日が暮れるまでの間、兪史郎はこれまでの長い人生を思い出そうとしていた。
鮮明に思い出すのは遥か昔に珠世様と過ごした時の事ばかりで、それ以外は色を無くした薄い記憶ばかり、東京大空襲に巻き込まれたときの天を焦がした焼夷弾の炎でさえも、記憶の中では黒い塊にしか思えなかった。
太陽が沈み寒々とした舞台に行くと、炭治郎の神楽が静かに始まったところであった。
雪の中の月明りの下、篝火に照らされてゆっくり舞う炭治郎から離れて佇むカナヲのそばには、画材道具が一式準備されていた。
炭治郎の神楽が1の型から始まり2の型に繋がろうとするとき、兪史郎の心に忘れてた感情の小さな火が灯った。
兪史郎「こ、これは、美しい」
白装束で舞う炭治郎以外に視界には動くものはない、時折空気を切り裂くように炭治郎が動く音がするだけである。
いつしか、兪史郎は筆を手にとり無心に炭治郎の動きを追いかけていた。
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次回につづく