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石畳の破片が周囲に勢いよく散らばり、コウの足にもいくつかぶつかった。だがコウはその痛みに気付かない。いや、シターカから目が離せないのである。
手応えが無かったのが余程悔しかったか、シターカは「ううぅぬぬぬ」と歯ぎしりしつつ、そのまま同じ場所をハルバードで殴り続ける。どうやら攻撃が当たらなかった事をハルバードに八つ当たりしているようだ。
そのスキに、とコウはカバンを拾い上げ、急いで中から斬魔聖龍刀を取り出そうとカバンをまさぐる。しかし、円筒は一向に手先に引っかからない。
「おかしい、斬魔聖龍刀が無い!?」
コウは焦っていて忘れているが、斬魔聖龍刀は先程コウに当たった後でどこかへ転がっている。
と、シターカが慌てているコウを見て、ようやく我に返った。
「何してんだよう?……あ、カバンの中にやっぱり何か隠してたかよう?こっちに渡せよう!さもねえと、今度は頭ごと潰すよう!?」
シターカは左手を前に出して、渡せと合図する。
「わ、わかった。このカバンは渡すよ。ほらっ」
そう言ってコウはカバンをシターカへ投げ渡した。シターカはそれを器用にハルバードでキャッチする。
「それよりガード、いや、シタカさん?だったっけ。」
「シターカだよう!間違えるんじゃねえよう!」
「ああ、悪かった。シターカさん。カバンに筒みたいなものが入ってなかった?」
「んあぁ?…あー、あの汚ぇ筒ならさっき放り捨てたよう。どっかその辺に転がってるだろうよう。あんなゴミ要らねぇよう。」
その言葉を聞き終わるより前に、コウは大急ぎであちこちに目を走らせた。そして、隅の方に転がっている斬魔聖龍刀を見つけたのである!
急いでそこに駆け寄り、斬魔聖龍刀を拾い上げるとシターカへ向き直る。
「シターカさん、カバンの奥にリングを一つ隠しているから探してみて。それじゃ!」
そう言い残して急いで階段を駆け下り、サッとガードポストの外へ出たのである。しかしシターカはコウの一言でカバンと格闘しており、コウの事など眼中に無い様子である。
こうしてガードポストを首尾よく、運良く脱出したコウは、急いで物陰に隠れ、辺りに人気が無い事を確認すると、斬魔聖龍刀を両手で握りしめた。
「イビルバスター、変換!!」の声と共に斬魔聖龍刀の突起を押す。直後に先端からオレンジ色に輝く刀身が現れ、まばゆい光を放つと同時にそこから9体の龍が現れてコウの体にまとわりついてゆく。足元から順番に龍が黄金のプレートメイルやノーズヘルムに変換されていき、左手の龍がオーダーシールドへ変換された直後、全身の装備が真紅に染まる。
『変換完了!イビルバスター!!』
全身に気合を込めるようにいつもの名乗りを終えると、イビルバスターは急いでガードポストへ突入。奥でまだカバンを漁っているシターカを認めたイビルバスター。
『ネオ・CFギルドのシターカ!お前の悪行もそこまでだ!』
開口一番にそう宣言すると、斬魔聖龍刀をギュッと握りしめ直す。
その声に驚いたのはシターカだった。しかしその驚きは当然だろう。突然の侵入者、それも自分の名を知る得体の知れない相手の出現に、驚くなという方が無理な話だ。
「な、なんだよう!おめえはよう!?」
『私か?私はイビルバスター!この世の悪を葬る為にやってきた、正義の使者だ!』
イビルバスターが斬魔聖龍刀の切っ先をシターカに向けて宣言すると、シターカは逆に高らかに笑った。

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コウは顔に手を当てて痛みをこらえつつ、寝ぼけまなこで辺りを見回す。
「んー、と。あれ?……そ、ソネーヨ?」
赤いバシネットに灰色ローブと言えば、彼の記憶の中ではソネーヨしか居なかった。
不意に背後から聞こえたその言葉に、ピタリとシターカの手が止まる。そして数秒間沈黙した後、
「おめえ、ソネーヨ兄貴の事何で知ってるよう?おめえもネオ・CFギルドメンバーかよう?」
そう言いながら、ゆらりとシターカがコウに背を向けたまま立ち上がったではないか。
「え、ソネーヨ…兄貴?あいつの…弟?いや、その前に、何で僕のカバン漁ってるんだ!いやそうじゃなくて、お前はどこからこのガードポストに入ってきた!?ガードさんは!?」
少し寝起きの事も有ってか、頭の中が混乱しているようだ。現状の整理に必死である。
一方、シターカはそんなコウの慌てる様などどうでもいいと言わんばかりに、振り返りざまに語気を強めながら叫んだ。
「いちいちうるせー奴だよう!質問してるのは俺様だよう!?」
バシネットの奥から聞こえるシターカの口調に、ハッとなるコウ。
「その特徴的な声としゃべり方…まさか、まさかガードさんは……。」
コウの少し怯んだ顔を見て少し愉快になったのか、シターカは僅かに鼻で笑う。
「ふん、ああそうだよう。俺様はガードさんじゃねえよう。シターカっていう名前があるんだよう!」
赤いバシネットに灰色ローブ、この出で立ちは間違いなくネオ・CFギルドのメンバーである。
「で!?おめえはどうなんだよう!?ネオ・CFギルドのメンバーなのかよう?」
バシネットの中から湯気でも出るのではないかという位な怒気を吐きつつ、怒鳴りつける。しかしコウは怯む様子も無い。
「違う!それより、僕のカバンを返せ!」
そう言いながら左手を前に出す。
「ああ、これかよう?めぼしいモノ無いからこっちから願い下げだよう。」
そう言って、シターカはコウのカバンをポイっとコウに投げた。が、全然届かずに床へ落ちてしまった。
「んなことよりおめえ、チーズばっか喰ってっと腹壊すよう?」
鼻でせせら笑うシターカ。
「お、大きなお世話だ!それはピザトッピング専用!…それより、何を探していたんだ!」
「ん?…ああ、今リングとブレスレットが在庫不足でよう。そういや、おめえが身につけてる分を見るの忘れてたよう。命が惜しければ、持ってるアクセサリ寄こせよう。」
リングとブレスレットが在庫不足とはどこかで聞いたような話……。コウは一瞬黙考し、すぐに思い出した。
「あ、あの店のアクセサリ屋が在庫僅かとか書いてたぞ!?まさか…」
「ほうほう、店を見た上にその秘密まで知った、おまけにネオ・CFギルドのメンバーじゃねえとなれば、もう無事に帰すわけにはいかねえよう。」
シターカは、壁の武器掛けに戻してあったハルバードを片手で軽々と持ち上げたかと思いきや、一度軽くそのまま上に放り上げ、柄のちょうどよい場所を掴み直す。
「大人しくしやがれよう!腕の一本で許してやるからよう!!」
そう言い終わるが早いか、ブウンとハルバードを大きく振りかぶる。そして、
「オッルゥアアッ!!」
力強い咆哮と同時に、ハルバードをコウの右肩めがけて振り下ろした。が、流石にその動きはコウでも読めたようで、素早く左に飛び退き、間一髪で避けた。
だが、その一撃はドォッという激しい音を立て、ガードポストの石畳を砕いたのである。

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その後は、ひたすら食べて飲む事に集中する。元々食事中は無口になるコウだったが、いつもより口数が多かったのは、幸福感で一杯だったからだろう。

やがて食べ終わったコウは、ふぅー、と大きなため息を一つ吐いた。その顔は至福そのものだ。そしてお腹をさすりさすり、ふと周りを見渡す。
殺風景な石造りの壁には、様々な武器や鎧が掛けられている。流石はガードポストだ。
そんな中コウには、今までは気づかなかったが、食事を終えて余裕が出来た今は気づいた事がある。
「あれ、ガードさん?」
「ん?何だよう?」
「ガードさん、灰色のローブなんか着てましたっけ?以前のガードポストで会ったガードさんは違う服だったような…?」
「ああ、この服かよう?最初から着てたけども、これは俺が好きで着てるだけだよう。他のガードと違ってても不思議じゃねえよう。」
これまで出会ったネオ・CFギルドメンバー全員に共通する特徴は、灰色のローブを纏い、バシネットを被っているというものだった。
このガードは灰色のローブを纏ってはいるがバシネットを被っていない。だから少なくともネオ・CFギルドのメンバーではなさそうだ。
コウはそう考えて自分を納得させていた。そしてふと大きなあくびが口を突いて出てきたのをきっかけに、猛烈な睡魔がコウを襲う。
「あ、ガードさん。ベッドをお借りできます…か?お腹が一杯に…なったら急…に、眠く…なってき……て……」
そのままテーブルの上にばったりと倒れるコウ。既にぐーぐーといびきをかいて眠っている。余程疲れが溜まっていたのだろうか。
「……やれやれ、ようやく眠ったかよう。」
そう言いつつ、ガードはガードポストの奥から赤色の兜を持ってくると、突然それを被ったではないか。
その赤い兜は、まさしくバシネット!ソネーヨと同じ赤いバシネットである。
「ガードさんガードさんって……俺様にはシターカっていう名前がちゃんと有るってんだよう。聞いてもこなかったから言わなかったけどよう。」
なんと、コウがガードだと思っていたのは、ソネーヨの弟、シターカであった!
では先ほど彼が言った「仲間が用事で出かけて留守」というのは、先だってコウが倒した3人組の事であろうか。
「さーて、こいつは何を持っているのかよう。」
そう言って、コウのカバンを物色し始めるシターカ。
「んー?地図?それと黒い刀……は古くて使い物にならねえようっと。えー……肉ピザに焼き魚、ってこれうちの商品かよう。それと……チーズ、チーズ、チーズ、こいつどんだけチーズが好きなんだよう?まあいいや。えーと他には……」
ガサゴソとカバンを漁るが、斬魔聖龍刀に気づく様子は無い。と言うより、
「何かいいアクセサリはねーのかよう。」
どうやらアクセサリーにしか興味が無い為に、目に入っていないだけのようである。
「んー、めぼしいのは何も持っていやがらねーよう。ん?…何だこれ。」
と、ここで斬魔聖龍刀に気づいたようだ。…が、
「血が付いた筒なんか、いくら金ぴかで綺麗な彫刻入ってても売れねーよう。」
そのままポイっと後ろに放り棄ててしまった。しかし、それが幸か不幸かコウの顔面に命中。
「ふがっ!?」
突然の痛みと衝撃に慌ててコウが目を覚ます。一方コロコロとどこかへ転がっていく斬魔聖龍刀。
「いったたたた。何だ何だ?」

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早速左手にある出入り口への階段を上り、そこでものは試しとばかり大声でガードを呼んでみた。
「ガードさんこんにちはー。旅の者ですけど、泊めてもらえませんかー?」
しばらくすると、
「はいはい、よくきなすったよう!」
と、上から野太い声が聞こえてきたので、思わず「え?」と大声で言いそうになり、慌てて口を塞ぐコウ。
まさか、本当にガードが常駐していたとは。コウは店員を疑った自分を大いに恥じた。
やがて、上の階から一人の大きな男がドシドシと重い足音を立てながら階段を降りて来た。手にはガードらしくハルバードを持っている。
「俺様がここのガードだよう。本当は他にも何人か居たんだけど、ちょっと今用事で出かけてて留守なんだよう。」
「そうなんですか、お一人で大変ですね。」
コウがそう言うと、大男は胸を大きく張って答える。
「なーに、この俺様一人でも十分だよう。それより、腹減ってねーかよう?」
改めて思い返せば、先程買った食料さえまだ口にしていなかった。
「ええ、実はもうお腹がペコペコで。」
恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。
「はっはっは、素直じゃねーかよう。そんならちょっとそこに置いてる椅子に座って待ってろよう。今用意してやっからよう。」
どうやら食べ物を用意してくれるらしい。ガードは再び上の階へと戻っていった。
「はい、お願いしまーーす。ああ、助かった。思い出したら急に空腹感が襲ってきたなぁ。」
コウは言われた通り、建物の中に入ると、右のスペースへ設置された大きな机の上にカバンなどを置き、椅子に腰掛けた。
そうしてしばし休んでいると、上の階からガードの声が聞こえた。
「お~い、出来たよう!上がって来いよう。」
その声に、待ってましたとばかり、「はーい」と返事をして階段を駆け上ったコウの目にまず飛び込んできたのは、5、6台のベッドがズラっと奥に向かって並んでいる光景だった。ガードはベッドの奥で手招きしている。そこには階下にあったのと同じテーブルが置かれ、その上にはいくつもの皿が並べられていた。コウはベッドの右側にある通路を進み、そこに向かう。
「そこの椅子に座れよう。」
コウは心のなかで小躍りしながら、ガードが指差した椅子へ腰掛けた。それを見たガードは、
「いや~、あり合わせのモノで悪いけどよう。」
と言いながら、鳥や羊肉の丸焼きに豚の姿焼きなどの焼き料理ばかりを、両手にこれでもかと言わんばかりにわんさかと持ってきた。そしてコウの前にある皿へ次々に置いていく。
「男の料理と言えば焼き料理に決まってるよう。遠慮せず喰えよう。」
その言葉を待ってました、とばかり
「はい、いただきます!」
そう叫んだコウは、夢中で肉にかぶりついた。
焼いてあるだけだが、焼き加減は絶妙だ。自分やロックの焼き料理を家庭料理とすれば、このガードが焼いたものはさながら高級料亭に出てくる料理といったところか。
「この鳥肉うまい!…ん、このラム肉もなかなか!……それにしても、こんなガードポストにこんな良質の肉があるなんて!」
「…ん?ああ、…細かい事は気にするなよう。それと、よかったらこいつもやってくれよう。」
ガードはエールと思しき瓶をコウの前に差し出した。それを受け取ると、肉と一緒に喉の奥へ流し込んだ。
「わ、これがエールなんですか!?普段酒場で飲むやつとは味が全然違いますよ。コレ、美味いですね!」

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コウは如何にも旅人です、という体でこの付近の印象を語る。すると売り娘の隣に立っているポーションの売り子が、
「そんなに不安なら、この先のガードポストへ泊まればいいジャン?大きいからベッドも沢山有るし、今は超強いガードさんが居るからサァ!」
と言ってきた。すると他の売り子達も口々に「そうだそうだ」「それが良いよ」「是非そうすべき」等と賛成する。
「ええぇ!?ガードさんが居るんですか!?この先のガードポストに?」
コウは敢えて大げさに驚いてみた。実際にはガード常駐のガードポストが1箇所になっている事を知っているのだが、売り娘が見せた先ほどの怪しい態度が引っかかって、もう少し話を聞きたいと思ったのである。
「最近は治安が悪いからネ。あ、別にその何とかギルドってのに関係なく、だからネ。」
と、ポーションの売り子が続けると、肉の売り娘もウンウンと頷いて見せる。
「ガードさんはポーションが好きだからネェ、手土産にもってこいだヨ。一つ買ってヨ。」
売り子の言葉に、「なるほどそうきたか」とコウは内心思った。
ガードなんて居る筈がない、これは一種の詐欺商法に違いない、その手には
「フーン、その手にゃ乗らないって顔してるネ。んじゃ、回復ポーションを1本買ってくれたら、もう1本おまけするヨ!」
「…うん、まあ回復ポーションは持っていても損にはならないな。いつでも使う機会はあり得るし。」とコウの内心は揺らいだ。そして。
「……、じゃあそれを買おうかな。おいくら?」「まいどありがト、700gpでーッス。」「な!」
先程の食料より高かった。しかし買うと言った手前、断れなかったコウは、本当になけなしの700gpを支払った。
だが、渡されたのはまさかの最上級、グレーターヒールポーションだった。ひとかどの調合士でさえ、時に調合を失敗するという代物だ。それが2本なら、少々割高という程度だった。
「じゃあ、そのガードポストへ行ってみようかな。」買い物を済ませ、店を後にするコウ。その背中に
「「「「まいどありがとうございまし(タ)!」」」」
という売り子達の挨拶が聞こえてきた。一体ガードポストには何が有るのか、本当にガードなんて居るのか、それが明らかになるのはもうすぐである。
「……行ったね。」「うん、行ったね。」「馬鹿だネ。」「でもちょっと可哀想だなぁ、好みだったし。」
コウを見送る売り子達のセリフが意味するのは一体何なのか。

「結局、この辺りでどこに拠点があるのかさっぱり分からずじまいかぁ。」
道に転がっている小石を蹴飛ばしながら、思わず愚痴をこぼす。
今となっては、あの三剣士全員を倒さずにおいて、後を追うなり口を割らせるなりすればよかった。
後悔先に立たずであるが、かと言って今更どうにもならない。
道には馬の足跡があるにはあるが、ここは街道である。それが求めているものである保証はどこにもないのだ。
「まあいいや。とりあえずまだ寝るには早いけど、ガードポストに入っておこう。確か、ユー行きとは逆の道だっけ。」
しばらく歩いていると、道が二手に分かれ、看板が立っていた。「ユーは右、ブリティンは左」とある。
「ユー、か。まだオークがひしめいているんだろうな。」
コウは迷わず左の道を選んだ。しばらく歩くと、ガードポストが見えてきた。確かに聞いていた通り、大きいものだ。