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「待てやコラァ!有り金全部寄越せぇ!さもないと………だぞ!」
盗賊に追われる不運を呪いながら、必死で逃げ、いや、ガードポストを目指す2人。
「いいか、コウ。この先のガードポストまで突っ走れ。そうすれば大丈夫だ。」
「そうか、確かこの先にあるポストには……」
「そーゆーことだ。」
ロックとコウはお互い頷くと、必死にガードポストを目指して走り続ける。

その追いかけっこは1時間にも及び、日はもう天高く昇っている。
その様子をガードポストの屋上から望遠鏡で見ている1人の男がいた。
「チッ、また奴らか。性懲りも無く……。」
苦虫を潰したように呟くと、大きなハルバードを片手に階下へ下りていく。

場面戻って、こちらはコウとロック。コウがもうへとへとだと言わんばかりの情けない顔をしながら走っていた。
「よし、あと少しだぞコウ!がんばれよ!」
「もっもうだめ……。もって後10分……。」
これほど長時間走り続ける事はそうそう無く、コウはもう限界に近かった。
「大丈夫だ。それだけあれば到着できる!」
ロックは必死にコウを励ましている。それにしても、こんな長時間追い続ける賊も賊である。余程獲物に困っているのだろう。
やがて、2人はガードポストの目の前までやって来た。と、そこに1人の偉丈夫が構えている。
「やった、ガードさん居た!助かった~~うわっと!」
コウは喜びの余り両手を一瞬挙げかけて、危うく落馬しそうになった。
「お~~い、お2人共、ご苦労だったな~。後は任せろ~。」
偉丈夫が2人に向かって叫び終わった頃、2人はちょうどガードポストへ到着した。
「ガードのおっちゃん、頼む!」
2人はガードの後ろで馬を止め、じっとガードを凝視する。
「へっ言われるまでも!うおおおおりゃああぁぁぁぁ!!」
気合一閃!ガードの手から振り回されたハルバードは、賊の体を貫通し、真っ二つに斬り裂いてしまった。
ヒヒーンと馬が驚いて急停止すると、いずこかへと走り去っていく。
その間際にどさりと崩れるように落馬した賊の下半身を、ガードはたやすく拾い上げ、そのまま上半身の上に放り投げた。
「まったく、リトルハンターズ・アイの連中には困ったもんだ。こんなとこまで出張るとはね。……さて、お前さん方、怪我は無いか?」
ガードは両手をパンパンとはたくと、2人の方へ向かう。
「ああ、俺は大丈夫だ。いやあ、ガードが常駐する唯一のガードポストってのはいつの時代も有り難いね。」
「そう言ってくれると助かるね。ま、立ち話もなんだから、中へ入るといい。」
ガードが照れながら、ガードポストの扉を開いて2人を誘う。
「助かります。もうヘトヘトのクタクタで。休ませて下さ~い。」
コウは真っ先に建物の中へ入ると、ベッドに横になり、そのまま寝息を立ててしまった。
「あ~あ、少しだけ休むつもりだったんだけど……。しょうがない奴だなぁ。」
ロックはおでこに右手を当てて天を仰ぐと、はぁ、と大きくため息をついた。
「まあまあ、馬にもエサを与えてきた。君もゆっくり休むといい。かなり長時間走ってきたようだし。」
そういうと、ガードは上の階へ行ってしまった。また監視を始めるのだろう。
「ども」と一言礼を言うと、コウが寝ているベッドの隣にあるベッドへ座る。

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それを見送ると、コウはポケットからナイフを取り出し、近くの木々を削って薪を集めると、それらを使って火を起こし始めた。
しばらくして、薪は赤々と炎を吹き始めた。流石にだいぶ手馴れてきたようだ。
「これでよし。後は火を絶やさないようにするだけだ。」
コウは更に薪を増やして、火の中へくべている。
そうやっていると、何時の間にかかなり外は暗くなっていた。ちょうどその頃。
「ただいまー。鹿の肉がかなり手に入ったぞ。」
手提げの鞄に一杯の肉を引っさげて、ロックが帰還したのであった。
「おかえり。火はこの通り無事に点いたよ。」
薪を1つくべてから顔を上げて出迎える。
「おーし、じゃあ焼肉にするかー。俺が焼いてやるよ。」
ロックは、鞄からフライパンを取り出して、焚き火の上に構える。
少し待ってから、そこにコウが肉を投じると、いい音と匂いがガードポストを包み込んだ。
ジューー、ジジジジ。パリパリパリ。
肉の焼ける音、脂が弾ける音。フライパンの上で、肉が文字通り踊っていた。
「そろそろ返した方がよくない?焦げるよ?」
「うるさいな。俺の方が料理詳しいんだから、黙って見てろって。」
コウが横からロックをせかすものの、ロックにはロック流の焼き方があるらしく、その後タイミングを見計らって肉を返す。しかし……。
「ほーら、やっぱり長すぎたじゃないか。コゲてるよー、肉が!」
「お前が横であーだこーだ言うから失敗したんだよ!次はちゃんとやってやるから見てろ!」
少々大人気ない言い合いがこの後しばらく続く。が、その後はちゃんと焼けたらしく、二人は満腹になったようだ。
そしてその夜も、いつもの如く更けていった。

翌朝早く、ロックはガードポストの上から今後の道筋を眺めていた。
だいぶ近くに来たとは言え、まだ遥か先の目的地。
「思った以上に時間がかかりそうだな。ちょっと見通しが甘かったかな……。」
しばらく望遠鏡を覗いていたロックは、やがてそれを懐にしまうと、下に降りた。
「おはよう。出発の準備はできてるけど、どうする?」
下では、コウが身支度を整えてロックを待っていた。何時の間にか起きて来ていたようだ。
「そうだな、すぐ出よう。朝飯は途中にある出店で買えばいい。」
ロックもすぐ荷物をまとめると、昨夜の焚き火跡を処理して外に出た。

ガードポストを後にした二人は、進路を西北西に向けて疾走し始めた。
「今日はかなり先まで一気に突っ切るから、しっかりとついてこいよ。」
「それはいいけど、どうして?」
まだ少し眠そうに目をこすりながら、ロックに尋ねる。
「森を抜けたら結構先まで平原が続いてるからな。確実に突破しておきたいのさ。」
この辺りは盗賊の類がよくいる場所で、平原のど真ん中で野宿する事は大変危険なのである。
などと言っている内に、森の終わりが見えてきた。
「よし、この調子でいけば昼頃には向こう側のガードポストだ。そこで休憩するぞ。」
二人はだだっ広い平原へ飛び出すや、更に速度を上げて疾走し続ける。しかしその途中で、運悪く恐れていた盗賊に遭遇してしまった!

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「さあ、我がしもべとなりしデーモンよ。あのオーク野郎を殺れ!」
「んま゛っ!!」
命令を受けたデーモンは、離れた位置からオーク男に様々な魔法を放っては回復し、また放っては回復し、と言う具合に攻撃を始めた。
いや、それはもはや攻撃などという物ではない。完全に遊び始めていた。
そして、それらの度に、オークとも人間とも思える様な奇妙な悲鳴が、森の中に響くのだった。
やがてデーモンのマナが少なくなると、今度は一気に空中を飛来し、オーク男の正面に立った。
その場からオーク男をその真っ赤な手で掴み、そのままブンブンと振り回しながら、森の散歩を始めたのである。
当然のように、あちこちの木にぶつけながら歩くのだ。その衝撃は尋常ではない。先程まで響いていたオーク男の悲鳴は、いつの間にか聞こえなくなってしまった……。
「そろそろ遊ぶのも終わりにしろ!このガキデーモンめ!」
黒マントが腕組みをして止めを刺すよう命じると、何とデーモンはそのままオーク男を丸呑みにしてしまった。
それが終わると、のしのしと主の元へ戻ってくる。
「ま゛っ!」
どうやら終わった、と言いたいらしい。
「うむ、ご苦労。帰ってよし。」
黒マントの号令で、紅い悪魔は足元にちょうど良いくらいの穴を開くと、再び地面の底へと帰って行った。
その様子を見届けると、黒マント、いや、ファストはベスパーの方向へと去って行った。

「あー、びっくりしたな。一体何がどうなってるんだろう。」
「さあな。でもオークの味方をする連中がいるとは。初耳だ。」
さて、ここはコーブ北のガードポスト。出入り口が2つ付いている、珍しい形の建物だ。
「そういえば、ここって僕らが出会った最初の場所だよね。」
コウが入り口前まで来た時につぶやく。
「そんな思い出に浸ってる場合じゃない。早く中へ入ろう。」
二人は建物の外にひとまず馬を繋いで中に入った。
奥には10人ばかりが寝られるベッド、入り口近くには大きなテーブルがぽつんと置いてあった。
外ではいつの間にか日は傾き始め、建物の影が道にまで伸び始めていた。
「それにしても……さっきの人、一体誰だろうね。」
ベッドに腰掛け、愛用の一振りを手入れしつつ、コウが尋ねる。
ロックは向かいのベッドで仰向けに転がっていて、何か考え事をしていた。
「さあ、誰だか解らないが、助けられたのは間違いない。でも、あの気配からすると……善人じゃあ無いな。」
「………それって、運が良かったって事かな。」
胸を撫で下ろしつつ、手入れを続けるコウを見ながら、ロックは軽く溜息をつく。
「それにしても、ファスト、か。何処かで聞いたような名前だと思うがなあ。何処だったっけ。」
思い出せそうで思い出せない、今彼はまさにその状態だった。
「それより、今夜はここに泊まるの?それともこれは休憩?」
刀の手入れを終えたコウが、鞘に収めて問う。
「まだ日は多少高いが、ここから次のガードポストまでっていうと、結構あるから、今日はここで泊まりだな。」
「じゃあ、僕はここで火を起こしておくよ。ロックは何か狩って来てくれ。」
コウがそう言うのを待っていた様に、むくりと起き上がったロックは出入り口へと向かう。
「ああ、判ってるさ。とびきりの獲物を獲ってきてやる。」
そう言うと、ロックは勇んで馬に跨がり、近くの森の中へと飛び込んで行った。

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「お前、家族はいるのか?友人は?」
突然の問い掛け。だが、オーク男は動きを止めたままだ。
「…………ああ、いるさ。それがどうした?」
「もし、その内の誰かがオークに殺されたら?」
コウの声はかすかに震えている。
「……運が無かったなとしか思わんね。それに、俺の友人は外ならぬオークだぜ?」
それを聞いた瞬間、二人に衝撃が走る!
「なっ何!?人間を敵視しているオークが友人だと?」
「さあ、もう話はいいだろう。どうせすぐ死ぬんだから。」
二人に向けて矢をつがえるオーク男。完全に形勢は不利。万事休すと思われたその時。
「Corp  Por」
二人の背後から呪文が聞こえたかと思うと、突然背後の柵が吹き飛んだ。

バラバラに崩れる柵の奥から、黒いローブと黒マントに身を包んだ男が現れた。
「ファ、ファスト!?何故こんな所にお前がいやがる!」
オーク男がひどく驚いたと言う顔で、突然の乱入者を睨む。
そのただならぬ様子を見たコウとロックは、ほぼ同時に振り向いた。そこには、何とも形容しがたい程冷たい眼を持つ男がいたのである。
「ほう。狩りの最中だったか。それはすまなかったな。
Rel  Por…」
男が呪文を唱えた刹那、男の姿がコウとロックの背後に現れた。しかし、彼の顔は二人ではなく、オーク男に向いていた。
「詫びの印に、切符をやろう。片道だがな。」
そう言うと、黒マントの男は、何か呪文を唱え始めた。
辺り一帯に不気味な空気が漂い、彼の周りでは何かのガスが円を描くように渦巻いている。
「一体何をするつもりだ!?あいつ、まるでタツマキの中にいるみたいだぞ!!」
ロックは驚嘆と興奮の中にどっぷりと浸かっている。
「何だろう。でも、今がチャンスだよ。気付かれない内に逃げよう!」
さっきまで怒りに我を忘れかけていたコウだったが、この突然の乱入者が出現した事により、自分を取り戻している。
「ああ、そうだな。よし、逃げるぞ!」
ロックはコウの提案を、珍しく素直に受け入れると、すぐさま駆け出した。
柵は二重になっていたが、先程の爆発でどちらにもちょうどよい隙間が出来ていた。

「おい!お前のお陰で獲物が逃げちまったじゃねえか。」
「・・・・・・。」
オーク男は激怒しながら叫んだが、黒マントは我関せずと言う様子で、何かをひたすら呟いている。
「おい、きーてんのか!?」
シビレを切らしたオーク男は、先につがえていた矢を思い切り放つ。
すると、黒マントの足元から突如巨大な「手」が現れ、矢をつかみ取ってしまった。
「ククク。戦いの最中に相手の召喚魔法を完了させるとは。オーキッシュ・マスクメンも質が落ちたな。」
黒マントの冷たい笑い声が辺りに響く。
「さあ、いでよデーモン!」
その後、もう一本巨大な手が現れ、両手で踏ん張るように地面を押さえる。すると今度は、腕の間から2本の角、頭、胴、脚の順で出て来た。
「あ………あわわ…」
オーク男はその場にへたり込んでしまった。余りの恐怖に、腰が抜けたようだ。
無理も無い。何故なら、現れたのは真っ赤なデーモンだったからだ。マナの邪面に堕ちた者だけが召喚を許されるという、最強の暗黒召喚魔法……。

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第二章 目指せ、秘密の花園
木が生い茂る森の中を、道がずっと続いている。
ここはベスパーの西にある森の中。ユーやブリティン、ベスパー等を結ぶ街道である。
また、途中には今もオークに占領されているコーブ村もある。
その中を、カッポカッポと馬に乗った2人の若者が、西を目指して進んでいた。
時刻はもうすぐお昼前。
馬の足は、早足と言った程度だろう。疾走はしていない。
「それにしても、この道に来たのは久しぶりだなあ。」
コウが馬上でそう呟く。
「俺は何度も通ったがな。そういや、コウはずっと大陸を離れてたんだっけ。」
「ああ、ところでさ。何でこの道を通ったの?ユー攻略はしばらく行われてなかったよね。」
「まあ、ここは王都ブリティンと商業都市ベスパーの動脈だからな。」
そう聞いたコウは、ポンと手を打つ。
「そっか。商人護衛だね。」
「まあな。たまにミノック迄行く事もあったぞ。これでも、一時期護衛役で引っ張り凧だった事もあるんだぜ。」

このような会話をしつつ、二人は曲がりくねった道を進む。
しばらく進むと、大きなT字賂に着いた。標識には「右はミノック、左はユーとブリティン」と書かれている。
「判ってると思うが、左だぞ?」
「ちぇ、馬鹿にするなよ。判ってるさ。」
コウは舌打ちしながら、しかし道ではなく、森の彼方へ目をやった。
「コウ、今度の目的はコーブじゃないぞ。変な気を起こすなよ。」
ロックが釘を刺すように注意する。
「あ、ああ。判ってるさ。先を急ごう。」
だが、コーブに近付くにつれ、自然と馬の足は早まっていく。まるで、思い出したく無い場所を振り切ろうとするように。
そして、いつの間にか全力疾走になり、S字カーブを曲がったその時!
「!!オークの旗だ!いつの間にこんな物を!?前にここを通った時にはなかったぞ。」
二人は急停止せざるを得なかった。何故ならば、そこには何とも意地悪く柵が設置されていたからだ。
急停止した馬は大きくのけぞり、ヒヒーンと雄叫びをあげる。
「気を付けろ、コウ!オークが近くにいるかも知れない!」
「いや、多分もう取り囲まれている。森の中に入ったら危険だ!」
二人は柵の前で馬に乗ったまま戦闘態勢を取る。
「何とか柵を破壊しないと…」
コウが刀で力一杯に柵を斬りつける。が、びくともしない。
ちょうど柵を斬りつけたその時、森の中から飛び出してくる人影があった。
「ほう、獲物が二匹か。うまくひっかかったなあ。」
突然二人の前に現れたのは、何と言葉を話すオーク!……ではなく、オーク面を被った人間だった。

「おい!お前人間だろう!何故オークが喜ぶ様な真似してんだよ!」
ロックが激怒して叫ぶ。
「決まってるだろ?お前ら人間の首を、ブルート様に献上するためさ。」
ロックと対象的に冷ややかなオーク男。
「さ、大人しくその首貰おうか。」
そう言うと、オーク男は身構える。
「………おい!」
不意に出て来た叫び声。流石のオーク男も、動きを止める。
「コウ………?」
見れば、コウは静かな怒りに充ちている。