言う声があったのだ。
会武爺は見かねた様子で、一つため息を吐いた。そして、
「相手が命を以て償うべき罪人じゃとオヌシが判断すれば、斬ればええ。じゃがそういう相手ばかりともいかぬ事もあろう。そういう時はPROT Attackを使うとええ。」
と提案したのである。
「………」しばし黙り込むコウ。葛藤はまだ続きそうだ。再び会武爺が、
「ああ、何とも妙な気分じゃ。よもや勝手に植え付けられた能力をオヌシへ勧める事になろうとは、のう。」
と、嘆きともボヤキとも聞こえる様なセリフを言いつつ、右手で白い顎ひげを撫でる。コウはその仕草を黙って見ていた。
「ああそうじゃ。さっき触れた時に分かったのじゃが、この力が発動する為には、条件が1つだけある。」
「え?条件、ですか?」
うむ、と会武爺が大きく頷いて続ける。
「オヌシが聞いた『声』じゃよ。認めたくは無いが、ワシの知らぬ間にセキが斬魔聖龍刀へ意思を授けたのは間違いない。その意思がオヌシの戦いぶりを評価して『声』を発したのじゃ。」
その言葉に、コウは思わず手元にある斬魔聖龍刀を見た。
「刀が、僕の戦いを評価している、だなんて…。」
突然、コウには手元の円筒が不気味なモノに見えた。彫り込まれた龍の目や牙がギラリと光った様な気がしたからである。
「とにかく、オヌシの話を合わせれば、この能力を使うべきじゃと刀が判断した時、『天命を与えよ』という言葉が聞こえるのじゃろう。」
「あの声が、聞こえた時…」
「以後、変換を解くまでの間に相手へ有効打が当たればPROT Attackが発動する。防がれてはダメじゃがの。」
そうだ、黄色クロークの男、即ちジョーヌの盾に斬魔聖龍刀が当たった時には、発動しなかった。
「だから盾に当たっても光の柱が出なかったのか…。」
「盾だけでなく武器でも同じじゃよ。何か避けられないような手段を見つければ、より確実に敵を倒せよう。…さて、PROT Attackについての説明はこんな所でよかろう。」
「分かったような分からないような…。あ!それじゃあの凄い攻撃も…。」
「凄い攻撃とな?」
「はい、先程お話しましたけど。強力なエナジーボルテックスを一撃で倒したあの凄い攻撃は何なのですか?」
「おお、そうじゃったな。それはな、ワシが組み込んだ命を以て罪を償わせる力、『斬魔聖龍刀フルチャージ』じゃ。」
いつかのように拳に力を込め、興奮しながら語る会武爺。
「斬魔聖龍刀フルチャージ…。どういう能力なんですか?」
「簡単に言えば、一時的に相手を自らの宿敵と認定し、攻撃の威力を高めた上で、相手の弱点となっている属性に刀身の属性を強制変換するのじゃ。」
「ふむふむ。」
PROT Attackも凄いが、手にまだ感触が残っている文字通りの【必殺技】について、コウは非常に興味深そうに聞いている。