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「ちょうどいいや。ここで少し休憩を兼ねて、祈願でもしてこうぜ。」
ロックが休憩の提案をしてきたので、コウも快諾する。
正義の神殿は質素な造りで、アンクと呼ばれる御神体の周りを不完全な石壁で覆っただけのものである。
ロックはそこでしばらく祈っていた。旅の目的が達成されますように、そんな事を祈っているのだろうか。
コウは単なる連れだったが、ともかく無事に旅が終えられる事を祈った。
「さ、先を急ぐぞ。」「そうだね。」
2人はすぐさま馬に飛び乗ると、すぐ旅を続けた。
すぐ近くにある湖の滝つぼに恐れおののいた。
湖畔をぐるりと回って、金持ちの別荘等が立っているのも見た。
神殿までとは逆の海岸線に沿って進み、再び走った。
途中、はやる気持ちを抑えて、何度も地図を確認しながら。
そして、日が少し沈みかけた頃、森を抜けたその先に、美しい花園が広がった場所に出た。
「秘密の花園」であった。
「うわー、こりゃすごい。きれいな場所だねー。」
コウは下馬してその場にあぐらを組んで座り込んだ。
森に囲まれた万年花の園。ロックは馬上からその景色に目を奪われたまま呆然としている。
「ここには初めて来るが、何故かこう、前に来た事があるような、不思議な感覚があるな。」
「やっぱり!僕もだよ。不思議な場所だね。」
ロックは鞄から時計を取り出して時刻を確認する。
「さて、と。今の時間は……。おっ、こりゃいい。ちょうど2時手前だ。」
ロックは下馬すると、コウと同じようにその場へ座った。
そうして、静かな森の音を聞きつつ、時計とにらめっこをするロック。
「噂」の告げる夕方の2時22分。その時が、刻々と近づく。
そして…。

第三章    運命の時間、夢のお告げ
3、2、1、0。何かが起こるはずの時間はやって来たが、全く何も起こる気配が無い。
「……くそ!何も起きない!……結局、噂は嘘だったのか!!」
「うーん、……時間は間違いないけどねえ。」
コウが時計を覗き込んで確認するが、針は間違いなく2時22分を指していた。
あ、ロックがひらりと馬に飛び乗る。
「何も無いんじゃ居る意味も無い。俺はこのままブリティンへ行くけど、コウはどうする?」
立ち去り間際に振り返るロック。
「うーん………まあ、せっかくここまで来たんだし、今日はここで寝るさ。」
「そうか。すまなかったな、こんな無駄な徒労に誘っちまって……。」
ロックが馬上で申し訳なさそうに頭を下げる。
「何言ってるんだよ、ロックらしくも無い。とても楽しかったさ。また旅に誘ってくれ。」
「ああ、必ず。」
安堵した表情を浮かべたロックが力強い口調で答える。余程気まずかったようだ。
「それじゃな。夜盗にはくれぐれも気をつけろよ。」
「ああ、分かってるよ。ロックも。」
コウが手を振って見送ると、ロックも振り向かず片手を上げる。
「ふっ、言われるまでも無い。それじゃ。」
そう言ってロックは南へ走り去った。そう、まさに風の如く。
「さて、じゃあ僕も寝る準備を始めないと。」
コウはせっせと薪を集めると、手慣れた手つきで火を起こした。

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元々単なる橋だった物を、王立軍が宿泊施設に改造したのだ。
「よぉし、到着だ。…最近来てなかったけど、やっぱり昔と変わって居ないなぁ。」
到着早々ロックがそう言うのを見て、コウは少し安心したようだ。
すぐ馬を繋ぎ、中へ入る二人。奥へ進む二人を迎えたのは、ガードのおじさん、では無く剣術育成用のダミー人形だった。
他にも、中央にはそこそこ大きい机があり、使いかけのトランプが置かれていた。
壁際にはベッドが6つ設置され、小物を入れる木箱まである。
「へぇ、中は結構広いんだね。」
コウがキョロキョロしつつ内部の広さに驚き続けている。
「ああ、ここは元王立軍兵士訓練所だからな。今は無人ガードポストだけど。」
ロックは、そう言いながら中央の机に着く。コウもそれに倣い、向かいに腰掛けた。
机の上にあるトランプを弄びながら、ロックが話し始めた。
「昔、俺はここで弓の訓練を積んだ。いつか話しただろ?それがここさ。」
「ああ、確かバルガードっていう人に師事し」
「おい、バルガスだ。間違えるな。」
ロックが間髪入れずに間違いを正す。それを受けて、コウは咳払い1つでごまかす。
「コホン。…で、バルガスさんに師事したのはいつから?」
「ん?えっと……。熊に襲われたのが10歳だったから、その頃だな。ま、大体10年鍛えてもらった訳だ。」
コウがポンっと手を打ち、うんうんと数回うなずく。
「そっか。熊が大嫌いだって言ってたのは、それが原因か。トラウマってやつだね。」
「う、うるさいな。熊の話はもういいだろ?……さっ早く寝るぞ。もう遅いんだからな!」
彼はトランプをいそいそと片付けると、ベッドに入った。
「はいはいっと。」
コウもつぶやくようにそう言ってからベッドに潜る。

「ふあぁあ、寝たなぁ。さて、と。」
翌朝、コウはロックよりも早く目が覚めた。
「いよいよ、あと少しで目的地か。今日中には着けるかな?さて」
コウはロックを起こそうとして彼を揺するが、全く起きる気配が無い。
「う~、まだあと5分いいだろ~?」とか言っている。
「それなら……」ロックの耳元へ顔を寄せる。
「くまだー、くまが出たぞーー!」
いきなりそう叫んだのであった。
「うわあー、どこだ!どこに出たあ!」
慌てふためきながらロックが飛び起きる。が、当然そこに熊の姿は無い。
「やあ、起きた起きた。やっぱり熊は怖いんだね。」
にやにやと笑いながらコウが出発の準備に入る。
「いたずらかよ!まったく!」
そう怒りながら、ロックも出発の準備に入った。

「橋を越えたら、すぐ右の道なき道へ入るんだ。そうすりゃ目的地よ。」
海からのすがすがしい空気に触れたロックは、一発で機嫌を直していた。
「じゃあ、早速出発しよう。今日中には着きたいし。」
「ああ、勿論今日中に着けるようにする。ここから一気に突っ走るぞ。」
二人は馬の背を蹴って、走り出した。目的地はもう目の前なのだ。
橋を越え、海岸線に沿って走る2人。途中、オーガやトロル等がたむろしていたが、馬の足に追いつけるはずも無く。
やがて日が頂点まで昇りきった頃、2人の行く手に神殿が見えた。「正義の神殿」である。

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その隙に、更にもう一度ダブルショットをお見舞いする。
この攻撃も見事に命中し、トロルの動きはかなり鈍っている。傷は相当深いようだ。
しかし、最後の力でロックに至近距離からの突進を試みてきた!
「ウガアアァァァッ」雄叫びと共に拳を振りかぶるトロル。
「くっ!!」弓を盾の様に構え、馬上防御の構えを取るロック。
「うらああぁぁぁぁっっ」気合と共にザシュッ、と鋭い肉の切れる音。
次の瞬間、トロルの腕は血しぶきと共にどこかへ消えていた。
「グッグガァアアァァ・・・」
断末魔と共に、前のめりに倒れるトロル。最後のとどめは、森から飛び出したコウの刀によるものだった。
馬から下りて、猛ダッシュで突撃を敢行したのである。
見事トロルを斬ったコウは、どうやら激しい緊張から一気に解放された事による疲労感に襲われたらしい。
刀を地面に突き立ててその身をゆだねつつ、肩で息をしている。どうも巨人に手をかけたのは初めての様子だ。
「はぁっはぁっ、や、やったよ。ロッ、ク・・・・」
「上出来だ!コウにしてはよくやった。じゃあ奴にとど」
バシュウウウ!
エナジーボルトが、爆音を立てつつ今度はコウに向かって飛んできた。先ほどのガーゴイルの仕業である。
「うぐぁっ!」
脇から直撃を食らったコウは、真横に吹っ飛んで木に叩きつけられると、そのまま気絶してしまった。
「コ、コウ!」
驚いたロックは、背中に弓を引っ掛けると、すぐ馬から下りてコウのそばへ駆け寄り、息を確かめる。
「よかった、まだ生きてるな。・・・もう少し待ってろ。すぐケリをつける。」
立ち上がったロックを今度はカースの魔法で苦しめるガーゴイル。
急激に力を抜かれたロックだが、敵を見据える目は何ら変わらない。
「もろいから、出来ればこいつを使わないようにしたかったが・・・」
そう言いつつ、腰に下げていた連弩を取り外して、ガーゴイルに向けて構える。
「食らいやがれ!ダブルストライク、2連射!」
すると、小さい矢が2本連続で飛び出し、ガーゴイルの腹部に突き刺さる。
更に、すぐ後に同じ矢が2本、今度は頭部へ直撃した。
これが致命傷となり、ガーゴイルは「アオオオォォゥッ」という断末魔を残して、仰向けに倒れたのである。

「大丈夫か、すぐ手当てしてやる。」
連弩を腰に下げ直したロックは、再びコウの元へ駆け寄り、彼に応急手当を施す。
「へへ、ドジったね。・・・・でも、もう大丈夫。馬にも乗れるよ。」
そう言ってゆっくり起き上がるコウに肩を貸し、馬の背へコウを乗せ、自分も馬にまたがる。
「さ、もうすぐ先だよ。早く行こう。」
今度はコウがロックを引っ張って、前進を促している。
「あ、ああ。そうだな。」
少し暗い表情を浮かべていたロックだが、その促しに答えて、コウを先導し始めた。

2人が次のガードポスト「トレーニングポスト」に到着したのは、もうどっぷり日が沈んだ頃だった。
入り口付近に明かりがあるので、遠くからでもよく判る。そこは、湾に飛び出た「海上施設」である。
小さな島と陸を結ぶ橋の役割を持ち、その島には弓士訓練用の的がいくつか設置されている。

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本当に腐っていないから不思議である。
「ロック、昼間っから焼肉なんて、贅沢すぎ……」
「イヤなら自分で何か作ったらどうだ?」
「いや、誰もイヤだとは一言も……。」
「なら文句は言うな。ふっふっふ、そろそろ良い加減だな~。」
フライパンをあらよっとはねると、まさにちょうど良い焼き加減である。
「お~、お見事。さすがロックだねぇ。」
「ん?おだてても無駄だぞ?これは俺のだからな。自分のは自分で焼け、道具と肉は提供するぞ。」
つーんと突き放される様に宣告を受けたコウが、がっくりと肩を落としたのは言うまでも無い。

さて、2人が焼肉を無事堪能したかはご想像にお任せするとして、いよいよ次の寝床へ向けて出発するようだ。
「この後一気に次のガードポストへ向かう。ちょっと時間を食いすぎたからな。」
「確か、この次はカオス神殿の向こうだっけ?途中が危険だって噂があるけど。」
荷物の整理をしながら、コウは以前聞いた事のある噂を口にした。
「夕暮れ時のカオス神殿辺りでは、ガーゴイルがよく出没するらしいけど・・・。」
そう、カオス神殿は混沌を表す場所で、この周囲では中級のモンスターがよく出没する。
護衛を持たない商人はこの場所を避けているほど、危険な場所なのである。
「なぁに、俺の弓で木っ端微塵さ。実際何度も戦ってるんだ。そう心配すんなって。」
かっかっか、と自信たっぷりに笑うロックを、頼もしく思うが、しかし一抹の不安を隠せないコウなのであった。

うっそうと茂る森の中を、カッポカッポと馬足で進む。
景色はどこまでも似たようなものだ。そこを、少し蛇行しながら道は続く。
問題のカオス神殿の近くには、日が赤くなった頃に着いた。このまま進めば夜には次のガードポストである。
そう思っていたその矢先、道を塞ぐように2体のモンスターが仁王立ちしていた。
一方は大きな角を生やした巨人、もう一方は禍々しい羽を生やした魔人!
そう、トロルとガーゴイルである。だが、ロックは全く動じておらず、むしろ楽しそうである。
「お、いい獲物が出てきたな。ガー公とトロ野郎か。・・・ひとまずコウは下がってな。」
「う、うん。そうする。隙を見て一太刀浴びせるよ。」
そそくさと森の中へ移動し、戦況を見守る。さて、ロックは背中の大弓を取り出して、第一矢をつがえた。
「まずはガー公、てめぇからだ!」
ヒョウと放たれた矢が真っ直ぐガーゴイルに突っ込むと、直後に光の弾が飛んできた。
エナジーボルトである。魔法弾は避ける事が出来ない為、そのままロックに直撃!バチバチッと激しい火花が飛び散る!
「ぐっ、・・・へへっそうこなけりゃ面白くねぇぜ!食らえ、アーマーピアス!」
ダメージを受けたロックであったが、流石に慣れているのか全く動じず、直ぐに次の矢を放つ。
ドガッとこの矢も見事命中。ガーゴイルが少しのけぞると、今度は横からトロルが飛び掛ってきた!
「くっ、今度はてめぇか!」
ロックが素早く2本の矢をつがえる。おっと、これはいつか見た構えだ。
「ダブルショット!!」
至近距離からのダブルショットは、放つと同時にドガドガッという音を立てて、トロルの巨躯に突き刺さった。
「グゥゥッガアアアァ」
刺さった矢の部分を手で押さえつつ、大きく後ろへのけぞるトロル。

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「ふぅ。全く、とんだトラブルだぜ……。」
舌打ちをすると、ロックは鞄から水を取り出して一口飲み、もう一つため息をついた。
「ここはブリティンの境目で、ここまで半日で来れたわけだから、少し休めばそのまま…次のガードポスト……ま…で……グゥ……」
考え事をしながらそのまま横になると、猛烈な睡魔が襲ってくるもの。こうして、コウに続きロックも寝息を立て始めてしまった。

「おい、ロック!起きろよロック!………すぅぅっ…わああぁぁああぁああぁ!!」
「うわああぁぁ!」
ガバッと身を起こしたロックだったが、まだ少し呆然としている。意識が今ひとつはっきりしていないようだ。
と言うより、耳鳴りがすごいらしく、目の焦点が合っていない。
と、上の階からドタドタッと降りてくる足音が聞こえてきた。
「いっ一体何事かね!?」
見れば先ほどのガードである。余程慌てていたらしく、手に望遠鏡とハルバードを抱えてきた。
「あぁ、すいません。ロックが全然起きないから、つい……。」
「全く、まだ耳がキンキンするぜ。その起こし方は今後禁止な!」
申し訳なさそうな顔をするコウに、追い討ちをかけるロック。
「なんだ。何も無ければいいんだ。では私はこれで。」
ガードは呆れたような笑顔を浮かべてそう言うと、再び上の階に戻っていった。

「すぐに起きないロックが悪い。」
「い~や、少しの休憩をするって言ってたのに、寝るコウが悪い。」
また始まった。いつものケンカである。
「寝てたじゃないか、自分だって。」
「おや~?先に寝たのは誰だったかな?」
二人の情けないやりとりがしばし続くのは置いておくとして。
「ところで、今はもう夜かな?」
「ああ、時計はもう7時を指してる。こりゃ、今夜はここで休むかな。はぁ~。」
ロックが時計を取り出してため息をつく。こんなはずではなかったと言わんばかりだ。
ガードポストは防御を第一にしている為、窓は無い。よって、外の様子は出なければ判らないのだ。
「ガードさ~ん、今夜はここに泊めて下さい!」
コウが階段を上っていくと、次の瞬間驚きに驚いた表情でロックのそばへ戻ってきた。
「ねっねぇ、ロック?確か、夜の7時だったよね?今。」
「ハァ?何をバカな事言ってるんだ?さっきそう言っただろ。」
呆れた顔でロックがコウを見る。
「今、上に上がったら……、外が明るかったよ?」
「なっ何!?じゃあ、今は朝の7時か!?」
そう聞くと、ロックは自らの過失を認めないと強弁しつつ、ガードに挨拶をしに上の階へ上がる。
「お…おはよー、ガードのおっちゃん。夕べは世話になったな。俺らこれで出発するわ。」
遠くを望遠鏡で除いていたガードは、ゆっくりロックに向き直った。笑顔で。
「そうか、なら気をつけて行けよ。最近は物騒だからな。」
「ああ、それじゃな!」
2人は早速馬に飛び乗ると、すぐに出発した。
得したような、損したような、複雑な心境で。

ガードポストを出た後は、再び森の中を街道に沿って走った。
そのまま特に何事も無く、昼前には次のガードポストに到着。小さなベッド2つが並ぶ、小さい拠点である。
そこで少し休憩と昼食を取る事になった。
「いつかの蓄えを使う。腐ってないから安心しろよ。」
ロックが鞄から生肉を取り出して来た。