洋楽の歌詞を取り上げるシリーズ、かなり久しぶりの第6回。今回はSkid Rowのアルバム「Slave To The Grind」(1991年)からの名曲「Quicksand Jesus」です。

 

 

サダム・フセイン政権統治下のイラクによる1990年のクウェート侵攻をきっかけに翌1991年1~4月に米軍を中心とした多国籍軍とイラクの間で戦われた湾岸戦争から今年でちょうど30年。

国際世論は侵攻批判では大方一致していたが多国籍軍については侵攻を中東におけるプレゼンス拡大の好機とみた米ブッシュ(父)政権の思惑を感じ取った人々もおり意見は割れた。

 

当然ながらミュージシャン達にも湾岸戦争は影響を与えた。最も顕著な例の1つは反共和党のスタンスを徹底して貫くMinistry「N.W.O.」(ブッシュ大統領が主張した「New World Order=新世界秩序」の頭文字)だろう。

 

Slayerのライヴ盤「Decade Of Agression」ディスク1は1991年7月13日フロリダ州レイクランドで収録されたものだが反戦的とも解釈できる歌詞の「Mandatory Suicide」の前のMCでトム・アラヤが「次の曲はペルシャ湾から生きて帰ってきた友人達に捧げる」と言っている(SpotifyではなぜかこのMCはカットされているので音源へのリンクは無し)。

Winger「Miles Away」は曲が書かれたのは開戦前だが全米12位とヒットしたのは遠い戦地に赴いた兵士達の家族の共感を集めたからではとも言われている。

 

直訳すると「流砂のイエス」という砂漠での戦闘にインスパイアされたタイトルの「Quicksand Jesus」もその一例だ。

この曲をデイヴ”ザ・スネイク”セイボ(ギター)と書いたリーダーのレイチェル・ボラン(ベース)はベスト盤「40 Seasons」でこうコメントしている。

「湾岸戦争の真っ只中、平和な時代に育った誰もがそうだったように俺たちも混乱していた。」

「チャンネルを回していたらPVが映った。それがパット・ロバートソン(訳注:キリスト教保守派のテレビ伝道師)の番組『ザ700クラブ』で俺は頭にきちまったよ。奴は『神への信仰は幻想だ』とこの曲は言っていると主張していた。曲を書いた時に俺たちが考えていたこととは完全にかけ離れていたね。」

 

 

She caught the melting sky
It burned but still the winter passes by and by to the other side

 

彼女は溶けていく空をつかんだ

空は燃えていたがそれでも冬はあちら側へ向かって行く

(訳注:空が溶けそうなほどの酷暑の中東にも冬は訪れつつある、という意味)
 

A slow parade of wind that blows through trees that wilted with the season's children

 

季節の子供達と共に枯れてしまった木々の間を吹き抜けるゆっくりとした風の行進


Are we saved by the words of bastard saints?
Do we live in fear or faith?
Tell me now who's behind the rain

俺たちは偽りの聖者の言葉に救われるのか?

俺たちは恐怖の只中に、それとも信仰に生きているのか?

雨の向こうにいるのは誰なのか教えてくれ

A maze of tangled grace
The symptoms of "for real" are crumbling from embrace
But still we chase...the shadows of belief
And new religion clouds our visions of the roots of our souls

こんがらかった恩寵の迷路

「真実」の兆しなんてものは抱きしめたら崩れてしまう

それでも俺たちは追い求める・・・信じることの影を

新たな宗教が俺たちの魂の根源についての視界を曇らせてしまう


Are we ashamed of our own fate?
Or play the fool for our own sake?
Tell me who's behind the rain

俺達は自身の運命を恥じているのか?

それとも自分達のために道化を演じているのか?
雨の向こうにいるのは誰なのか教えてくれ


What do we need?
Where do we go when we get where we don't know?
Why should we doubt the virgin white of fallen snow when faith's our shelter from the cold?

俺達は何を必要としているのか?

知らない場所へたどりつくというのにどこへ行くのか?

信仰こそが俺達を寒さから守ってくれる時に積雪の純白さを疑う必要はあるのか?

 

What do we need?
Where do we go when we get where we don't know?
Why should we doubt the virgin white of fallen snow when faith's our shelter from the cold?

俺達は何を必要としているのか?

自分も知らない場所へ行きつくというのにどこへ行くのか?

信仰こそが俺達を寒さから守ってくれる時に積雪の純白さを疑う必要はあるのか?


Quicksand Jesus I'm so far away without you
Quicksand Jesus I'm so far away without you
Quicksand Jesus I'm so far away... away
Quicksand Jesus I'm so far away

流砂のイエスよ、あなたがいなくては俺は迷ってしまう

流砂のイエスよ、あなたがいなくては俺は迷ってしまう

流砂のイエスよ、あなたがいなくては俺は迷って・・・迷ってしまう

流砂のイエスよ、あなたがいなくては俺は迷ってしまう

Quicksand Jesus I need you
Quicksand Jesus I believe you
Quicksand Jesus I'm so far away

 

流砂のイエスよ、俺にはあなたが必要だ

流砂のイエスよ、俺はあなたを信じている

流砂のイエスよ、あなたがいなくては俺は迷ってしまう

 

(自分で訳しましたが日本盤掲載の大屋尚子さんの訳も参考にさせていただきました)

 

僕自身は決して信心深い人間ではないが、自分だけの力ではどうにもならない不安が世界を覆う時に信仰にすがろうとする心情を描いたこの曲にはパンデミックの時代に再び聴かれるべき意味があると思う。