Feel. 

中学校に入学して英語を習い始めた頃、つまり50年以上前だが、カンフーがブームであった。簡単な英語でありながらとても深い、ブルース・リーの「Don't think ! Feel.」というのはヌンチャク振り回しながらよく級友と戯れてやっていたものだ。

その6、7年後かと思うが、Star Warsでこの言葉が出てくる場面がある。「Feel the force.」である。いずれも、頭で考えるのではなく、感覚、インスピレーションが大事という文脈であったと理解しているが、このFeelという言葉が私は好きでScienceという科学雑誌に筆頭著者で論文を書いたときにも、共著者は反対したが、文中にwe feelなどと使用したものだ。本来であれば、it is considered とか表現すべきなのかもしれないが、当時の最先端のことだから、この言葉を使いたかったのだ。ちなみに編集者やレフリーからは何も言われず、そのまま掲載された。

 Don't think.

題名も内容も覚えていないのだが、テレビで放映していたある戦争映画を30年以上前の米国滞在中に見ていたときである。

上官:(怒りを込めて)Why did you do this instead of following my order ?

部下:I thought this is better, Sir.

上官:That's what I don't want you to do. Don't think.

後に大学教員になったときに、この会話と全く同様の経験をしたことがある。29年前のことだが、当時、某国立大助教授だった私は、南太平洋州に他大学の教員とともに調査出張したことがあった。それなりに研究費があったので、学生を同行させることにしたが、よく調べてみると、現地で部屋が同室になる可能性があり、優秀な女子学生というわけにもいかず、研究室の男子学生Oが唯一、出張期間中に部活などがなかったので、強く希望することもあり連れて行った。普段からこのOの行動には困らされていたので、内心憂慮していた。シドニー空港で預けた荷物が出てくるのを待っているときである。重要な調査関連の機材もあったので、注意力が散漫なOには任せずに、ベルトコンベアーから少し離れたところにOを連れて行き、カートに積んだ私とOの手荷物をしっかりと見張り、その場で待つように指示を出したのだ。そして荷物が次々に出てくるベルトコンベアーのところに立っていたら、どうも後ろに気配がする。振り向いたところ、そこにはOが立っていた。

私:荷物は私がピックアップするから、君にはカートに積んだ荷物を見張りながら待っているように言ったじゃないか。なんでここにいるんだ!さっきも話したように私の手荷物には、調査中に必要な軍資金が入っているんだぞ!!

O:確かに先生にはそう言われましたが、先生に荷物を取り出させるわけにはいかないと考えたんです。

つまり、荷物に入ったキャッシュよりも、私の手伝いをする方が重要と考えたというのだ。この時、頭に浮かんだのは、上記、引用した映画での上官の発言であった。明確に指示を出したのに、それさえ守ることができずに、勝手に考えて行動する奴はこの世の中にいるのだ。もちろん、その後の調査期間中、同様な事に何度も私は悩まされた。思い出したくもないからもう書かないつもりでいたが、私は大学から国立研究所に移った時、事務職のYが部下になったことがあった。YはOよりもさらにその上を行く無法者であった。殺意を抱くとはこういうことかと(比喩ですよ!)、初めて思い知らされた御仁だが、彼にも相当酷い目にあったなあ。最後は手取り足取り指示を出して、念まで押しても、決してその通りにすることはなく、理由を問うと、「確かにそのように指示を受けましたが、その時はこう考えました」と悪びれずに言う。もちろん、結果は最悪で、後始末が大変だった。

Oは結局、別の研究室に移り、卒業、地元企業の社長に気に入られて就職はしたが、入社3ヶ月後にはパートの年配女性と同じ仕事をさせられているとの情報を風の頼りに聞いた。Yは、応募資格(修士号保有)を満たしているとかで、なんと無期雇用採用だった国立研事務職を辞して、某国立大の有期雇用の助教に応募して採用となったが、5年の間に無期雇用に移行することはなく、任期切れで失業、音信不通である。私は事務職の部下にいつも言っていたことがある。

「規定通りに仕事をすることは誰でもできるし、それが最低条件だ。重要なのは、規定では実行が困難と思われかつ、すべきことがあれば、それをどうやってやるかということだ。」

だが、規定通りに仕事ができない奴も一定数いるのが残念ながら現実のようだ。

 

今回は、当初書こうと思ったことと、全然違う内容になってしまった。今朝も多摩丘陵の丘の上に立つ勤務先から丹沢山地、秩父山地の眺望を得ることはできたが、白富士とは対照的にいずれも稜線の山頂付近に雪が見えない。今日からの寒波で白く景観がかわるのであろうか。東京地方も冷え込むようなので、皆様、ご自愛ください。