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「朝から酒場とは元気な事でございますな。お気を付けてー。」
宿の主人が昨夜の客を入口から見送っている。
二人は挨拶もそこそこに立ち去った。

さて、酒場に着いた2人は、壁際に馬を繋ぐと、早速中へ入った。
まだ朝早い事もあってか、まだ殆ど人がいない。
コウとロックは、半ば貸し切り気分でパンとミルクを二人分注文した。
ここはさすがに彼らでも、朝から飲酒はしないようだ。
「さて、これからの事をおさらいしておこうと思うんだが。」
と、ロックが突然真面目になって切り出す。その表情を読んだコウは静かにうなずく。
「俺達が目指すのは、『秘密の花園』だ。ここから歩きで4、5日、馬の足で2、3日ってところだ。」
コウがうなずいたのを確認し、ロックは続ける。
「道中野宿が続くだろう。まあ町なんかこの先全く無いからな。宿代わりの建物まで行って、そこで泊まろうと思う。」
「それがいいね。」
コウは快諾した。野宿と言えど、屋根があれば多少は安全だからだ。
「で、聞きたいんだが、コウ。お前料理出来るか?なに、肉の丸焼きでもいい。作れるか?」
「は?」
その時コウは耳を疑った。ロックの口から出たのが余りにも彼の想像を越えていたからだ。
「えっと、まあ、その、…昔は作れたけど……最近は作ってないなぁ。」
コウはドギマギしつつ、声細に答えた。余程自信が無いのであろう。
「そうか。ならいいんだ。まあ飯は何とかなるだろう。あと気掛かりなのはモンスターだな。」
それは、凄腕の弓使いらしからぬ発言だった。
「ええ!?ロックらしく無いなあ。あはははは。」
コウはロックの不安を軽く笑い飛ばした。とその時。
「はいよー。パンとミルクお待ちどうさま。」
テーブルに出来立ての料理が並ぶ。
「さーて、じゃあ食うかー。」

・・・食事中・・・
しばらくお待ち下さい

「あー、食った食った。」
「うまかったねー。朝はやっぱり、これが一番だよ!」
二人はパンを絶賛しながら、しかし早々に出口へ向かった。
入る時は気付かなかったが、壁には何やらギルドの広告が並んでいる。
ロックは気付きもしないで店を出たが、何故かコウはその中の1つに目が止まった。
そこには、
【Create The Future!】
『未来を俺達と共に造ろう!世界に自由をもたらそう!』
『退屈な日々におさらば!過激でエキサイティングな毎日!』

などと大きな文字が踊っている。
このチラシは、どうやら仲間を募集する物のようだ。
しかし、コウはそのままロックの後を追って店を出た。
「お待たせー。」
コウが片手を軽く上げて言うと、ロックも
「おし!じゃあ、行くか。」
とコウに馬を引き渡した。ロックは先に出て、コウの馬も一緒に出口まで引っ張って来ていたようだ。
二人はひらりと馬に跨がると、ベスパー南端の橋を渡って大陸への上陸を果たしたのであった。
二人にとって、この先に待ち受けるのは、苦難であろうか?
それとも………。

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「さーて、そろそろ寝るか。」
ロックも、コウに勝るとも劣らない速さで寝息を立て始めた。

「これはこれは、閣下御自らがお出ましとは。恐縮です。」
2人が眠りに入ってからしばらくした頃。宿の入り口近くで何やら話し声がする。
どうやら誰かが来たらしいが、客ではなく偉い人間のようだ。
その人物の様子はと言うと、漆黒のローブに漆黒のマントという風貌で、見た目はコウ達と同じく若い青年だが、その目は非常に冷たい印象を受ける。
「フン。つまらぬ挨拶より、経過報告が先だ。」
閣下と呼ばれたその男は、ロビーの椅子にドカッと腰掛けると、怒りの交じった声で言い放った。
「ははっ。本日は中立者と思しき若者、2名の宿泊のみです。」
宿の主の方が明らかに年上だが、最敬礼の姿勢をとって報告しているようだ。余程偉い人間なのだろう。
「それから、」
宿の主人がそう言い掛けた時、男は待ったと言わんばかりに手を挙げて制止する。
「中立者と思しき、とはどういう事だ?はっきりしろ。」
男は宿の主を鋭く睨み付けた。途端に宿の主人は畏怖の表情を浮かべて、叫ぶように報告を再開した。
「はは、何分見かけない顔でして。見たところ、ただの旅人のようですので、閣下の御心労には及びません。」
「フン、そうか。」
それを聞いて、男の表情が僅かに静まったように見えた。
「それから、相変わらず奴等の動きは掴めておりません。何処に隠れているのか、全く音沙汰無しです。」
「まあ仕方あるまい。引き続き調査せよ。決して監視の目を緩めるな。」
「はは。心得ております!」
宿の主人は再び最敬礼の姿勢をとる。
「俺はこれから本部へ戻らねばならん。稼ぎは後で支部へ持って行け。いいな?」
男は席を立つと、そのまま出口へ向かう。
「はは。仰せのままに、ファスト閣下。」
宿の主人は深々と頭を下げたままだが、ファストと呼ばれた男はそれに見向きもせず、そのまま宿を後にして、何処かへと消えて行った。
夜の闇と彼の纏ったローブが交じり合い、宿の主が顔を上げた時には、彼方で馬のいななきが響いているだけだった……。

窓から朝日が差し込み、コウを眠りの淵から解き放つ。
「ふぁー、もう朝か。全然寝た気がしないなあ。」
コウはゆっくり起き上がり、うんと伸びをする。
「さーて、ロックを起こしてやるかー。」
ベッドから下りると、まるでタイミングを合わせたかの様にロックが部屋へ入って来た。
「ちぇっ起きてたか。早かったなー。」
ロックが笑いながら、しかし悔しげな顔をする。
「ははは。ところでいつ頃出発するんだ?」
「そーだなあ、直ぐにでも出たいが、しばらくは町とお別れだから、ここで飯食ってからにしようぜ。」
出発は食事が終わってから。その答えに驚くコウ。
「驚いた。ロックの事だから今すぐとか言うんじゃ無いかと思ってたのに。」
それを聞いて、にわかに顔を曇らせるロック。
「まともな食事には当分ありつけないからな!食える内に食っとかないと。」
珍しくロックはまじめだ。
「冗談だよ。それじゃ早く食事にしよう。」
二人は急ぎ身支度を整えると、酒場へ直行した。勿論、宿賃を払ってからだが。

 

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そして、ロック達の所へ行き、丁寧に礼を言った。
「いやー、助かりました。あなた様のお陰で、無事危機を乗り越えることが出来ました。」
船長が深々と頭を下げる。
「なーに、当然の事です。それに、危機を乗り越えられたのは、船長の采配がよかったらからですよ。」
何故かコウが船長に返礼する。
「ありがとうございます。御礼と言っては何ですが、あなた方の船賃は頂きません。どうか、残りの時間をごゆっくりお過し下さい。」
「ああ、じゃあそうさせてもらおう。どうにも寝足りないからなー。」
そう言うと、ロックはいそいそとデッキへ入って行った。
「では私はこれで。」
船長が再度頭を下げる。
「あ、それでは。」
コウも返礼を怠らない。
「さて、僕もデッキに入ろうっと。」

結局、シーサーペントの攻撃で受けた損傷が予想以上に影響を及ぼした事により、船が目的地ヴェスパーの港に着いたのは、到着予定時間を遥かに過ぎた夜中だった。

「ふいー。やっと着いたか。」
「長いような短いような。」
ベスパーに到着した二人は、桟橋へ着くなり溜め息を漏らした。
「船賃が浮いたのは助かったね。宿代に回せる分が増えたし。」
「感謝しろよー。お・れ・が・倒したんだからな。」
ロックは再び、自らの武勇を誇らしげに強調した。
「はいはいっと。」
コウがそれに苦笑を以て答える。
「それより早く宿に泊まりたいよ。疲れたしな~。」
コウは今にも倒れるような仕種で強調した。
「そうだな、そうしよう。」
二人は馬に跨がり、町の中へ繰り出した。夜中だけあって、人の姿が見えないが、そんな事はお構い無しに二人は宿を目指す。

宿への道にかかっている橋は1つだけとあって、あっという間に到着した。
「いらっしゃいませ。お泊りのお客様ですね。」
2人が入ってくるのを見ると、宿の主が丁寧に出迎えた。
「他にどんな客がいるんだ?」
と、ロックの厳しいツッコミが炸裂する。
「すいません、一泊でお願いします。」
コウが横から申し訳なさそうに伝える。
「かしこまりました。お部屋はお2つでよろしいですか?」
「ああ。それでいいから、さっさと用意してくれ。こっちは船旅で疲れてんだ。」
ロックは相変わらず半分喧嘩腰だ。
「まあまあ、いきなり泊まるんだから、そう急かすなよロック。」
コウはいつも通りになだめ役に徹しているが、ロックは不満だらけの様子だ。
「かしこまりました。手早くご用意致しますので、今しばらくお待ち下さいませ。」
宿の主は、部屋の準備に立ち去った。
しばらくして主が戻り、二人を部屋へと案内した。
ロックは南端の、コウは北端のシングルへ案内された。
「ではごゆっくり。」
そう言い残し、主は下がって行った。
「あー疲れた。早く寝ようっと。」
そう言うと、コウは早速ベッドに横たわる。 そしていつものようにすぐ寝息を立て始めた。
一方、こちらはロックの寝室。彼は未だに昼間の興奮がくすぶっている様子だ。
矢の無い弓を何度も引いては、恍惚に浸っている。
「俺のコイツがあの怪物を仕留めたんだなー。」
そして、おもむろに弓を置くと、ベッドに飛び込んだ。

 

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幸いまだ船はかろうじて浮いている。しかし、船内は完全にパニックだ。
「損傷確認急げ!総員、ありったけの矢で応戦だ!」
船長が目に怒りと恐怖を浮かべて叫ぶ。
しかし、不慣れのためなのか、なかなか矢は当たらない。そんな中、
「損傷報告!船底に軽微な浸水!現在応急修理中です!」
船長に部下からの報告が入った。しかし、その声も、もはや船長には届いていないようだ。
彼は食い入るようにして、この戦闘を見守っている。

「だめだ、霧が深くて当たらない!もうだめだー!」
「弱音を吐くな!やらなきゃ俺達が死んじまうんだぞ!」
にわか戦闘員同士で励まし合うが、矢は相変わらず当たらない。
そこへ、デッキの中から、ロックとコウが何事かとばかりに飛び出してきた。
「ロック!見ろよ、シーサーペントだ!でっかいなぁー。」
「……さっきのはあいつの仕業だったのか。くっそー、いててて…」
ロックが腰を摩りながら、恨めしそうに怪物を睨む。
「……!あんにゃろう、許せん!」
ロックは素早く馬にまたがると、弓を取り出して構え、矢をつがえる。そして、怪物に狙いを定める。
「俺の怒りを受けとれ蛇公!!ダブルショット!」
ロックの放った矢は、物凄い勢いでシーサーペントに向かって飛んでいく。
だが、あと僅かと言う所で矢は外れてしまった。
「あー、惜しい!もう少し左!」
コウが悔しげに叫ぶ。
「ちっ!船が揺れなきゃ当たってたぜ!もう一発!」
言うが早いか構えが先か、言い終わる頃には、すでに次の矢をつがえている。
「行け!ダブルショット!」
再び激しい音を立てながら、矢は怪物に向かって飛ぶ。しかし、今度は僅かに上へそれた。
「兄ちゃん惜しい!もう少し下だ!」
にわか戦闘員の一人がロックを励ます。
「クッソー、今度こそ当ててやる!」
と、その時、怪物が再び接近を始めた。どうやら今度こそ本気で船を沈めるつもりらしい。
「ロック、チャンスだ!敵からこっちに来るぞ!」
「黙っててくれ。俺だってこの船を沈ませるわけにはいかないんだ!」
今度は外せない。何としてでも当てる。そう思った瞬間、一瞬何も聞こえなくなった。 
「今だ!!ダブルショット!!」
心の中でそう叫んだロックは、落ち着いて矢を放つ。
ヒョウっと乾いた音を立てて、ロックの放った矢は、真っ直ぐ怪物へと吸い込まれて行った。
直後にドガッドガッと、矢が当たる音が響く。
「グワアアァァ!!」
怪物は船まであと僅かと言う場所で、物凄い雄叫びを上げながら、静かに海の底へと消えて行った。
「……やったか。てこずらせやがって。」
ロックがため息混じりにつぶやく。
「…………もう、死んだみたいだね。さすがはロックだ。」
コウが自分の手柄のように喜ぶ。そんなコウを見て、ロックの顔から険しさが消えていった。
その時、船の周りを覆っていた霧も晴れ始め、風が吹き始めた。

「………よーし、風が戻ったな。損傷箇所はどうなった?」
船長が部下に尋ねる。
「浸水は止まりました。現在排水を急がせています。」
「ふう、そうか。よくやった。引き続き職務を全うせよ。」
部下の報告を聞くと、船長の口から安堵の溜息が出た。

 

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「さ、乗ってくれ。急ぎにはやっぱし馬が最高だからな。」
「呆れたような、凄いような、複雑な心境だよ。何時の間にそんな芸当まで。ははは・・・。」
コウが苦笑する。何せ、テイムの現場を初体験したのだ。
「けど助かる。コイツで走るのも久しぶりだからね。」
二人は急いで馬にまたがると、すぐに船着き場を目指した。
走る事数十秒、二人は何とか乗りたい船に間にあった。
「ふー、危なかったぜ。俺が馬を調達しなかったら、間に合わなかったな。」
ロックがさも素晴らしい働きをしたように、得意げに言うと、コウは苦笑した。
「ナンパしなかったら、もう少し余裕があったように思うけどなあ。」
「ほお、それじゃあその馬、返してくれたっていいぜ?その代わり、コウは道中歩きだぞ。」
「おいおい、冗談だよ。本気にするなって。助かってるよ、本当だ。」
コウが慌てて訂正する。
「まあ分かればいいんだ。」
二人のやりとりを横で聞きながら、定期便の船長が操舵手に命じる。
「この辺は霧が多い。私はお客にデッキへ入るよう伝えてくるから、お前はしっかり舵取をするように。」
それを聞いた操舵手は、緊張した面持ちで敬礼し、力強く答える。
「了解しました、船長。」
それを聞くと、船長は二人の側までやって来て、よく通る声でデッキに入るよう伝えた。
「まあ仕方ない。到着までどのくらいかかるんだ?」
ロックがめんどくさげにしつつ、船長に問う。
「そうですね、予定通りであれば明日の夕方くらいには。」
「明日ですね、分かりました。ロック、デッキに入っていようよ。」
「ああ、そうする。少し眠った方がよさげだしな。」
二人は言われるままにデッキへ向かう。
「さて、他の客は、と。」
船長が忙しく甲板を回り、皆をデッキへ誘導する。

舟脚は非常に速く、どんどん風を切って進んでいた。
とても快調で、この分なら予定より早く着けるかもしれない。そう思った矢先だった。
いつの間にか霧が出始め、次第に濃くなって行く。それと呼吸を合わせるように、
船の速度が徐々に落ちていった。風が止み始めたのだ。どうやら船長の読みは当たったらしい。
急に船内が慌ただしくなった。
「進路変更、面舵ー、10度!」
「厳重警戒態勢!怪物に注意しろ!何かあればすぐに報告ー!」
そう、この海域は、海の怪物シーサーペントが時々出没して、行き交う船を沈めていた、魔の海域であった。
霧は、かの怪物が現れる前兆であり、強力な武装の無いこの船では、出会ったが最期なのである。
「何か急に慌ただしくなったなー。」
「何かあったのかねー。」
デッキで横になりながら、コウとロックが呟く。

2人がくつろいでいる間に、甲板では大変なことになっていた。
「!! 右舷前方に長い影を視認!距離……見失いました!」
見張り員が大声で叫ぶ。
「うねりが強いぞ!接近されているようだ、総員警戒を更に厳にせよ!」
船長が大声で叫ぶ。っとその刹那、
ドドオオー!という轟音と共に、船が大きく揺れた。
「わああああ!」
「ぐわあああ!」
ある者は壁に叩き付けられ、ある者は海に投げ出されそうになった。